性伏王【雪永昴&天音凛那編】 1
プロローグ
夜の廊下を少年が歩いていた。汗ばんだ右手でハンディカメラを握りしめ、中肉中背の平均的な身体を縮めて、恐々とした面持ちで進んでいく。廃校舎に人の気配はない。時々何かが足元を横切っているが、その正体を探ろうとも思えなかった。
「ひッ……!」
カァカァと鳴くカラスの声に肩を跳ねさせて、福弥は廊下の柱に身を寄せる。心臓が脈を強めて、腋に嫌な汗が滲んだ。
「あ、ああ……あのクソ女どもめ……な、なんなんだよ……なんで僕が、こんな」
呟き、ハッと口を噤む。今の声が残るとまずい。映像を削除せねばと思うも、こっそり拝借した父親のカメラは、どう操作すればいいのか判らなかった。
『フクヤァ。あんた今日、どうせ暇でしょ? ちょっと用事頼まれてよォ』
天音凛那の声が脳裏に蘇る。帰宅しようと教室から出る直前のことだ。机に腰を掛け、短いスカートから長い脚を揺らす金髪の美少女が、ニヤニヤと瞳を弧状に細めていた。
『ねぇ、知ってる? 森の奥に残ってる廃校舎、女のオバケが出るんだって。ね、フクヤ。あんた撮ってきなさいよ、動画。めっちゃ映えるやつをね』
『そ……そんな。廃校舎って……た、立ち入り禁止じゃないか。い、嫌だよ。ていうか、今日はその、用事があって。それじゃ僕はこれでひぎィッ!』
背後から尻を蹴りあげられ、福弥は情けない声をあげて身体を跳ねさせた。そのまま床に倒れこんだ少年を見下ろして、廊下から入ってきた少女――雪永昴は唾を吐くように言う。
『ンだよ、男のくせにビビッてんのか? 幽霊なんているわけねぇだろうが』
『ゆ、幽霊がいないなら、行く意味ないじゃな――ひッ!』
ダンッと強烈な音が響く。股下数センチの場所へ昴の足が振り下ろされていた。生殖機能が失われかねない一撃に、福弥は失禁しそうにもなる。
『うじうじ言ってないで、やることやりなさいよ。今日の夜、廃校舎で幽霊を撮影してくること。撮影できなかったら、あんたを使って面白動画撮るからね』
『コンビニで待ってるからな。逃げたら百発蹴るから、覚悟しとけよ』
美少女二人が嗜虐的な笑みを浮かべる。彼女らにとって幽霊撮影などどうでもいいのだ。廃校舎の中で怯えさせたあと、撮影に失敗したお仕置きと称して、残虐行為に及んでくるのだろう。
(そして……その未来はもう、目の前にある……か)
埃塗れの床に座りこむ福弥は、ひび割れた窓ガラス越しに月を眺め、息を吐く。
「……もう少し撮影して、コンビニに行って……蹴られて帰ろう」
自嘲気味に笑い、福弥は撮影を再開した。階段を上がり、三階の廊下を進む。酒の空き缶や使用済みのコンドームが落ちているのを見て、良くも悪くも気持ちが冷める。誰かがラブホテル代わりに使っているのかもしれない。心霊現象の噂も、ここに出入りする人間たちが発生原因なのだろう。
正体見たり、というやつだ。ならば逆に、と福弥は思う。誰かが青姦に及ぶ動画を撮影できるかもしれない。それは心霊映像よりずっと実用的だ。
「……なんてね。そんな現場に出くわすわけないよな」
馬鹿げた願望に苦笑する。足元に一年二組と書かれたプレートが落ちていた。何気なく手を伸ばし、拾おうとした瞬間……何かの気配を感じて、福弥は室内に顔を向けた。
「……え」
ぽつり、と声が零れる。福弥の目に映ったのは、教卓に腰を掛ける女だった。しかも、裸だ。一糸纏わぬ女が、そこにいるのだ。
いや、まさか、そんなはずはない。福弥は汗ばんだ瞼を擦り、ギュッと目を瞑る。それから息を整え、もう一度教室に視線を遣った。現実は変わらない。やはり、いる。教卓に、褐色の肌をした全裸の女が座っている。
(す、すごい。生のおっぱい……ち、乳首が見えるぞッ……)
