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今月の放言

僕はコンプレックスのかたまり 佐野史郎

直筆短冊

圧倒的な存在感で見る者の心に根を下ろす俳優、佐野史郎。プライベートはもとより全てが謎に包まれた彼の心には、こちらの想像を絶する、宇宙規模の変質感が広がっていた。彼にとってのエロス、女性に求めるものとは何か? その深遠なる精神世界を訪ねてみた。

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プロフィール 佐野史郎

1955年生まれ。山梨県出身。小泉八雲と音楽を愛する。映画・舞台・テレビ出演、音楽活動、執筆などその活動範囲は広い。主な出演作に『あふれる熱い涙』『ゲンセンカン主人』『毎日が夏休み』『写楽』『京極夏彦 怪』など多数。

第4章 満足させてくれる女性はいない

もちろん、女性は大好きですよ。でもそこには『だけど、』がつく。僕には異常なコンプレックスがあるから、思い切り女性に接することはなかなかできませんね。

例えばエロについてちゃんと理解しようと思ったら、仕事にするしかないなと思ってます。僕はやっぱり母親とか父親は越えられないでしょ。でも、生きてることは越えようとするってことなんでしょうね。要するに自分の直接の創造者、もっと言えば、地球全体、宇宙全体に対する恨みがあるんです(笑)。それ言ったらわかんないだろうけど、僕はやっぱり宇宙が憎いんだよね。この恨みと母親に対するマザーコンプレックスは、量でいえば同じようなもんなんです。だからウルトラマンの世界とかゴジラの世界とかがわかるんじゃないのかなぁ。

男と女って、恋愛感情が生まれて、精神的な交わりがあったとしても、なんか嫌なんだよね。結局恨んでしまって、「女に優しくしたいって思っていないだろ、お前は!」っていうことを常に突きつけられそうで…。

僕にとって魅力的な女性は、精神が体に滲みでてるような人。例えば僕は古いレンズとか古いワイヤーにぐっとくるんですけど、女性で古いワイヤーの曲がり具合に匹敵する女性はほとんどいませんね。それを持ってるのはうちのカミさんぐらいじゃないですか。ほとんどいない。

普通の人に見えるかどうかわかんないけど、脳のわきとか腕にいい精神が通ってるかどうか見えるんですよ。一見わかんないけど、ケムール人なのに水野くみみたいな(笑)。そういうビザールファッションの趣味はあるかもしれませんね。でもそれはもう精神のことでね、そういうのが出てる女性は非常に少ない。だから、世の中の女性に不満だらけなんだよね。自分を満足させてくれる女性はいません!

まぁ、魂の出てる女性はカミさんとか、女優さんとかも見ますけどほとんどいない。これまでもちょっと恋愛関係におちそうになった人がいましたけど、危ないからって何もなかったように別れましたよね。要はめんどくさいからなんだけど、そういう自己嫌悪とか取り払って、何かしたいっていうのはありますけどね。

でも、そうしたら快楽をとことんつきつめることを仕事にしない限り、宇宙と女に対する恨みは俳優の仕事には適わないでしょ。今の自分の仕事も言ってみれば、性のお仕事なんですよね。まるごと体を使ってるから。洋服を着てても脱いでても、男は出したり見たりしてるんだからさ。十分エロエロでしょ。僕、「エロい」って言われるとうれしいですよ。まぁ、一般的には受け入れられないのかもしれないけど。

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