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今月の放言

隠されるほど価値が高まる 前田司郎

直筆短冊

五反田団。今や屈指の人気を誇る、超売れっ子劇団である。その主宰者こそが本日のゲスト、前田司郎。劇団主宰以外にも小説家としての顔も持つ。もちろん、こちらもおもしろい。そんな、おもしろ細胞の塊のような氏の性愛観を今回垣間みることができた。経験に裏打ちされたブレのない意見はもちろん、言葉を紡ぎ出す際の独特の言い回しにも注目してほしい。

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プロフィール 前田司郎

東京都出身。'97年、19歳で劇団『五反田団』を旗揚げし、作&演出を手掛ける。'05年小説『愛でもない青春でもない旅立たない』が野間文芸新人賞候補に、'06年小説『恋愛の解体と北区の滅亡』が三島由紀夫賞候補に、'07年小説『グレート生活アドベンチャー』が芥川賞候補に選ばれる。戯曲では今年、『生きてるものはいないのか』が岸田國士戯曲賞を受賞。

第2章 五反田のカップルが教えてくれたこと

当時はとにかく色々な場所に行きましたよ。北はすすきのから南は中州まで。あと場末のスナックやフィリピンパブ的なところでしょう。もちろん銀座、六本木、それから女子大生がいるようなところとか……作品を書くときに考えていることですか? 作品というか、人生にものスゴイ悩んでいた時期があって……。なんか哲学的っていうか、とにかく、視野が狭窄しちゃって、悩んでる自分が格好良く見えちゃうっていうのに取り憑かれてたときがあったんです。“人は何で生きるんだ”みたいに(笑)。

たとえば、セックスや恋愛のことも含めて、以前から不思議に思うことがあるんです。人間って、自分が生まれた瞬間から死にはじめているわけじゃないですか。死に向かっているわけだから、本当は生を消費していっている、だけどどうも僕たちは実感として生を積み上げているように感じる。それに僕たちは寂しいから誰かと繋がろうとする、みんなと一つになろうとする。でも一つになっちゃったら結局さみしいんですよね。不思議です。

麻布十番で食事をして、その場で愛の告白をされました。で、その後、彼女のマンションに行ったんです。そしてこれは今でも思い出すんですが、トイレを借りようとバスルームへ行ったら、洗濯物が干してあって、そこにパンティ1枚だけぶら下がってたんです。このシーンはマンガでも描きましたが、いまだに強烈に残っているんですよね。銀座のクラブのママですから、結構ゴージャスな部屋ですよ。なのにバスルームにパンティ1枚って……そんなことや生きる意味を考えながら、その日も、僕は五反田を歩いてたんです。そしたらオッサンと一緒に、キレイな女性が歩いていたんです。でも何か様子がおかしいんですよ。気になってチラチラ見てたら、美人の股間からボロンって何かが落ちたんです。最初は「携帯でも落ちたかな」とか思っていたら、×××だったんです。そう、プレイしてたんですね(笑)。『こりゃすげーもの見た!』って(笑)。たぶんワザと落としたんだと思うんですが、それ見た瞬間に、もうエロいことばっか考えちゃって、真面目な悩みとかどうでもよくなっちゃいましたね。

その体験をしてから、人は何で生きるのか、なんてことで悩むのがバカらしくなりました。なんか、エロいことばっかり考えていた方がいいなって(笑)。自分がすごく矮小に見えたし、同時に人間というものがすごく愛らしく思えました。まあ、それを見て昂奮した僕も含めて、なんですけど(笑)。

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