細かな新参企業はあるものの、現在の日本のドール市場は、オリエント工業のほぼ独占状態。では海外はどうなのなのだろう。何でも最初にシリコン製のドールを開発したのはアメリカの方が早かったんだとか。
「うちが制作したのは'99年~'00年にかけてなんですが、それに1年ほど先がけてアメリカ製の人形が『リアルド-ル』という名で発売されましてね。最初に聞いたときは確かに焦りましたよ(苦笑)」社長のこの苦笑いにはわけがある。どうもこのリアルドール、ハリウッドの特殊技術を駆使して仕上げたといわれるわりに、完成度が異常に低かったようなのだ。「もうとにかく大雑把でいい加減で、あと重たい。ユーザーレポートを読んだんですが、1年たらずでボロボロになって使い物にならなくなったみたいです。どうやらシリコンという素材に対する研究が甘かったようですね」
それほどまでに繊細なシリコン。オリエント工業ではどう賄い、扱っているのか。企業秘密を少しだけ教えてもらった。「国内にある海外メーカーからドラム缶でもらってます。内部の骨格を手で組み立てて固定したら、シリコンを注入するという感じですね。すべて生産は日本国内で展開しています」生産工場の取材だけは、絶対に許可をしていないという。それほどのトップシークレットだ。
さきほどの声を含め、これだけリアルで精巧な作りだと、ユーザーから新作ドールに対する進化や期待は決して小さくないはず。例えば声を出すようにして欲しいとか、顔の表情が変化するようにして欲しいとか……。「確かに顔の好みや肌の質感など、細かな要望は多いです。あと声や表情に関する要望もあります。ただそれと同時に、ドールに機能をもたせることで、キャラの自由度が減ってしまうから嫌だという声もあるんですね。思い込みや想像する余地があるからこそ、ドールには無限の可能性があるのではないでしょうか」技術は進歩してもユーザーの精神的な拠り所となる部分は残さなくてはならない。実に難しい作業だ。ちなみに1999年に発足した新たなブランド「ファンタスティック」では、二次元系の等身大フィギュアを販売し、ホビー業界に新たな旋風を起こしている。
最近では韓国や台湾といったアジア諸国から、このショールームへ見学ツアーに訪れるらしい。日本の業界トップということは世界ナンバー1ということにほかならない。オリエント工業には世界進出の話もきているらしい。だが意外にも社長は消極的だ。「たしかに海外でうちの商品を扱いたいっていう話がいくつかきてます。近々中国やヨーロッパで展示会を開催する話もありますしね。ただ規模がデカくなると色々と面倒ですからねえ。海外でちょっとでも問題でも起こした日には、(訴訟関係のリスクで)ウチみたいなちっぽけな会社はあっという間に潰されちゃいますよ(笑)」お客さんの肉体と直に接するドール・ビジネスだからこそ、悩みの種は尽きないようだ。
(文:オオサワ系) Web版、終わり
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