「おかえりなさい」「早くぅ、こっちにきてぇ」「恥ずかしいよぉ」。扉が開いた瞬間、幻聴だろうか、艶かしい猫なで声が聞こえたような……。まあでも実際に聞こえても全く違和感がない。だって制服や浴衣、キャミソールなどに身を包んだ美女が目の前にいるのだから。
オリエント工業のショールームは美女だらけ、と言っても全て人形。「遠慮せず、触って感触を確かめてくださいね」広報の児玉さんは笑顔で勧めてくれるが、いかんせん、こんなにリアルでカワイイと、何だか気恥ずかしい。意を決し、言われるままにオッパイを揉んだり、股を開いたり、髪をなでたり、とにかく何でもやったわけだが、どれもこれもいちいちスゴイ……というか感動!相手が人形だとわかっているにもかかわらず、罪悪感を抱いてしまうほど。まったくどうなってんだ、最近のダッチワイフは? 心の叫びが聞こえたのか、児玉さんが丁寧に説明してくれた。
「最近はラブド-ルとも呼ばれています。150cmと140cmの2サイズ展開で、材質もソフトビニ-ル(以下ソフビ)製と、シリコン製の2種類に大別されます。価格はソフビが約20万円、シリコンは約60万円ですね」商品のクオリティ同様、価格も安くない。また従来までは“性処理の道具”という意味合いしかなかったダッチワイフだが、ここ数年のクオリティの進歩により、役割はいっそう広がりを見せているんだとか。そのひとつとしてあがるのがダッチワイフのアイドル化。「ファン(ドーラー)のイベントが開催されるなど、“フィギュア”としての人気も凄まじいですね。ドールをモデルにした写真集やDVDまで発売されています」
さらに、そういった愛情は別の世界でも違った形で影響を及ぼしている。それが“癒し”だ。「一人暮らしの男性に多いのですが、添い寝をすることで安らぎを得られるという人もいます。中には不眠症が治ったという報告もあります」
実際の医療業界からも、その効能の高さはお墨つきをもらっている。「その方は少々鬱気味で、ある日精神科を訪ねたところ、先生から『オナニーはどうしてますか?』って聞かれたみたいです。その先生がいうには、自分の手だけで処理していると、より鬱が進んでしまうので、たとえ人形でも心を傾けて出すことで心のヘドロのとれる具合が違うっていうんです。他にも病院の先生からの推薦状を携えていらしたお客さんもいました」
あるときはアイドル、またあるときは癒しグッズ……。何だかまだよく実体が掴めない。ただ、昔マンガに出てきた、人を象っただけの浮き袋みたいな人形とは、外見から価値に至るまで全く別ものであることは確かなようだ。