劇団主宰、小説家、コラムニスト、ラジオパーソナリティ…。多方面でその才能をいかんなく発揮している本谷有希子。彼女の作品に描かれているキャラクターたちの“切実さ”は、愛情とも憎しみともとれる、実に人間くさい愛おしいもの。そんな彼女が幼いころからもっている心の鏡に映し出された“愛情”とは、現実と自我と妄想と葛藤からなるこれまた笑っちゃうくらい人間くさいものだった。
プロフィール 本谷有希子
1979年生まれ。石川県出身。00年9月「劇団、本谷有希子」を旗揚げ。主宰として作・演出を手掛ける。小説『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』は第18回三島由紀夫賞にノミネートされた。現在は雑誌『週刊プレイボーイ』『ダ・ヴィンチ』などでコラム連載をしながら小説を執筆。またニッポン放送「オールナイトニッポン」の金曜パーソナリティも務めている。
好みのルックスとかは特になく、強いて言うなら自信のあるイケメンはイヤです。以前経験したんですが終電間際、私は帰れるんですが、その男は終電を逃して帰れない。さあ、どうするかとなったんです。そしたらその人、自分の都合で私と電車に乗って一緒に帰りたがったりして、挙げ句の果てにウチに泊まろうとしたんです。私に何の了承も得ずに勝手について来てですよ。「取りあえず泊めてくれる?」みたいな。私、ホントにハラが立っちゃって。「なんだコイツは?」ってなりますよ。「自分を受け入れてもらえる環境で育ったんだろうなあ」って。拒否される怖さを知らない人間をみると、憎しみが沸いてくるんですよ(笑)。
だから自分勝手で自信過剰なイケメンより、私は苦労してそうな人のほうが好きなんですよ。そんなことを考えてるといつも私、妄想してしまうんです。あっ、これから話すことは私の中のよくある妄想ですよ。
例えば、夜中に弁当屋とかに行ったときとかにボーッと思うんです。そこでは何歳だかわからないけどあまり社会に馴染めてなさそうな男の人が、私が頼んだ唐揚げ弁当とかを死んだ目で作ってくれたりしてる。そうすると「私がもし上戸彩とかで、好きですってこの人に告白したら喜んでくれるかなあ…」って考えちゃうんです。おいしい目にあってるイケメンより、幸せになればいいのにって。でも私が上戸彩じゃないばっかりに、現実は無言で弁当を受け取って帰るだけなんですが(笑)。とにかく自信満々のイケメンにはない、苦汁をなめてきた感じの人をみると、何か力になれないかと思っちゃいます。もちろん好きで弁当屋やってる人もいると思うし、これはあくまで私の勝手な妄想の世界ですけどね。
こんな感じで男の人に対しては自由な発言をしてますけど、女の人には言えないんですよ。芝居の演出をしているときも、男性にはズケズケと言えるんですけど女性には無理ですね。女のコへの対応があまりに優しいためにレズ説が流れるくらいですから…。
というのも、私、女の人がどこか恐いんです。特に集団。もしかしたら男の人に対してこれだけキツイのって、そのぶん女の人に対して点数を稼ぎたいのかもしれないですね。女の人を敵に回したくないというか。男に対してコビを売る女のコに対して、周りの女のコがどういう反応を見せてきたかっていうことを今まで見てきて知ってるんで。それへの裏返しとして「私は男に対してこれだけ言えてますからね」っていう女子へのアピールなのかなと。