闇の中で、豊かに実った乳果実が存在を主張していた。対照的に腹部はキュッと引き締まり、裸身は女性的なS字のカーブを描く。下半身は安産型で、大きな尻房と太腿がひと際強く目を惹いた。宙で揺れるしなやかな爪先までもが妖艶に映る。
(み……見惚れている場合じゃない。と、撮るぞ。絶対に撮影しないと――)
「そういう類の道具では、実体のない私を捉えることはできんぞ」
「え……」
美しく凛と澄んだ、それでいて厳かな声が響く。カメラに落としていた視線を戻すと、女が座る位置を変え、福弥と向き合っていた。悲鳴は出ない。恐れや驚きよりも、無防備に開いた女の股座――神秘の花園に意識を奪われてしまう。
「女の裸を見るのは初めてか?」
「は、え……あっ、すみませッ……み、見てないですっ、何も見てないですッ」
「見るな、とは言っていないだろう。そもそも男に産まれた以上、私の魅力に抗うことはできん。お前の反応も当然だ。――ほら、遠慮をするな」
教卓の上、女は脚を開くと、右手を陰部に添える。そして指先で逆V字を作り、くぱぁと割れ目を拡げてみせた。「う……わ……」と、福弥は呆然と呟く。
暗くてよく見えない。だが今、目の前に無修正の恥部があるのだ。その魅惑の状況に抗えず、何か見えない糸で手繰り寄せられるように、福弥はカメラを机に置いて前に進む。
「す、凄……い。ま×こが、目の前に……」
「ふふ、すっかり夢中だな。もっと見るがいい。視線だけで私を犯し、孕ませる気で、貴様の肉欲を奥の奥に注ぎこめ。ほら、もっとだ。もっと熱い視線を寄越せ」
「あ、あ……奥……孕ませる、気で……あっ、ああ……」
ふーッ、ふーッと福弥の息が荒くなる。少年の鼻息で揺れる陰毛の奥では、艶めかしく媚肉が蠢いていた。止めどなく溢れる甘酸っぱい濃厚な牝臭に、呼吸器が犯されているような気がした。頭がくらくらする。思考が曖昧になって、意識がぐらつく。
「ふふ……いいぞ、いいぞ。お前、なかなかに悪くない。私の器として契約するに値するかもしれんな。だが、問題は逸物だ。肝心のブツが役立たずでは、話にならん」
「い、逸物……ブツって……はぁはぁ、なんの話を……」
「お前のち×ぽを見せろ、と言ってるんだ。ソレを気に入れば契約してやる。いいや、そういう細かい話は後回しだ。まずは一発……どうだ小僧。私のココに、挿れたいか?」
「えッ……い、いいんですかッ……あ、ああ、挿れたい……挿れたいですッ!」
福弥は即答する。普段の少年ならありえない思いきりの良さだ。その双眸は血走って、傍目に見れば何かに憑かれているようである。そして憑かれているという表現は、決して間違いではない。だが当人が異常に気づくことはない。
「ふふ、私のま×こを直接覗きこんだ所為で、深い催淫状態に堕ちたな。さあ、小僧。お前の魔羅を出してみろ。私の孔で、棒の具合を試してやる」
「は、はいッ。はぁ……はぁ……セックス……ああ、セックス……い、いや、なんで僕は、いきなりセックスを……? ああっ、そんなの、どうでもいい……セックス、セックス、セックス……!」
福弥は制服のズボンを脱ぎ捨てた。出番を待ちわびていた相棒が、先走りの露をびちゃっと散らして跳ねる。長さは十七センチに及び、その容姿からは想像もできぬほど太く、脈動する血管は威圧的にすら映った。
「ほう……これほどのモノがあれば相当な煩力が……ふふ、いいだろう。孔を使わせてやる。猿のように腰を振り、思うがまま精を注げ」
女は教卓から降りると、その豊かなヒップを少年に向けた。乾いていた孔が瞬く間に湿り気を強め、太腿に流れるほど透明な蜜が湧きだす。
神秘の源泉を前にして福弥に理性が戻ることはない。牝のフェロモンに誘われるがまま、欲求に従って、亀頭を割れ目に添えた。
