羅刹鬼1 美女と野獣のプリズンブレイク(上) 1
【羅刹《らせつ》】
大口を開けて人を食らう恐ろしい魔物。
力が強く、破壊と殺戮をもたらす。一方で善神の一面を持ち、美しい女性の姿をとることもあるという。
第一部 美女と野獣のプリズンブレイク
第一章 いつものお仕事
うぅ……
クチャ……クチャ……
んっぐ……うぅ……ぁ……
クチャ……クチャ……
響くのは女のうわずった声と、ぬめりを帯びた水音。
ここは牢獄の中。
壁に引っかけられた照明が、石畳の上に頼りないぬくもりを落とすだけの空間。
その奥で重なり、まぐわう女とケダモノ。
金髪の女が、僕に組み敷かれてうめき声を上げていた。
女は長い金髪をシーツがわりに広げ、僕にレイプされている。
綺麗な榛色の瞳をした女だった。出会った当初、彼女の瞳は強く輝き、目を見張るほど惹かれる魅力があったけれど、今となってはもう、その光は失われており、濁りきった目が赦しを求めて牢獄の天井をさまようだけ。
僕はそんな双眸をのぞき込むようにして、彼女を犯した。
腰を押し込むたびに、色めく悲鳴が上がり、拡張しきった瞳孔に火花が散るのが見えた。
内臓の奥深くを力強く押し上げられて、彼女の口を塞いだ開口枷の隙間からは、とめどなく涎があふれ出す。延々と絶え間なく襲いかかってくる快楽の荒波に、理性や貞淑はすっかり溶けて、彼女は己を蹂躙する暴漢相手に、愛する恋人にだけ見せるべき淫らな素顔をさらしてしまっていた。
女の整った顔が、僕の乱暴な抽送に揺さぶられて苦悦に歪んだ。その息も絶え絶えな様子を鑑賞していると、不意に胸の奥を締めつけられるような思いに襲われる。
それは純然たる性欲の高まりだった。
この女は、すごく具合がいい。何度犯しても飽きなかった。次の射精はどれほど気持ちいいものになるのだろう。そんな期待で、女を蹂躙するリズムはますます加速した。
「はっ! はっ! はぅ……ぐぁ! ――――んんあ゛ぁ!」
動作の質が変わったことを、女の身体は敏感に察知した。
膣は潤いを増すことで摩擦を助け、くびれた腰が浮いて欲望の通り道を開けた。抽送の合間を縫って小刻みに発せられる嬌声に、鼻にかかる心地よい響きが生まれた。その声音はまるで脳の古い部分から湧き出してくるかのように獣じみていた。
もっとも、一連の反応は、大切な内臓を凶器で制圧された女にとっては至極当たり前の反応であって、もはや彼女に許された思考は、いかに僕を満足させて穏便にこの行為を終わらせるか、その一点に絞られている。
どれだけ女が甘い啼き声で赦しを請うても僕の動きは止まらない。血管が浮き出すほど怒った陰茎が、彼女の奥へと消えるたびに、細い女体が反り上がり、白い胸の上で豊かな脂肪が楕円運動を繰り返した。
そんな機械的な運動に耽っていると、やがて開口枷の奥から小さな舌先が頭を出してくる。
この女は、昂るとこうして舌を伸ばして悶える可愛い癖がある。
口枷の奥で空気を捏ねる粘膜の蠢き。それはまるで獲物を探して空気中で頭を振るヒルのよう。あまりに淫靡な光景を見せつけられ、僕は我慢のインターバルを取らざるを得なかった。こみ上げる射精欲を、尻に力を込めて押しとどめると、行き場を失った血流が海綿体をひと回りほど膨張させた。
「あうっ!」
唐突なサイズアップに、女はあごを上げてよがった。心が通った気がした。彼女は悦んでいた。少なくとも、身体は悦んでいる。セックスの醍醐味だ。高揚感で、彼女を犯す動きはより一層、熱を帯びたものになった。僕でどんどん気持ちよくなってほしい。本気でそう願っていた。だって赤子を宿してしまえば、もう僕のセックスを楽しむ機会は訪れないかも知れないのだから。
僕に与えられた仕事は、この女を孕ませること。
女の肉体が限界を迎えるまで犯し、種を注ぎ続ける。
その過程で彼女も愉しんでもらえるなら、それに越したことはない。
女の秘部を隠すべき衣服は、ほとんどが僕の手によって引き裂かれ、腕と脛にその端布を残すだけだった。女は白い柔肌をすべて薄闇にさらし、あられもなく僕に股を開かされている。
彼女は足を閉じる努力を、もうやめていた。僕に逆らえば猛獣の責めが再開するからだ。大人しく受け入れて従えば、こうして丁寧に凌辱してもらえるのを、彼女もようやく理解してくれた。
金髪の女は丸一日、ここで僕の慰みものだった。
毛布一枚もない冷たい床の上で犯されているにもかかわらず、薄桃色に上気した肌はその火照りを隠さず、珠のような汗は匂い立ち、秘部から聞こえる湿った音はぐちゅぐちゅと下品に牢獄に反響した。
もっと犯してほしい。
もっと、もっとと、女の身体は欲している。
寝食なしに、ぶっ通しでレイプされ続けているのに、まだまだ僕の暴力的な男根を突っ込んで蹂躙してほしいと懇願している。そうに違いない。放心したそぶりで隠しても無駄さ。言葉がなくても分かる。その潤んだ瞳が、その頬の綻びが、上気した呼気に含まれた匂いが、女体の本音を物語っている。
「あっ! あっ! あっ! あぅ……あぁぐッ!?」
乳が弾むリズムに合わせて、付随的に絞り出される声にも艶を隠しきれていない。彼女は間違いなく、僕に好き勝手されて悦んでいる。
