第2回

 

 結論を言えば男たち──広澤と永渕の言葉は事実のようであった。
 監視カメラの動画には紘太がリュックにDVDを入れる様子が映っている。服装も所持品も、ついさっき見た紘太の姿と全く一緒だ。
「で……でも、こういうものって今時簡単に……その、作れるんでしょう? うちの息子が悪事に手を染めるなんて、考えられません……」
 顔を蒼白にした人妻の言葉に広澤は大仰な動作で溜息を吐く。肥えた身体が膨らみ、息遣いに合わせて萎んで、不潔な汗臭がむわっと居間に融けた。
「あのね奥さん。別に俺らはいいんですよ? 警察に相談して、学校に連絡して、それからあなたに知らせても良かったんです」
「なんでそうしなかったか判るか? 同級生として、俺たちは息子さんのためにやってるんだよ。直接ここに来たのは優しさなんだぜ?」
「それともまだ信用できませんか? 証拠が足りないなら、紘太くんの部屋に行きましょうよ。盗んだDVD、きっとすぐに出てきますよ」
「え、あっ……そ、それはだめ……待って! だめです……」
 腰を浮かせようとする少年たちへ縋るように言う。改めて動画に視線を遣り、何度も瞬きして確認する。だが非行の現実は変わってくれなかった。
(紘太くん……どうしてこんなことを。もしかして……私の所為なの?)
 家庭環境が変わったストレスだろうか。であれば母である自分の責任は大きい。彼と一番時間を共に過ごしているのは紫帆なのだから。
「ちなみに、紘太くんが盗んだエロビデオと同じものがこれです」
「きゃッ……そ、そんなもの見せないでください!」
 食卓に置かれたアダルトビデオのパッケージに、貞淑な人妻は顔を真っ赤にして目を背ける。裸の女性が一瞬視界に映っただけでも心臓が脈を速めた。
「そんなものとは酷いなあ。大事な商品なんですけど。それに……ふふ、これは熟女モノでしてね。義理の母親とセックスをするっていう話なんです。どこかの親子と同じような設定ですね」
「あ……」
「まあでも、実際家に来て判りましたよ。紘太くんにも同情します。こんなエロい母親が家にいたんじゃ、むらむらするのも当たり前だ」
 少年は粘り気のある笑みを浮かべ、下品な感情の籠った視線を人妻に這わせる。上着を羽織りなおしたが、肉房の狭間にある魅惑の深淵は隠しきれてはいない。男らの情欲が腰の曲線を撫でるのを感じて、反射的に菊座がキュッと窄まった。息苦しくて、今すぐ叫び声をあげて逃げだしたくなる。
「お……お願いします。お金なら払いますから……どうか、許して」
「お金なんていりませんよ。大した金額じゃない。俺たちが欲しいのはなんだと思います──なんて、二児の母親に尋ねるのも野暮かな?」
 明らかに淫猥な気配を孕んだ言葉に、心臓が痛いくらいにドキッと跳ねる。汗だくの掌を執拗にズボンへ擦りつけて、渇いた喉を何度も上下させる。室内は充分に冷えているのに、汗が滝のように流れ続けてキャミソールを湿らせた。
「奥さん、大丈夫ですか? 体調が悪そうだ。介抱してあげましょうか?」
「だ……大丈夫です。でもその、少し熱中症かもしれないので、今日は……」
「ふふ、別に俺たちは帰っても構いませんよ。その代わり、夏休みの間に紘太くんの悪評が広まる可能性はありますけどね。ああ、もちろん警察にも連絡します。クラスでも話題になるでしょうねぇ」
「そんな、困りますッ……」
「だったら誠意を見せなよ。それとも直接言わないと理解できないのか?」
「牝奴隷になるんですよ。ち×ぽをしゃぶって扱いてケツ振って──俺たち二人に服従して生きるハメ穴になるんです。それが今回の件を揉み消す条件です」
 下品な言葉の羅列に紫帆は目を見開く。何か言葉を返そうと口を開くも、艶やかなリップはパクパクと何もない空気を噛むばかりで、引き攣る喉から声は出なかった。
「わ、私は四十を過ぎているのよ……? こんなおばさん抱いても、た、楽しくないわ。あなたたち若い子には、お金の方が」
「楽しいですよ。現に息子さんが盗んだDVDの女優だって四十歳を過ぎた熟女だ。ああ、もう余計な話し合いとか、したくないんで。早く決めてもらっていいですか? 奴隷になるか息子さんの将来を壊すか、どっちが良いんです」
 あまりに卑怯な言葉だ。到底、聞き入れることなどできない。無理だ。紫帆はふるふると首を横に振った。
「それは残念。なら早速、息子さんと一緒に警察へ行きましょう。可哀想に。いじめに遭うかもしれませんね。まあ、当然の報いですが」
「そんなッ……お、お願いだから勘弁してください! 私たち家族はこれからなんです……なんとか他の方法で……」
「だったらあんたが家庭を守れば良いじゃないか。譲歩してやるよ。期間は夏休みの間だけ。セックスの際、避妊は必ず行う。家庭を壊すような無茶なプレイは避ける。節度を守ってやる」
「家族のために腹を括ってはどうです。その我儘な身体を捧げるんですよ」
 卑猥な牡欲を隠そうともせず、少年らは品性のない視線を注いでくる。交渉の余地はないらしい。かといって紫帆は人妻だ。簡単に身体は捧げられない。
(でも……私は人妻であると同時に母親なのよ……息子を守らないと……)
 妙案は浮かばない。悪いのは紘太であり、息子が罪を償うことが正しい。脅迫に屈してはいけないし、これは間違った行いだ。
(でも、夏休み中なら夫も帰ってこない……その間私が犠牲になれば)
 思考がぐるぐると頭の中を巡る。熱を帯びた脳はエラーを吐いて、熟母から判断力を奪う。やるしかない。その最悪の結論が導かれてしまう。
「……先ほど言ったことを、守ってください。絶対に避妊をして、節度を守って……それから息子にはこのことを言わないで……約束、してください」
「ええ、もちろんですよ。では、契約を結ぶということで良いですか?」
「了承の証に今ここで脱ぎな。俺たちに全てを晒せ。できるよな?」
「い、今ここで、ですか? そんな、せめて場所を……」
 男たちは答えない。二回り以上年下の少年らから受ける無言の圧力に、紫帆は宛もなく視線を彷徨わせる。もう、だめだ。やるしかない。覚悟を決めた女は椅子から立ちあがり、震える指先でサマーカーディガンを脱ぎ始めた。

(第3回、4月17日配信予定)