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今月の放言

僕はコンプレックスのかたまり 佐野史郎

直筆短冊

圧倒的な存在感で見る者の心に根を下ろす俳優、佐野史郎。プライベートはもとより全てが謎に包まれた彼の心には、こちらの想像を絶する、宇宙規模の変質感が広がっていた。彼にとってのエロス、女性に求めるものとは何か? その深遠なる精神世界を訪ねてみた。

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プロフィール 佐野史郎

1955年生まれ。山梨県出身。小泉八雲と音楽を愛する。映画・舞台・テレビ出演、音楽活動、執筆などその活動範囲は広い。主な出演作に『あふれる熱い涙』『ゲンセンカン主人』『毎日が夏休み』『写楽』『京極夏彦 怪』など多数。

第2章 露出はコンプレックスの力

泥臭い言い方ですけど、表現をしていることの根元は恨みですよね。個人的な恨みを雌伏するために人様の前に体をさらしてるわけですよね。もう、これは露出趣味みたいなもの。

こうやっていろんな取材を受けるし、バラエティ番組も俺は俳優だからって言って断ったりしない。ただ、腐肉をどろどろと流してるような感じはありますよね。言ってしまえば、これって恨みでしょ。恨みで表現してる人って恨みを克服した時点で終わっちゃうし、所詮って言いたくなっちゃうんですよ。自分がここにいるということ、つまり自分の存在に対しての恨みですよ。

これはもうね、露出おじさんと一緒。直接女性に触れればいいのにそれができないんですよ。なぜなら、超危険人間だから。本当は触って、撫でて、舐めたい。それができないことにコンプレックスがあるんですよ。

何も美しい女性に対して自分が醜いからではなくて、このコンプレックスはもうちょっと長い仕組みに関係しているんです。僕の家は古い家だから、ホントに横溝正史の小説に出てくるみたいな、おカタい家なんですよ。横溝正史の小説の中だと、例えば横にきれいな人がいる、じゃあお付き合いしてくださいっていう風にはならない。家のことばっかり言っているわけではなくて、全てがそういう世界。初めから自分が自分であるっていうのが、ない。それがもうすごいコンプレックスですよね。

だから僕が作った映画を見ると、超エロでとんでもない映画だと思うけど、プラトニックラブのすごい長いのを描いてますよね。中学の同窓会とかで30年ぶりに会うと、大体そこに集められた7人は問題のない集まりなんですよね。変形した人は出席できないだろう、とかね。

そういうまなざしで撮ってますからね、それはいかんでしょ(笑)。ファーストキスの相手がだめだったからっていって、ネチネチしてる主人公とかね。まぁ実体験で、僕がホモに襲われて目の前で唾を飲まれたっていう、変態男と遭遇した経験があって。それはかなりわかりやすく、恨み節として心に残りますよね。

そんなトラウマを誰にも言わないで背負って生きてくなんてやだな、作品にしてやらないと気がおさまらねぇ、みたいなね。あらゆることがそうですよ。表現の初期衝動がね、どーんと暗い、重いものなんですよ、僕の場合。

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