自分では気づかない、心の奥に潜む人間の感情を掘りおこすことで心理を追求し、説得力のある解説で、現在テレビや雑誌などで注目を集めている精神科医、名越康文。職業柄、常日頃からに傍観者としての意識が強いという彼。果たして恋愛や性愛に関してはいかがなものなのだろう。人気カウンセラーの深層心理に迫ってみた。
究極的にいうと、男性がセックスの“本当の”快感を感じることって、まずできないと思うんですよ。男性が性的な快感を感じていると思っている、少なくとも80%はフェティシズムの快感なんじゃないかと思います。女性とは違うと思うんですよね。例えば女性をエクスタシーに導きたいとか、セックスの中で今まで浮かべたこともないような相手の顔を見たいとか、そういうことってある種フェチ的じゃないですか。そういうものがトッピングされてゆかないと、男のセックスなんてものは10代以降は右肩下がりにならざるを得ないんではないかと思うんです。
これは支配欲なんだと思います。男の本質的な性的欲求の根本には支配欲求があって、これをどういったカタチで実現させるか。そこを女はすり抜けていって、男は新たな手段を見いだそうとする。本当に自分に服従しているかどうかなんて、絶対わからないんですよ。でもそこに男の欲求っていうのはあるんじゃないかと思います。
究極的なことをいうと、男が女を本当に支配するためには捨てるしかないんです。例えばギャンブルって男がよくやるでしょう? あの醍醐味って、それまで700円と1,000円、たった300円の差でどっちの定食を食べるか迷っていたような人が、いざギャンブルとなったときにたとえば100,000円で大勝負して負けても「ま、これくらいいいか」なんて言ったりする。
自分が今まで大切にしているものが何かというと、支配されているものでしょう、つまりこの場合はお金になるんですが。それが、ある瞬間から紙切れのように見えるっていうのが快感なんですよ。これは支配されていることからの解放になるわけだから。解放とは無くすこと、蕩尽することなんです。愛(女)を捨てることこそ、男にとっての本当のオルガスムスなんです。これは女性も同じで、愛しているものに貢ぐ、これは愛しているけれども支配されているわけなんです。
そう考えると男女間の恋愛や性愛って不思議なものですよね。僕はわりと現実世界の中にいながらも、現実感がないような人間です。職業柄、人の話を聞いてその話に共感して、他人の人生の中で現実感を汲み取っていかなくてはなりません。僕自身が女性にハッと惹かれたり性愛の感覚が開いていったりすると、見ているものがすごくリアルに感じるんです。でも、そういうものがないと自分が無味乾燥な世界に閉ざされてしまうような気がします。だから僕にとって恋愛や性愛は、この世に現実感を与えてくれる根本なのかもしれませんね。
(文:オオサワ系)