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マスクをつけた未亡人【蜜にご用心】 4

 富田の家には秋の静けさが響いている。鈴虫の高い鳴き声が聞こえた。

「私、なんてことをしてしまったのかしら……」

 玄関に佇む由加里は強い後悔の念に苛まれていた。先日再会したばかりの青年の男性器を、自らの手で扱いて絶頂まで導いてしまった。正式にお付き合いをしているわけでもない。彼から頼まれたわけでもない。

(良平君に痴女と思われたらどうしましょう。でも、私はそれくらいのことをしてしまったわ……)

 玄関ドアを見つめたまま冷静さが戻らない。ふと気がつくと、ショーツの中に微かな違和感があった。その場で恐る恐るパンツを下ろす。クロッチにはすでにたっぷりと染みが広がっていた。とろりとした愛液が一滴零れて糸を引く。

「やだっ……私ったら」

 玄関に佇んで一人下半身を露出していた。万が一誰か来たら、もしくは良平が戻ってきたら。その状況を想像するだけで全身が竦んだ。

(良平君、何度も謝ってた。私が触ったのが嫌だったのかしら……)

 突然の淫らな行為に、青年の気分を害してしまったのではないか。由加里は彼の反応を思い出し、不安に駆られた。同時にその時の手元の感触がありありと思い出されて、下っ腹がムズムズと温まっていく。

(あんなに太いオチン×ン、今までに見たことなかった……)

 その場でショーツとパンツを脱ぎ捨てた。熱を籠もらせているマスクも外す。肌寒い秋の空気が、熟れた下半身をひやりと撫でた。

 孤独な未亡人が怖々と指先を伸ばし、割れ目にそっと指を這わす。クチュリという音がさらなる刺激を求めた。

「私、こんなに濡れていたの? ……本当に何年ぶりかしら」

 仕事に没頭するあまり、いつしか女の悦びを感じる余裕などなくなっていた。男性から声をかけられたことは、実は一度や二度ではない。しかし新しい恋愛に夢中になれるほど若くもなかった。

「まさか、良平君とこんなことになっちゃうなんて」

 由加里はパソコンの前までふらふらと移動した。ゴミ箱からティッシュを拾い上げる。雄の濃い匂いが鼻孔を突いた。

(私、何をしているのかしら。自分でも信じられない、でも……)

 先ほどまで確かにここにいた良平の存在を感じながら、もう片方の手を下に向けてゆっくりと伸ばした。手が震えている。しかしその行為を止めることはできなかった。

「まぁ……こんなに濡れているわ……」

 夫との営みでも、これほどまでに興奮したことがあっただろうか。強烈な雄の匂いを吸いこむことで潤いは格段に増していく。

(精液ってこんなに濃い匂いがするものだったの?)

 不安を覚えながらも細い指を奥へと進めていく。陰毛をかき分けてクリトリスに触れると、そこはもうすでにぷっくりと芽吹いていた。

「ごめんなさい、あなた、良平君……手が止まらないのよ」

 数年ぶりに柔らかい蕾に触れた。少し弾いただけで、ピリピリとした電流が子宮の奥で生まれる。

(こんな恥ずかしいことをするなんて。私ったら、どうしてしまったの)

 後悔や背徳感でパニックを起こしそうなくらい心が乱れているのに、指先はどうしてか正確にクリトリスを弾く。悶々とした甘い吐息が漏れてしまう。

 良平に設定してもらったパソコンの前で少しずつ両脚を開く。ディスプレイの正面に座って画面に見せつけるように、白い太腿同士が離れていく。

(こんな格好、なんて破廉恥なの。……でも、もっとここに触れていたい)

 ティッシュを握った右手はそのままに、左の指先をずらしてみる。縮れ毛は汗と愛液でしっとりと湿っていた。

「このティッシュ、捨てなくちゃいけないのに」

 強く握ったためか、じんわりと手汗をかき始めていた。温められたザーメンが雄の香りを強く放つ。

「ああっ、なんてエッチな匂い……」

 黒いディスプレイに大股開きの自分の姿が反射している。精液まみれのティッシュをギュッと握りしめながら、もう片方の手で陰部への刺激を怖々と繰り返していた。包皮が剥けてプルンとした突起は、触るたびにピクピクと弾む。

「あっ、……んっ、あ」

 指腹で擦り爪でなぞる。そのたびにピンク色の微弱電流が子宮をピリリと彩った。次第に意識がふわふわと漂い始める。

(……今って、突然テレビ会議が始まったり、しないわよね?)

 嫌な汗が一筋、背中をつたって落ちた。何かの拍子でテレビ会議の接続が復活して突然画面に良平が映し出されるようなことはないのだろうか? そんなことになったら、今の由加里のいやらしい姿を彼に見せつけることになってしまう。

「やだ、私、良平君にアソコを見てほしいって思ってるみたいじゃない。そんなことになったら、絶対に軽蔑されてしまうわ……っ」

 今この瞬間、良平のパソコンと繋がったところを想像してみる。彼は難しい顔でパソコンに向かい、仕事の確認でもしているのだろう。そんな青年の前にオナニーに耽る自分の姿を晒してしまうのだ。

「ダメ、良平君、アアッ、見ないで……」

 きっと彼は顔を真っ赤にして驚くことだろう。良平の反応をイメージしただけで、なぜかゾクゾクとした震えが背骨を鷲掴みにした。

(良平君に見られたくないのに、見てほしい気持ちもある……私ったら本当にどうしてしまったの?)

