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剣道女子、完全敗北 1

第一章 絶望破瓜 狙われた剣道少女

 

「さて……と。これで資料作成はひと段落ね。手伝ってくれてありがとう、朱美」
 配布用の紙をホッチキスで束ね、夜宮香蓮が微笑みかけてくる。宝玉のような碧眼を見ると、朱美の心臓はトクンと弾んだ。敬愛する風紀委員長に礼を言われるのは、朱美にとってこれ以上ない褒美である。尻尾があればぶんぶんと振っていただろう。
(夜宮さん……変わらずお美しいな。流石は双璧と呼ばれるだけのことはある)
 風紀委員長・夜宮香蓮と言えば、生徒会長・榎並結花と並ぶ絶世の美少女として知られている。生徒の間で囁かれる噂や評判に興味はないが、香蓮が美しいのは朱美も同意見だった。
 精巧な陶器のように滑らかな柔肌も、西洋の血が通っている黄金色の髪も、窓辺から差し込む陽光を浴びて艶々と輝いている。白い夏服から覗く手足はすらりと長い。凡庸な表現ではあるが、まるで人形のように全てが整っていた。
「それじゃ、今日はこの辺で解散にしましょうか。なんだか眠たいし……さっきから欠伸が止まらないのよね。あっ……手伝わせた立場で、こんな愚痴を零して悪いわね」
「い、いえ。実は自分も、少し眠気が。お互い、疲れているのかもしれませんね」
「かもしれないわね。じゃあ、今日は巡回はなしってことにしましょうか」
 朱美は少し考えた後、ポニーテールに束ねた黒髪を揺らして、首を横に振る。香蓮は「相変わらず真面目ね」と言ってくすりと笑う。
 資料を片付けた香蓮は、紙コップに入った水を飲み干し、鞄を手に持った。朱美も倣うように、鞄と竹刀袋を肩に提げる。それから朱美も、冷えた水を喉に流し込んでいく。
「じゃ、私は校舎の中を見回ることにするから。朱美は外をお願い。特に最近、体育館裏で不純異性交遊に及んでいる男女がいるって噂だし」
「判りました。すみません、校舎内の方が大変なのに」
「いいのよ。あたしは委員長で、あなたは副委員長でしょ。ああ、そろそろ行かなくちゃ。橘先生に呼び出されてて。それじゃ、いつも悪いけど、後はお願いね」
 香蓮は朱美の肩をポンと叩き、部屋から出て行く。その足元が少し覚束ないことに気づいて朱美は不安を覚えた。やはり疲れが溜まっているのだろうか。朱美は声を掛けようと椅子から腰を浮かせる。その瞬間、膝がガクンと折れた。
「……あれ?」
 自分の身に何が起きたのか判らず、朱美は目を瞬かせる。視界が滲み、目の前の景色がぐねぐねと歪んで気持ちが悪い。廊下で何かが落ちる音がした。
「おっと危ねえ。ここまで薬の効き目が良いとはな。夜宮に怪我させるところだったぜ」
「委員長はどうするんだ。こっちもヤッちまうのか?」
「いいや、夜宮に用事はねえよ。用事があるのは、麻比奈朱美の方だからな」
 部屋の外から不穏な話声が聞こえ、朱美は竹刀袋に手を掛ける。だが指先に力が入らなかった。肩に掛けた袋が滑り、床に竹刀が落ちる。頭が重く、瞼も重く、身体中が重い。
(これは、普通の反応じゃない……気絶とか、失神とかじゃ、なくて……)
