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今月の放言

とにかく見ていたい 篠原哲雄

直筆短冊

ゆるやかに時間を紡ぎ、美しい映像世界を堪能させる作品を次々と発表してきた映画監督、篠原哲雄。しかし、眼鏡の奥に隠された眼差しが見つめるものは創りあげてきた作品とは裏腹なSM・禁縛の世界。中学生でSMに目覚め、学生時代にロマンポルノに浸った彼がエロの世界を語ってくれた。

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プロフィール 篠原哲雄

1962年2月9日生まれ。93年『草の上の仕事』で劇場映画監督デビュー。96年『月とキャベツ』を発表。国内外で絶大な評価を得、99年文化庁優秀映画作品賞97年モントリオール世界映画祭招待作品に選ばれる。その後『はつ恋』『死者の学園祭』など意欲的に作品を発表している。

第3章 過程が大事

僕は今までけっこう日活ロマンポルノを見てきました。撮り方がとても明快で、臨場感を醸し出している作品が好きでしたね。あまり細かくカットを割ると全部嘘っぽくなってしまうので、できるだけ長まわしで、過程を見せて欲しいんです。

ここでいう嘘とは、例えば男が迫ってきて、ここでヤラれるだろうなと思った次のカットで女性はすでに全裸で縛られていたりとか…。これは面白くないんですよ。何故そのような様になったのかが肝心なのに、その過程を描いていない。その点でいえば、小沼勝さん、藤井克彦さんはきちんと見せてくれたので非常に面白かった。だから映画を見ながら自分もリンクできたと思います。

面白いな、もう一回見ていこうと思うとそのまま一日過ぎてしまう。映画館を出るともう夕方になっていて、今日の僕は何をしていたのかなと後悔したりするんですけどね。そういう多少の後ろめたさを抱きながら、劇場へ通うあのドキドキ感が良かった。劇場に行くのは基本的に一人。他人と共有したいと思わない世界ですからね。

よく言われるのが、隣に変な男が寄ってきて触られるという話。でも、そんな経験は今まで一度もないですね。ある意味、劇場内の秩序は保たれていたんですよ。映画を見ながら自慰行為をすることはなかったので、記憶に一生懸命とどめておこうと頑張っていたのを覚えています。そんなことより、見ている方が楽しかった。セックスするより見ているほうが興奮する場合だってありますよ。

僕、明大なんですけど、駅前の映画館で日活ロマンポルノを上映していたんです。誰にも見つからないようにひっそりと通っていましたね。残念ながら、今はもう無くなりましたけど…。明大前に限らず、そういう映画館が潰れちゃったのは本当に寂しいものです。

ロマンポルノが衰退し、ビデオが世間に出始めてから僕も何本か借りて見るようになりました。僕はどうしても撮る側の目で見てしまうので、どこまでマジにヤッているかが作品の評価に関係してきます。いわゆる、アイドル風の女の子をきれいに撮るっていうのはあまり面白くなくて、ややドキュメンタリー風なものの方が好きですね。

SMでいえば、ある形に縛られて凌辱されていてもその中から快感が芽生えていく。嘘か本当か分からないけど、いかに本当っぽく撮れているかが重要。どこかで作られている部分が見えてしまうと、その瞬間すぐにしらけてしまいますね。その点でいえば、アートビデオというレーベルは僕が求めているリアリティある映像を提供してくれました。黒田透さん、峰一也さんのビデオは非常に良かったですね。

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