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マスクをつけた未亡人【蜜にご用心】 5

第二章 初めてのセックスは突然に

 

 

 寝返りをうつと、枕元に散らばったティッシュが顔をくすぐった。

「ふぁあ……。ん? ……なんでこんなにティッシュが転がってるんだ」

 その数秒後、良平は昨日の一連の出来事を思い出した。

(俺、昨日、由加里さんに手コキしてもらったんだった……!)

 一瞬で眠気が吹き飛ぶ。リモート会議の設定を口実に由加里の家に上がりこんで、ひょんなことから彼女に勃起を晒してしまった。挙句の果てに手淫で慰めてもらったのだ。

「現実だよな。うん、間違いない……」

 自宅に戻った後も興奮は収まらず、何度も自慰行為を繰り返した。布団の周りに散らばるティッシュの数がそれを物語っている。

「こんなにオナニーし続けたのなんか初めてだ……」

 麗しい未亡人の細指とあの肉体を思い出すと、白濁液がいくらでも生産されるのだった。

(本当に気持ちよかった。できればもう一回……いやそれよりも、もっと先のことも……)

 由加里とのセックスを何度も想像した。その瞬間、彼女はどういう顔で乱れるのだろうか。

(これ以上先に進みたいって思うのは、贅沢なのかな)

 昨晩のことを何度振り返っても答えは出なかった。もっと甘えてもいい、というあのセリフばかりが頭でリフレインしている。マスクの下に隠された彼女の気持ちを知りたかった。

「隣人も、弟扱いも、嫌だ。俺は男として見てもらいたいのに……」

 良平はよろよろと立ち上がり、テレワークの準備を始めた。しかし業務開始時刻になっても全く集中できない。頭の中には、ずっと由加里がいた。

「あなたのこと、ずっと憧れてました。好きです。なんて、言ってもいいのか?  なんだか変じゃないか?」

 良平が彼女のことを憧れの気持ちで見ていたことは事実だった。

(ただ、俺が今このタイミングで告白しても、変に思われるんじゃないか。昨日エッチなことをしたから、好きだって言っているだけと思われるのでは……)

 良平の心臓の中でモヤモヤが渦巻いていた。気持ちの折り合いがつかない。当然、仕事が進むはずがなかった。

「気持ちを伝えたいけど、誤解はされたくない……どうすればいいんだ?」

 窓の外は分厚い雲が空を覆っている。気づけば正午になっていた。昼飯調達のためコンビニへ出かけようと玄関ドアを開ける。隣家の前にワゴン車が止まっていた。梅屋、と大きく描かれている。由加里の経営する仕出し屋の社用車だ。

 じっとその車を見つめていると、助手席から由加里が下りてきた。

「あっ。由加里さん……」

 彼女も良平に気付いたようだった。言葉を探すように視線を泳がしている。二人を置き去りにしてワゴンが走り去った。

(こんなすぐに再会するなんて。ちょっと気まずいな)

 由加里は白い調理服を着用していた。梅屋の制服だろう。サイズが合っていないように見える胸元は、硬い布地の下で豊乳がぱんぱんに張り詰めている。昨日見た谷間があの向こう側に隠されているのだ。

「えっと……こんにちは」

 由加里は言葉を選んでいるようだった。先ほどまで調理の作業を行っていたのだろう、服に付着した汚れを手で払っている。服に散らばった小さなソースの染みが昨日の白濁液と重なって見えてしまう。

「ゆ、由加里さん、こっ、こんにちは」

 声が上ずる。昨日は手コキをしてくれてありがとうございました、などと言えるはずもない。

「ええと……今日は、おうちでお仕事?」

 彼女はあえて態度を変えずに話しかけてきた。仕事終わりだからだろうか、上品できりりとした表情を浮かべている。しかし昨日の痴態と対照的なその様子はなぜかひどくエロティックに見えた。

「は、はい、ずっとテレワークです。今から昼飯を買いに行こうかと……」

 良平は道路の向かい側に立つコンビニを指差す。

「あら、そうなの。一人暮らしだと、自炊するのもなかなか大変でしょう」

 由加里は心配そうに呟き、指先を手元に寄せて考えこんでしまった。

(昨日、俺のチ×ポを触ってくれた指だ……)

 マスクに重なる細い指が視界に入るだけでゾクッとした電流が脳を奔る。男根をしごいてくれた瞬間が、否が応でもフラッシュバックした。そんな良平の気持ちも知らず、由加里は声をかけて来る。

「良平君、もしよければなんだけど。今晩うちで食べない? 梅屋のご飯でよければ、食べていってほしいの」

「えっ。い、いいんですか? すごく嬉しいです!」

 由加里は微笑みを残して自宅に戻って行った。風に乗って彼女の香りだけが届く。昨日パソコンの前で嗅いだ彼女の匂いと、全く同じだった。

 

 午後の仕事は驚異のスピードで進んだ。定時ぴったりに仕事を終えた良平はすぐに富田の家を訪れる。花の咲いたような笑顔で、由加里が出迎えてくれた。

「いらっしゃい。テレワーク、ご苦労様でした」

「あっ、ありがとうございます。由加里さんこそ、お仕事お疲れさまでした」

(まるで新婚夫婦の会話みたいだ。ドキドキするな……)

 彼女の微笑みで出迎えてもらえただけで仕事の疲れが癒されていく。キッチンからは良い匂いが漂ってきた。空腹が刺激される。

(あ、由加里さん着替えてるぞ。調理服と雰囲気が違って、また素敵だ)

 白いタートルネックにベージュのストレッチパンツを組み合わせて、清楚な奥様といった容貌だった。本日ももちろんマスクを着用している。ストレッチ素材のパンツはもっちりとした美臀に張りついていて、ショーツのラインが浮かび上がっていた。