 無理矢理に身体を起こそうとするも、朱美は力なくテーブルに顔を伏せた。腕に当たった紙コップが転がる。水。眠気。廊下から入ってくる不良の姿。それらの情報が線になって繋がりかけたところで、朱美の意識は途切れた。


「ん……んぅ……」
 呻き声を漏らし、朱美はゆっくりと瞼を開く。張り付いたような瞼は随分と重かった。
 少女は狼狽しながら目を開き、それから右手で目元を擦ろうと試みた。しかし右腕が動かない。その感覚に違和感を覚えつつも、鈍い頭では思考が働かず、ぼんやりとした視界に景色を映す。
「ここは……どこだ……」
 汗と埃と湿気の匂いが充満している。それに煙草の匂いが混じっていた。濁った不快な空気に眉間の皺が深くなる。少なくとも清潔感のある場所ではないのは確かだ。
「よぅ、お目覚めか、麻比奈朱美」
 低い声が響いて、朱美は視線を男に向けた。ガッチリとした身体つきの男が、ニヤニヤと頬を緩めて立っている。権藤――不明瞭な思考でも簡単に名前を思い出せるほど、馴染みのある顔だった。
 学校にいる不良のリーダー格であり、生徒たちから恐れられている。身長は百八十を超え、更には過去に空手をやっていたという体格は、ラグビー部も顔負けの頑強なものだった。
 権藤だけじゃない。周囲には何人もの生徒が座り、朱美の前で堂々と煙草を吸っている。人数はおよそ十人近くに達しており、この狭い空間の室温を余計に高めているようだった。
(なんなんだ、こいつら……私の前で、堂々と……!)
 口元を緩め、黄色い歯を見せてこちらを眺める男たちに、血液が沸騰するような怒りが一気に身体を燃やした。鈍かった思考が完全に覚醒し、拳に力が入る。今すぐ竹刀を手に取り、一人ずつ完膚なきまでに叩きのめしてやる――憤然とした感情が朱美を満たした。
「貴様ら、今すぐ成敗してやる……言っておくが、私は寝起きの機嫌が悪いんだ。何人が相手だろうと関係はない。五体満足で帰れると思うな、外道どもが」
「へへ、威勢が良いねえ。だが自分の状況が判ってるのかよ。まだ寝惚けてんじゃねえのか」
「黙れ、この腐れ外道が! 待っていろ、今すぐ私がッ――あ、えッ?」
 殴りかかろうと腕に力を込めるも、身体はピクリとも動かず、朱美は怒りに塗れた顔を困惑に染める。狼狽する少女はすぐに自分の右腕を見た。
 そこでようやく――今になって朱美は、自分の置かれた状況を理解する。
「な、なんだこれは……!」
 流石の朱美と言えども、己の状況に愕然とせずにはいられなかった。端的に言ってしまえば、朱美は拘束され、部屋の中央で吊り下げられていたのだ。
 両腕を左右にピンと伸ばした状態で、横向きの竹刀へ麻縄で巻き付けられている。竹刀は天井から伸びたロープに結ばれており、朱美は宙づりの状態になっていた。
 両脚も腕と同様、一本の竹刀が左右の足首に橋渡しされ、麻縄で厳重に縛り付けられている。大の字に拘束された身体に自由は利かず、平均台に載った爪先を動かすくらいしかできない。
(平均台……? それに、体育用のマットも……そうか、ここは……)
 道理で汗や湿気の匂いが酷いわけだと理解する。ここは学校の体育倉庫だ。
「やっと自分の状況に気付いたようだな。感謝しろよ? 寝ている間に制服をひん剥いて、まわしても良かったんだ。それをお前、こうやって目が覚めるのを待ってやったんだからな」
