男と女の性欲のピークは? 人はなぜ浮気をするの? どうやってセックスの相手を決めるの? 長続きするカップルのひけつは? 動物の行動を見ていると、人間が見えてくる!? 男と女の性を動物行動学エッセイスト・竹内久美子さんに語っていただきました。
プロフィール 竹内久美子
動物行動学エッセイスト。1956年愛知県生まれ。京都大学理学部、同大学院博士課程を経て著述業に。専攻は動物行動学。著書に『そんなバカな!』(講談社出版文化賞科学出版賞受賞)、『同性愛の謎 なぜクラスに一人いるのか』(文春新書)、『女は男の指を見る』(新潮新書)など多数。
人間の場合、長続きするカップルというのは、だいたい自分と似た相手を選んでいるようです。ものの考え方とか外見とか。
ただ、実は免疫の型の問題というのがありまして、これは似てないほうがいいんです。細胞の表面にあるHLA(ヒト白血球抗原)は、免疫に深く関係しているタンパク質。臓器移植の際、「型が合うかどうか」という話として登場するのがこのHLAです。
自分の身を病原体から守る、そのために自分と自分以外を見極めるのが免疫のシステムで、その中核をなしているのがHLA。だから、なるべく違う型をもつ相手と一緒になったほうが、子孫に型のバリエーションが増えるんです。そうすれば、バクテリアやウィルスやさまざまな寄生虫に対抗するための手持ちカードの種類が多くなるようなもの。
しかも、HLAの型に重なりがありすぎると、つまりは型が似ていると、性的に満足できないという実験結果もあります。
そうなれば、女性は自分のHLAと違う型をもつ男を見抜こうとするものです。もちろん、無意識のうちに。その方法が「匂い」だそうです。スイスのベルン大学の研究によれば、自分のHLAとはかけ離れた型をもつ相手ほど、いい匂いだと感じるよう進化しているんですって。
ボノボと呼ばれる、チンパンジーに近い類人猿がいます。アフリカ中央部に住んでいて、体はチンパンジーより少し小さく、立って歩くのが得意。彼らの世界には、チンパンジーにはある「子殺し」がない。とにかく平和なんです。そして、社会を円滑に運ぶための手段として、セックスを利用しています。
オス同士はペニスでチャンバラをしたり、睾丸を軽くぶつけ合わせたり、お尻をくっつけあったりします。メス同士も、ふくらんだ性皮をこすり合わせたり。近親者でなければ、挨拶代わりにオスとメスが交尾することもあります。こういった性行為は、何か争いが起こりそうになったり、気まずいムードが流れたりしたときに、素早く行なわれます。個体間の問題解決のためにセックスを利用するなんて、素晴らしいでしょう(笑)。わたしは敬意さえ抱いています。
まあ、人間はなかなかそうはいかないと思いますが、少しはボノボに学んだほうがいいかもしれませんね。
でももちろん、人間のセックスは、男女の絆を深める上で大事なものなんです。オーガズムのとき、男女ともオキシトシンという、人と人との絆を深めるホルモンが大量に出ます。これは日光浴、温泉、マッサージなどでも出る物質。気持ちがいいと出るんですね。オーガズム時には、脳内から、健康や美容にいい物質が大量に放出されます。いいセックスが体にいいというのは本当だと思いますね。しかも、女性は相手を選べるわけですから、いい男を選んでセックスしたいものです(笑)。
私は高校生くらいまで、男が羨ましくてしかたなかったのですが、動物行動学を研究するようになって考え方が変わりました。実際、男女関係を支配しているのは女のほう。よほどのえり好みをしなければ、あぶれることはない。女性は主導権をもって生きていけるものだと思います。
(文:亀山早苗 写真:小高雅也)