数々の連載を抱える人気コラムニスト、えのきどいちろう。独特の視点で巧みに時代を切ってきた彼を形成したものはいったい何か?青春時代の半泣き状態、見事なまでの遊びっぷり、そして大人になった自分…、今だから言えること、今だから分かったこと。自らの反省も交えて男の本音を語ってくれた。
プロフィール えのきどいちろう
僕、中学3年の時まで福岡に住んでたんだけど、父親の仕事の都合で東京へ引っ越すことになったんです。家族みんな、先に東京へ行ってしまい、僕だけ10日ほど遅れて行くことになった。一人で新幹線に乗って、ちょっと友達の家に寄ったりしてね。当時の自分にしてみれば一人旅みたいなもんです。
今でも憶えているのが、新大阪駅の売店。なんか知らないけど、そこがすっごくエロな世界になってたんです。親もいないし、もう買うしかないと思ってね。
でも、当時の僕には「これは…」なんて吟味する余裕がないので、とにかくガァーッと手を伸ばしてわけも分からずつかんだエロ雑誌を買ったんです。結果的にそれはSM誌だったんだけど、すごい集中力でずーっと読んでた。気付いたら東京駅。ホント、1秒の出来事って感じで、すっごいその世界に入り込んでいたんですね。今まで見たことがないぐらい本格的なエロだったので刺激的だった。当時はエロ情報なんて簡単に手に入らなかったからね。
エロを筆頭に今って情報がたくさん流通してるでしょ。例えば、サッカーでも今ならスカパーであらゆる国のリーグを見られるじゃないですか。どんどん次の情報が流れてくるから、昔みたいに何回もビデオを見なくなったし。
読書も同じで、今は一冊読んでしまうと「はい、次は…」って消費する感じでしょ。そのことについて思いを巡らす豊穣さみたいなものが、根本的になくなってるよね。
そういう意味でフランス書院は活字で表現している分、観念でグッとくるものなんでしょうね。昔は今みたいにエロ情報が溢れてなかったから、国語辞典さえもエロ本のひとつとして活用できた。もちろん、スケベ情報環境としてはものすごく貧しい状況ですよ。“乳房”という漢字を見て興奮しなきゃならないわけですから。
あと、ビキニを着てるグラビアがあるとするじゃない。それのね、水着を黒のマジックで塗っちゃうんですよ。するとこれが不思議、裸に見えるでしょ(笑)。肌の露出自体は上から塗っているから減ってるんだけど、裸に見えるんです。感動ですよ(笑)。
こういうのを僕は“童貞力”って呼んでるんだけど、当時のエロのイマジネーションってすごいんですよ。情報環境は貧しいけど、何とかエロを喚起しようと創意工夫をしたもんです。それはそれで豊かなことなんじゃないかなーと。自分の中で妄想してグッとくることって大切だと思いますよ。