金髪の女は屈服した。
僕が堕としたんだ。
我ながら、ほれぼれするような仕事ぶりではないだろうか。全戦全勝。僕にレイプされて、最後まで操を貫き通せた女はいない。この女も、もう僕のものだ。だから僕が責任を持って、最後まで仕上げたいと思う。
そんな支配の喜びが脳裏をかすめた、その瞬間に、痺れにも似た熱気が腹の底から喉元に向かって駆けのぼる。
失禁めいて尿道を灼く射精欲。
その衝動に突き動かされるままに、女の腰骨を掴んだ。ヘソの穴に親指が引っかかるほど、がっちりと両手でホールド。
「――!?」
瞬間、女の顔にかすかな緊張が走るのが見えた。
彼女は身動きが取れず、これから訪れるクライマックスの予感に、眉根にキツくしわを寄せることで訴えた。目ではやめてくださいと理性が言っていて、瞳の奥では早く下さいと本能が叫んでいる。そんなまなざしだった。
ゴリゴリと肉襞を削り上げる作業に没頭した。
僕のセックスは、女に懐妊を絶望させるのに充分すぎるほど野獣めいていた。
「んーーーーっ!! んーーーーっ!? ん゛ーーーーっ!!」
ギアを上げたストロークの連打に、女は何度も身をよじり、床の上をのたうった。もう逃げられない。次に射精されたら産むしかない。そう理解させ、抵抗を奪い取るために必要な悦楽の儀式だ。
同時に、彼女を壊さないよう母体に気づかって動くことも忘れない。この塩梅がいいんだ。気づかいレイプ。これこそが、女が一番気持ちよくなれるセックスの様式美。この仕事を任されてから、もうずいぶんと長いこともあってレイプに関しては一家言ある。どうせ妊娠するなら、女には我を忘れるほど気持ちよくなってほしいと心から願っている。
「んお゛ぁっ!? んあっ! んあっ! んあっ! あああっ! あうぁおっ! ぁ……あ♡ あ、あ、あ、あ、あ、あああっっっん♡ あ゛っ、あ゛っ、あ゛っ、あ゛っ、あ゛っ、あ゛がっ♡」
金髪を振り乱し、いやいやと首を振る女。
強すぎるエクスタシーから逃れようと、右へ左へと身もだえする。しかし、その艶めかしくも淫らな動きは、逆に僕の挿入を深く誘導するだけだった。
激しい突き上げに合わせて上下に揺れる、たわわな乳房。
弓なりにしなる白い女体。
熱を帯びた息づかい。
うっすらと涙が浮かぶ榛色の瞳。
僕は一定のリズムで腰を振り、彼女の絶頂を待った。
徐々に短くなっていく女の悲鳴を楽しみながら、ぐちょぐちょと蜜壺をかき回し続ける。
「あ゛、あ゛、あ゛、あ゛、あ゛う――ッ♡!? あっ♡! あっ♡! あっ♡! あぁ――んッッッ――んあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」
ついに彼女の目が細まり、ひときわ大きな声が上がった。
表情が凍りつき、背骨が軋むほど強く反った。肩にまで痙攣がビクビクと伝搬するほど激しいオーガズム。
それを見届けてから、僕も太ももから駆け上がる獣の衝動に身をゆだねた。
体重を乗せた深いひと突き。脳裏に走るフラッシュ。
組み敷いた女の胎に、汚らわしい体液を思うがままにぶちまける。
「ぐっ!? ぅぐっ!!」
ドクッと強い一打が膣奥を叩き、次いでドクドクと堰を切ったように熱い粘液の奔流が注ぎ込まれていく。
「――んああぁ……♡ ああっ……♡! ああああ……――ッッッ♡!!」
女の声が、か細く甲高いトーンに変わった。
灼熱の滾りが、膣奥ですっかり膨らんでいた精子だまりを撫で回すたびに、彼女の頬はだらしなく歪み、口からは犬の息を吐いた。耳の先から爪の先まで、洗いざらい受精の体勢を取ってしまっている。でも恥ずかしがる必要はないよ。女なら誰しも、遺伝子に刻み込まれたセックスマナーには抗いようがないんだ。その相手がたとえ、意に沿わない相手だったとしても。ケダモノであったとしても。絶頂させられたら、抵抗できずにこうなっちゃう。かわいい。
僕の吐精は長い。豚もかくや。
獣の精が、とめどなく女の胎内を侵食していく。それはまったく終わる気配が見えない。
僕に犯される女たちは、僕が射精するたびに、この気が狂うような征服を受けることになる。半日も続ければ、ほとんどの女は全面降伏せざるをえない快楽だ。
僕が送り込む官能の波に溺れないよう、鼻からフーッ、フーッと悲鳴じみた息をつなぎ、虚空の一点をうっとりと見つめる女。その瞳から、ほろりと涙がこぼれ落ちる。凌辱からの解放による安堵か、それとも受精の喜びか。はたまた子を宿す絶望か。
ぴっちりと僕をくわえ込んだ陰唇から、白濁液があふれ出して女の尻と床を汚した。身体の下に敷いたブロンドヘアの輝きさえも、ドロドロとまとめて穢していく。
たっぷりと時間をかけて女の子宮を満たしきった。
彼女の白くて柔らかいお腹が、少し膨れるほど射精した。すごく達成感がある。赤ん坊をお腹に収める予行演習だと思ってほしい。実際に子宮を膨らませているのは、出したてほやほやのザーメンだけれども。種か果実かの違いだけで、似たようなものだ。
やおら立ち上がる。
すると、女の股ぐらからズルリと音を立てて引き抜かれた僕の怒張が上を向き、その勢いで女の腹から顔にかけて一直線に精液が飛び散った。
