あるときはサーカス団員やバー店長、またあるときは大衆演劇女形…といった遍歴をもつAV界の鬼才、甲斐正明。レンタルAVの'03、'04年連続して回転率トップを獲得し、次々と革命を起こす業界の風雲児は、いかなるエロ遍歴&概念をもって今に至るのか。
僕の企画の発想は趣味である映画や演劇、小説、テレビなどと色々あるんですが、自分がいいと感じる作品の着想であったりとか流れとかを参考にします。あとは誰でも持っていると思うんですが、反逆精神というか、何かひねくれた部分といいますか。アンチヒーローやアンチハッピーエンド的なクリエーターっているじゃないですか。一歩間違えれば、世の中に対する誤解を生むような作品を作り上げる危険な人たちが。そういう人が創る挑戦的なものが好きなんです。可能か不可能かはわからない、または人に認められるか認められないのかわからない、そんな作品を作ってみたいんです。
映画を観て面白いって思ったときは、その監督に関することを調べるわけです。それでわかったことは、こういう人たちはみんな異端児なんですよ。既成概念にとらわれない、俺は撮りたいものを撮るんだ、みたいなね。僕はロバート・アルトマンが好きなんですが、彼もハリウッドの反逆児だと思うんです。ひねた女性の描き方であるとかカット割り、演出など、これらを観てて僕はこういうものが好きだっていうことを再認識したんだと思うんです。
あと僕の発想の源は、今のAVがどれも同じ作品にしか見えないことが大きいですね。もう金太郎あめ状態ですよ(笑)。誰か一人でも反抗するというか、前に出てるやつはいないのかなあって心から思いますね。そういうのを見ていたら、俺の方が面白いヤツを作れるって思えるんです。(フランス書院文庫を前にして)だから僕がこれらを読むとしたら『最高の禁母』(神子清光著 '05刊)を選びますね。どうしてかというと他の作品と違って想像がつかないから。あとはなんとなく、イメージが湧くんですよ(笑)。
僕も数年前は、フォーマットのあるものをそのまま撮るということをやってました。でもそのときは監督をやったことがなかったから、それすら楽しかったわけです。ただ色々なことを経て3~4年前に自分でAVを撮るようになったときはやっぱり、あんなヌルいものは撮らない、人と違うものが撮りたいって感じになってました。それは経験しないと分からないことなんです。
仕事として売れるから作ろうという発想はまず無いです。自分がそこにエロさを見い出すことができるのか否かっていう部分が重要なんです。そうじゃなければ、企画を通すことなんてそうそうできませんよ。僕の原動力となっているのは「恥じらいのあるセックスや女のコが見たい」。そこに徹していて変わらないですね。例えば、痴女ものとかに出ている女優さんが、どんな風にしたら恥ずかしがるのか、それを考えるのが楽しいんです。AV監督を続けるうえでこれは今後も続けていきたいテーマですね。その点、素人は恥ずかしがるから面白いんですよね。まあ、たまにプロ以上に場慣れしたコもいますけど(笑)。やっぱりね、単にハードなものは興味がないんですよ。アナルOKの人がやるアナルプレイなんか見たくないけど、アナルがNGっていう人がアナルをやるっていうならすごく興奮しますね。「へぇー、ビデオに何本も出てるのにアナルは初めてなんだぁ~」って。そういうコに僕が興奮してしまうのは、やっぱり恥じらいがあるからです。“女優ありき”ではなく、あくまでも“企画ありき”で、AVの変則的羞恥を極めますよ。
(文:オオサワ系)