第二章  家庭教師のご褒美

 

 

「こんにちは、お待ちしてましたのよ」

 一週間ぶりに見る綾子は、あのことも水に流したのかいつもと変わらぬ笑顔でドアを開けた。

「失礼します」

 綾子の顔を正視できぬまま逃げるように広樹の部屋へ行こうとする幅広の背に、綾子は少し話があると小声で耳打ちしてきた。

 徹は身を強張らせて振り向くと後について廊下を歩いた。十帖ほどのリビングにはガラスのテーブルとL字型のワインレッドの革張りのソファセットがあった。

「おかけになって」

 ソファを促され黙って端に座った。

「あの……なにか」

「今日はあの子が月に一回のクラブ活動なので少し遅れます。そのことを事前に言わなくてごめんなさい、あの、これもちょうどいい機会かと思って……」

 言いにくそうに口ごもる唇をじっと見つめて言葉を待った。

「この前のこと、お母様にはお話ししませんから。安心してください。お互いのためにそのほうがいいでしょう? 私のほうも……先生としてはとてもよく教えていただいて成績があがってきていますから」

「そうですか、よかったです」

「ですから、このままつづけていただこうと思ってはいます」

 徹は思わぬ優しい結果に頰を緩めた。

「ただ……」

「ただ?」

 美しい眉間に寄る皺の理由を聞きだそうと身を乗りだす。 

「ただ、わからないの……あなたがなぜあんなことをしたのか。私みたいなおばさんなんかより、綺麗で若い女の子が学校にはたくさんいるでしょうに? からかっていたの?」

「からかうなんて……僕、綾子さんみたいな優しそうで上品で素敵な女性を知りません!」

「私はもうおばさんよ、どこにも魅力なんてないじゃない」

「僕には、すごく魅力的です! ダイエットで痩せたぎすぎすした女子大生なんかよりずっと……胸だってふっくらして、お尻もあんなに張りがあってすごく……」

 具体的な身体のことを口走って思わず口ごもった。

「ああ、よして! なに言ってるの? おかしいわ……変よ」

 白いニットの下の胸が呼吸に合わせて大きく上下する。

「いつもその胸やお尻に押しつぶされてみたいって思ってました! 初めてするならこの人だって思って心に決めてたんです……」

 よほど刺激的だったのであろう、綾子は言葉が発されるたびに全身をぴくっと震わせて聞いていた。

(どうしよう、そんなことまで思ってたなんて……ああ、このままじゃだめ)

 若い男が自分をそんな目で見ていたことに驚きを隠せない。あの穿きかけのパンティの汚れた股布を嗅がれたと想像するだけで、恥ずかしさで縮みあがる思いがした。

「信じられないわ……そんなことって」

「本当です! ただのいやらしい気持ちじゃなく、本当に好きなんです、ほら、綾子さんを思うともうこんなに!……」

 徹の手が白い手を摑んで股間に押しつけた。

「きゃっ!」

「ほら、もうこんなになってる! たまらないんです、僕、綾子さんのこと毎晩考えて眠れないくらい好きなんです! 好きだから勃つんです、もうたまらないんです!」

「ああ、離して」

 ジーパンの硬い布越しに屹立する確かな膨らみとぬくもりが伝わる。綾子は熱いものにでも触れたように弾けて手を引っこめようとした。

「よして、だめよ……そんなっ……」

 こんなところでもめているところに息子が帰ってきたら、と思うと焦りと驚きで頭がまわらない。

「お願いです、ふたりになる時間をくださいっ!」

「なに言ってるの、もうあんなことしないって約束したでしょ、変なこと考えないで」

 最後のほうの言葉は消え入るように力なく、次第に腕の力も抜けていく。こんなにもひたむきに好きだと言われると、たとえ下着を盗まれたとて憎む気になれない。ジーパン越しに情熱が伝わってくる。

