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今月の放言

エロは日常性にある 泉麻人

直筆短冊

気づきそうで気づかない、思わず「そう、そう」と相槌を打ちたくなる話題を提供するコラムニスト、泉麻人。彼は隠れた社会の一面を見つけ出し、軽やかにそして少々ノスタルジックな言葉を紡いでいく。そんな彼の歴史に刻まれた性なるものとは何か?

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プロフィール 泉麻人

1956年、東京生まれ。慶応義塾大学卒業後、東京ニュース通信社で「週刊TVガイド」「ビデオコレクション」の編集にたずさわる。1984年に独立し、執筆活動を開始。ユニークな視点で描かれたエッセイやコラムが人気を博し、多数の連載を抱える。主な著書に『東京23区物語』『気になる物件』『地下鉄の友』など多数。

第3章 目白の甘い思い出

学生の頃の話になるんだけど、当時付き合っていた彼女と目白駅の裏手近辺を夕刻にドライブしていたんです。その時に初めて車の中でキスをして、手を胸に差し入れた。その時の胸の生身感触は今でもすごい覚えています。指先にその感覚が残っているし、「目白のお屋敷街のこの位置」って今でも言えますよ。

でも、それ以上先はいかなかったんです。というより、僕の戦略的にもういっぱいいっぱいで先へ進めなかった。かなり血圧も上がっていただろうし。「ここまででいいや」って満足していたのかもしれないし。しかも、おっぱいを触った時にすごく緊張していたので、勃起したっていう感覚を覚えていないんですよ。なんか大事な仕事をしている感じでね。

今の若い子たちはナンパしてすぐヤっちゃいますよね。もちろんその頃だって、ヤリたくてヤリたくてしょうがないんだけど、そういうすぐヤルっていう感覚じゃなかったからね。性欲はあるんだけど、自分の中で段階があったんですよ。

僕が初めてセックスをしたのは大学生の時だけど、それは活字の世界で思い描いていたものとは全く違うものでした。その頃から年上のお姉さんモノが多かったから、そういう体験を想像していたんですけどね。実際に現場で女の子と付き合う時って、もっと他の事に頭を使わなくちゃいけないじゃないですか。「ここを左に曲がるといい喫茶店があるんだよね」とか言いながら、ラブホテルへどうやって連れていこうかっていう段取りにばっかり頭使っちゃってね。そっちまで頭が回らないんですよ。

お姉さんものといえば、フランス書院にも多いですよね。僕が高校の時に思い浮かべていたお姉さん像はせいぜい22、3歳ですからね。27、8歳だったらかなり上の印象があった。もう人妻ですよ。だって昔は40代の女性っていったら、ただのオバさんだったのが今は違いますもんね。浅野ゆう子だって、そろそろ40歳になるんじゃない。彼女だったらまだお姉さんものの対象になりますよね、たぶん。昔なら23、4歳でお姉さんと思っていたのが、今はその年だったらお姉さんじゃなく、単なるギャルだし。全体的に幼児化していると言えるかもしれませんね。女性がみんな若くなっているので、そのうちフランス書院文庫にも『未亡人53歳』とか出てきたりしてね(笑)。 

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