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今月の放言

隠されるほど価値が高まる 前田司郎

直筆短冊

五反田団。今や屈指の人気を誇る、超売れっ子劇団である。その主宰者こそが本日のゲスト、前田司郎。劇団主宰以外にも小説家としての顔も持つ。もちろん、こちらもおもしろい。そんな、おもしろ細胞の塊のような氏の性愛観を今回垣間みることができた。経験に裏打ちされたブレのない意見はもちろん、言葉を紡ぎ出す際の独特の言い回しにも注目してほしい。

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プロフィール 前田司郎

東京都出身。'97年、19歳で劇団『五反田団』を旗揚げし、作&演出を手掛ける。'05年小説『愛でもない青春でもない旅立たない』が野間文芸新人賞候補に、'06年小説『恋愛の解体と北区の滅亡』が三島由紀夫賞候補に、'07年小説『グレート生活アドベンチャー』が芥川賞候補に選ばれる。戯曲では今年、『生きてるものはいないのか』が岸田國士戯曲賞を受賞。

第4章 SもMも境界線などどこにもない

僕自身がSかMか、ですか? サディズムとかマゾヒズムって、誰もがどっちか一方に必ずあてはまるっていうもんじゃないと思うんですよね。やっぱりサディスティックな行為は、自分に「同一化」した相手に対して行なっているわけだから、つまりこれは自分自身に対してやっていることと同じなわけで、そうなるとサディスティックもマゾヒスティックになる。だから一人の人間の中には、SとM、両方の要素があると思いますね。どちらの要素が大きいとか、そういう比重っていうのもない気がしますね。

そうなると、アブノーマルの定義もすごく難しくなってきますよね。そもそも、セックスという行為自体が、子孫を残すための作業であるとするならば、少なくとも僕自身は、そういうセックスはしたことがない。そうなると今までやってきた全部がセックスじゃない、つまり変態行為なわけですよね(笑)。外出しは変態っていうことになっちゃう。例えば宗教や文化の違いだけでも色々な答えがあるわけですし……。結局はアブノーマルの定義は、人それぞれなんでしょうね。ちなみに僕は子作りを目的にしないセックスは全てアブノーマルだと思ってます。で、アブノーマルこそノーマルな気もしてます。

アメリカの裏ビデオみたいな、あけっぴろげのセックスなんて、見てても全然おもしろくないじゃないですか。そこはやっぱり、多少は「窃視症的」でないとだめですね。それは裏を返せば、自分がそこに入るわけではなく、安全な所からただ覗くだけっていう。サディズムとちょっとかかわってくるのかもしれないですが。そういう意味で、日本のエロは、世界の中で見ても群を抜いて、ユニークなんじゃないんですかね。知らないけど(笑)。

僕がずっと日本のAVを見続けてきて、すごいなぁって思ったことは、スカトロっていうジャンルがメジャーになっていることですね。ビデオ屋に行けばそういうコーナーもありますから、すごい時代になりましたよね。特に日本はそういうユニークなジャンルが、ものすごく豊富ですからね。もういっそのこと、日本は世界に冠たるエロ国家にしちゃえばいいんですよ。インリンじゃないですけど、エロ大国。そんな国じゃ戦争なんか絶対に起きないですからね(笑)。

(文・オオサワ系)

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