熱い迸りを顔面に受け、女は己を蹂躙した征服者を陶然と見上げることしかできない。
あれほど出したのに、依然として僕の剛直は勢いを衰えず天を突いていた。
白濁液と愛液でべっとりと濡れそぼったそれは、表面に緑がかった血管が浮かび、ビクビクと脈動し、別の生き物のように赤黒くそそり立って、ゴツゴツと重量感があり、太く、そして長い。馬なみという言葉がぴったりだ。
僕の下腹部にはまだ、痛みを伴う欲望が渦巻き続けている。女を犯したいという原始的な欲求は一向に収まる気配がない。
この尽きることなき灼けつくような性欲は〈ブッチャー〉――屠殺鬼《とさつき》と呼ばれ、恐れられる怪物の特性だった。
僕はかつて人だった。
でも、今はブッチャーだ。
この殺風景で四角い部屋の壁には、大きな鏡がある。鏡の向こうから、僕が女を犯すところを誰かがのぞいているんだ。趣味の悪い連中さ。忌ま忌ましい。
鏡の反対側は格子となっていた。備品は存在しない。がらんどうな石造りの空間。ここはそんなプライバシー皆無の牢獄だ。
壁一面に広がる鏡の前に立ち、自分の姿を眺める。
そこに映る立ち姿には、昔の面影など、これっぽっちも残されていない。
膨れ上がった腹。灰色の皮膚。全身に浮かんだ斑点の数々。爛れた顔面。唇がなく、むき出しの歯茎。そげた鼻。ガラス玉のように赤い眼球。側頭部に突き刺さった丸い装置。
そして、股間から雄々しく伸び上がった悍ましい陰茎。
肉質なボディーとは対照的に、そのペニスだけは鋳物のように重苦しく硬質。
こんな醜い生物が存在していいのだろうか。
自然界への冒涜の権化ともいうべき存在。
それが今の僕。
鏡を見つめながら憮然として突っ立っていると、すぐに頭の中にエコーがかった声が聞こえてくる。
――もっと女を犯せ。仕事をしろ。
これ、第二の僕が話しかけてきたものではないし、ましてや僕の脳内独白でもない。
側頭部に突き刺さった装置からの指令さ。
ブッチャーの脳味噌はクルクルパー。ゆえにブッチャーとは本来、こうして頭部の制御装置から送られる指令に従って動くだけの存在であるはずなんだ。
この狂おしいほどの性欲は、放っておくと暴走する。自分でも抑制が利かなくなって敵味方関係なく暴れ出してしまうんだ。ブッチャーの運用とは、常に暴走と隣り合わせの危険なものだった。だから、ブッチャーを使役する奴らは一回の仕事で、できるだけ多く僕に射精をさせようとする。
実際、僕もまだ足りていない。
丸一日にわたって射精し続けているのにもかかわらずだ。
呆れるほど無尽蔵の獣慾。
驚くべきは、それを実現する勃起力と射精力。
目の前にいる女は、誰であれ息をするついでに犯したい。僕はそんなケダモノだった。そういう風に肉体が改造されてしまっている。自分ではどうしようもなかった。
床に横たわる金髪の女を見下ろした。
彼女こそ、今の僕に与えられた供物。好きなだけ使っていい、僕専用の性処理道具兼、孕み袋。
僕が考えに耽っていた隙に、彼女はなんとか股だけは閉じたみたいだけど、身体を横に倒す気力も残されていない様子だ。おしっこを我慢するような姿勢になって、乱れた呼吸と格闘中。股の隙間からはコポコポと音を上げてザーメンが逆流し、白い水溜まりを作っていた。
硬く冷たい床と、そこに寝そべる柔らかな丘陵。
ほっそりとした手足に残ったズタボロの端切。
対照的に、サテンのごとく滑らかな肌。
豊かに潰れた双丘と、ピンと上を向く桃色の乳首。
それらをまとめて汚す、僕の汚らわしい白濁液。綺麗な尻をしたたり落ちて、床の上で泡立った体液は生本番の証しだ。
女の美しい顔立ちを猿轡が辱めている。
それらのひどく犯罪的な光景と、僕を見つめる死んだ魚のような瞳が、下腹部で消えかけていた熾火に新鮮な酸素を送り込んだ。
心臓を絞り上げられるかのような強烈な衝動。
瞬く間に、ごうごうと劣情が燃え上がる。
僕は気がつくと天井に向かって大口を開け、身の毛もよだつ雄叫びを上げていた。
部屋が共鳴し、鏡がビリビリと振動する。
そんな猛獣の咆吼に、意識を手放しかけていたはずの女が反応を示した。
「――ゃ……」
何かを言おうとしているようだ。なんだろう。興味が湧いた。
一歩、二歩と近づいていく。
その歩みに応じて、ズンズンと床が揺れた。
「――うぉあ、あ……ああああああああっ!!」
女は悲鳴を上げて床を掻きむしった。口枷がはまっているせいで、声がこもってしまっており、何を言っているのかはよく分からないけれど、僕から距離を取りたいようだ。
元気じゃないか。この子すごいな。まだまだ頑張れそう。
この部屋で、もう何十人もの女を犯してきた僕だ。もともと、女体には詳しいこともあって、いまや女という生き物の限界に精通しつつあった。
先ほど、だらしなく手足をおっ広げて弛緩していた状態から、この急速な回復。彼女は、まだあと半日は僕の責めに耐えられると判断できる。さすがは前線に出てくるだけあって体力がある。
女の脇で立ち止まった。
慄然と見上げてくる女の顔に、僕の獣根が太い影を落とした。
