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今月の放言

エロは日常性にある 泉麻人

直筆短冊

気づきそうで気づかない、思わず「そう、そう」と相槌を打ちたくなる話題を提供するコラムニスト、泉麻人。彼は隠れた社会の一面を見つけ出し、軽やかにそして少々ノスタルジックな言葉を紡いでいく。そんな彼の歴史に刻まれた性なるものとは何か?

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プロフィール 泉麻人

1956年、東京生まれ。慶応義塾大学卒業後、東京ニュース通信社で「週刊TVガイド」「ビデオコレクション」の編集にたずさわる。1984年に独立し、執筆活動を開始。ユニークな視点で描かれたエッセイやコラムが人気を博し、多数の連載を抱える。主な著書に『東京23区物語』『気になる物件』『地下鉄の友』など多数。

第4章 妥協したほうが楽

昔はレイプとか凌辱が人気だったみたいですけど、今はそうじゃないですよね。単純にいえば、男が弱くなったんでしょう。これは最近のスポーツ選手や芸能人の例を見ればわかるように、年上女房が多くなった流れと同じ。まぁ、でも逆に言えば、乱暴な男が生きにくい世の中になっているのは確かですね。

結局、妥協したほうが楽なんですよ。例えば、家事をやるにしても奥さんに言われたら、皿洗っといた方が楽だとか。「そんなこと、誰がやるか!!」って肩肘張りにくいじゃない、今って。それにレイプとか暴力的な世界になりすぎると、日常性から離れちゃうんですよね。どんどん中弛みしちゃうし。カトちゃんケンちゃんのように、水をかけるバケツが大きくなっていくのと一緒だね。そういう意味で老成化しているんじゃないですか。

ほとんどの男がヤってもらう方がいいと思っていて、その時は女性側に熟練度があったほうが事もすんなりといく。そういうわけで、お姉さんものが多いし、また受けるんじゃないかな。反面、女子大生はあまり受けないみたいですね。たぶん、イメージが奔放すぎるからでしょう。でも、新入社員とか0Lになると受ける。それはたぶん組織とかに拘束されているイメージがエロチシズムと重なるからだと思いますよ。

僕は5年前に肝炎で入院して以来、看護婦ものが好きなんですけど、看護婦ってまさに世話をする役でしょ。それプラス制服性だったり、病院という囲われた謎めいた部分があったりね。同じ白衣を着ていても、看護婦と女医じゃあ全然違うし。看護婦だったらいろいろ検査をしてくれるじゃないですか。それが年上のお姉さんに犯される感覚と似ているんですよ。あと床屋なんかもそうだよね。いや、床屋だとオバちゃんか(笑)。美容室ですね。同じくスチュワーデスもそう。お世話してくれるシチュエーションだから人気があるんですね。

理想的なのは本当は熟練なのに、隠れたものがある女性。淫乱じゃない女性が淫乱になるところにエロスがあるわけだから、元々淫乱だとマズイわけですよ。その変わっていく様が面白いわけで、最初から開かれていたらダメですよね。エロさとはすごく遠い部分に、つまり日常性の中にすごくエロがあるのだと思います。

だから僕は写真集とかに載っている均整がとれた女性よりも、多少のユルさのある女性が好きですね。二の腕を鍛えてキリッとさせている女性がいるけど、それよりはちょっと脂肪がダブついている方がいい。日常の生活臭が漂ってくるでしょ、多少ユルい方が…。

エロは日常性にある 泉麻人07
エロは日常性にある 泉麻人08