戻る

やけに薄着な後家さん 1

第一章 やたらに薄着な37歳の未亡人     「さすがにこの格好はやり過ぎかしら?」 (おかしい。大学生の一人暮らしって、こんなんじゃないはずだよな? もっとこう、シンプルというか……わびしい感じだよな、普通は?)  湯上大河は目の前にずらりと並べられた皿を見て、改めて現在の状況の異常さに気付く。 「今日は地元の猟師さんにお魚をいっぱいいただいたんです。お刺身と、煮付けと、唐揚げと、あら煮と、炊き込みご飯。ふふふ、張り切りすぎていっぱい作っちゃったけれど、大河さん、若いから平気ですよね?」  これらの料理を作ってくれた湯上瑠璃が、にこにこしながら大河の茶碗に炊き込みご飯を大量によそう。 「あ、あの、瑠璃さん?」 「はい? あ、もしかして今晩はお肉のほうがよかったですか?」  続いて自分の茶碗にもよそい始めた瑠璃が、しゃもじを持つ手を止める。 「いえ、そんな!……ええと、いいんですか、こんな遅くまでうちにいて」  座卓の前に座った大河は言葉を選びつつ、父方の親族である瑠璃に尋ねた。 「大丈夫ですよ、お義父様とお義母様には、今日もこっちに泊まると伝えてあります。初めての一人暮らし、それもこんな田舎にやって来た大河さんを助けてあげなさいって言われてますし」  瑠璃は大河の再従兄弟の妻だった。過去形なのは、彼がすでに鬼籍に入っているためだ。つまり瑠璃は未亡人、あるいは後家と呼ばれる境遇にある。 (瑠璃さん、こんなに綺麗で若いのに、なんで湯上の家に残ってるんだろ)  瑠璃は現在三十七歳。十九歳の大河のほぼ倍の年齢だ。しかし、キャンパスで見かけるどの女子大生よりも美しく、瑞々しく、麗しく大河には思える。 「さ、いただきましょうか」 「そ、そうですね。……うっ」  食事の支度を終えた瑠璃がエプロンを外したのを見た瞬間、大河は小さく声を発していた。純白のシャツを大きく押し上げる豊かなバストと、その膨らみを支える下着のラインが透けて見えたためだ。 (青だ。スカートと揃えたのかな……ううっ)  青いブラをじっと見つめたい誘惑を振り切り、どうにか視線を落とした大河は、また声を出しそうになった。透明なガラス天板越しに、僅かに捲れたスカートから覗く、真っ白な太腿が視界に飛び込んできたのだ。 (うう、瑠璃さん、無防備すぎるよっ)  淡いブルーのレーススカートは膝丈で、そこまで短くはない。が、座るときに捲れたのだろう、今は太腿の半分以上が覗いている。 (瑠璃さんの生脚……太腿……すべすべしてる……!)  大学には、もっと大胆に脚を晒している女子学生はいる。振り返ってしまうほどの美女もいる。けれど、大河の目や心をここまで奪う異性は、瑠璃だけだった。 「どうですか、今日のご飯は。お口に合いました?」 「も、もちろんです! 美味しいです、凄く! 僕、魚はそれほど得意じゃなかったんですけど、瑠璃さんの料理のおかげで、だ、大好きになりました!」  料理にかこつけ、子供の頃からの想いを言葉に乗せる。無論、こんなセリフが告白の代わりになるはずもなく、 「ありがとうございます。ここの海で獲れるお魚はどれも美味しいですよね」  瑠璃は上品に微笑むだけだ。 (ああ、笑った顔もホントに素敵だ……普段は大人っぽくて色っぽくて落ち着いてるけど、笑顔はどこか可愛いんだよなぁ、この人……)  初恋相手のお姉さんの手料理を、差し向かいで食べる。そんな至福の時間に、さらに嬉しい状況が加わった。 「ふう、ちょっと七味、入れすぎましたね」  額や首筋に汗を滲ませた瑠璃が、暑そうにシャツのボタンを一つ外したのだ。大河のほうが頭の位置が高いため、開いた胸元から、深い谷間が覗けてしまう。