憧母、堕ちる

第一章　禁忌の一線を越えた母と息子

「ママ、ただいま」
「ママじゃないでしょ。お、か、あ、さん」
「どっちでもいいじゃない。それよりおなか減ったよ」
　高校生にもなって、いつまでもママではおかしい。お母さん、と呼ぶように言っても直らない。それが紗耶には不満でもあり、嬉しくもある。傍目には、仲睦まじい母子の平凡な生活が続いていたある日のこと……。
　夕飯を終え、風呂上がりにパジャマ姿でくつろぎながら、紗耶は何気なく肩をトントンしていた。
　すると、テレビを見ていた直哉が声をかけてきた。
「ママ、マッサージしてあげようか？」
　以前からよく肩を叩いてくれる優しい息子だった。
「悪いわね。でも直君、お勉強あるんでしょ？」
「もう宿題は済ましちゃったよ。でも、いらないなら、無理にとは言いませんよーだ」
　と憎まれ口を叩く。
「もう、意地悪。お、ね、が、い」
「じゃあ、そこに寝そべってよ」
「あら、本格的にしてくれるのね」
　その日は店の棚卸で忙しく、身体中が重かった。紗耶はすぐソファに横になった。
　直哉の手が母の首筋から肩を柔らかく揉み解していく。
「ふう、いい気持ち……。直君、上手ね」
「部活で、鍛えられてるからね」
「ふーん、バスケ部って先輩のマッサージとかするんだ」
　直哉の手は肩から背中へと移っていく。背骨の両脇をゆっくりと押すと、ボキボキと骨が鳴った。
「だいじょうぶ？　痛くない？」
「ううん、平気。とっても気持ちいいわ」
「良かった。でもこれ、ちょっと窮屈だね」と、直哉はソファの背もたれを倒した。
　そうするとソファはベッドに早変わりする。母の背中に跨った直哉は、背骨から肩甲骨の周りへと、丁寧なマッサージを続けていく。気持ちよさに、紗耶はうとうとしだした。
「なんかこれ引っかかって邪魔だね。外しちゃうよ」
　直哉の手がブラのホックを外し始めた。
（えっ、そんな）
　あわててストップしようとして、声を呑み込んだ。意識しすぎだと思った。
「これ、ええっと、どうなってるのかな？」
（女の子のブラも外したことないのね）
　うぶな息子の様子が可愛い。大人ぶってもまだまだ子供なのだ。
「もう、こうするの」
　紗耶は半身を起こし、自らブラジャーを外してしまった。前開きのパジャマからおっぱいがチラッと覗き、直哉が慌てて目を逸らす。
（え、ブラジャーを外しただけで、こんなにも緊張するの？）
　紗耶は眠気も吹き飛び、心臓がドキドキと波打ち始めた。ほとんど男性経験のない紗耶は戸惑いを隠せない。それとも目の前にいるのが実の息子であることが、余計に女であることを意識させるのだろうか。
　直哉が黙々と背中から腰へと指圧していく。
「ひっ」
　パジャマの上からとはいえブラを外した身体に触れられて、紗耶はビクッと震えた。直哉の手が腰からヒップを横切って、太腿の付け根をぐっと押さえた。
「あ、ぅん……」
　思わず声が洩れる。一瞬の反応が息子に気付かれはしなかったかと、ひやひやしながら紗耶はマッサージを受けた。
　その日はそれで終わりだった。
　直哉は、ふうっと大きく息を吐くと、「これでおしまい」とソファから降りた。
「ありがとう。お母さん、すごく気持ちよかったわ。またお願いね」
　ちょっぴり物足りなさを感じつつ、紗耶はお礼を言った。
「毎日じゃ、僕も大変だよ」
　それは、またしてあげる、という約束のように聞こえた。
「もう、お礼にご馳走してあげるから、毎日でもお願い」
「はいはい、じゃあ、今度、お鮨ね」
　図々しくねだる直哉の顔が少し赤いように感じたのは、紗耶の気のせいだったろうか。
（私ったら、何意識してるの。直哉はまだまだ子供じゃないの）
「おやすみなさい」
　紗耶は笑顔で息子に挨拶すると、寝室に引き上げた。