「う、あッ……!」
陰茎が肉筒に呑まれていく。生温かい粘膜の愛撫を受け、膝がガクガクと震えた。挿入の余韻に浸る余裕はない。複雑に生えた襞肉がウネウネと蠢き、充血しきった海綿体に抽送を促す。
「あ、ああ……ま×この中、熱いッ……蕩けるっ……す、すごい、これがおま×こ……腰が動くっ……はぁ、はひっ……ひぃっ、た、たまらないぃ……ッ」
福弥は口角に涎を浮かせ、無我夢中で腰を振り始めた。際限なく湧き続ける陰蜜が絡みつき、赤黒かった肉幹は白い泡で塗れ、ぬちゃぬちゃと糸を引く。褐色の尻臀が、荒っぽい律動に合わせて波打っていた。
「ああ、いいぞ……奥まで届いて……んっ♡ そうだ、性欲の赴くままに腰を振れ……♡ 蓄えた煩力すべて、私に寄越せ……はぁ、あん、あんッ♡」
「はぁ、はぁッ……こ、こうですかッ……ああ、おっぱいも凄いッ……いいッ、いいッ!」
福弥は顎から涎を垂らしながら、女の身体へ背後から抱きつく。首筋に鼻を埋め、両手で柔らかな乳房を鷲掴みにすると、一気に律動を加速させていく。眉間が熱く痺れ、精がぐんぐんと肉の管を伝う感覚があった。限界だ――少年は鼻先をぐんッと上向け、咆哮した。
「うあっ……あっ、イクぅッ! で、出るッ、射精するッ! イクぅッ!」
「おッ……♡ 熱いのが、出てッ……これはまた極上の……んんっ♡」
亀頭から精が噴きだす。牡の脈動に合わせて、視界が瞬くほどの悦びが脳の芯を貫いた。
少年はぐっしょりと汗を浮かせて、背筋を迸る性電流に腰を震わせる。恐ろしいほどの余韻だった。肉襞はペニスの凹凸に沿って絡みつき、膣全体は小刻みに蠢動を繰り返して、最後の一滴まで精を搾りあげてくる。その間、福弥にできることは何もない。唇の両端から涎を垂らしながら、膝をカクカクと内股に震わせていた。
「ふう、良い馳走だった。刺激的な初体験にお前も満足だろう?」
「はぁ、はぁ……そ……それは、もちろん。最高、でしたけど……あ、あれ……? ぼ、僕はなんで、こんなことを……? あ、あなた、何をしてる人なんです。こんな場所で……は、裸で、男を誘って……」
「ヒトではない。お前ら低俗な種族と一緒にするな。私は淫魔だ」
ふざけた様子もなく女は言う。股間を重ねたまま、福弥は呆然と女の後ろ姿を見つめた。翼も尻尾もなく、淫魔と言われても納得できなかった。まだ自分の頭は惚けているのだろうか。
「私に翼や尾はないぞ」福弥の胸裏を見透かして女は言い、続ける。
「だが証明は簡単だ。私は結合した相手の記憶や思考を読める。お前、女二人に虐げられているだろう。天音凛那。雪永昴。なるほど、外見の良い女どもだな。性格も良いじゃないか。牡を嬲り、愉悦を貪ることに快楽を見出すとは」
「本当に……僕の記憶を……」
「他にはそうだな……カメラを確認すればどうだ? 私は映っていない。今は実体化できるほどの力がないからな。お前のように適性がないと、私を見たり触れたりはできない」
「な、なるほど……」と言葉を返して、福弥は結合部を見下ろす。
艶尻の光沢も、膣の熱量や感触も、女から立ち昇る匂いも本物にしか思えなかった。彼女が淫魔だというのは納得できる。先ほど味わった我を忘れるほどの性欲が……今の自分に起きているこの状況こそが、何よりの証明に思えた。
「で、でも……本当に淫魔がいるとして、どうしてこんな廃校舎に……」
「封印されたんだ。ウン十年だかウン百年前だか忘れたがな」
「なんでそんな曖昧なんですか」
「自分が十年くらい冷凍保存されて、突然目覚めたときを考えてみろ。西暦何年か、すぐに理解できるか? 無理だろう。十年も百年も、そう大差ない」
流石に十年と百年は大差なのではと思うが、不用意に口は挟まず、続きを聞く。
