原料価格の上昇が著しい一方で、低価格競争にある現在のコンドーム業界だが、昔は今よりも圧倒的に販売個数が多かったという。工場長は当時をこう振り返る。「恥ずかしくて買いにくいという理由から、昔は訪問販売というのもあったんです。何十棟とある団地に行って、営業のおばさんが団地妻に売るんです。1日に3万~5万円くらいは普通に売れてましたね」1ヶ月に数十万円も売り上げる人もいたというから驚きだ。
もちろん、ヒット商品も多く出していたことも、好景気の要因の一つだろう。中でも市場を一気に伸ばしたのは、昭和47年に発売された“リンクル”シリーズだ。これは0.03mmという驚異的薄さを誇り、今なお売れ続けているという超人気のコンドームだ。これはコンドームの代名詞といっても過言ではない。「目が回るくらい忙しかったし、とにかく出せば売れた」という言葉通り、当時は1箱3,000~5,000円で飛ぶように売れ、業界全体の市場規模では、年間で実に500万グロス(7億2千万個)に達した。現在は、325万グロス(4億7千万個)ということを考えると、いかにその人気が凄かったかがわかるだろう。
そういった当時の状況と比べると現状は極めて厳しい。対処方として例えば、新商品を開発してそれなりの価格に設定し、徐々に全体の商品価格を上げていくという方法もあると思うのだが、その辺はどうなのだろう。「競争相手がいますからそれは難しいです。あと昔あった高品質&高価格という流れから、現状は徹底的な低価格をユーザーが求めているという状況がありますからね……」
昔は3,000円~5,000円の高価格帯でも売れていた。高級なものに関しては、パッケージデザインを高級にしてみたり、コンドームに色をつけるなどをしてそれなりに付加価値を出していたのだ。残念ながら今では色つきコンドームで、価格は1,000円前後というのが当たり前の時代なのだ。また、売り上げ減少の要因として少子化が挙げられる。「これはもう何年も前から言われていることですね。子供の人数ももちろんだけれど、10代後半から20代っていうコンドームの使用層が激減しちゃっているんです。さらに、現在の若者の避妊に対する意識の低下もあるでしょうね。昔は今ほど性風俗は乱れていなかった。当時コンドームは“避妊具”っていう認識が強かったですよね。今ももちろん避妊具ではありますが、“性感染症を防ぐための道具”という印象の方が強いですよね」