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今月の放言

自我の破壊が快楽を生む 宮崎哲弥

直筆短冊

気鋭の若手論客として注目されている宮崎哲弥。社会の問題をあますことなく語る彼の性の生い立ちはいったいどのようなものだったのか。初体験、初自慰そして嗜好までその鋭利な舌は性を語りつくしてくれた。

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プロフィール 宮崎哲弥

1962年福岡県生まれ。慶應義塾大学社会学科卒業。政治・社会、そしてサブカルチャーまで論壇誌、テレビ、ラジオなどで論じている。主な著書に『ビジネスマンのための新・教養講座』『憂国の方程式』『新世紀の美徳』『M2われらの時代に』『これがマコトの日本の大論点』など多数。

第4章 自我が壊れかけた

時系列的に話すと、高校時代は精液をただまき散らすだけのようなセックス。この頃はひどいこともずいぶんしました。大学に入ってもまだ女を自分の性欲追究の対象としてしかみられない時期が続きましたね。

セックスが大分まろやかになったのはやはり20代後半から30代にかけて。性力がピークを過ぎ、いま思い出すと焼身自殺したくなるような恥ずかしい経験や、いま思い出 しても血涙が噴き出すような痛い目にあって、はじめて女の気持ちに配慮できるようなった。

でもね。30代の前半にすごいのに遭遇したんですよ。それまでとは次元の違うセックスを味わった。とにかく刺激が微細で、多彩なの。いままでのがモノクロームだとすれば、総天然色のような複雑玄妙な愛撫。行きつ戻りつ、快楽を小刻みに振幅させながらゆっくりと登っていく。射精まで六時間以上を費やすことがあるんです。それで疲れきってもまだ欲しくなる。

性の技術化ってすごいなと思いましたね。私はプロの妙技というのをまったく知らないのですが、素人でもここまで熟達できるんだなと驚いた。それに生得的に男を楽しませるようにつくられたとしか思えない器(笑)。

セックス観が一変しました。と同時に、こんなこと続けていたらいけないとも心の隅で思い始めた。本当に色呆けになってしまう。性交するたびに無意識の表面に細かな、けれど結構深い傷をつけられているような気がしてきたんです。

だけど、しばらくは溺れました。離れがたいんですよ、体が。できないと気が狂いそうになるの(笑)。自我の一部が破損していつも中味が溢れ出ている感じ。いい歳して寝ても醒めてもセックスのことしか考えられない。

それでも一年半ほどして別れました。そうしてほどなく、いまの妻と結婚した。もう度を超えたセックスはこりごりって感じだったねぇ(笑)。

性はワンダーランドで、ときどき危ない目にあったりもするけど、自分って者をよりよく知る、あるいは自分の臨界を手軽に知るには便利なものだと思いますね。

ところが最近は最初からセックスレスとか、単に股間のわだかまりをほぐすだけのようなお茶漬け系のセックスとかが主流になりつつあるとか。

セックスレスも、サラサラ・セックスもそれはそれでいいけどね。高電圧の、死ぬかと思うくらいのセックスを経験してからでも遅くないと思うよ、それは。本当は性のタブーを増設したり、もっと自意識をすごく強張らせたで、セックスにおいてそれらを一気にぶっ壊すような仕掛けが要るのかもしれませんね。スワッピングやソフトSMなんかは、そうした努力の一環なんでしょうけど。

昔、やっぱりセックスフレンドに「しょせん、あなたは文チン」っていわれたことがあったの。文チンっていうのは「文科系チンポ」(笑)。性的欲望が微妙に屈折し ているってわけですね。まあ文チンとしては、AVやネットみたいな直接的、受動的な刺激じゃなく、フランス書院文庫のようなものを読んで、能動的に妄想を喚起して欲しいですね。そっちの方がきっと楽しいと思うよ。

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