 権藤の言葉通り、朱美は白い半袖のセーラー服に身を包んだままである。とは言え、男たちが少しでも手を伸ばせば、その衣服は容易く剥がされるだろう。身を悶えさせる少女の下半身で、スカートがちらちらと揺れて男の視線を誘う。
(下品な馬鹿面でこっちを見て……こんなやつら、拘束されてなければすぐに……)
 だが身を捩っても麻縄の軋む音が虚しく響くだけだ。平均台には男たちが腰を掛けており、台を倒すことも無理だろう。そうしたところで、そもそも何も変わらないが。
「……竹刀で女を縛るなど、下衆に相応しい小悪党ぶりだな。目的はなんだ? 復讐か?」
「へへっ……流石に肝が据わってるな。この状態でそんな口が利けるとは」
「黙れ! 質問に答えろ!」
「黙るのか答えるのか、一体どっちだよ」
 権藤が返すと、周囲の生徒がドッと笑い声をあげた。頭にカッと血が上り、朱美は男に掴みかかろうと前のめりになる。だが、すぐに吊るされた竹刀に引っ張られ、身体がガクンと元に戻った。
 怒りに身を任せてはいけない。平常心を保つべきだ。そう理解はしていても、唇はわなわなと震え、丁寧に切り揃えられた爪が掌に食い込む。なんとか気を落ち着かせ、朱美は言う。
「……貴様ら、水に薬を混ぜたんだろう。委員長は……夜宮さんは無事なんだろうな」
「察しが良いな。そうだ。風紀委員の部屋にある冷蔵庫を開けて、常備してある水に薬を盛った。安心しろよ。夜宮に恨みはねえからな。保健室に連れて行ってやったし、薬も後遺症は残らねえ」
 朱美はほっと安堵の息を吐く。だがすぐに気を引き締め直した。状況は少しも好転してはいない。今から起きることを考えると、流石に息が詰まる。
「へへ、それじゃあ早速始めようか。結論から言うが、今日からお前を牝犬として飼うことにした。俺たちが飽きるまで、ずっとな」
「ふん、ポルノ雑誌を読み過ぎて阿呆になったんじゃないか? 従うわけがない。それで、どうする? 私を殴るか? 蹴るか? 刃物で脅すか? それとも拳銃でも持っているのか? 貴様らお得意の、暴力で服従というヤツを試してみるがいい」
「ははっ、馬鹿言ってんじゃねえよ。俺たちは暴力よりずっと効果的な方法を知っているんだよ。例えばよ、これから一枚一枚、お前の服を剥いていくってのはどうだ?」
 権藤の言葉を受け、朱美の頬に朱の色味が滲む。
「な、何を言っているんだ、貴様らっ……」
「お? おいおい、何だ? 随分と余裕がなくなったじゃねえか。想像しちまったのか? ここで素っ裸になって、今まで散々嬲ってきた男たちに、穴という穴を犯されるんだ。口。ま×こ。そしてケツ。髪の毛一本までザーメンの匂いをこびりつかせてやるよ」
「は……破廉恥なことを言うんじゃない……この、ケダモノが!」
「ケダモノねぇ。そうかそうか。麻比奈は、獣みたいなセックスがお望みってわけか」
 近寄ってくる権藤に純然とした恐怖を抱き、朱美は慌てて身を捩った。だが身体が動くわけもなく、男の武骨な手が顎先に触れてくる。少女は咄嗟に顔を背けるも、その先にも別の不良が立っていた。好色を滲ませる瞳と視線が交錯し、ゾクリと怖気が伝う。
(こ、こんな……嘘だ、こんなやつらに、私が恐れを抱くなど……!)
