現代美術の奇才と呼ばれ、次々と問題作を発表する会田誠。彼が創り出す多様な作品は、見る者を魅了し、考えさせ、挑発する。そんな会田誠が青春時代を振り返りつつ、自身の性癖を赤裸々に語ってくれた。
26歳の時、『青春と変態』っていう小説を書いたんです。それは女子トイレを覗く男の子が主人公なんですが、まぁ、今さら隠してもしようがないので言いますけど、高校生ぐらいの頃、同じようなことをした憶えがありまして…。青春の思い出として覗きのことを書いておきたいなぁと以前から思ってはいたのですが、若造とおやじの中間っていういいタイミングだったから書けたと思っています。
現実の女性と、セックスはもとよりお喋りするというコミュニケーションさえもあきらめざるを得なかった僕の青春時代、自分の気の弱い結論の中で「僕は一生、女性と話すこともできない」って決めつけていたところがあったんです。「じゃあ、どうやって女性とコミュニケーションするか?」と考えた結果が“覗き”の始まりだったんです。やはり相手に気づかれず、こちらが一方的に見ることが当時の僕にとってベストなコミュニケーションであり、一番妥当な行為に思えたんですね。
「性欲と覗きは結びついていない」と小説に書いていますが、実際は余裕がなかったというのが正直なところ。覗きという行為の出発点はそもそも性欲ですからね。ただ一方で、勃起にはある程度のリラックスが必要なわけで、ベテランの出歯亀だったら大丈夫なんでしょうけど、僕のような新米の出歯亀にとってチンチンを勃たせるなんて余裕はなかったんです。覗いているだけでもう精一杯だったので。
フランス書院文庫の『のぞく 奪われた人妻』(冬野螢著 '04刊)って自分の妻が寝取られているのを覗く小説ですよね。この気持ち、同じ覗きを経験した者にとって分からないでもないです。というのも、大学を出た頃、初めて付き合うことができた彼女に逃げられましてね。その女性はバイト先の雇われ店長の男の部屋に暮らし始めてしまった。
僕は彼女のことが気になってしょうがなくて、ついにその部屋を見に行ったんです。たしかその部屋はマンションの3階だったかな。下から眺めても部屋の様子は全然分からなかったので、その向かい側の民家の屋根に登ってずーっと眺めていたんです。どうやって屋根に登ったのか憶えていませんが、今考えると狂ってますね(笑)。どんなに目を凝らして眺めていても、カーテンに人影がちらっちらってたまに映るだけ。部屋の明かりが消えても「電気を消してヤってんのかな…」って、そのまま1、2時間は屋根から降りることができませんでした。
その時の自分の気持ちは、嫉妬とか官能っていう単語に当てはめることはなかなか難しい。本当はそういう単語に当てはまるんだろうけど、もっと複雑な気持ちであったと自分では思いたいですね。