 己の内側から湧き出る情欲と被虐欲に、由加里はただただ混乱していた。

「アッ、だめ、良平君っ、アアッ!」

 熱を高めていくクリトリスをグィっと押しこんでみる。敏感な蕾をくにくにと押し転がすと、口から甘い声が零れて部屋に溶けていく。

 隣の部屋にある仏壇のことを思い出した。亡き夫の魂がそこに宿っていると信じている。自慰行為に浸る自分の声を、亡き人に聞かせたくなかった。

(ごめんなさい、あなた……)

 口を閉じると同時に、キュッと目をつぶる。ここで行われた隣人とのエッチなアクシデントも、今の痴態も、誰にも知られたくない。しかし未亡人の意に反して、視界を失った身体は感覚が研ぎ澄まされ、淫核はより過敏になっていく。

「アッ、あっ……んんぅ!」

 力を込めて、濡れたクリトリスを扱いている。そのすぐ下の膣口からはとろとろとした蜜が溢れ出しては幾度も手元を湿らせた。

 鼻先のティッシュからは良平の残り香が鼻孔をくすぐっていた。鼻をスンと鳴らして匂いを吸いこむたびに腹の奥がキュンキュンと疼く。

(私、本当に痴女になっちゃったのかしら……)

 行為が終わった後に良平に声をかけられなかったのは、彼から軽蔑されることを怖れていたからだった。

 一回り年下の彼のことを、長い間保護者として見守ってきたつもりだ。これからも年長者として彼をサポートしようと思っていたのに、彼の勃起を見せつけられ、許されざる一歩を踏み出してしまった。事後の気まずい空気が、まだ家の中に残っているかのように感じられる。

「良平君、んあっ、見ないでっ! アッ!」

 黒いディスプレイの向こう側にいる、良平に向かって声をかける。薄目を開いてティッシュを見つめた。

「ああ、指が止まらないの……」

 愛液で尻の下のクッションが濡れていた。クリトリスを何度も擦り上げる。

(イッちゃいそう……! もう我慢できない!)

 由加里は強く目をつぶると、神経を下腹部に集中させた。亡き夫や良平への気持ちを忘れようと頭を左右に振る。指先のスピードを上げて、ぷっくりと膨れた淫核を弾いた。クチュンという湿った音がディスプレイに吸いこまれていく。

「ごめんなさい、アッ、ごめんなさ……っ」

 仏壇の向こう側に行ってしまった亡き夫に声を聞かせたくないが、手のスピードは緩まらない。クニクニと夢中になって淫核を触り続ける。無意識のうちに腰が前後に揺れていた。

(ああっ、こんなに気持ちいいのは、どうして……!)

 縋るようにティッシュを握りこんでいた。ねっとりとした液体がにじみ出る。由加里が握りすぎたせいで、包んだ精液が零れ出てしまったようだ。これほどまでに乱れている姿を誰にも知られたくないと思う反面、良平になら全てをさらけ出したいという、二つの感情が彼女を攻め立てる。

 ティッシュから漏れた原液が手の平をつたって、今にも零れ落ちそうだった。思わず舌先ですくう。

(え……私ったら、何してるの!)

 無意識だった。由加里の口の中で一滴の精液が広がり、口腔内にその匂いを充満させる。鼻先で嗅いだ何倍もの臭気が口の中を通って咽頭を犯す。思わず大きくクリトリスを弾いた。そのインパクトが、子宮を一気にピンク色に染めた。

「はぁっ! イクぅ! あああ……っ!」

 目の前に良平のザーメンを垂らしながら、絶頂への階段を駆け上る。甘美な稲妻が脊髄を貫いた。久方ぶりのエクスタシーは、未亡人の身体を大きく痙攣させる。子宮がギュウウッと収縮している。

「あっ、あっあ……ッ! はああんっ、あ……あっ!」

 喉から溢れる声を我慢できないまま、由加里はクリトリスを擦り上げた。甘い快楽に身を浸し、その瞬間を余すところなく飲みこむ。電球の光に太腿が薄く照らされていた。

(ごめんなさい、あなた……良平君……)

 仏壇の奥の彼と、そしてテレビ会議越しの彼に、全てを監視されている気がした。冷たい軽蔑の色を浮かべた複数の視線の下に、淫らな肢体をさらけ出す。

(こんなにいやらしい女で、ごめんなさい……!)

 昨日まで知らなかった、淫らで卑猥な自分。懐かしい青年との出会いは未亡人の新しい一面を暴いてしまった。

 

(次回更新は10月5日です)