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今月の放言

ヤルつもりじゃないから、いやらしい 松尾スズキ

直筆短冊

毒まみれの笑いで特殊な世界を創造する演劇の達人、松尾スズキ。そんな彼が思春期に募らせた恋愛への憧れ、理想に反発するかのような青年期、そしてタブーを期待する男心など人生の舞台裏を語ってくれた。松尾スズキは背反する人間の意思と行動を常に見つめている。

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プロフィール 松尾スズキ

1962年福岡県出身。大人計画主宰の演出家、劇作家、俳優。第41回岸田戯曲賞、第38回ゴールデンアロー賞演劇賞を授賞。また、作家、コラムニストとしても注目されている。著作に『永遠の10分遅刻』『この日本人に学びたい』『キレイ』等。。

第1章 いかにタブーをうち破るか

文字でエロスを刺激されたっていうほうが自分のエロの歴史の中では古いですね。「あー、スケベだな」って初めて思ったのは五木寛之の『青春の門』ですから。忘れもしない小学6年の時、この本でオナニーのやり方を知りました。自分は福岡出身なんで、九州弁がまたそそられてね。

こうしてフランス書院さんの本を見ると、凌辱系、教えてあげる系、近親相姦ものがあるなって分かりますよね。興味があるのは…、んーあえて言うなら近親相姦ものですかね。  自分の知り合いの女の子が弟にかなり依存しているんですよ。ある日、弟が留学するってことになり、女の子は頭がおかしくなるぐらいナーバスになって、「こんなことならヤっておけばよかった…」ってしきりに言ってたんです。実の姉弟ですよ。根深いものがきっとあるんだなと思いましたね。

例えば、音楽教師と生徒は、ありと言えばありだからね。あくまでも他人だし。『青春の門』を読みながら、抑えつけられている性がエロスなんだって無意識の中できっと感じてたんじゃないかな。やっぱり、いかにタブーをうち破るかが重要ですよ。普通の恋愛を書いたってつまんないだろうし。でも、サザエさんとマスオさんのセックスを描いたら売れるかもしれないけど(笑)。

以前、役者のワークショップをした時、「いかに自分はクズなのか、3分間で告白しなさい」っていう授業をやったことがあるんですけど、「私はお父さんとしかセックスしたことありません!」って絶叫した女がいて、それ聞いたときは衝撃が走りましたね。凍りついちゃいましたよ。

その後に続く告白は負けじ魂っていうんですかね、「私は目の前でお父さんが自殺しました」って。そんな告白ばっかり聞いて、すごくいやぁーな気持ちになりましたね(笑)。

仮に僕が男と女の関係をテーマに描くとすれば、その違いを描きたいですね。もちろん権利は平等だけど、同じことをすればいいってもんじゃない。やっぱり男らしさ、女らしさってあると思うし、ちゃんと互いを認めたほうがいいような気がするんですよね。女性が女性として幸せな道ってなんだろうなって考えてしまう。まあ、僕が考える必要もないし、余計なお世話なんでしょうけど(笑)。

自分は結婚してもう3年になるんだけど、子供を作りたくないなっていう理由の一つに「自分の娘にエロを感じたらどうしよう」っていうのがすごくあるんですよ。根拠はないけど、わりと感じそうなんで…。たぶん近親相姦はヤっちゃいかんと思うから、余計に妄想が膨らむんだろうね。

ヤルつもりじゃないから、いやらしい 松尾スズキ01
ヤルつもりじゃないから、いやらしい 松尾スズキ02
ヤルつもりじゃないから、いやらしい 松尾スズキ03