鬼ノ贄

著者: 夢野乱月

本販売日:2024/12/23

電子版配信日:2025/01/10

本定価:1,485円(税込)

電子版定価:1,540円(税込)

ISBN:978-4-8296-4774-5

物語の舞台は日本屈指の歓楽街がある南乃宮市。
裏社会を牛耳るヤクザ南清会で跡目争いが勃発!
「女帝」と呼ばれる亡き会長の未亡人・貴和子により、
劣勢に立たされた一派は、次期市長候補の妻・真帆を
影の首魁・大河原に差し出し、形勢の逆転をはかるが……
巨匠・夢野乱月が描く、性愛と暴虐のカタルシス!

目次

プロローグ

第一章 供物 未亡人真帆

 1 奸計

 2 影の首魁

 3 鬼屋敷

 4 恥辱のショー

 5 鬼の褥

 6 愉悦の果て

第二章 戦利品 人妻彩花

 1 粛清

 2 囚われの美人妻

 3 野獣の洗礼

 4 隷奴の刻印

 5 美臀の宿命

第三章 生贄 女帝貴和子

 1 監禁部屋

 2 闇の襲名式

 3 淫靡なる責め

 4 上海ルーレット

 5 汚辱のフィナーレ

エピローグ

本編の一部を立読み

プロローグ

 玄界灘をのぞむ都市、南乃宮市。海を介して大陸と向き合うこの地は明治以降南日本一の交易、観光、商業都市として栄えてきた。
 もともとは神乃川という大河であった流れがふたつに分かれ、市の中央を上神乃川と下神乃川として南北に縦断し、そのふたつの川に挟まれた広大な中洲は神中島と呼ばれ、高級飲食街から風俗、ラブホテル街までを備えるわが国でも屈指の大歓楽地帯となっている。
 その中洲の西端、天神橋のたもとにそびえたつ高層ホテルの三十階に、豪奢なエグゼクティヴスイートがあった。きらびやかなネオンで彩られた歓楽街から市の中心街までが幻想的に広がるワイドスクリーンのような窓の前に、全裸に剥かれたふたりの美しい女が立たされていた。
 ふたりともどす黒い麻縄で後手に縛られ、乳房を根から絞りだす胸縄を打たれ、大きく左右に割り裂かれた二肢は閉じ合わせることができないように一メートルほどの金属バーの両端に両足首の革枷を繋ぎ留められている。
 口には樹脂製の赤い球体を咥えこまされ、吐きだすことができないように球体に付けられた革ベルトで頬に食い込むほどきつく締めあげられていた。ボールギャグと呼ばれる箝口具である。
「……んんんっ……」
 女として最も隠しておきたい乳房と秘所を露わにさらした恥辱の拘束に、ふたりの女は声にならないせつなげな呻きを洩らして裸身を揺するが、天井に渡された照明用のポールキャットから垂れさがる鎖に後手に縛った縄が繋がれているために屈みこむこともできない。
「黒宮、生贄がふたりとは豪勢だな」
 女たちの正面に置かれた黒革張りのソファに座る異様な風体の男が野太い声で言った。
 男が身につけているものは腰に締めこんだ褌一枚だけだった。筋肉質のがっしりとした体躯をおどろおどろしい極彩色の刺青がビッシリと覆っている。獰猛な光を帯びた眼、いかつい鼻に分厚い唇、左の頬には肉が引き攣ったような一〇センチほどの刀傷が刻み込まれている。凶悪さを絵に描いたようなその男は藤堂龍造、神中島一帯を縄張りとして仕切る暴力団南清会の二代目会長だった。
 旧姓は権藤、南清会の狂犬と呼ばれ、武闘派として恐れられた極道である。
 三年前、先代会長が膵臓癌で急死、若頭であった龍造が藤堂家に婿入りする形で、ふたまわり近くも若い先代の一人娘である貴和子と結婚して跡目を継ぎ、南清会の二代目会長となった。
「今週は甲乙つけがたい上玉がふたり入荷したものですから、たまには会長にみずから検分して女を選ぶ楽しみを味わっていただこうと思いまして、こういう趣向にしてみました」
 女たちの傍らに立った男が感情を殺した抑揚のない声で言った。
 スタンドカラーの黒いシャツにタイトなダークスーツを隙なく着こなした男だった。細面の端正な顔立ちをしていたが、猛禽類のような眼が冷たく光り、全身から研ぎすまされた刃物のようなオーラが放たれている。