僕はそんな彼女の頭を金髪ごと、ぐしゃぐしゃに鷲づかみ。そのままバスケットボールを持ち上げる感覚で、彼女の上半身を引き上げる。
「――っ、ぁあ……!」
女が苦痛に声を漏らした、その瞬間を見計らい、彼女の口枷を爪で引き千切った。
間髪を容れず、僕の汚い馬なみを唇の隙間にねじ込む。
正直、イラマチオはあまり気持ちよくない。
でも僕はもう喋れないから、しゃぶれとか、なぶれとか、喉を使えとか、そういった指示ができない。とにかく穴に突っ込むしかないんだ。
突然のことに、目を剥いて抵抗を見せる女。
昨日今日と通じて、オーラルを強要したのはこれが初めてだ。彼女は嘔吐いて僕の手を掴み返し、僕の足も押して懸命にもがいていた。
カリカリと歯の感触がこそばゆい。噛みつこうとしても無駄だ。ブッチャーの皮膚は異様に弾力質かつ硬質。銃弾を弾き返してしまうほどだ。本来は急所であるはずのペニスにだって、相応の防御力がある。
たとえるなら、鉄芯を通した極厚極太のホルモンに、ぎちぎちにかぶりついているようなものだろう。人の咬合力では、文字どおり歯が立たない。噛み千切るなんて夢のまた夢。むしろ引っかかることで、歯が折れてしまうかも知れない。だから、もっと口を開けた方がいいよ。そう教えてあげたいのだけれど、言葉が出せないのだからどうしようもない。
僕は彼女の口を使って自慰行為に耽った。
金髪の子はしばらく抵抗を続けていたけれど、すぐにその行為の無意味さを悟ったのか、だんだんと逆らうことをやめていった。あごが外れんばかりに開いた口から、盛大に泡立った涎をこぼして、やがて僕の為すがままとなる。
――この子、賢いな。
理解までのプロセスと、諦めの判断が速かった。
力なく見上げる目の焦点がぼやけ、鼻からも体液をこぼし始めたところで、僕は充分に赤熱した肉棒を喉の奥深くにねじ込んだ。
腰に痺れが走る中、また壮絶な吐精が始まる。
ドクドクと脈動に合わせて注がれゆく人外の精。
意外にも、彼女はコク……と喉を鳴らして、そのすべてを腹に収め始めた。
それが彼女の意思なのか、あるいは呼吸器を守るための本能なのかは分からなかったけれど、とにかくそんな喉の蠕動運動は悪くなかった。
ドクリと僕が陰茎を跳ねさせるたびに、女はコクンと喉を収縮させる。すると彼女の舌のつけ根が僕のカリ裏をジョリッとこするから、その刺激でまた次の射精をする。その機能的な繰り返し。
なるほど、これは楽ちん。また新しく女を蹂躙する方法を開発してしまったな。
そんな小さな感動を胸に、すべてを吐き出しきった。なんだかちょっと気分がいい。僕は上機嫌になって、金髪を掴んでいた手から力を抜いた。
直後、解放された女は、硬い床に両手を突いて咳き込み始める。
「ごほっ……ごぇっ……えっ、えぐっ……えぅ、えぇ……」
見ると、女はそのまま子供のように泣きじゃくり始めてしまったではないか。
僕はブッチャーだけれど、精神はまだ人間のままだ。さすがに泣かれると可哀想になってしまう。どうせ逃れられない運命だ。僕としても、せっかくなので、この部屋を訪れる女たちには、人間の男では味わえないような最高のセックスを堪能していってほしいと思うんだ。職人気質を自負している。
僕は仕方なく、彼女の前に腰を下ろした。
胡座をかいて視線を合わせてやる。
「?」
これまでとはまったく異なる、僕の人間めいた行動に、驚いて顔を上げる女。
直後、彼女は「ひっ」と小さな悲鳴をこぼして後じさり。
僕が胡座をかけば、当然その中心には僕のグロテスクな肉棒が槍のように突き出す。
そう、これはもはや槍だ。
〈ブッチャーランス〉と僕は密かに呼んでいる。彼女の視線は、そこに釘付けとなっていた。何度も彼女を仕留めた矛の正体だ。その顔には恐れの色が広がり、肩は小さく震えている。
そんな女の両脇に手を差し込んで、持ち上げた。
僕が子供をそうするように高い高いしてあげると、彼女は表情をくしゃくしゃに歪ませてから、いやいやと首を振った。なにがいやいやなものか。君が子供のように泣くから、仕方なく、あやしてやろうというのに。
女は抵抗したかったみたいだけど、腰が抜けていて下半身に踏ん張りが利いていない。でも大丈夫。僕が動かしてあげるから、君はただ受け入れればいい。ぜんぶ僕に任せなさい。
彼女を胸の上に受け止めた。
腰のくびれに手を回して密着を強要し、滑らかな女体をゆっくりと僕の身体にこすりつけるようにして下ろしていく。すでに体液まみれだった女の身体は、何の抵抗もなく僕の胸を滑り落ちてきた。
「――ぇぐぉあ゛……ッ!?」
よく分からない声を上げて、女は串刺しになった。
そのまま跨がらせ、ゆさゆさと赤子をあやす感覚で揺すってやる。ブッチャーの怪力があれば、ぬいぐるみ遊びをするようなものだった。
「あ゛っ! あ゛っ! あ゛っ! あ゛っ! あ゛っ!」
あ゛という啼き声しか出さなくなった女。もはや、そういうおもちゃみたい。彼女は愕然と喉を反らせ、天井を見つめて必死に喘いでいる。天にまします彼女たちの神に救いを求めているようにも見えた。
怖いのだろう。
僕の悍ましい顔が。
だから目を逸らしている。