じろじろ見てはまずい、と目を逸らし食事に集中しようとするのだが、 「私は暑がりだから、これからの季節を思うと憂鬱です」  美貌の後家はシャツをぱたぱたと動かし、この歳になるまで異性との交際経験のない童貞大学生を激しく動揺させてくる。 (はううぅ! 胸の谷間ぁっ!)  視線を落とせば、先程よりも左右に広げられた太腿も目に入る。かと言って露骨に横を向けば、逆に怪しまれる。大河にしてみれば、嬉しい八方塞がりだった。 「エアコンの温度、下げますか?」 「いいえ、平気ですよ」  座卓の近くに置いてあったリモコンに伸ばした大河の手に、柔らかなものが重なった。瑠璃の手だった。 「私、エアコンがあまり得意じゃないんです。今より低くしちゃうと、もうダメかも。あ、でも、大河さんが暑いなら……」  リモコンの上で重なった手を、瑠璃は動かさない。憧れの美熟女の温かさや柔らかさに、大河の顔が見る見るうちに赤くなっていく。 「い、いえ、平気です! 僕、暑いのは平気なほうなんで!」  慌てて手を引き抜き、ぶんぶんと首を振る。 「それならいいけど……。ごめんなさいね、暑がりのくせにエアコンが苦手なんて、面倒な女で」 「め、面倒だなんて、そんな! 気にしないでくださいっ」  真っ赤になった顔を隠すため、大河は山盛りにされた炊き込みご飯を一気に掻き込む。鯛の上品な出汁は、しかし、今ばかりは味わう余裕はなかった。 (ホント、私って面倒な女ですよね)  瑠璃は一人、ため息をついた。今いる部屋は元は亡夫の生家の客間だったが、大河が下宿し始めた今年の春からは実質、瑠璃の私室となっていた。なにしろ週の半分以上はこちらで寝泊まりしているためだ。 (面倒な上に、嘘吐きですし)  リモコンに手を伸ばし、エアコンの設定温度を下げる。暑がりなのは事実だが、エアコンが苦手というのは、実は嘘だった。 (だけど、ああでも言わないと、薄着する理由になりませんし)  親戚である大河とは、元々面識がある。しかし、会うのはせいぜい年に一度か二度のため、それほど印象は強くなかった。血が繋がっているせいか、夫とちょっと似ているな、程度の認識だった。  そんな大河の世話をするようになったのは、夫の父に頼まれたためだ。ずっと都会の親元で暮らしてきた大河が、田舎での一人暮らしに四苦八苦する姿を見かねたらしい。 (大河さん、家事は一通りできるけど、不器用で、要領が良くないんですよね。生真面目すぎるっていうか。そんなところもあの人にそっくり)  真面目で物静かな親戚の子。大河への印象は当初その程度だったが、一緒に過ごす時間が増えるに従い、どんどんと変化していった。いい方向に。 (大河さんって妙にあの人に似てるところがあります。顔立ちとかは全然違うのに、話し方とか仕草とか雰囲気とか、ときどき、びっくりするくらいに)  今はもうこの世にいない夫の面影を大河に見出して以降は、さらにこの家に通う頻度が上がった。すると、あることに気付いた。大河から向けられる、熱いまなざしに、である。 (大河さんなら、学校でいくらでも若くて可愛い娘と仲良くできるでしょうに。どうしてこんな、面倒で嘘吐きではしたない女なんかを……)  寝間着代わりの浴衣を着た瑠璃は、こてん、と畳に敷かれた布団に寝転がる。目を瞑り、浴衣に手を潜らせ、たわわな柔乳をまさぐる。 「ン……」  若い男が向けてくる好意により、それまでの亡夫を懐かしむ気持ちは別の感情へと変化した。すなわち、貞淑な未亡人の内側でずっと押し込められていた淫欲に、である。 (大河さん、今日もちらちらと私のこと、見てくれました)  胸元や太腿に感じた十九歳の青年の視線を思い出しながら、三十七歳の後家は密やかなオナニーを開始する。 「あっ……あふ……ぅ」  右手でバストを玩びつつ、両膝を立て、左手を股間に這わせる。どうせ寝る前に自慰に耽るからとブラもショーツも着けていないため、すぐに指先が濡れた花弁に触れた。 