小説家・評論家、そして競馬の予想に一喜一憂する男、高橋源一郎。特異な場所で特異な人物から性を学び、アダルトビデオ監督を務めた経験をもつ彼。そのク-ルな眼鏡に隠された眼球は全ての本質を見抜き、口唇はユ-モアたっぷりに自説を語る。よりハ-ドに喚起され続ける性の果てにあるものとは…。
以前、井崎(脩五郎)さんと「美母と少年 相姦教育(牧村僚著)」の何がすごいかについて話したことがあります。あの本の何がすごいかというと、近親相姦するのが最後から2ペ-ジ前。最初からそれまでは全て伏線で、そこまでじらされる。
「私はお母さんよ」という近所の奥さんなどがどんどん登場するんだけど、その奥さんには子供がいて、少年を実の子供と思ってヤってる。まさにダブルイメ-ジ。お互いがお互いをイメ-ジし、練習台にしている。ある意味、成長していく教養小説です。でもみんなで乱交とかはしない。乱交だとふざけた感じが出てしまうので、あくまで1対1のシリアスに徹し、正しい性関係を保っている。3P、4Pとか数を増やしてハ-ドにしていくのはよくあるけど単に刺激の強度が高くなるだけだから、あれは無理が生じてくるんですよ。牧村さんの小説はちゃんと1対1というオ-ソドックスな形で終わる。そこまでどうやって高めていくのかが素晴らしい。井崎さんもこれがこの年のNo.1と言ってましたね。この一作で僕も牧村僚にはまったんですよ。あれを超えるものはなかなかないですね。
僕の好きか嫌いかの基準は、シチュエ-ションというよりは文章の傾向によります。フェティシュでしつこい方がいい。牧村(僚)さんや新見(彰)さんも文章がねちっこく、ある種のサディズムが入っているけど、じらす期間が長い。だから好きなんです。この嗜好は井崎さんとも一致したんですけどね。
こういう本こそ丁寧に書かれていなければなりません。一定の速度で読むので、荒い文章だと取り残されてしまう。かといって、あまりにも簡単すぎる文章だと目が走りすぎてしまう。ちょっとブレ-キがかからないとね。読んでいる間はこの特殊な世界に完全に入り込めて、我に帰らないようにして欲しいですね。