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今月の放言

性にはインパクトがある 鴻上尚史

直筆短冊

吐息が感じられる虚構の現場、演劇界をリードしてきた男、鴻上尚史。常に人々の共感を呼ぶ舞台を演出してきた彼は、体・声・表情を使ったコミュニケーションのプロと言っても過言ではない。そんなプロの視点から、自分の体験を交えつつ、現在の性ついて語ってくれた。

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プロフィール 鴻上尚史

'58年愛媛県生まれ。'81年、早大演劇研究会を中心に第三舞台を旗揚げ。'97年イギリス留学を経て、「KOKAMI@network」を立ち上げる。現在、作家、演出家のほか様々なメディアで活動の領域を広げている。主な作品として『ララバイまたは百年の子守唄』『プロパガンダ・デイドリーム』『恋愛戯曲』『トウキョウゲーム』、著書に『ドン・キホーテ』シリーズ、『あなたの魅力を演出するちょっとしたヒント』など。

第4章 僕を圧倒してほしい

自分を客観的に捉えると、僕はMです。誰かいいSの人っていないかなと思ってね。SとMってどうも話に聞くと相性があるらしいですよ。

つまり、Mはこういう風に苛めてほしいっていう確固たる路線があって、Sはこういう路線で苛めたいっていう確固たるものがあると。SMクラブっていうのは、女王様がMの喜ぶように苛めてあげるんだけど、お金が介在しない時は、SとM、それぞれが興奮するプレイをするので、すごく出会いが大切みたい。

知り合いの女王様が、「いつでも放置プレイしてあげるわよ」って言ってくれるんだけど、僕、想像してもゾクゾクしないんだよね。「1時間に1人か2人通りそうなところに、あんたを全裸で置いてあげる」って言うわけ。しかも、「あっ!鴻上尚史だ!」って分かるように放置するって(笑)。

つまり、彼女は放置プレイが大好きなSの女王様なんですよ。放置して去る時に、相手の捨てられた子犬のようなすがりつく目を見ると興奮するんだって。Mからすると、辱められている自分の姿に興奮しているんだろうけど。

でも、僕の趣味はそんなんじゃない。僕はね、自我が解ける感じを味わいたいんですよ。どういうことか?つまりそれは、僕の想像を超えた対応をしてくれるっていうこと。

SMの経験がないから分からないけど、例えば僕が縛られ、言葉をかけられるとするじゃないですか。

そこで女王様のボキャブラリーが貧困だったりすると、「また豚とか言って、同じ繰り返しかよ。やだなー、貧困だなー」って思っちゃいそうなんだよね。そこで、「貧困だなー」って思った瞬間にもうMじゃないからね。

僕は日常で演出家だし、劇団を抱えてるわけだから、全部を指示してるわけですよ。だから、せめて性の場では気持ちよく受け身にさせてほしいっていうのがある。

だけど、言葉が貧困だった場合は心配になるでしょ。「たまには違う言い方をした方がよろしいんじゃないでしょうか」とか言い出しそうだもの、僕。ほんと、『トー・クン全書』('00刊)でも読んでSMについて勉強してほしいぐらい。

たぶん、僕が好きなのはよっぽど知的な悪女か、「もうボキャブラリーでは勝てん」と開きなおって叫び声しか出さないSの人(笑)。または、ボキャブラリーがないだけ、力が異常に強いとかね。

以前、僕がセックスに溺れた彼女はそんなに知的じゃなかったけど、生き物としてすごいエネルギーがあった。つまり、少々の理屈なんか意味ないみたいな。

とにかく、どんな形でもいいから性の場では僕を圧倒してほしい。それが理想ですね。

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