「や、やめろっ! 貴様ら汚いぞ! こ、こんな……正々堂々戦え!」
「正々堂々か。普段から竹刀を持ってうろついている女に言われたくねぇな」
 権藤の手が朱美の乳房に伸びる。朱美は懸命に背中を後ろに引くも、男の手を遠ざけることは叶わなかった。硬い指先が制服の上から胸に触れる。当然異性に触られたことなどなく、何枚もの布を介しているとはいえ、肉房から広がる不快感は最悪の心地だった。
「……あぁ? なんだ、おい。お前、胸に何か付けてやがるな」
「そりゃ、女なんだから、ブラジャーくらい付けているんじゃないのか」
「ブラじゃねえよ。ほら、お前らも触ってみろよ」
「へへ……じゃあ、お言葉に甘えて」
 男たちがにじり寄り、好き勝手に乳房を揉み始める。「やめろぉっ……」と抗議するも、不良どもが聞くはずはなかった。磔にされた少女の胸に四本もの腕が伸び、薄い夏服の上から胸を歪ませる。背後にいる男はスカートに触れ、引き締まった朱美の尻房を撫で回していた。
(くそ、屈辱だ……こんなやつらに、身体を触られるなんて……)
 初めては愛する人に、ゆっくりと時間を掛け、割れ物を扱うように丁寧に触って欲しい――そんな純粋な少女としての希望が踏みにじられ、朱美はひたすらに奥歯を噛みしめていた。
「おい、誰か! 誰かいないのか! 助けてくれ! 男子にレイプされている!」
「叫んだって誰も来やしねぇよ。今何時だと思ってんだ」
 朱美は鋭く瞳を尖らせて権藤を睥睨する。だが傍から見れば滑稽なだけだろう。竹刀で磔にされ、尻や胸を触られながら睨んでも惨めにしかならない。
「ほら、言ってみろよ。牝犬として飼ってくださいませって。皆さんに首輪を嵌めていただいて、この不躾な暴力女を、立派な牝犬として躾けてくださいってな」
「黙れ……黙れッ!」
 朱美は首を揺すり、背後から尻を揉む男の鼻に後頭部を打ち付ける。不良は鈍い声をあげて床に倒れ、マットの上でのたうち回った。鼻から血を流す男に構わず、朱美は権藤に顔を向け直し、毅然として言い放つ。
「貴様らの思い通りになど絶対にならん! 今までこうやって女を嬲ってきたのだろうが、私を飼い慣らせると思うなよ! ほらどうした! 根性なしども! さっさと制服を剥き、不潔なブツをぶち込めば良いだろうが! それとも根性だけじゃなく玉もないのかッ」
 ふーッ、ふーッと息を荒げ、朱美は狭苦しい部屋の中で叫びをあげる。少女が放つ怒りの咆哮へ呆気にとられたのか、男たちはポカンと口を開いた。呆然とするのも無理はない。この状況で、こうも堂々とした立ち振る舞いをする女はいないだろう。
「ふふっ、はははっ! 良いねえ、麻比奈! そうだよ、お前はそうじゃなくっちゃな!」
 何かが弾けたように権藤が愉快気に笑う。釣られるようにして、目を瞬かせていた他の不良たちも笑みを零した。絶対的優位な状況を思い出したのだろう。
「いやいや、全く。恐れいったぜ。なら、お言葉に甘えてそうしよう。お前が従わない以上、ハードにヤらせてもらう。お前からち×ぽを求めて腰を振るまで、徹底的に躾けてやる」
 権藤は黄ばんだ歯を見せる。そして少女を囲む不良どもに向かって、言った。
「よしお前ら、お楽しみの時間だ。服を剥け」
 朱美は何かを言い返そうとして口を開く。もう一度叫べば誰かが来てくれるだろうか。頑丈に施錠された扉を見て、格子窓から覗く夜の闇を視界に収め、朱美はそっと長い睫毛を伏せる。手足の震えをぐっと押し込んで、少女は呟いた。
「好きに、しろ……お前たちの、思い通りには……ならないからな……」


「よぉし、それじゃあ、ひん剥かせてもらおうかな、へへ……」
 背後に立った男が、朱美の制服、その裾口に手を掛けた。少女の前には男たちが座り、その強制ストリップショーを目に焼き付けんと、瞳を大きくして見つめている。朱美はただ、口を閉じて顔を背けていた。
「さてさて皆様、お立会い。今宵はあの、麻比奈朱美のヌードをご覧いただきましょう。撮影は禁止! なーんてお堅いことは言いません。好きなだけ写真を撮って、是非是非、オナニーのオカズにご利用くださいませ!」
「おい美晴、口上は良いからよ。早く脱がせろって」
「そう慌てなさんなよ、お客さん。今からスッポンポンにひん剥きますからねえ」
 背後に立つ美晴と呼ばれている男が、気取った口調で不良に返す。ひょろりと身長の高い男で、カマキリのような顔をしている。もし自由ならば、この程度の男に遅れを取ることはなかっただろう。
「さて朱美ちゃん。良い子にしててくだちゃいね? 今から脱がせてあげまちゅからね?」
 口角に唾液の泡を浮かせた美晴が、気色の悪い声で囁きながら、朱美の制服に手を伸ばす。男が裾を捲りあげ始めると同時、不良どもは図ったように口を閉ざす。そして布の擦れる音だけが妙に大きく、熱気の充満した倉庫に響いていった。
(くそッ……くそ、くそ、くそッ……こんなやつらに、辱められるなんて……!)
