きっと悪い夢を見たのだ。
目を覚ました優佳は自分に言い聞かせる。淫らな夢を見るのは不可抗力だ。三十歳に近づくにつれて性欲が増している自覚もある。女盛りというやつだろう。恥ずべきことではない。
(もしかして身体が妊娠したがっているのかな……なんて)
隣で眠る英輔へそっと視線を遣る。涎を垂らす夫に人妻はくすりと微笑んだ。穏やかな寝顔を見ていると、ここ数年の苦労が報われたことを実感できた。
かつて、夫は心の不調で会社を辞めた。その後は就職活動もせず、三年もの間、優佳は無職の夫に代わってアルバイトで家計を支えた。それでも生活は苦しくなるばかりで……英輔が働くことを決意してくれたとき、優佳は心から安堵したものだ。
『親父がさ、俺の会社で働かないか──って言ってくれてさ。実家に戻れば家賃も払わなくて済むし、住み込みの家政婦さんもいるから、優佳も楽できると思うし……どうかな?』
その提案を受けたとき、正直に言えば断りたかった。夫の実家で生活するなど息苦しいし、専業主婦に戻っても、家政婦がいるとなれば肩身が狭くなるに違いない。だが四の五の言っていられないのが現実だ。地元に戻れば夫の気分も落ち着くだろうし、出費も少なくなる。何より三年ぶりに夫が働いてくれるのだから、これを断る理由はなかった。
結果、あのときの判断は間違ってなかったと思う。
義父との同居生活が始まって一ヶ月。穏やかな日々が続いていた。桜子は気を遣って家事も分担してくれるし、会長職に就いている達男は半隠居の身で家にいるが、一緒にいて居心地が悪くなることもない。この前なんて三人で昼間から映画鑑賞をしたくらいだ。
(……だからこそ昨夜のことは驚いたな……あ、いやでも……夢、だよね?)
そう、夢に違いない。確認するように頷いて、びっしょりと汗ばんだ腹に掌を宛がう。子宮が渇きを訴え、強烈な熱を放っている。二人の淫行に刺激された五感は生殖用に切り替わったままで、股の間がむずむずと甘く疼き続けていた。
(英輔さん……ねえ、そろそろだめ? 私……寂しいよ。シたい……な)
眠りこけた夫に内心で語りかける。清楚妻は己の破廉恥な欲求に羞恥するが、夫が無職の間──つまり三年以上も性行為に及んでいないのだ。そんな中で、あれほどの熱情的な交わりを目撃しては、牝の欲望が下腹部で盛るのも必定と言えた。
(……って、目撃なんてしてないってば。あれはただの夢だから……)
もう一度念じるように胸のうちで呟き、夫を起こさぬよう身を起こす。一階に降りると既に桜子の姿があった。出汁の香りが満ちた台所で弁当を作っている。
(桜子さん……やっぱり綺麗だな。もう四十近いとは思えない……)
透明感のある白磁色の肌。長い睫毛に縁どられた、どこか憂いを帯びた眼差し。長い黒髪は後頭部で纏められ、美しい首筋が無防備に覗く。官能美を讃えた女の曲線は、危うさを感じるほど妖艶な気配を漂わせていた。
耳に掛けていた毛束がはらりと垂れる。暖簾のように揺れる髪を、桜子はそっと薬指でかきあげた。その拍子に視線が交錯し、優佳は我に返った。
いけない──よく時刻を確認すれば、完全に寝坊ではないか。
「あっ……桜子さん、ごめんなさい! 夫の弁当を作らせてしまって!」
「おはようございます、優佳さん。そう焦らずともよいですよ。早起きして、退屈だったのです。どうぞ、今朝はゆっくりなさってください」
慌ててエプロンを身に着ける優佳に、桜子は穏やかな口調で返す。そこに昨晩の面影はなかった。やはり夢だったのだ。ほっと胸を撫で下ろしていると、今度は義父が姿を現した。
「おお、味噌汁の良い匂いだ。二人ともおはよう。朝からおつかれさま」
「お、お義父さん。おはようございます」
義父はニコリと微笑む。一瞬ドキリと肩が強張るも、普段と同じ穏和な口調を聞いて緊張が緩む。二人の様子に不自然な点はなかった。新聞を拡げる達男の前に桜子が朝食を出す。