(お尻の形が丸分かりだ。ちょっとでいいから、触ってみたくなっちゃうな)

 由加里が歩くと、双臀がクイックイッと色っぽく揺れる。むちむちした太腿が擦れる隙間、三角のデルタゾーンに視線が吸い寄せられた。

(まいったな、どうしたって昨日のことを思い出してしまう。夕食を頂くっていうのに……変な気持ちは抑えて、食事に集中しないと失礼だ)

 性欲を持て余しながら、良平は廊下の柱に触れた。そこには幼少の頃の落書きやシールがそのまま残されていた。ふいに懐かしさがこみあげる。

「その柱、昔のままなの。良平君は花奈ちゃんと仲が良かったわよね」

 由加里は実の姉のように柔らかく微笑んだ。

「この家で遊ばせてもらったのが懐かしいです。由加里さんは昔から変わらないですよね」

 今のほうがもっと綺麗ですよねと、歯の浮くようなセリフを言う勇気はなかった。由加里はマスクの奥でクスリと笑い、目を細める。

「良平君がこんなに立派になってるんですもの。私もおばさんになるわけだわ」

 由加里がアンニュイなため息をつくと、大きなバストが上下してエプロンを波打たせた。吐息一つをとってもやたら艶めかしく見える。

「おばさん? いえっ、そんなことないです!」

「ふふ、お世辞でも嬉しいわ。さぁ、ご飯にしましょう」

 青年の心からの抗議はあっさりと流されてしまった。言葉を続けようとする良平だったが、食卓に置かれた梅屋の弁当に視線を奪われる。

「うわぁ、美味しそうですね!」

 彩の良い弁当が二つ並び、添えられるようにして汁物やサラダがテーブルの上に広がっていた。弁当の匂いにつられた良平の腹が、グゥと訴えを起こした。

「す、すみません、お腹が空いてて……」

「いいのよ、むしろ嬉しいわ。たくさん召し上がって」

 弁当の中にはとんかつやから揚げ、卵焼きなど、良平の好物がぎっしりと詰まっていた。慌ててマスクを外す。

(今はとにかく食事に集中しよう。変な妄想を、止めなくちゃ)

 不埒な考えを頭から追い出すべく、好物のから揚げにかぶりつく。香ばしいにんにく醤油の匂いが口の中にふわりと広がった。良平好みの味だ。

「おいしいでふ、ん、もぐ……おいひいです、むぐっ」

 良平が夢中で食事を頬張る理由も知らず、由加里は急いでお茶を入れる。

「たくさんあるから、ゆっくり食べて。店の残り物でごめんね」

 由加里は弁当を広げながら、嬉しそうに話し始める。彼女の初のリモート会議は無事に成功したようだった。

「会社の人にも褒められたの。よく一人で設定できましたね、ですって」

 由加里は何度もお礼を言った。彼女からありがとうと伝えられると、温かい熱が青年の胸に灯る。

(もっと由加里さんの役に立ちたいな。またお隣さん同士になったんだから、昔のように仲良くなりたい)

「一応、私は社長だから、しっかりしないといけないでしょ。でもパソコンとかよくわからなくて、ちょっと困ってたの」

 由加里は女社長の顔で恥ずかしそうに俯いた。頬がほんのりと赤い。悩んでいることを社員の誰にも打ち明けられなかったのだろう。良平は少しばかりの優越感を抱いた。

「俺でよければ、いつでも言ってくださいね。力になります」

 二人は昔話に花を咲かせた。美味しい食事を頬張りながら由加里と過ごす食卓は、これ以上ない格別な時間だ。

(由加里さんと話していると、やっぱり昨日のことを思い出してしまう……)

 箸を持つ白い指、食事をすすめる紅色の口唇、エプロンを押し上げて揺れる豊乳。彼女の一挙手一投足に、いちいち心が乱された。

「そういえば。うち、ガス工事がまだ済んでないんです」

 工事業者の都合がつかず、良平は数日間ガス無しの生活を強いられていた。

「まぁ、そうだったの? 不便ね。お風呂はどうしてるの?」

「近所の銭湯に行ってます。なかなかいいものですよ」

「でもそれだと、何かと不便でしょう。……うーん」

 由加里は少し考えた後、よければうちの風呂を使ってほしい、と提案した。

「今は雨降ってるし、もう暗いでしょ。……良平君さえよければ、だけど」

 確かにここで風呂に入らせてもらえたら、非常に助かる。しかし食事を頂いた上に風呂までとは、迷惑にならないだろうかと良平は躊躇してしまう。

「じゃあ、昨日のパソコンの設定のお礼、ってことにしてくれない? 余り物のお弁当だけだと、私の気が済まないわ」

「それじゃ、ありがたくお言葉に甘えます。……ありがとうございます」

(まさか風呂を借りることになるなんて。もしかして、昨日の続きが……?)

 食事で誤魔化していた雄の本能が、再び目覚めようとしていた。心に灯った淡い希望が下半身に意識を向けさせる。

(いや、変な想像はするな。これは昨日のお礼ってだけ! 俺が不便をしているから、声をかけてくれただけだ)

 由加里からの純粋な感謝の気持ちに、淫らな下心を隠さなくてはならない。良平の全身を緊張が包んでいく。皿を片付ける由加里の背中をちらりと見た。何か言うべきなのはわかっているが、どうしても言葉が出てこなかった。

 エプロンの紐が細いウエストを彩っている。背中から腰、そしてはちきれんばかりの豊尻への曲線に、何も言わずに視線を這わした。

 

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