 好色に塗れた視線に産毛を逆立たせる中、朱美は切れ長の瞳へ懸命に力を込める。だが男たちは今や少しも朱美を恐れてはいない。制服という白い幕が開き、少女の柔肌が晒されていくのを、彼らは固唾を飲んで見つめていた。
「おぉ……流石剣道部主将……すげえ引き締まってるじゃんかよ……」
 不良の一人が感嘆の声を漏らすのも無理はない。白磁色をした肌には透明感があり、武道少女らしい硬さもありつつ、女性的な曲線美も存分に感じさせた。
 腹を這い上がる布が、徐々に乳房へと近づいてくる。男たちはブラジャーの色や形を想像していたことだろう。だが直後に現れたのは――胸を何重にも覆う。白いサラシだった。
「おい……おいおい、まじかよ! そうか! だから硬かったんだな、お前!」
 不良が嬉々として囃し立てる。異性に知られたことのない己の秘密を知られて、朱美は顔を真っ赤に染めた。それが忌避すべき反応だと判っていても、羞恥で耳朶まで紅潮してしまう。
 恥じらう少女を嘲笑うように、男たちの視線が乳房に集中する。重なった白い布が双丘を圧迫し、豊かな肉房が、悶えるように身を寄せ合っている。豊満な胸には深い谷間が生じ、部屋の湿度も相まって、汗ばんだ肌からは熱気が漂っていた。
「へえ、まさかサラシを巻いていやがったとはな。おい、なんでブラジャーつけてないんだ? でかパイ過ぎて、市販のブラジャー程度じゃ隠せないのか?」
「ち、違っ……胸が、邪魔で……や、やめてくれ……もういいだろうッ……」
「急にしおらしくなりやがったな。まだ制服を捲ってやっただけだろう。本番はここからなんだからよ。――おい、美晴。やっちまえ。風紀を乱すデカ乳を見てやろうぜ」
 権藤の言葉に観衆はゲラゲラと笑い、美晴が銀色の鋏を取り出す。橙色の照明を反射してギラつく金属に、流石の朱美も本能的な恐怖を覚えた。身を捩ることすらできず、谷間に差し込まれる鋏に息を詰まらせる。
「お、おい……やめ、やめろ……わ、私の胸なんて見ても、し、仕方ないだろう!」
「そう思うなら隠さなくても良いだろうが。ほら、どうせ男に見せたことはないんだろ? 俺たちが見てやるよ。へへッ……バッチリ撮影しながらなァ……!」
 スマートフォンのレンズと好色な瞳に囲まれる中、美晴の持った鋏が谷間に触れる。蒸れた肌に冷たい金属が触れ、朱美の肩がピクリと跳ねた。
「ひっ……ぁっ、馬鹿っ、よせっ……ぁあっ……」
「よしませーん。鋏を入れて、この邪魔な布ちゃん取ってあげまちゅからねー? ほらほら、おっぱいが見えていくぞ? ちょーき、ちょーき」
「ぁあっ、ぁあああ……!」
 男の手が動き、鋏が白布を裁断していく。少しずつ少しずつ、下に切れ込みが伸びていく。張りのある胸がぐぐぐ……と布を押し退け始め、今にも弾け出しそうだった。男が鋏で下まで断ち切る。はらりと捲れそうになった布を、美晴は後ろから両手で止めた。
「おい勿体ぶってんじゃねえぞ! 早くおっぱい見せろよ!」
「まあまあ、落ち着けなすって。皆々様、カメラのピントは合ってるかい? それじゃあ、麻比奈朱美の生おっぱいの――お目見えだぁ!」
「なっ……だめっ、やめ――いやぁあああああッ!」
 朱美の悲痛な叫びが響き渡る。少女は男を振り払おうと身を捩るも、それが結果的に自分へ止めを刺すことになった。胸に弾かれるように美晴の手が離れ、サラシがはらりと舞い落ちる。そして遂に――憎き不良どもの眼前に、朱美の乳房が曝け出された。
「ぎゃはははっ、なんつう下品な胸をしてんだよ!」
