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新しい性のカタチ

学習なしに、楽しいセックスはありえない 北村邦夫

直筆短冊

勃起していたクリトリスが萎えたから女性の快楽も萎えた、腟の締まりが強いのは愛されている証拠、女性は激しいピストン運動が大好き、挿入が一番感じる……どれもウソ。世の男性のほとんどが、このような間違った認識をしている。現代性社会にはびこる悪しき迷信から幸せのセックスまで、医師・北村邦夫に熱く語っていただいた。

学習なしに、楽しいセックスはありえない

プロフィール 北村邦夫

自治医科大学医学部卒業。'88年より社団法人・日本家族計画協会クリニック所長で、現在は日本家族計画協会常任理事。また厚生科学審議会臨時委員。『ピル』(集英社新書)、『ティーンズ・ボディーブック』(扶桑社)、『幸せのSEX 男の誤解 女の誤算』(小学館)など、著書多数。

第4章 快感はペニスではなく脳で感じている

だけど、基本的にセックスとはこうあるべき、というのはないんです。100組のカップルがいたら100通りのセックスがあってしかるべきだと思うし、特に現代はセックスというものが生殖の行為から、例えば快楽を求めたり、コミュニケーションを築いたりっていうものへと否応なく移行しているわけですから。だから、時代の要請に応えるようなセックスのありようというものが、当然出てくるべきだと思います。良いセックスとか悪いセックスという基準も僕にはわからないですね。僕は二人が納得しているのであれば、それが傷つけ合ったり、殺し合ったりということにならなければ、何でもありだと思っています。

ただ、特に若い人には、セックスというのは股でしているのではないということを、改めて認識して欲しいですね。男が気持ちがいいのはペニスじゃなく、脳がキモチいいと感じているんです。脳内に視床下部という場所があって、そこに性欲中枢というものがある。胸でも腟でもない、“性は脳なり”なんです。それをちゃんとわかっていれば、人それぞれに色々な営みの工夫も出てくるでしょう。

あとよくセックスマニュアル本が出てますが、僕からしたらあれも見る気がしない。マニュアル本があるとしたら、それは例えば××流のマニュアル本っていう風に作るだけであって、普遍的なものではないんです。

よく冗談で言うんですが、僕らの細胞は60兆の細胞から成り立っているから、60兆同士の営みでは、60兆×60兆の体位があるんだと。だから何が48手だ、笑わせるんじゃないよってね(笑)。もっともらしく48手を描いて語る絵や映像は、何とも陳腐でならない。60兆の細胞、その一つ一つのスイッチに触れる営みは、ひょっとしたら、選び合った二人の営みをいかに深めていくかということなんじゃないかと思います。

それをあまりにも安易に、60兆のうちの0.00001%も触れていないにも関わらず、パートナーを替えれば気持ちや快感の度合いが変わると思っている。ただ、まあ、僕も替えていいって言うんだったら替えたいですけどね(笑)。それは冗談として、僕たちは本当に1人の相手に対して性を極めることなく、人生を終えていってしまう可能性があるんじゃないかなって思いますね。このメッセージだけは忘れないで欲しいですね。

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