「僕、僕……まだなんです」

「え?」

「お、女の人としたことないんです」

 恥ずかしい告白に、ふたりともその姿勢のまま凍りついていた。哀れみとも憤りともつかぬ瞳が徹を見つめる。それはやがて慈愛に満ちた母のそれと色を変えていく。

(まあ、そんなこと……童貞だったの? 本当に? 恥ずかしかったでしょうに、よく言えたわね)

 うぶな息子を見守る母の気持ちになった綾子は、次第に力を抜いていった。

 白い手を握るごつい指先に力がこもる。逃がすまいと懸命に押さえこむ男の力に、細い手首は折れそうだった。

「…………」

「お願いです! 綾子さん!」

 徹が必死になって手を股間に押しつけようとする。手のひらのなかで肉棒が生々しくぐにゅりと蠢き、腰を振るたび巨大な芋虫のように這いまわる。

「待って、ねえ、待って……だめよ、そんな」

「僕、綾子さん以外の女性じゃだめなんです! 初めての人は綾子さんに決めてるんです」

「だめよ、無理を言わないで? そんなこと……」

 必死の形相がにじり寄り、ソファに馬乗りになってのけ反る綾子を押し倒さんばかりに勢いづいている。

(もうだめ……こんなに欲しがっているんだもの、仕方ないんだわ)

 心のなかで言いわけを繰りかえす。徹のため、広樹のため、そう言い聞かせるしかない。

「ああん、む、無理よ、お願いだからやめて」

 口では言いながらも、力を抜いた身体がイエスと言っている。

「もう、僕、我慢できないんですっ……ああっ」

 目を固く閉じ歯を食いしばった徹は自らジッパーをおろし、折り重なった下着のなかから指を突っこんで赤黒い肉棒をほじくりだした。

 飛びでたモノは痛いほど硬く、バナナよりも太長い赤銅色のブーメランだった。

「はああんっ!」

 吐息のような叫びとともに頰を染めた顔が横を向く。思いもしない展開に恥ずかしさが先立ち、力を抜いていた身体は再び強張った。

 幹を手に肩を押し倒そうとする徹のほうを向き直り、綾子は蒼白な顔のままゆっくりと瞼を開けて目の前のノの字を見つめた。

(もう、受け入れるしかないのね……こんなになっちゃってるんですもの)

 太茎は見境なくごぼごぼと血管を浮きたたせ、カリは飛び立とうとするカブトムシの羽のごとく大きく開いている。天を向く鈴口が痛々しいほどに張って熱を帯びたように赤銅色に光り、割れ目には溢れでた透明の先汁がぷつんと真珠のように宿っている。

「お汁が……ついてるわ」

 徹は必死の形相で、刀のような赤銅の棒を綾子に向けてじりじりと突きつけ迫ってくる。

 若い剛直に綾子は言葉を継げなかった。自分を思うあまりこんなにも硬く雄々しくなってしまったと思うと、恐怖とともに哀れみの入り混じった感情がこみあげ、思わずそれを挿しこまれた自分を想像した。

(だめ、挿れるのだけは、だめよ)

 もはや抵抗はできない。これ以上引き延ばしても息子が帰ってきてしまい、下手をすれば犯されている現場を見られてしまう……ここは一刻も早く若い茎をなだめるしかない……自分自身に言いわけをしながらも淫らな想像に顔を赤らめ言葉を選んだ。

「ああ、いけないのに、いけないことよ……でも……仕方ないわ、そんなに言うなら特別にお手手でしてあげるから、それで許して?」

「え……手で?」

「それで勘弁して? 気持ちよくしてあげるから」

「手で、なの? もっとちゃんとしたいんだ」

「今は無理なの、あの子が帰ってきたらどうするの? わかるでしょう?」

 いさめられた徹は、借りてきた猫のように大人しくなる。

「……はい」

 唾を呑みこむ音とともに喉仏が上下した。

 綾子は観念して、外から見えないようきっちりとカーテンを閉めた。ドアを開けて帰ってきた息子からすぐには見えないように、部屋の端のほうへ導いた。そしてようやく背中から寄り添うと左手を徹の腰に巻きつけ、右手に竿を握りしめた。