「これが風紀委員様の生おっぱいかよ! 早く娼婦になった方が良いんじゃねえのか!」
 下劣な声と撮影音が鳴り響き、悔しさで身体が震えた。だがそのたびに、たわわに実った白い果実もまた、不良の目を楽しませるようにふるふると揺れ動いてしまう。
(う、ぅう……くそっ……くそぉ……! こんなやつらに胸を……胸を……ッ)
 たっぷりと肉を蓄えた半球型の乳房に下衆どもの視線が集中し、総身が粟立つ。肉房は量感があるにも拘わらず、日々の鍛錬によって筋肉がついているために、その形は一切崩れることなく上向いていた。乳輪は桜色で、肉の蕾も可憐な赤に色づいている。
「ふふ、責め手交代と行こうか、美晴。まずは俺が感度を調べてやる。おいお前ら、まだ手を出すんじゃねえぞ。後でたっぷり配分してやるから、大人しく待ってろ」
 権藤は部下たちに命令を下し、ゆっくりと朱美の背後に回る。太い腕を少女の腋の下から差し込んで、乳房の根元をきゅっと掴んだ。硬い指先が柔房に沈み、不快な心地に表情が曇る。男の指先が蠢くたびに双丘の形が歪み、見物する不良たちから歓声があがった。
(く、そ……汚らわしい手で触って……だが、私は絶対に屈しない……)
「柔らかくて良いねえ。指に吸い付いてきやがる。汗で湿ってるのが堪らねえな。張り具合も完璧だ。やっぱりお前を牝犬として飼う案は間違いじゃなさそうだ」
「うッ……ぐっ……まどろっこしいことしてないで、さ、さっさと、犯せばどうだ」
「落ち着けよ。早くセックスしたいのは判るが、こういうのは順序良くいかないとな」
「だ、誰がッ……お前たちと性交渉になど及びたくなひぃんッ!」
 突然乳頭を指先で抓まれ、朱美の語尾は情けなくも弾んでしまう。権藤は肉の突起を指の腹で挟んだまま、くりくりと転がし始めた。
 自分の大事な部分が凌辱者に弄ばれている現実に、怒り以上に悪寒が奔る。朱美は砕けそうなほどに奥歯を噛みしめ、湧きあがる恥辱へ必死に抗った。
(なんなんだ、こいつの動き……手が、別の生き物みたいに……)
 全く予想できない動きで、権藤は朱美の乳房を揉みたてる。根元を絞るように握ったかと思うと、今度はそうっと乳輪を撫でた。すると朱美の背筋はピクッと跳ね、朱唇が薄く開いてしまう。そして隙を見せた瞬間に男は再び乳頭を責め、少女から媚声を引き出していった。
「はぁっ……はぅ、んぐッ……うぅ、んんッ……!」
「へへ、感じやすいようだな。まだ五分も経ってねえぞ? お前、胸が敏感だから布きれ巻いてるんだろ。下着に擦れるだけで感じちゃうんじゃねえのか? ええ?」
「だ、まれッ……下着で感じるわけがなひぅううッ!」
「はははッ、学習しろよな。乳首抓まれて馬鹿みたいな声漏らしやがって!」
 屈辱の感情が炎となって燃えあがるも、男を睥睨することは叶わない。しこった部分を執拗に愛撫され続け、どうしても女の身体は生理的な反応を示し始めていた。
「はっ、はうっ……ぁんッ……あっ、やッ……今のは、違……ぅうんッ!」
「何が違うって? 勃起乳首弄られて感じまくってるんだろ? もうバレバレなんだよ。お前は無理矢理胸を揉まれて悦ぶ淫乱なんだ。乳首をシコシコされるの、最高だろ?」
「だ、誰がぁッ……げ、下衆に胸を揉まれて悦ぶ女など、この世にはいなひッ、ぁん!」
 赤く染まった先端部を指で弾かれ視界が軽い明滅を起こす。呼気が甘く弾むのを抑え込めない。身体は火照りを増して、粒状の汗が谷間を流れ落ちていた。
(なん、で……わ、私の身体は……こいつの手で感じてるのか……?)