 黒宮顕治──若頭を務める南清会のナンバー2、黒宮組の組長である。会長の龍造とは違い、ゴリゴリの武闘派ではなく、むしろ狡知をめぐらせることを得意とする策士であり、土地転がし、マネーロンダリング、闇金をシノギとしている。
 借金の返済ができなくなった女や借金のカタとして入手した女はソープやデリヘルの闇に落とすのが常道だったが、めぼしい女がいるとこうして、無類の女好きであり嗜虐者である龍造に贄として差しだす──それが黒宮の「仕事」のひとつでもあった。
「こっちの女は須藤あさみ、十九歳、南城大の学生です」
 手前の女を眼で示して黒宮が言った。
 あさみはショートカットのつぶらな瞳が印象的な少女の面影を残した可憐な顔だちの娘だった。椀を伏せたような小ぶりな乳房は見るからにまだ硬さを残して青い果実を思わせ、腰まわりも華奢だった。女の丘を飾る毛叢もうっすらと淡くはかなげで、その奥にたたずむピタリと封印された一条の女肉の合わせ目がくっきりと見てとれた。
「女子大生には見えんな。もっと若く見える。ふふふ、男を知らぬ生娘のようなウブな身体つきをしている」
 ギラギラと淫猥に光る眼であさみの裸身を舐めるように見た龍造が頬の刀傷を不気味にゆがめて嗤った。
「残念ながら処女ではありません」
 感情を殺した声で黒宮が慇懃に答えた。
 処女であったとするなら小娘好きの金満エロジジイを集めて競りにかければ、これだけ可憐な容姿の上玉である、ひと晩で百万単位の金になる──たとえ相手が会長であってもタダで差しだしたりはしない。
 もちろん黒宮はそんな本心をオクビにもださない。
「男はひとり知っています。入学早々先輩の学生に釣りあげられて、四か月ほど前に女にされたようです。その相手の男というのが麻雀好きで、しかも自分の力をプロ雀士並みと過信している絵に描いたようなマヌケで、うちの組の網にまんまと引っかかって、負け博奕のカタに召しあげたというわけです」
「……んんんっ……」
 我が身に突然降りかかった災厄がいまだに信じられないのだろう、あさみは涙で潤んだ瞳をしばたかせて、せつなげに首を振った。
「ふふふ、なかなかそそられるぜ」
 ニタアッと嗜虐の嗤いを浮かべた龍造がもうひとりの女に眼を向けた。
 おどろおどろしい刺青をいれた極道の首魁にねめつけられても、その女はあさみのような怯えをみせることはなかった。
「……んんっ、んんんっ……」
 切れ長の瞳で憤りも露わに龍造の眼をにらみ返すと、ボールギャグで塞がれた喉の奥から声にならない呻きをあげた。
「こっちの女はどんな素性だ? ふふふ、ずいぶん気が強そうだが」
 龍造が面白がるように嗤って訊いた。
「翡翠を知っていますか?」
 黒宮が質問で返した。翡翠は神中島で一、二を争う高級クラブだった。
「もちろん、知っている。残念ながら行ったことはないがな」
 微かに苦い嗤いを浮かべて龍造が答えた。
「戸川紗也香、三十一歳──、この女は翡翠の売れっ子ホステスでした。YMN商事の常務に惚れこまれて一年前に店をやめ、マンションを買い与えられて愛人として囲われました。ところが、この常務も根っからのギャンブル好きというお決まりのオチがつきます。うちの闇カジノでバカラにトチ狂って、借金の山を作り、Sクラスのベンツを手放し、愛人もマンションの権利書ごと差しださざるを得なくなったというわけです」
 あさみに紗也香──会長への贄として引きたてられたふたりの女はともに借金のカタとして入荷した女だったが、これは決してめずらしいことではない。
 もちろん商品価値の高い美しい女に狙いをつけて男を罠にはめ、奪い取るのが常道ではあったが、みずからの愚かさの結果として借金で身動きが取れなくなった女より、恋人やパトロン、家族の借金に巻き込まれ、生贄となる女に上玉が多いのは当然の流れでもあった。

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