なるほど。対面座位だと、僕の顔がちょうど彼女の眼前にくる。僕だって、この顔は嫌いだ。至近距離で恋人みたいに見つめ合うのは、ちょっとした拷問だったかも知れない。可哀想なことをした。
それでも僕はこの体位が好きだ。これなら女の身体を、表情を含めてよく鑑賞できるからね。本来、女体の鑑賞には騎乗位の方が望ましいんだけど、僕の立場上、それはあまりに不自然な行為であって、監視に怪しまれずに遊ぶのがむつかしい。だから、ここが妥協点だった。
腰まで届く長い金髪と、榛色の瞳が特徴的な女だった。乳房は綺麗な形をしていて、張りを残しているものの、しっかりと熟れているのが揺れ方からはっきりと分かる。女盛りに違いない。伸びやかな肢体と合わせて、きっと数え切れないほど男に言い寄られたことだろう。どうして危険な前線の兵士になってしまったのか。心底、理解に苦しむ。僕が去ってから、それほど市民の生活は切羽詰まってしまったのだろうか。
彼女の若い身体は率直だった。膣奥にブッチャーランスの切っ先を押しつけて、ポルチオをトントンとリズミカルに小突いてやれば、瞬く間に蜜壺は潤いに満ち、元気に涎を垂らし始める。僕の陰嚢まで濡らすほど悦んでくれていた。
僕、上手でしょう? こう見えて女の性感帯には詳しいんだ。
僕は女を揺すり犯すだけの仕事に戻った。
呼吸に喘ぐ女の嬌態を堪能しつつ、考えに耽る。
僕の腕の中で壊れた人形のようになってきた、この女を凌辱し始めて、はや二日目。彼女の身体にはあちこちにすり傷が増えて無残にも思えるけど、僕はこの女は幸せだと確信している。なぜなら、こうして僕に抱かれているからだ。
自惚れなんかじゃない。
ここはエイリアンの要塞都市。
そのど真ん中にある施設の地下で、戦闘で捕らえた捕虜を実験に使ったり、あるいは怪物の繁殖に使ったりする場所だ。ここに送られてきた捕虜の中には、もっと悲惨な目に遭う女もいるし、男の末路など憐れのひとこと。
この女は少なくとも当初、半日は気が狂ったようによがり続けていた。僕の仕事を充分に愉しんでもらえたと思う。
他のブッチャーの仕事は雑だ。女が孕む前に壊れてしまうことがほとんど。僕は人間の精神を保っているおかげで、わりと女の扱いにはジェントルな方なんだ。僕にあてがわれた女は、この牢獄に放り込まれている間だけは、天国を見続けられる。
この仕事のクォリティが認められたのか、今となっては、僕は戦場に立たされるよりも、こうして内勤をすることの方が多くなった。立場が立場ではあるけれど、それでも認められていることが分かると俄然やる気になる。
そんなことを考えていると、いつの間にか長い時間が経っていた。すでに陰嚢はパンパン。装填完了。一方、女の膣はジュルジュルと音を立てて、まだかまだかと僕の息子をねぶり続けている。眼球をひっくり返し、喉からは苦悶のうめき声を上げ続けているというのに、女の身体って不思議なものさ。
僕は女の腰を強く引きつけ、子宮口をぐりぐりと押し上げながら、その扉を開くようにして精を吐いた。
「んううううううう♡ ……うう……ぁ♡ ……ぁ♡ ……ぁ♡」
彼女は全身をビクビクと痙攣させて僕の射精に応えた。無理やり注ぎ込まれてなお、きちんと膣で締め上げてくれるのがいじらしい反応だ。それでは遠慮なく、たっぷり流し込んであげるね。
「はぅ……」
金髪の女は、吐精の途中でぐったりと僕に抱きついてきた。口元にうっすらと笑みを浮かべているのがチラリと見えた気がした。
――まずいなぁ、ちょっと壊れ始めちゃったかも……。
心を壊すのは、最後の方がいい。
充分に楽しませてあげて、最後の最後、僕の元から去る直前に壊してあげるのが優しさというものだ。そうすれば、その先の地獄を味わわなくて済む。
僕の吐いたザーメンが潤滑油となって、膣の具合が一段と良くなった。
彼女の肉襞は、僕のデカマラに押し広げられてもなお、よく絡みついてくる。どう動いても気持ちがいい。名器と言って差し支えないだろう。今まで何人の男に抱かれたのかは知らないけれど、僕は彼らが羨ましい。人間の逸物で彼女の膣に迎え入れられれば、もっと複雑な変化を楽しめただろうに。
だがしかし、僕にだって人間の男にはできない芸当がある。
そのひとつがこの射精量だ。
これだけの粘液を注ぎ込むと、女の膣肉はまったく違った一面を見せてくれる。
「ぐぁ」
僕は気分を新たに女の身体を揺らした。抜かずの連戦に、くぐもった悲鳴が上がるけど、それはいつものことだから気にしない。レイプなんだから、お互いの性器が悦んでさえいれば、それでいいんだ。
犯されすぎて首が据わらなくなりつつある彼女の顔を、しみじみと観察する。
――おそらくこの女、顔見知りだ。
最近になって捕まったんだろう。僕が所属していた要塞都市〈フォート88〉で、かつて同僚だったか、あるいは何かしらの関係があったのだと思われる。脳のどこかに引っかかる感触があった。
でも、思い出せない。
