様々な心の悩みに解決の糸口を提示してくれる頼れる心理学者、富田隆。今回は性をテーマに我々の行動の本音、日本社会の素顔、そしてセックスを分析。トレードマークの髭を優雅に揺らしながら、驚きの解釈をしてくれた。
『誘惑ヘアサロン 美人理容師と少年』(橘真児著 '03刊)などお姉さんと少年というシチュエーションは、フランス書院でも人気ですよね。こういう設定が若い方だけでなく、年輩の方にも人気があるというもの頷けます。
というのも、日本の社会ってある意味、“母親的社会”ですよね。セックスだけではなく売られているサービスを考えると、ものすごく面倒見がいいんですよ。こんなに便利な社会っていうのは何でもお膳立てをしてくる。
旅行会社に行けば、「坊や、どこがいいの?」「暖かいところ、寒いところ?」なんて世話をしてくれるわけですよ。与えられる選択肢に答えていれば、行く場所が決まる。今の社会は何でもそう。コンビニエントな社会なんです。
こういう社会というのは、お客様はマグロ状態。風俗ではマグロ状態であることを前提にサービスを提供しなければ、お客様は満足してくれないですよね。そうするとどんどん何もしない、寝ているだけでよくなる。これが例えば初体験だったりすると、セックスとはそういうものになっちゃうんですね。だって情緒不安定になってる処女とするより、はるかにラクでリスクも少ないでしょ。こんな社会で子どもの頃からたっぷりサービスを受けていれば、そりゃあ、面倒くさい方を選ぶ人は少なくなりますよ。これはまあ、当然の流れですね。
もう一方で女性の社会進出があり、「結婚しない女」なんて言葉も80年代の後半にでてきた。自立し、仕事を選び、自分の力で生活できる。そういう女性はセックスにも積極的です。「若い男、食べちゃおうかな」っていう魅力的で活動的な女性がいて、一方では「すべてお任せできるお姉さんはいないかな」っていう男がいる。ちょうどいい男と女のコンビネーションですよね。
また、成熟した女性というのは、DNAの戦略でいったら“子どもが産める相手”、それがベストパートナーなんです。十分に経験があって、男が奮い勃つぐらいセクシーで…となるとやっぱり年上の女性ですよね。
今、書いているのは夫婦関係の本なんですけれども、そのキーワードは“疑似親子”なんですよ。日本の夫婦っていうのは、最初は男女。新婚時代は恋人のようなね。やがて、性的な関係が少なくなってくると“疑似親子”になっちゃうんです。
奥さんはお母さん、そして、長男の座に主人が座ってしまう。家族、これは壊れないわけです。お母さんは長男に「外であんまり遊んじゃだめよ」という。でも、あんまりきつくいうと不良になっちゃうから「まあ、いいか…」となってる。要するに母親と息子のような関係になることによって、夫婦は安定期に入るんです。
これは日本だけのことではなくヨーロッパも同じ。「お母さんは大切」のフランス、「もっとお母さんは大切」のイタリアとかね。アメリカは清教徒の国ですから、恋愛至上主義なので男は大変ですよ。女性がけっこう信じている恋愛結婚の神話。これもアメリカ製ですよね。夫婦の在り方についても平等で、友達で、恋人で夫婦っていうのも女性たちが平均的に考えている夫婦像ですよね。
でも、そんなもの、うまくいくわけないですよね。男はうまくいかない分、性的なものでフィクションを求める。すると経験豊富な自分に優しい理想のお姉さまになるわけです。日本のような母親的社会においては、熟女とか年上の女性がもてはやされるのは不思議でもなんでもないんですね。