(ああ、これが、男の子のオチン×ン)

 顔が見えるのが恥ずかしいので、背後から太い首に額を預けて上体をつける。豊かな胸の突端が徹の広い背中に当たる。額から唇、胸、そして腰から太腿までが密着する体位で、静かに右手だけを動かしはじめた。

「すごいよ、綾子さん、こんなこと」

 親指の先でぬるりとした先汁を円を描くように、くるくると鈴口のまわりにひろげていく。足りなくなると鈴口を親指と人差し指できつく搾り、なかから溢れだす先汁を掬い取っては竿に塗りつけていく。

「どう? こんなのが欲しかったの?」

 ねちゃりとした透明の汁はよく伸びて、すっかり滑りがよくなると、綾子は残りの三本指を添えて手でOの字を作ると、そのなかに竿を泳がすようにしごきはじめた。

 手のひら全体でぬめりをひろげながら熱い棒を先端から根元まで擦りたてる。なかの硬い棒だけはしっかりと不動のまま、まわりの感じやすい薄包皮は蛇腹を寄せたり伸ばしたりして手のなかに震えている。

「うっ……うあっ!……」

「しっ! 声にしちゃだめ!」

 汗臭い若い男の首筋に顔を埋めながら綾子が叱責する。こんなところを息子に見られでもしたら……焦りが興奮を高める。

 思春期も近いのに母の浅ましい姿を目の当たりにしたらショックだろう、それに主人に言いつけるかもしれない……主人にさえこんな卑しい手淫を施したことはなかった、なのにそれを今隣家の大学生に奉仕する自分の堕ちように、言い得ぬ罪悪感と恍惚が同時に押し寄せる。

 若い男特有のむせるような脂と酸っぱい匂いを嗅ぎ、眠っていた綾子の下半身も厚ぼったく熟れてくる。

(手でするなんて、男の子をリードするなんて、なんてふしだらなの? 私)

 身体を密着させ熱い太い棒を摑む綾子は、いけないことをしている罪の意識に秘部をじんじん痺れさせ、手コキをしながらも、つい自ら腰をまわして押しつけてしまっていた。

 徹に気取られぬよう注意して静かに円を描いているのだが、盛りあがる恥骨が徹の尻に擦れてしまう。硬い丘は腰が前後に揺れるにつれ触れたり離れたりを繰りかえし、そのたびに全身に恥ずかしさが走る。

「あ……ふうん……」

 恥丘が触れるたび、圧迫されて遠い快感が這いのぼってくる。まだまだ弱い刺激だが、何度も押しつけるうちに女陰の谷間に折りたたまれた肉襞に潤みがじわりと浸透して、くちゅくちゅと泳ぎはじめる。ぬるりとした感触が秘部を満たし、徹の尻に触れるたびクリトリスのあたりまで遠い気持ちよさが伝わり、感じてきてしまう。

「はあっ……」

 背中に触れる胸も動くたびに押しつぶされ、乳首のあたりがどことなく気持ちよくなっている。こりこりとした芯が背中に押されて、痛いようなくすぐったいような気持ちになる。ただ身体をくっつけているだけでも、足先から首筋まで電気が走るように感じてしまう。

 禁忌を犯しているというのに、身体はなぜか熱く血が逆流するような感覚に陥る。

(いけないわ……全身に力が入らなくなっちゃう)

 うっとりしながらも手だけは休めることなく何度も往復して擦りつづける。五本指をしっかり開き、マッサージするように亀頭から裏筋あたりを撫でまわすと、先汁は手のなかに白い泡を吹いて糊のように貼りついてくる。

(ああん、こんなにくちゅくちゅいって……お汁なんか垂らしちゃって)

 徹が痛いのか顔をしかめた。綾子は滑りをよくしようと手に唾をつけて再び擦りはじめる。五本指をひろげ、亀頭の先をつるりと撫でては根元までしごきたてる。カリの張りに引っかかりながら優しく往復させる。