僕の思考は鮮明だ。ところが、まるで脳の周りに分厚い脂肪がこびりついているか、あるいは黒いインクで塗りつぶされてしまったかのように記憶が重たく、ドロドロとぼやけていた。さらには強い性衝動に駆られたときや、こうして、かつてのことを思い出したときなどは、獣のように理性が鈍してしまうことがある。ブッチャーという怪物の肉体の影響に違いなかった。
それでも忘れていないことがひとつある。
決して忘れるものか。
僕が仲間に裏切られ、囮として敵陣の真っただ中に取り残された、その事実だ。
僕は敵陣のど真ん中で一人、奮戦した。
……して、しまったんだ。おかげで戦闘力がある人間と見なされた僕は、奴らに捕まったあと、ブッチャーに改造された。説明を受けたわけじゃないけど、そういった経緯なのだろうと想像している。
今では、こうして種馬扱い。来る日も来る日も、朝から晩まで女を犯し続け、時間が空けば肉体労働にこき使われ、命令が下れば激戦区の最前線にまで出張って、使い捨ての兵器として投入される。そんな馬車馬のごとき日々を強いられている。
僕は人間だった当時、斥候の一人だった。単身敵陣に乗り込み、危険なミッションをこなし、フォート88の危機を幾度となく救ってきた。陥落寸前の集落を防衛するために奔走し、敵陣の奥深くに取り残された難民を救出し、仕留めた上級将校の数は、両手では足らないほどだ。
僕はフォート内部で生活するよりも、壁の外で活動することの方が多かった。
多くの仲間が塀の内側で恋愛だのにうつつを抜かしている間、僕は一人、ライフルのスコープをのぞき、みんながフォートで仲良く食事をしている間、僕は一人、無数の敵に囲まれて泥水をすすり、逃げ回っていた。
斥候のミッションは過酷だ。ときには糞尿を垂れ流しで森にひそみ、敵を待ち伏せたりもする。フォートに汚物まみれで帰還したこともあった。自尊心など、犬の餌にしてしまわなければいけなかった。そうやって、どれだけ蔑まれても僕は、人類の生存のためにエイリアンと戦い続けてきた。
だのに。
それほど身を粉にして人類に奉仕してきた自分への報いが、この仕打ちか。
――この女は、僕を嵌めた一人なのだろうか。
そんな考えが頭をよぎった、その瞬間。
脳細胞の隙間からにじみ出してくる新鮮な憎しみが、力加減を誤らせた。
女が「かはっ――」と乾いた声を吐いたのと、僕の長いブッチャーランスが根元まで差し込まれたのは、ほとんど同時だった。
彼女は目を限界まで剥いて、僕の腕の中でピクピクと全身を痙攣させている。
僕の息子は大きいから、女の膣にぜんぶは入りきらない。
でも、こうして子宮の奥深くまで使わせてもらえれば、恋人のように密着を楽しむことができた。
カリの付近と、ペニスの根元に、二重の締めつけを感じる。
僕の睾丸に、女のぷっくりとした陰唇がキスしているのが分かる。
これが好きだ。こんな醜い僕でも、女の子に迎え入れてもらって、心と心が通じ合う感じがする。内腿に乗った、尻肉のふくよかな重みが心地よい。
これはうっかり事故だったけれど、もういいや。
よく見るとこの子、ものすごく美人だ。モデルかな。こんな上玉が牢獄に送られてくることなんて滅多にないぞ。ラッキー。
深くつながった女を硬い床に押し倒す。
あとは本能の赴くがままに、腰を打ちつけるだけ。
「ぐっ! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!? ――ンンンゥあ゛ッ!! ――あ゛っぐ! ん゛ぐぁ!?」
僕の巨体が作り出す影の下で、気が狂れた様子でわめき始めた金髪の女。
そんな心地よいラブソングに耳を傾けながら、僕はしばらく我を忘れてその行為に耽った。
涙と涎で顔面をさんざんに汚し、苦痛と快楽、そして恐怖と恍惚に浸って喘ぎ散らす女の顔を見ていると、心の底から癒やされていくようだった。こんな化け物になってしまった僕でも、こうして人の役に立てていると実感できるからだ。やり甲斐。仕事はこうでなくちゃ。
僕の方も、ようやく本物のリビドーが高まってきた。気づかいという、基本的な人心を放棄した性行為は、僕の喉から満たされた咆吼を引き出した。ブッチャーの吠え声と、女の嗚咽が牢獄という狭い空間で混じり合う。あぁ、すごい。この子すごいよ。僕ら相性がバッチリだ。こんなに自分のセックスに集中できたのは本当に久しぶり。次の射精はきっと過去に類を見ないものになるぞ。そんな期待が膨らんだ、その瞬間。
ヒュンという空気を裂く音と共に、背中に痛みを感じた。
振り向くまでもない。たぶん、エイリアンたちがこの行為をやめさせに来たんだ。
僕の仕事は女を孕ませることであって、壊すことじゃない。
でも僕はそれを無視して動きを早め、しこたま腰を打ちつけた。
「ひッ!? ひぐッ!! ひぐぅッ!! ひぎッ!? ひぐッ!! ひぐゥ――ッ!!」
僕の容赦ないストロークを受けて、彼女のヘソが不自然に盛り上がっていた。もともと伸縮性が高い女性の下腹部でなければ破けてしまっていただろう。激しい突き込みの圧力で、彼女の腰が床から浮いてブリッジに近い姿勢を強制される。パチュンパチュンと、性器同士が湿ったキスを繰り返す音がリズミカルに求愛のダンスを飾った。
僕らはひとつになれている。そんな一体感が気持ちいい。