食パンはキツネ色より少し濃いめで、ジャムはイチゴ。コーヒーは砂糖とミルクが多め。目玉焼きは片面で、ソースはウスター。カリカリに焼いたベーコンを添えて、サラダには胡麻ドレッシング。義父の好みを網羅したメニューだ。
「む……桜子くん、少しコーヒーの甘味が足りないよ。それにジャムも少なくないか」
「前回の検査でお医者様に指摘されたではありませんか。少しずつ糖分を減らしますから、慣れてください。それが嫌なら私を解雇してくださいね」
「いやあ、朝から強烈だな。私はもう塩がどこにしまってあるのかも把握していないのに、君を解雇なんてしたら生活が成り立たないよ。やれやれ……大人しく従いますよ、桜子先生」
おどけた調子で言って達男は降参を示すように両手をあげる。どちらが雇用主か判らない微笑ましいやり取りに目を細めていると、今度は寝癖だらけの夫が姿を見せた。
「やぁ……皆、おはよう……ふわぁあ……早いね……」
「私が言える立場でもないけれど、あなたが遅すぎるのよ。早くシャワーを浴びて。あなた、朝の準備に凄く時間が掛かるんだから。ほら、顔を洗って髭剃って。それから、だらだら水を流しちゃだめよ。判った?」
「はーい……優佳様の仰せのままに……全く、俺の妻は朝から強烈だなぁ」
その反応を見て、夫を除く三人で顔を合わせ、ふふッと笑い合う。流石は親子だ。父親と同じようなことを言う夫が可笑しかった。
(……うん。いつも通りの日常……幸せな一日の始まりだよね)
パンが焼けるのを待ちながら、優佳は義父と家政婦の姿をちらりと一瞥する。今日の予定を確認する二人は、あくまで良好な雇用関係に見えた。
やはり昨晩のアレは事実ではないのだ。この二人の間にあんな間違いがおきるはずがない。暴虐的な獣の結合に及ぶなどあり得ない。すべては夢の中で起きた出来事だったのだ。
──……と、そう思いたかったのに。
「──ぁっ──んッ……あぁ、ぁン──ンンッ──あんッ──ァッ──」
一階から途切れ途切れに喘ぎ声が聞こえていた。意識を逸らすよう努力するのだが、脳というのは厄介なもので、一度認識するとどうにも頭から離れてくれなかった。
(ああ、嘘……またなの……? 今日もあの二人は……?)
これで五日連続だった。もはや現実であるのは疑いようがない。二人は──桜子と達男は毎晩、たっぷり三時間は性交渉に及んでいるのだ。
(眠ら、なくちゃ。別に……あの二人がエッチしてたって……か、関係ない)
優佳は居候の身だ。とやかく言う権利はない。義父は既に離婚済みだし、桜子に夫がいるという話も聞かない。つまり優佳の取るべき選択は一つ……見ざる聞かざる言わざる、だ。
(──って、判っているけれど……ああ、こんな声聞かされたら誰だって)
布団の中で、右手をそうっと寝間着の内側に潜らせる。予想通り、そして想像以上に濡れた下着の感触が指の腹に伝わった。
女の溝から漏れる熱波たるや凄まじい。貝口は自発的に呼吸をしているかのように、優佳の手に向かって灼熱の吐息を吹いていた。
「あ……ン」
指先が肉唇の縁へ触れた瞬間、甘い刺激がふわっと腰に広がった。我慢しなくてはと思うも自制心が働かない。五日も連続で身近に男女の営みを感じているのだ。飢えた女体が肉欲に押されるのも仕方のないことだろう。
縦の筋に沿って指を上下させる。疼きが少しだけ解消されて、頭に幸福な感情が滲む。ソレは甘美な毒だ。中毒性のある快感がもっと欲しくなって、ショーツが食いこむのも構わず指を押しこむ。生地が肉芽に触れて電流が奔った。
「あンッ……!」
寝室に響いた自分の嬌声に肩が躍る。息を殺し、そうっと夫の顔を覗いてみると、涎を垂らして眠りこけている。その表情を見て安堵すると同時、少しだけ残念に思う自分もいた。
「ね……ねえ、あなた……起きて……ないの? ねえ……」
英輔が目を覚ます気配はなかった。もう少し強く叩けば起きるだろうが──セックスしたいから起こすなど清楚妻にできるはずもない。
(やっぱり今日もだめ……英輔さんは、まだできないの……?)
