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今月の放言

リアルには身も蓋もない えのきどいちろう

直筆短冊

数々の連載を抱える人気コラムニスト、えのきどいちろう。独特の視点で巧みに時代を切ってきた彼を形成したものはいったい何か?青春時代の半泣き状態、見事なまでの遊びっぷり、そして大人になった自分…、今だから言えること、今だから分かったこと。自らの反省も交えて男の本音を語ってくれた。

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プロフィール えのきどいちろう

1959年8月13日生まれ、秋田県出身。中央大学在学中に『中大パンチ』を創刊、初代編集長に就任。以来文筆業を生業とし、現在も『NAVI』等に多数の連載をこなす売れっ子コラムニストとして活躍中。

第3章 グッとくるツボ

僕の世代だと、グッとエロを感じる国名ってスウェーデンなんですよ。小学生の時、万博のスウェーデン館にドキドキしながら行ったしね。

当時、スウェーデンって聞くと、とにかくいやらしいイメージしかなかった。空港降りたら、あえぎ声が聞こえるんじゃないかってぐらい。スウェーデンポルノ、フリーセックスとかビジュアルのメディアはスウェーデンが一番。でも、エロを活字で表現する場合はスウェーデンよりフランスの方がグッとくるっていうイメージ、なんか分かる。だから、フランス書院なんだろうね。

僕からすると、フランス書院ってすごい必死な感じがするんですよ。必死な感じっていうのは、例えば、テレクラで山梨の甲府の女の子がつかまったとしよう。甲府までさ、会ったことない女のためにアクセルを踏み込んで走るその無駄な力。これが面白くてしょうがないんです。SMでいうなら、のめり込んでプレイした後に、二人で手際よく片付ける感じ。

人がひたむきになってしまう、つまり必死な感じ、僕の童貞時代でいえば半泣きな感じに、人間の根元的な面白さがあると思うんですよ。

逆にね、物事にのめり込まない人は面白くないし、そういう切実さのない人は笑いも軽い。のめり込んだパワーを僕は笑いに使う方が気持ちいいんですよね。フランス書院を読んで「なぁに、これー」なんて軽口叩くヤツは必死さも切実さもない。全然ダメだと思うな。

『トリプル相姦 私の兄・僕の叔母』(高竜也著 '03刊)にしても、この“僕の叔母”に対して切実なまでにグッとくる人がいるわけですよね。これは人によってもちろん違う。AVがあんなにリリースされているけど全てを捉えているわけじゃないでしょう。

例えば、野球のバッターでいえば、一番得意なコースはそれぞれありますよね。これはエロに関しても同じで、ペタジーニなら「俺は年上がいいんだぁー!」みたいなね。ペタジーニに年上の球が来れば、ホームランを打っちゃうわけですよ。

若い頃は“おっぱい”とかものすごく広いけど、年を経るに従って「俺はこっちの方がいいんだ」って好みが分かってきますよね。ペタジーニの奥さんを見ると、「彼はあのツボが一番グッとくるんだろうな…」って思ってしまうわけです。僕はまだ理解できないけど、「そこにグッとくるのか?」という違和感に興味をそそられてしまうんですね。

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