女が舌を伸ばして、あぐあぐと、口寂しそうにあごを動かしているのが目に入った。口に突っ込んでほしいのかな? でも僕の息子は今、君の下の口にお邪魔しているところだ。
――だったら、こっちをあげよう。
歯茎むき出しの口から、ドロリ。黝い舌を差し出すと、彼女は虚ろな目つきでそれをしゃぶって目元に笑みを浮かべた。
「あふ……! あぁむ……あむ……あ゛んあ゛ぁ……♡」
もう、この子は駄目そう。
僕は壊れかけた女を両腕でめちゃくちゃに締め上げ、最後の吐精をした。
「むごッ!? むぐぅぅぅぅぅ!? ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!!」
丸一日、女を抱き続けているとは思えないほどの量が、女の胎の奥深くに染み込んでいく。金髪の女はそんな僕の激憤をビクンビクンと肩を跳ねさせて受け取った。
この女は僕の仕事だ。誰にも邪魔はさせない。獣の精液で、女の子宮をべっとりとマーキング。この女は僕専用の供物であると、世界中の雄どもに宣言する。
僕に捧げられた、僕のための、僕だけの肉。まだ日の目を見ていない彼女の卵も、これですべて僕のもの。もう他のどんな雄の精子が入ってきても大丈夫。僕以外の子は孕まない。そんな荒々しいブッチャーの欲望に押し潰されて、金髪の女はまるで小鳥のようにさえずった。
しばらく抱き合ったまま、汗と涙と涎に濡れた女の顔を舐め回して綺麗にしてあげる。よく頑張ったね、ありがとう。僕から捧げるお掃除グルーミングさ。
そうして僕が腰をぴったりと女の股に押しつけ、ザーメンまみれになった子宮をグチュグチュとかき回してケダモノ・セックスの余韻を楽しんでいると、今度は背中にチクチクと痛みを感じた。
奴ら〈スタンランス〉まで持ち出してきたな。これ以上、無視を続けるのもまずいか。潮時だ。
僕は大人しく、女を離して立ち上がった。
無造作に引き抜かれる巨根に、膣口が名残惜しそうにひくつき、僕の尿道に残った精子を搾り取っていった。まぁ、そう思うのは僕の錯覚なのであって、実際のところは子宮脱にならないために必要な防御的吸引ではある。
「ん゛ぉ……♡!」
金髪の女は股ぐらから盛大に白濁液を吐き出し、大の字になって動かなくなった。
やや心配にもなるけれど、まぁ、しばらくして回復したらまた、この部屋に戻って来るだろう。彼女はまだ死んでいない。生きていて、妊娠可能であるかぎり、ブッチャーの供物だった。もし回復しなければ、それまでだ。それもよくあること。
その時は、お詫びを込めてもっと長く、丁寧に相手してあげたい。しかも、彼女はもう開通済みだから、今度はスタートから深くつながれるぞ。楽しみだな。
エイリアンが二人、檻の戸を開けて部屋に入ってきた。ようやく僕が言うことを聞いたと判断したようだ。
エイリアンというのは、歴史的な経緯でそう呼ばれているけれど、彼らは人間とよく似た姿をしている。
人間の中には、彼らをファンタジーになぞらえてエルフだの、ドワーフだの、ゴブリンだのと名付けている連中がいるほどだ。実際、驚くほどそういったファンタジーの生物とよく似ていた。つい今しがた牢獄に入ってきた彼らは、さしずめリザードマンか。
ブッチャーとは、彼らエイリアンのテクノロジーによって、生き物をベースに作り上げられる生物兵器のことだ。ブッチャーは側頭部に埋め込まれた制御装置でコントロールされていて、自由には行動できない。それが彼らの常識だった。
――が、しかし。
実は僕、このブッチャーをコントロールする装置の影響を、受けていない。
僕はコントロールされている、フリをしているんだ。
そう。
本当は自由に動ける。
理由は分からない。意識を取り戻したときからそうだった。
彼らエイリアンは、先ほど僕がすぐに女の身体から離れなかった事実を軽視している。
正常性バイアスというやつさ。彼らは自分たちにとって都合の悪い事実を、些細なノイズと考えて、見なかったことにした。それがやがて彼らの命取りになる。
エイリアンたちは自分たちの絶対的な優位を確信している。そういった優越感も作用していることだろう。とにかく、今のところ僕は彼らの監視の目に留まっていない。ちょっと変わったところがある以外は、他のブッチャーと同列だった。
僕はブッチャーになって目覚めた当初、神さまを呪い、そして今、同じ神さまに感謝している。
――この身体があれば……。
この肉体と、僕の頭脳。そしてあの地獄の日々で培った斥候の経験とスキルがあれば。
できるはずだ。
ここから脱出すれば。
フォートに行ける。
順次、復讐できる。
僕にはその力がある。
ここから脱出できさえすれば――。
だから今はまだ、ここで雌伏の時を過ごす。
可能なかぎり、僕の元に送られてくる女を悦ばせながら。エイリアンどもの習性や、戦力、施設の構造を学びながら。その時がくることを夢見ながら。虎視眈々と、ここで復讐の爪を研ぎながら。人間の精神を保ちながら。脱出のチャンスを待つ。
この腹の底に秘めたる逆襲心と、嬢の存在だけが、今の僕を支えてくれている――。
――それにしても、この二人……。
他の看守から聞いていないのだろうか?
