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新しい性のカタチ

愛だけじゃ勃たない キム・ミョンガン

性に対して飽くなき探求を続ける、キム・ミョンガン。性を独学で習得した彼は大学で講師をする傍ら、[せい]という相談所で奥様の悩みを解決する救世主だ。今回は幅広い知識と体験によって社会と性について語ってくれた。

愛だけじゃ勃たない

プロフィール キム・ミョンガン

'50年兵庫県生まれ。性人類学者、現代性教育・性科学者。和光大学講師。主な著書に『もっとたのしいセックス』『恋愛の基礎』など多数。自ら主催する性に関する教育・指導・相談所[せい]でアドバイスを行っている。 公式URL : http://www.office-sei.com/

第4章 男は疲れている

最近、セックスよりもオナニーの方がいいっていう男性が増えているじゃないですか。疲れているんですよ。

そもそもセックスレスっていう言葉は日本だけですよ。セックスレスというのは性欲がないのか、または他に原因があるのかですよね。夫婦の間っていろんな要素で成り立っていますよね。つまり日本の場合、様々なものがありすぎるのも一つの原因だと思いますよ。

例えばインポテンツの治療で日本に一番来ているのは、日本以外の東南アジアの人たちって言われてます。あちらはインポテンツになったら夫婦として成り立たない、日が暮れたら何もすることがない状況だからもう大変なんです。

一方、日本だったら夜になったら居酒屋に行ったり、ビデオを観たりとやることはいっぱいあるじゃないですか。エロビデオだってあるし。だから、セックスレスっていうのは満たされた日本社会の現代病的な側面もあると思いますよ。これに加え「原始的にセックスしなくてもかまわないじゃないか」というある意味大人の考え方によって、牡の要素がいろんなところに分散されてるのもありますね。

たしかに文明社会でターザンみたいに野性味あふれる性エネルギーを持てというのが無理な話でね。ジェントルマンで、才能があって、芸術的で優しくて、なおかつセックスも強くて…。そんな男、どこにいるんだ!って感じですよ(笑)。毎日残業をして、疲れて家に帰ったら夜の仕事も週に2、3回はヤって…って可哀想ですよ、男は。日本でバイアグラを一番使っているのは働き盛りの30代ですからね。勃起のメカニズムはどれだけストレスに弱いかってことが分かりますよ。

また困ったことにバイアグラを飲むことに対して女性の抵抗がものすごく強い。薬物に理解のある看護婦さんでありながら、「薬を飲んでセックスをするなんて愛はどこいった!」って言うんです。愛だけじゃ勃たないのにね。

女の人って「男はペニスに頼りすぎ」とよく言うじゃないですか。でもね、ペニスは単なる泌尿器じゃない。自分の肉体の一部であるにも関わらず、いきなり膨らんだりしぼんだりする制御不可能なものによって悩まされたり、励まされたりしてきたわけですよ。仮にクリ○リスが3倍、4倍にも膨らんで制御不可能になったら、女の人だって意識の変化はあると思いますよ。そういう肉体との戦いから派生してくる精神的なものを女性はあまり理解していませんよね。

男にとって勃たないということはセックスができないだけじゃなく、もう一つの主体性みたいなものを確認できなくなっちゃうんですね。だから、フランス書院みたいに男を勃たせるってことは素敵なことですよ。

愛だけじゃ勃たない07
愛だけじゃ勃たない08