この五日間、優佳は何度も英輔を夜伽に誘おうとした。だが慣れない職場で働き疲れた夫に「セックスして」と口にするのは難しい。たっぷりと睡眠をとって、心も身体も、できるだけ健やかでいさせてやりたい。
(でも……この程度の刺激じゃ私……うう、もどかしい……)
中指を動かして自分に悦を送るも、夫を起こさぬように注意しながらの自慰では、頂へ達するのは難しかった。それに優佳が欲しいのは単純な快感だけじゃない。男性に抱かれる充足感──太い腕の中で得られる女の悦びが恋しいのだ。
(桜子さんみたいに……男の人に強く抱き締められながらイけたら……)
そんな風に考えだすと優佳は居ても立っても居られなくなる。我慢できたのは二日目までだ。一昨日も昨日も、こうして悶々とした感情が極致に達して、優佳は寝室を出ていた。
忍び足で廊下を進み、一階へ降りる。リフォーム済みの家は床板も丈夫で軋む音は立たない。女の喘ぎ声を辿るようにして、和室に身を寄せる。
(ああ……私は今日も他人の情事を覗くの……)
同居する人間の性事情を盗み見るなど下衆の行いだ。だが心に痛みを感じても、黒い情欲に蝕まれた身体は言うことを聞かない。
「はぁ、はぁっ……あっ、あんッ! ああンッ!」
「──ッ……」
轟く媚声に、悶える牝の姿に、優佳は汗の浮いた首をこるりと上下させた。
行燈型の照明が橙色の光を放ち、蠢く女体を妖しく照らしている。畳に敷かれた黒いマットの上で、桜子は自身の股穴に性玩具を挿入していた。ピンク色のバイブを根元まで差しこみ、空いている左手で乳首をぐにぐにと捏ねている。ヴゥウウウン……という不気味な駆動音を聞けば、膣中にある道具が機械的な運動を繰り返しているのは明らかであった。
(桜子さん……自慰もこんなに激しいの……でも、お義父さんはどこに……)
義父の姿が見えないことに違和感を覚える。部屋の外にいるのであれば遭遇する危険がある。一刻も早くこの場を離れなくては──そう思う優佳の耳に、信じられない言葉が届く。
「えいすけ……さぁんッ……」
(……え?)
桜子が夫の名を呼んだのだ。なぜここで英輔の名前が出るのだろう。いや、聞き間違いに違いない。だが女は、優佳に現実を教えるように、自慰の中でその名を繰り返す。
「ああ、良いの……英輔さんのち×ぽッ……はぁ、はぁ……そ、こぉ……英輔さんのち×ぽでぇ……あ、ああ……桜子に射精して……孕ませてぇッ」
熱情的に叫び、桜子は乳首を強く引っ張る。女の身体がマットの上でブリッジを描いた。股間が天井に向かって突きあがり、バイブを咥えた孔の辺りから透明な飛沫が散る。
「はぁ、はひぃッ……ひぎっ……イ……クぅッ……!」
愉悦に跳ねる腰は卑猥なダンスを踊っているようだった。それでも桜子は自慰を止めない。寧ろここからが本番とばかりに、昇り詰めている身体へバイブを抜き差しさせるのだ。
「んぅぅうっ、はぁ、はぁ……ひぃっ、グッ……イクッ、イクッ!」
バイブが出入りする。膣肉を捏ね回す玩具は粘り気のある白濁液を撒き散らしていた。精液のように見えるが栗花の香りはしない。そのすべてが愛液らしい。極度の興奮と性玩具の振動、膣が火傷しそうなほどの激しい抽送が、女の露を粘着質に泡立てているのだろう。
(バイブって、そんなに気持ちいいのかな……アレで擦るの、痛くないの?)