 左手を尻の割れ目から前へ忍ばせ、股座にぶらさがる睾丸を転がすように弄ぶ。綾子の指は器用にペニスのまわりを白蛇のように這いまわるので、女性経験のない徹には充分すぎる刺激だった。

「ああ、こんなこと、イキそうだよぉ……だめだよぉ」

 徹の泣き言を無視して細い指が泳ぐように玉袋を揉む。射精しそうになるたびなかの玉がきゅっと持ちあがる。右手はリズミカルに鈴口から付け根へ往復している。

 特に亀頭の裏筋を通る時は念入りに指をあてがい、そこだけちょろちょろと小刻みにくすぐる。薄皮がずれて動くたびに嗚咽がもれる。同時に玉袋から肛門にかけての蟻の門渡りを爪先でカリカリと引っ搔かれ、徹はへなへなと腰を前後に揺らしながら膝の力が抜けるのに堪えていた。

「くうううっ! 綾子さんっ!」

 空気が抜けるようなかすれた声でその名を呼びながら、つかまるところが欲しくて徹は両手を宙に泳がせた。

 AVでよく見るようにフェラチオをさせて綾子の頭を抱えこみたかったが、背後から責められてはそれもできない。仕方なく隆起の上を激しく行き来する白い手に自分の手を重ねて、調子を合わせてしごきたてた。

「して、して! もっとしごいて綾子さんっ!」

 左手は後ろに伸ばして綾子の尻をスカートの上から摑んでいる。むっちりとした肉感がスカート越しに伝わり、徹は欲情して指を食いこませた。布に指の跡がついてしまいそうなほど強く摑み引き寄せる。

 背中に押しつぶされた丸い胸がふたつ弾んでいる。

「あっ、あっ、綾子さんっ!」

「聞こえちゃうわ! 声は我慢して?」

「ふううっ!……ううう、ううう」

「なあに、イキたいの? 出そうなの? もうイッちゃうの?」

 母のような優しい問いかけに、竿がぐるんとうねる。いつの間にか綾子も興奮したように上ずった湿っぽい声を出している。人妻のねっとりとした声や愛撫に、もはや限界は近かった。

「あっ、あっ、ああ……くうう!」

 綾子の右手が絶頂へ導こうと一段と速さを増してしきりにしごきたてる。ぐちゅぐちゅと音さえ聞こえそうなほど赤い包皮がめくれては被りを繰りかえす。白い指が淫らに蠢き赤黒く腫れた棒を軸からもぎ取らんばかりに擦る。

 左手は人差し指と中指をひろげて股下の陰毛の生え際と玉袋の際をなぞりながら、親指との三点で睾丸を持ちあげるようにしていじる。

 しっかりと根元まで手指がぶつかってはホース口まで戻り、また根元へぶつかる。全身が揺れるほどの素早い手の動きに肉樹はいっそう膨張し、カリが開いて痛々しいまでに充血している。皺ひとつなく艶やかに張りきって、もはや発射されるのを待つのみだ。

「あ、もう、もう!……」

「出そう? イキたい?」

 背後から耳もとに滑らかな唇が触れて甘く囁く。綾子の声もかすれて裏返っている。言うと同時に手をさらに早めて棒を揺すぶるので全身ががくがくと揺れ、声を出せない徹は苦悶に顔を歪めながらうなずいた。揺れているのか返事なのかわからない。

「出るのね? 出ちゃうのね?」

 綾子はあわてて近くにあったティッシュのボックスに左手を伸ばした。一枚、二枚とまとめて紙を引っ張っている間にも右手は絶えず擦りつづける。

 手のなかで竿が最高潮に膨れ、徹は宙に向かって腰を激しく振った。もはや綾子の手であることも忘れ欲望のたけを搾りだそうと、手指で作ったO字の穴のなかに深く淫棒を抜き差しする。

「あ、でっ、出るっ、出るっ、出るっ、うううううっ!……」

 声をふさごうと綾子が首を伸ばして唇を重ねた。

 

 

 

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