その声は誰もが知っている。テレビやラジオから聞こえてくる粋のいいトーク、全身全霊で伝える実況中継。フリーアナウンサー・辻よしなりの声を日本全国で知らぬ者はいないといっても過言ではない。そんな彼が妄想一筋だった高校時代、青春時代の甘美な童貞喪失、そして現在の性愛観まで言葉巧みに語ってくれた。
大学に入って初めて女性と付き合ったんです。暗い高校時代を過ごしてきたから、僕はもちろん童貞。よくよく聞くと彼女も処女だったんです。じゃあ、お互いの喪失旅行に出かけようってことになり、1泊2日で河口湖に行ったんです。竹内まりやの『2人のバカンス』を聞きながらね(笑)。お互いにとっては軽はずみな旅行じゃないんです。その行為のためだけの特別な旅行でしたから超真剣でしたよ。
そんな童貞喪失を経て、彼女への気持ちはさらに強くなりました。彼女の方が僕より2級上だったので「結婚したい」って、そればかり考えていました。向こうの家にゴハンをごちそうになりに行ったりもしてましたし、彼女も少しは考えてくれていたと思うんですよ。当時は学生結婚のはしりの頃だったから、そんなことまで頭をよぎりました。
でも、大学4年生になった時、今度は就職活動のために何か断ちものをすることにしたんです。当時の自分が失って一番辛いのは彼女だったので、その旨を告げて3ヶ月間は一切会わなかったんです。もちろん電話もしない、手紙も書かない。そして、ようやく内定をもらってすぐに電話しました。その場は泣いてくれたんですよ。でも次の日に再び電話したら、何か彼女の雰囲気が違うんです。
どうやら僕が就職活動している間に言い寄ってきた人がいたらしいんです。あと、僕がこういう業界に入ることがイヤだったみたいなんですよ。ハデハデしい世界に入っていくことに抵抗があったみたいなんです。そんなこんなで、その時に思いっきりふられたワケです。
その彼女とは5~6年後に偶然会ったんです。僕がプロレスの実況を始めた頃、後楽園ホールで試合があって、御茶ノ水から総武線に乗って何の気なしにつり革につかまって立っていたら、彼女が目の前の席に座ってた、というかそこで寝てたんです。いやあ、あれはビックリしましたねえ…。ほんの一駅分、時間にしたら2~3分の間だと思うんですが、今まで2人の間で起きた色々なことが走馬灯のように蘇ってきて。「このシチュエーションは何なんだろう、この巡り合わせっていったい…」って。
とにかくさんざん悩んだあげく、声をかけずに降りましたよ。映画とかドラマでもあるじゃないですか、つじつま合わせの偶然みたいなの。でもああいう設定も、あながち軽視できないって思いましたね。だって僕の目の前で実際に起こったわけですから。