「はぁ……はぁ……あ、ん……はぁ、はぁっ……」
意識せぬまま優佳は自慰を再開していた。桜子が夫の名を呼んでいたことも忘れて、ショーツ越しに割れ目を擦る。もどかしくて、息が詰まって、苦しくてたまらない。桜子のように、何も考えず性欲に溺れられたら──。
「ふふ、甘い蜜に誘われて、可愛い蝶々が迷いこんだみたいだな」
「──え」
背後から声がして、優佳はバッと振り向く。廊下に浮かびあがる義父のシルエットに心臓が止まるかと思った。慌てて右手を寝間着の中から抜く。まずい──必死に言い訳を探す頭が熱を帯びて、焦燥と混乱で言葉が出てこなくなる。
「あっ……や、お義父さ……これ、違っ……私はそのっ」
「ははは、別に構わんよ。取り繕う必要もない。君が何を言ったところで、もう結末は決まっているからね。それはそう……君がこの家に来るより前から、決まっていたことなんだ」
「何を言って──きゃッ!」
義父にドンッと身体を押される。引き戸にぶつかる──衝撃を覚悟した身体が宙に投げだされた。背中がぼすっとマットに受け止められる。ぐるりと回った視界の端に桜子が立っていた。先までここで自慰に耽っていた家政婦は、どこか申し訳なさそうに優佳を見下ろす。
「桜子」
「……はい、達男様」
桜子の身体がすっと動く。屈んだ女は優佳の右手首に枷を嵌めた。銀の光沢を放つ手錠を見てギョッとする。動揺している暇もない。今度は左足首に鉄の感触を覚えた。カチャリと音がする。達男によって左脚が拘束されたのだ。
「え、え……ふ、二人とも何をしてッ……これ、なんで……」
「まあまあ、落ち着きなさい。暴れても関節が痛くなるだけだぞ」
「長さも調節できますから、辛かったら言ってくださいね」
桜子が左側に回ってくる。左手も拘束される──理解して咄嗟に腕を引くも意味はなかった。意識が桜子に向いた直後を狙って、右の足首が拘束される。そうなれば終わりだ。最後に左手を掴まれ──部屋に入ってものの一分足らずの間に、優佳は四肢を拘束されていた。
「何……なん、なの……私は何をされてるんです……」
目まぐるしく変わる状況に頭が追いつかず、叫び暴れることもできぬまま、優佳はただ疑問を口にする。義父は答えない。白いタンクトップを脱ぎ捨てると、気合を入れるように「ふー」と息を吐いた。
「さて、いよいよ始まりだな。人妻……それも息子の嫁をオナホにできると思うと興奮するよ。優佳さんも同じ気持ちではないかな? 夫の父親の奴隷になるんだ。背徳感で昂るだろう」
「オナ……ホ……どれ、い……?」
この五日間で何度も耳にした単語だった。一週間前ならばオナホの意味さえ判らなかった。しかし今は、それが男性器を扱くための道具であることを、清楚妻は知っている。
「……達男様。お言葉ですが、優佳さんの調教はやめませんか。旦那様がおられるのに可哀想で……義理の父親と主従の契りを結ぶのは流石に……」
「ふむ。だったらお前はクビだ。明日から来なくていいぞ。じゃあな」
義父は端的に、冷淡な口調で告げる。家政婦は双眸を見開き、淡い橙色で満たされた部屋でも判るほどに、その顔を絶望で蒼白にする。
「そ、そんなッ! 私の身体はもう、達男様なしでは!」
「だったら大人しく手伝え。それに桜子……お前が一番よぉく判っとるはずだろうが。わしは優佳を不幸にするわけじゃない。今からわしのモノで……ふふ、お前を牝に仕立てた逸物で、肉穴として生きる悦びを教えてやるだけだとな」
桜子はこくりと頷いて屈むと、優佳の顔を太腿で挟むように正座した。股座から立ち昇る女の匂いが首を舐め、頭全体をねっとりと覆う心地がした。
(待っ……て。これ……私? 桜子さんじゃなくて……今から私が……?)