「ここに私が封印されている事実すら忘れられた頃、この校舎が建設されたのだろうな。そしてまた長い年月が過ぎて、私の封印が弱まり、今に至る。しかし封印と一緒に私も弱体化した。自由に動くこともできず、この廃校舎で行為に及ぶ人間から煩力――判りやすく言えば性のエネルギーというやつだな。そいつを吸って、永らえていたわけだ」
どうだ、泣ける話だったろう? と淫魔は締め括る。涙を誘われたかはともかく、経緯は理解できた。道の端にぽつんと取り残された鳥居や、誰も手入れしていない地蔵のように、長い歳月が淫魔の存在を風化させたのだろう。
「問題は、このペースで集めていては百年かけても力が戻らんということだ。直接性行為に及べば、それなりに力は吸えるが……如何せん、私を認識できる人間が少なすぎる。――というわけで、だ。あとは判るな?」
「え……判りませんけど……えっ、もしかして僕から力を搾りとるとかっ?」
「違う。契約だ。淫魔の力をお前に貸してやる。見返りに、お前は女どもとセックスをして煩力を集め、私に差しだせ。悪い話ではないだろう?」
「そ、そんな無茶な。とてもじゃないけど、女の人とエッチなんて」
「今、やったじゃないか」
「今のはその、淫魔さんの力で無理矢理……あっ」
「そうだ。私の力を使えば、無理矢理に女とコトに及べる。その意味が判るな? 天音凛那に雪永昴。お前を虐める二人を、性伏しようじゃないか。悪い話ではないだろう?」
性伏。聞き馴染みのない言葉にこるりと喉を鳴らす。性の悦びで屈服させる、という意味合いだろうか。髪の隙間から覗く、艶めいた淫魔のうなじを見下ろしながら、福弥は考える。
(僕が……淫魔と契約して、あの二人を犯す……? ち×ぽで……セックスで、あの二人に復讐を……? ああ、そんなのって……そんなの、絶対に……ッ!)
「んっ……♡ ふふ……♡ 返事は、口から聞くまでもないな?」
凌辱する未来を頭に浮かべた瞬間に、肉壺の中で逸物がムクムクと膨張する。血肉が滾り、思考は沸騰して、理性が蒸発する気がした。これも淫魔の力による影響なのだろうか。犯したい。犯したい。犯したい。その願望が、脳裏を占有する。契約します――福弥が言うよりも早く、その胸裏を読んだ淫魔が言った。
「契約、成立だな」
「うッ……!」
下腹部の辺りがカッと熱を発する。何かの力が腹に宿るのを感じた。その証拠とばかりに、淫魔の中に埋めたままの肉幹が滾りを増し、長く太く進化する。性欲も精力も、腹の底から漲ってくるのを感じた。
「やはりお前は筋がいい。力を与えた途端、無意識のまま煩力を操り、男根を滾らせるとは……んんっ♡ おいおい、あっ♡ 腰がっ、動いてっ、いるぞっ?」
「ご、ごめんなさい。でも……ああっ、もう抑え、こめなくて。あっ、ああっ!」
犯したい――犯したい――犯したい――ごぼごぼと噴きあがる牡の欲望に抗えず、福弥は前後に腰を遣って、生の媚肉を牡棒で穿り始めた。そのピストンは先ほどよりずっと荒々しく、女の粘膜を削ぎ落とさんとするかのようだ。
「はぁ、はぁっ……おま×こ気持ちいいっ……ああ、たまらないッ」
「まったく……性伏する側のお前が、性欲に呑まれて、どうするっ……♡ だが、仕方、ないなっ♡ 二人の下に戻る、前にっ……もう少し私が相手を、んっ♡ してやるっ、あん♡」
はぁはぁと呼気を乱しながら、福弥は腰を揺すりたてる。淫魔もまた、男の情欲を煽るために艶めかしく喘ぎ、ぎこちない抽送を補助するように尻臀をくねらせる。廃校舎の中、今にも抜けそうな床を軋ませて、福弥は激情のままに股間を打ちつけていた。
「いくらなんでも遅すぎるんですケド? あんた、どういうつもりなの?」