僕が変わったブッチャーだっていうことを。
僕が内心で呆れながら眺めている先で、エイリアンの一人が女の前に立ってズボンを下ろし始めていた。たまにこうやって、おこぼれをもらおうとする不届きな輩がいる。
でもそれは僕が許さない。
この女は僕の供物だ。
仕事の、邪魔を、するな――!!
下半身を丸出しにしたリザードマン。
その背後に踏み込んで、腕を振り下ろす。
轟と図太い音が鳴り、血飛沫がぱぁっと花咲いて壁面の鏡に散った。
唐竹割りになったリザードマンの身体が、真っ二つに裂けて左右に倒れた。
エイリアンの血もまた赤い。その血が、女の身体に飛び散った。
静かに上下する白い肌で、白濁した僕の体液と、彼女の汗、そして真っ赤な血が、金髪と混じり合って女体の美を飾った。芸術作品さながらの完成度だった。
それを見て、はっとなった。
やっぱりこの子、可愛いし、綺麗だ。
芸術的かつ、理想的。憧れ?
見ているだけで胸がときめき、何故だか落ち着くものがあった。
それは今までに感じたことのない、不思議な感覚――。
この子をもっと、きちんと仕上げたい。彼女には資質を感じるんだ。ぜひ、意識を回復させてここに戻ってきてほしいと神に願わざるを得ない。二人で一緒に史上最高のセックスを目指そう。途中で放り出すのはプロとして忸怩たる思いがある。
チクリ。脇腹に痺れる痛みを感じた。
頭の中に跪け……跪け……という指令が流れ込んでくる。
振り返ると、もう一人のリザードマンがスタンランスと呼ばれる制圧用の電磁槍を構えているのが目に入った。大抵のブッチャーは、これで言うことを聞くはずなんだ。
でも僕は違う。
僕は少し扱いにくい職人気質のブッチャーで通っている。
それを聞かされていないと見える、このリザードマン。ひょっとすると僕と同じように、誰かに嵌められたのかも知れないな。
――こうして、事故に見せかけて僕に始末されるように。
エイリアンも人間も一緒だ。
どっちも腐ってる。
僕が腕を水平に振るったのと、リザードマンの首が飛んだのは同時だった。彼が手に持っていたスタンランスも、そのひと振りでへし折れた。
僕の爪は鋼よりも硬く、この大兵な身体が生み出す馬力は重機に勝る。
不用意に近づけば、このとおり。
このブッチャーの力と、僕の兵士としてのスキルが合わされば――。
必ず成し遂げられる。
正義の鉄槌を下さなければならない。
何人たりとも、それを止められない。
止めさせはしない。
僕は復讐を果たすために、こんな醜い身体に生まれ変わったのだから。
すべてを蹂躙し、踏みにじってみせる。
エイリアンも人間も関係ない。すべてだ……――。
――……それにしても、しまったな。
今日は二人も殺ってしまった。しばらくは独房行きかな。やったね、久しぶりに嬢に会えるぞ。彼女、元気かな?
本来は懲罰的な意味合いをもつ独房行きも、実は僕にとってお待ちかねのイベントとなっている。胸が躍るようだ。早く別の看守が来て、見て、この惨状に驚いて、僕を独房に連れていって。
血腥くなった牢獄の中で、ぽつねんと佇むブッチャー。暇だ。
うーん……どうせ独房送りなら、もうちょっと羽目を外してもいっか。
金髪の女も、キツい凌辱の末に、せっかくこうして僕のすべてを受け入れられたのだから。この先にある、もっと激しい獣のセックスを期待していることだろう。ムラムラさせたまま帰したら申し訳ない。
床に寝そべった女は、上の口も、下の口もおっ広げて、どこか遠いところを見つめていた。上の口はあぐあぐ。下の口はひくひく。よしよし、この僕に任せなさい。
僕は金髪の子に覆いかぶさり、彼女の汚れきった陰裂に赤く燃え上がるブッチャーランスを突きつけた。
「――――――!?」
女の目に一瞬だけ光が戻ったのが見えた。
呆然と見つめ合う、その輝きめがけて、ひと息に突き込んだ。
薄暗い牢獄に、またしても悶悦の悲鳴が上がる。
それは終わりの見えない獣の性交。
金髪の女とケダモノの情事を止めるものはいない。
【ブッチャー】
屠殺鬼。エイリアンが兵器として利用している、度はずれた怪物。
言葉は通じず、人を犯し、殺し、食らうこと以外の行動をしない。たまに暴走してエイリアンも犯され、殺され、食われることがある。
もともとは数が少なく、操ることもできない野獣だったが、この戦争で繁殖方法と制御方法が確立された。ゆえに捕虜となってしまった女性は、死が救いともいえる過酷な扱いを受けるのだが、まだ地球の人々はその事実を知らない。
(次回更新 12月28日(土))