義父が穿いているパジャマの紐を緩めた。畳に布の落ちる音がする。こんもりと膨らんだブリーフを見て、優佳の頭はようやく、自分がレイプされることを理解した。
「あ──あなた助けてッ! お義父さんに襲われているのッ!」
弾けるように叫び声をあげ、肢体を暴れさせる。だがマットの四隅から伸びた拘束具はよほど頑丈らしく、ガチャガチャと音がするだけでビクともしない。
「ははは、いいねぇ。女を犯すというのはこうでなくてはな。見ろ桜子。お前も最初はこんな風に泣き叫んでいたものだ。それが今ではケツ振ってち×ぽを懇願するんだからなあ」
「ああ……だって達男様のおち×ぽがあまりにも凄いから……桜子さんもすぐに判りますよ。私たち女はち×ぽ様の前では無力な牝……所詮、男性の性欲を処理するしか使い道のない、生物以下のチンコキ穴だということを……」
「そしてコキ捨てに使われるのが、何よりの幸福だということをな」
達男がブリーフを脱ぎ捨てる。瞬間──優佳は零れんばかりに両の目を見開き、言葉を失うどころか息をするのも忘れて、硬直した。
(うそ……でしょう? あれが……だ、男性器……なの?)
昨日まで部屋は闇に覆われ、隙間から覗いていたこともあって、義父の持つ性器の全貌は見えなかった。あるいは直視することを避けていただけかもしれないが──今、まともに対峙してしまったソレの巨大さに戦慄した。
橙色の光を浴びた逸物は猛々しく屹立し、臍へ接吻するほどに反り返っている。鬱蒼と繁茂する剛毛からそそり勃つ肉刀は、マツタケにも似ていて──しかし高級食材を比喩に用いるにはあまりも、禍々しいオーラを放つのだった。
「な……なんですか、それ……な、んで……それ……本当、に……?」
「おいおい、処女みたいな反応だな。まさか初めてか? なんて、そんなわけないよなぁ。ふふ、わしのモノは凄いだろう。女殺しの一品よ」
誇示するように達男は右手でペニスを扱く。鈴口に浮いたカウパーが塗り広がって、赤黒い逸物はぬらぬらと毒々しさを増した。義父はマットに膝をつく。股の間に屈む男を見て必死に脚を閉じようと試みるも、拘束具が女の抵抗を許さない。
「そう怯えた表情をするな。たっぷり解した後で挿れてやる。お前はただリラックスして、女の幸せを味わっていればいい」
「し、幸せって……本当に私を……息子の妻を犯すつもりなんですか……? よ、嫁を凌辱するなんて……し、してもいいと思っているんですか……?」
「ははは、いいわけがなかろう。だからこそ、愉悦もひとしおなんだろうが」
狂いきった言葉を躊躇いなく発して笑い、義父はハサミを取りだす。銀の刃物を見て内臓が委縮した。「動くなよ?」と義父が発した声もまた凶器と同じ鋭さを孕んでいて、優佳は完全に硬直する。橙色の光を反射する刃先は、普段よりも随分とぎらついて見えた。
(次回更新 1月16日)