 自分自身理解が追い付かない。こんなにも一方的に、こんなにも呆気なく、胸を好き勝手に嬲られて快感を覚えるなどあり得ない。
 だが事実として胸は張り詰め、先端はピンと尖っているのだ。そしてしこった部分を男に揉みしだかれるたび、汗を浮かせた身体を悶えさせてしまう。
「く、くそッ……おい、やめろッ! それ以上触るなぁっ……ああっ、んぐッ……」
「どうして触って欲しくないんだ? 下衆野郎に触られたところで何も感じないんだろ?」
「と、当然だ! お前なんかにぃっ、んぅッ、ひぁッ!」
 必死に堪えようとするのだが、鋭敏になった乳頭を捏ねられると鋭い性悦が奔り、喉奥から勝手に嬌声が漏れてしまう。これが痛苦であれば朱美は表情を変えることもなかっただろう。だが権藤の手から与えられる全てはあまりに甘美で、腰がゆるゆると円を描きそうにもなる。
「強がっても無駄だぞ麻比奈。ここにいる俺たち全員が証人だ。確認してもらうか?」
 権藤が裾野を握り、先端を膨らませた状態で男たちに胸を差し出す。釣鐘の形に無理矢理変えられた双丘を、熱情的な視線が舐め回した。
「発情した牝の匂いがプンプンしやがるなあ。サラシで蒸れてた分濃厚な香りがするぜ」
「にしても勃起させ過ぎだろ。こんなに乳首硬くして、よく否定できるもんだ」
「そうそう。乳首勃起させて、よく人を罵れるよなあ」
 男たちはぐっと顔を近づけ、朱美の胸を凝視した。男の五指による愛撫を受け、下卑た視線を注がれ、少女の鼓動は否応なく加速していく。空気に触れるだけでもじんじんと痺れているのに、そこに男の肉欲が集中すれば、まるで性感帯が火で炙られているようだった。
「この、下衆どもが……絶対に、天罰が下るからな……」
「はは、そりゃ怖いねえ。なら天罰が下るまで、目一杯今を楽しまなくちゃな。おい美晴。鋏を寄越せ。朱美お嬢様に、牝犬に相応しい衣装を仕立ててやろうじゃないか」
「い、犬に相応しい衣装って、まさか……い、嫌だ、やめろッ!」
「じゃあ俺たちの牝犬として飼われるか? 二度と俺たちに逆らわず、命令に従い続ける犬になるって言うなら、今ここでやめてやっても良いぜ?」
 鋏の背でスカートの表面を撫でながら、権藤が挑発的な表情を浮かべる。朱美がどういう言葉を返すのか知りつつも尋ねているのだ。少女は唇を閉じ、権藤を睨みつける。権藤は「交渉決裂だな」と愉快気に言って、夏用の薄いスカートに鋏を差し込む。
(耐えろ……耐えろ……やつらの要求は全て跳ね除けて、終わるまで耐え忍ぶんだ……)
 チョキチョキと裁断する音が響き、スカートが切り刻まれていく。青褪めた少女の脚から、無情にもするりと布が剥がれ落ちていった。
「おぉおおおっ!」
 露わになった簡素な白の下着に、男たちが一斉に歓声をあげた。純潔を守る最後の砦はあまりにも心許なく、湿気と淫欲で粘ついた空気が、無駄な脂肪のついていない太腿に纏わりついていた。