「アア……ッ」  瑠璃は元々、性欲は強くない。少なくとも、実家以外の場所ではしたない独り遊びを毎晩繰り返すほどではなかった。 「くうぅっ! はっ、はうぅン!」  そんな瑠璃を変えたのは、夫の死による心身の変化だ。ずっと隣にいた伴侶を喪ったにもかかわらず、無慈悲に熟成を続ける女盛りの肉体。その危ういバランスを崩して清楚な後家を変えたのが、大河の存在だったのだ。 (声、出ちゃいます……いくらお部屋が遠くても、こんな静かな家じゃ、もしかしたら大河さんに聞かれちゃうかもしれないのに……)  瑠璃のいる客間と大河の自室は、それなりに離れている。よほど大きな音でも立てない限りは、まず聞こえないだろう。 (でも、大河さんがここに向かっていたら? なにかの用事で……ううん、若い欲望を持て余して、身近な女である私を狙っていたら……?)  それはもはや危機感ではなく、期待、願望、希望の類だった。  大河に夜這いをかけられたい、そんな浅ましい願いの中、瑠璃は乳房と女陰をいじる指に力を込める。 「はっ、はっ、はっ、はあぁっ! んふっ……ダメ……ダメよ……ああ、大河さん、これは違うんです、これは、そういうのではなくってぇ……ひン!」  吐息に続き、声も出ていた。立てた膝をさらに左右に広げ、部屋の入口である襖に剥き出しの秘所を向ける。 (も、もし、襖の向こうに大河さんがいたら……部屋の中を覗いてたら……ああっ、イヤ、私のこんな恥ずかしい姿、見られちゃいます……おっぱいを揉んで、あそこをいじって、腰を揺らす、淫乱な未亡人だと軽蔑されちゃうのに……ッ)  いくらイヤ、ダメと言葉を偽っても、三十七歳の女体は正直だった。Eカップの乳房の先端は乳輪ごと卑猥に隆起し、何年も放置された陰唇の合わせ目からは次々と愛液が溢れ出す。 「あっ、あっ、あはっ、はああぁっ! んうぅっ、んっ、ふっ、ふひっ、あっ、イヤ、イヤ、違うんです……アアッ!」  瑠璃の腰が浮き上がる。指をまるでワイパーのように左右に動かし、淫らにひくつく二枚の肉貝を激しくいじる。指の腹で陰唇を、手のひらでクリトリスをまさぐる、瑠璃がよく使う自慰の手法だった。 (あなた、ごめんなさいっ。あなたの生まれ育った家で、あなたじゃない男の子を妄想してオナニーする淫らな妻でごめんなさい……ああっ、来る、来ちゃう、もうイク、イッちゃう……ぅ!)  心の中で夫への謝罪をしつつも、瑠璃の手は止まらない。物欲しげに勃起した乳首をねじる。それ以上に膨張した陰核を、親指の付け根で押し潰さんばかりに刺激し、オルガスムスの頂を目指す。 「くふっ、んふっ、ふうぅううぅんんっ」  快楽と同時に増す後ろめたさすら、興奮に変換される。そんな罪深い愉悦が、寂しい女体を包む。僅かに残った理性が懸命に嬌声を押し殺そうとするが、絶頂への本能的な渇望には勝てなかった。 「アッ、アッ……アアァッ!」  肉ビラをいじっていた中指と薬指を濡れそぼった膣穴に挿れ、媚襞を擦った刹那、瑠璃の尻がさらに持ち上がった。下半身だけでのブリッジをしながらの、あまりにも卑猥なアクメの瞬間だった。 (イク……イク……イクイクイク……ああぁっ、たまんない……気持ちイイ……ッ!)  痛いほどに締めつけてくる蜜壺の収縮を己の指で感じたまま、瑠璃はオナニーを続ける。牝悦により鋭敏になった乳房を揉みしだき、限界まで膨らんだ肉真珠を手のひらでぐりぐりとこねる。 「んふっ、ふっ……ふあああぁっ……ああ、イイ……また来る……来ちゃうぅ……はぁん、あっ、あっ、あっはぁ!」  エクスタシーにエクスタシーを重ねる、貪欲な独り遊びの法悦に、美しい未亡人はその汗に濡れた肢体を妖しく、切なく、そしてどこか寂しげにくねらせるのだった。 (次回更新 1月8日)