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今月の放言

捨てることこそ男にとって“究極の快楽” 名越康文

直筆短冊

自分では気づかない、心の奥に潜む人間の感情を掘りおこすことで心理を追求し、説得力のある解説で、現在テレビや雑誌などで注目を集めている精神科医、名越康文。職業柄、常日頃からに傍観者としての意識が強いという彼。果たして恋愛や性愛に関してはいかがなものなのだろう。人気カウンセラーの深層心理に迫ってみた。

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プロフィール 名越康文

良県出身。精神科医として活動するかたわら、テレビや雑誌などさまざまなメディアで活躍。著書(共著含む)に『ハッピー8(エイト) 性格診断×ドラマ』『女はギャップ!』『危ない恋愛』など多数。また日本テレビで現在オンエア中の人気番組『ラジかるッ』にも出演中。さらに携帯公式サイト『名越康文のココラボ』もチェック。

第1章 年上女性は淫らだと思っていたあの頃

(フランス書院文庫を前にして)そうそう、この色使い好きでしたねえ。黄色×黒の文字が背表紙にズラ~ッて並んでいるこの光景ね(笑)。若い頃、本屋に行ってこの手の本のコーナーに行くのって恥ずかしくて。指紋がつかないようにそっと手に取ってましたね。あと文章内に出てくる『……』の部分を空想するのがまたいいんですねえ~、この間合いが。今こうして臆面もなく手に取れるっていうことがすごく幸せです。

本の存在自体は、もうずいぶん昔から知ってましたよ。初めて読んだのはおそらく学生時代だったと思います。古本屋で買いましたね。やっぱり普通の本屋だと目立ちすぎるんですよこれ(笑)。おばあちゃんとかがやっている店だと、買う時にわざと知らんふりをしてくれてね。いや…でも懐かしいなあ。だって今回フランス書院の取材って聞いてハッと思いましたもん、感慨深いというかね(笑)。当時僕の中では『キネマ旬報』や『週刊ファイト』に並んで『フランス書院文庫』っていうのがもう憧れでしたね。またフランス書院っていうネーミングもまたすごいですよね。抜群のネーミングだなあ、と。フランスで出版しているわけでもないのにフランスって、ねえ?(笑)

今でいう熟女とか人妻系っていうんですかね。ここでいうところの『年上初体験授業~美人家庭教師と二人の高校生~』(岡部誓著'07年1月刊)みたいなジャンルを読んだ記憶があります。まあ10代後半頃の男からしたら、主人公が24~25歳の女性像で書かれていたらもう大変ですよ。そういう女性っていうのはもう、自分たちの知らない世界をたくさん知っているお姉さんっていう感じですから。『年上の女性って、こんなに凄いセックスをしてるんだ。教えてもらいたい』って思い込みかねない。実際そういった作品を、僕たちは恍惚として読み狂ったわけです。そこからSMとか家庭教師ものとか、興味に応じて枝分かれしていく感じでしたね。

当時は若さゆえに『色々教えてもらいたい、支配されたい』っていう気持ちが強かったと思いますけど、今の僕はたぶんS性が強いと思います。人との関係性を築く上で、最初はすごくM性を出す傾向があります。でも究極的には観察者っていう部分が非常に強いんですよね。肉体って感覚の嵐だから、そこに没入できる人って、失うことを厭わない人しょう? 僕はそれになりきれず、どこかで自分を残しているという気がします。Mの人の方がやっぱり、自分を失うことに対して恐怖心がないっていうか、そんな感じがしますね。

捨てることこそ男にとって“究極の快楽” 名越康文01
捨てることこそ男にとって“究極の快楽” 名越康文02