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今月の放言

セクシャルファンタジーの共有こそが最高のエロス ロバート・ハリス

直筆短冊

ラジオのナビゲーターや作家として多方面で活躍中のロバート・ハリス。SM好きと公言する彼のエロティシズムに対する関心も人一倍。そんな彼が甘美な声で自らのセクシャル・ファンタジーを赤裸々に語ってくれた。

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プロフィール ロバート・ハリス

1948年横浜生まれ。上智大学卒業後、'71年日本を後にし、東南アジアを放浪。バリ島に1年間滞在後、オーストラリアに渡り延べ16年間滞在。シドニーでブックショップ「エグザイルス」を経営。帰国後FMジャパン(J-WAVE)のナビゲーターや、作家としても活躍中。著作に『エグザイルス(講談社)』『エグザイルス・ギャング(東京書籍)』 『ワイルドサイドを歩け(講談社)』『地図の無い国から(幻冬舎)』。

第1章 セクシャルアウトロー

が最初に読んだエロティック文学は「風俗奇譚」。名前にすごく魅せられて買ったんだよ。自分のファンタジーって、当時は歪んでいると思っていて、でも歪んでいるからこそ欲しいと思ってね。それを読んでから世の中にはいろんなフェチがあるってことを知ったの。例えばね、これはたぶん三島(由紀夫)もはまっていたと思うんだけど、切腹フェチ。江戸時代の末期が設定で、切腹話をいろいろ書いているわけ。僕は全然フェチ的な興味はないんだけど、読んでみると面白い。「グググググゥ」「ムムムムムゥ」とか、これでイク人もいるんだなと。切腹にも性的な魅力があるんだよね。

僕はSMが好きなんだけど、SMに興味を持ったきっかけっていうのはよくわかんないんだよ。僕が初めてエロティシズムを強く感じたのは6、7歳ぐらい。その時にふと頭に浮かんだのは、自分が牢屋みたいな所に入っていて、向こうからハイヒールの音が近づいてくる。そして牢屋の中には蝶々みたいなのが飛んでいる。近づいてくる女性の顔は見えないんだけど、僕を責めにくるっていう感じなんだよね。暗い廊下から聞こえてくる恐怖の予知みたいなハイヒールの音にすごくエロティシズムを感じた。

このエロティシズムって、女性とキスしたり、ペッティングしたりする甘いラブラブな感情とは違うものなんだよね。僕の中のエロティシズムは女性とはあまり関係がなく、もちろんプレーに使うこともあまりない。エロティック・ファンタジーを一日中夢見ていたけど、実際に女の子と会ったらそれはもう全然無関係。想像もしなかったしね。もちろん、周りにそんなことをしているやつなんていなかったし。

当時、僕は自分のことをセクシャルアウトローだと思っていたんだよね。どこでこうなったか分からないけど、ちょっとした被害意識みたいなものはあったね。だから、初めてセックスしたときは自分に幻滅したよ。キスとかペッティングまでいいんだけど、そこからベッドインとなるとなかなかできなかった。自分のファンタジーとは違うし…。それまでの甘いムードが途切れて今度は自分との葛藤でしょ。女性はオルガズムをフェイクできるけど、男は勃起をフェイクできないからね。だから、最初はすごく辛かったよ。

僕の中で社会的な部分とセクシャルファンタジーがバッティングしている部分があるんだよね。誰かがレイプされて殺された事件があったら、ひどいことだと思っているんだけどエロティックなものを感じちゃうわけ。それをどうやって自分の中で整理していくのかっていう葛藤があったの。

そしたら、アメリカの女性弁護士の告白本があってさ。彼女はレイプ事件とか何件も扱っているんだけど、Mでいつもレイプされる夢を見るんだって。男とセックスをする時もそういうファンタジーでイってるんだって。そこで彼女が言ってたのは、「エロティシズムはエロティシズムであって、自分の社会的なモラルとは別。自分のエロティシズムを抑制すればするほど社会的な方にも影響するので、それを抑制しないようにしている。そうすれば社会的にも普通に機能する」と書いてあった。これを読んで僕はすごく楽になったね。自分の中にファンタジーを持っていいんだって。

セクシャルファンタジーの共有こそが最高のエロス ロバート・ハリス01
セクシャルファンタジーの共有こそが最高のエロス ロバート・ハリス02