「へへ、良い脚してるじゃねえか。太腿にち×ぽ挟んで扱いてもらいたいぜ」
「それより、おい。あの可愛いパンティ見てみろよ。意外と乙女だねえ」
「ああ、それに……ひひっ、麻比奈のやつ……こんな状況でパンツ濡らしてやがる」
 朱美はギクリと肩を強張らせ、太腿を内側に寄せる。だが可動域の与えられていない状況では何もできやしなかった。下着に浮いた船底の染みに頬がかあっと紅潮する。
(どう、して……なんで……私の身体……)
 無様な磔姿を晒した挙句、権藤の愛撫によって胸を硬くし、股を湿らせた――その非情な現実に、朱美は朱唇を震わせる。
「ひひひッ、乳首勃起させるだけじゃ飽き足らず、ま×汁まで垂れ流すとはなあ」
「ああ、麻比奈朱美、お前やっぱり牝犬の才能あるぜ。こりゃ、どマゾの変態確定だわ」
 嘲笑が響いても何も言い返せない。ショーツの湿り気が、じゅくじゅくと朱美の心まで萎えさせるようだった。これは生理現象であり、仕方のないことだ――そう割り切れるほど、女の心は単純なものでもない。
「おいお前ら、胸とパンツばっか注目してるんじゃねえぞ。後ろも見ろよ」
「ああ。半端じゃねえデカケツしてやがる。こりゃ、バック大好きなスケベの証拠だ」
「これだけ立派な安産型なら、何人でも産めるんじゃねえか?」
「サッカーチームが二つ作れるくらい孕ませてやろうぜ。ひひッ……」
「孕っ……貴様らぁッ……!」
「はいはい。デカイ胸とデカイ尻丸出して言っても、何も怖くねぇっての!」
「ひぁあああッ!」
 権藤が背後から下着に手を掛け、左右にぐりぐりと動かす。肉の割れ目にショーツが深く食い込み、尻臀がたぷたぷと弾む。絞られた薄布が肉裂を刺激し、媚肉に刺激が奔る。
「んぅうっ、んぐッ……やめ、やめろ! 引っ張るなッ、やめっ、あぁっ、んんッ!」
 懸命に訴えかける朱美を嘲るように、権藤が尻をペチペチと叩いてくる。引き締まってはいても、やはり肉の塊であるのに変わりはなく、たぷたぷと尻の表面が波打った。
(惨めだ……こんな馬鹿どもの嬲りものになって、玩具にされて……だが、私は……)
 思わず涙を零しそうになるも、朱美は己を懸命に奮い立たせる。裸を見られようが触られようが、知ったことではない。この命続く限り好機はある。祖父の厳しい指導を受けていた頃の方がよほど強い辛苦を味わったものだ。
「ま×このお披露目会をする前に、もう一度だけ聞いてやるよ、麻比奈。俺たちの従順な牝犬になって奉仕し続けると誓うなら、お前の扱い方も考えてやる。どうだ?」
「どのみち、犯す気だろうが……私の返事は変わらん……さっさと犯すがいい……」
 気丈に振舞うも、声は上擦り、震えていた。
「ははッ、大した女だよ。ならお望み通り、俺たち全員でしっかりと犯し尽くしてやる」
 寧ろ朱美の反応を悦ぶように言って、権藤は鋏をショーツと肌の隙間に差し入れる。そしてチョキリと無情な音が響いて――朱美を守る最後の砦は今、破られたのだった。