「お前と違って暇じゃねーんだよ。待たせた罪、どう償うつもりなんだ?」
コンビニの駐車場に苛立った少女らの声が響く。凄まじい剣幕を前にして、福弥は蒼白になった顔を引き攣らせていた。先に家に帰っていればいいのに……福弥を痛めつけるときだけは妙に律儀なのだ。
〈おい、アレを見せてやれ。大丈夫だ、私の言うことを信じろ〉
傍に立つ淫魔が囁く。全裸の女は誰にも見えていないらしく、その声に反応を示す者はいない。福弥は恐々としながらも、ビデオカメラを差しだす。
「ま、待ってよ。ちゃんと撮影してきたんだ。ほ――ほら! ここに白い幽霊が映ってるから」
「はあ? 幽霊だと? てめぇ、適当なコト言ってんじゃねーぞ?」
「嘘吐いたら承知しないかんね。待たせた上に私たちを騙そうとしたら、ぶっ殺すから」
本当に大丈夫なのだろうか。だが既にカメラは少女らの手の中だ。二人は動画を再生し、顔を寄せ、小さな画面を覗きこむ。直後、自身でさえ寒気がするような福弥の声が響き始めた。
『はぁ、はひぃっ、凄い……ああ、凄い、気持ちいいッ。ま×こ……ま×こたまらないっ! ああ、ち×ぽ気持ちいいッ……イクッ! いくぅっ!』
画面には今、教室で淫魔と性行為に及ぶ福弥の姿が映っている。しかしカメラに淫魔は映らない。つまり、ペニスを丸出しにして、一人ヘコヘコと腰を振る少年だけが、二人の視界に収まっているのだ。天音凛那は「は?」と眉間に皺を寄せる。そして一方、雪永昴は肌を紅潮させて――。
「死ねッ!」
「ひぎがぁッ!」
怒声を放ち、福弥の身体を蹴り飛ばした。衝撃を受けた福弥は背中からゴミ袋にぶつかる。痛みに呻きながら顔を上げると、美少女二人が怒りの滲んだ顔で福弥を見下ろしていた。
(な、なんだよ……全然だめじゃないかッ! は、話が違うよ!)
〈そんな顔をするな。成功だよ。見ろ、やつらの腹を。淫紋の完成だ〉
言われて「あっ」と声が漏れる。昴と凛那の腹部が、服越しでも判る程度に淡く光を放っていた。対象者に淫魔の力を作用させるには、まず性器を見せなくてはいけない――その条件を満たしたのだ。だが、状況は改善されない。
「どういうつもりか知らないけど……自分が何したのか判ってるのよね?」
「生きて帰れると思うなよ。ぶら下がってる粗末なモン、擦り潰してやる」
二人がゆっくりと近づいてくる。淫魔の能力で、彼女たちは発情して、福弥を求めるはずなのに。そういう説明を、事前に受けていたのに。
〈まあ、今のお前の力は淫魔の中でも低級だからな。能力で女どもが発情し、お前を求めるまでに時間が必要だろう。つまり今は――まあ、どうしようもない、ということだ〉
(そ、そんな……! だ、だったら僕は今から、な、嬲り殺されるじゃないか!)
「あのォ……すみませんけど、お店の傍でそういうことするのは……」
己の末路を悟った瞬間、眼鏡をかけた店員が顔を覗かせる。「ちッ」と雪永昴が舌打ちした。
「明日、覚えてろよ。両手足の指全部へし折ってやる」
「何考えてこんな変態的なコトしたのか知らないけど、相応のお仕置きは受けてもらうから」
恐ろしい台詞を残し、二人が駐車場から去っていく。福弥はゴミに塗れたまま、大きく安堵の息を吐いた。だが、胸を撫でおろしている場合でもない。
「本当に、これでなんとかなるの。ならなかったら僕、こ、殺される……」
〈大丈夫だ。心配している暇があるなら、二人をどう犯して愉しむかに想いを巡らせていろ〉
「そんなにうまくいくのかなぁ……」
もしも失敗すれば、明日からは更に過激ないじめに遭うだろう。だけど、もし成功すれば――凌辱する未来を想像して、福弥は廃校舎で味わった愉悦を思いだす。蹴られた腹が、痛みとは違う理由で、熱く疼き始めていた。
(次回更新 2月3日)