勃起していたクリトリスが萎えたから女性の快楽も萎えた、腟の締まりが強いのは愛されている証拠、女性は激しいピストン運動が大好き、挿入が一番感じる……どれもウソ。世の男性のほとんどが、このような間違った認識をしている。現代性社会にはびこる悪しき迷信から幸せのセックスまで、医師・北村邦夫に熱く語っていただいた。
プロフィール 北村邦夫
自治医科大学医学部卒業。'88年より社団法人・日本家族計画協会クリニック所長で、現在は日本家族計画協会常任理事。また厚生科学審議会臨時委員。『ピル』(集英社新書)、『ティーンズ・ボディーブック』(扶桑社)、『幸せのSEX 男の誤解 女の誤算』(小学館)など、著書多数。
AVが若年層に悪い影響を及ぼしているというのは感じます。つい最近も初めてセックスをしたという女のコがうちに来たんですけど、もうね、クリトリス周辺部が真っ赤になってるんです。要するに膿みが溜まっているわけですよ。おしっこするのも痛いっていう。で、まあ診察をしてわかったのは、これはAVの影響だなと。彼女からよくよく話を聞けば、男の子たちは「潮を吹かしてやる」とかいって、女のコを攻め続けるわけですよ。そんなのね、初めてセックスをする女のコからしたらひどい迷惑な話です。
実は、AVカリスマ男優と呼ばれている加藤鷹さんとは番組を一緒にやっていて個人的にも仲良しなんです。彼の場合は深ヅメの上から、さらにヤスリでツメを研いでいる。とても女の子の体に気を遣っている。でも、AVの影響を受けた男たちは、ツメの伸びていることなどに無関心のまま、女性器を刺激するんです。結果としては陰部が傷つき、恐らく手の不潔さゆえに細菌が膿みを溜める。当然、尿道周辺部が傷つけられるわけですから、おしっこするときもそりゃ痛いですよ。
あとGスポットの問題。これはイタリアでつい最近発表されたばかりの論文があって、週刊誌でも僕が色々とコメントを出しているんですが、Gスポットが存在する人としない人がいて、腟オーガズムの経験率にも差がある。つまり、Gスポットがない人は、オーガズムが少ないんです。でもこういった問題も、AVに影響を受けた男からすれば、「俺の指にかかればどんな女も潮を吹く」と、こういう話になっちゃうわけです。まあAVは一種のエンターテイメント映像ですからねえ……。
たとえば激しいピストン運動をしているように見えても、モザイクがかかっている以上、挿入をしていない可能性だってあるわけですから。大量に精液が出ていても、それはコンデンスミルクとローションを混ぜたものかもしれない。そういう「AVの真実」というものを、性というものに関心を持ち始める若い世代には、きちんと伝えていく必要があると思いますね。彼らや彼女が、性に対する意識や学びのチャンスというものに欠けているのは一目瞭然ですから。性の情報はひと昔前より解放されているのに、逆に間違った情報があふれているのは皮肉ですよ。
とにかく、医者である僕としては、若者たちがですね、イカないとかイカせるとか、アクロバティックな体位とか、そんなことばかりにこだわる必要はないじゃないかということなんです。そうやってAVに常識を壊されてしまった結果、間違ったセックスへと流れてしまうんです。