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剣道女子、完全敗北 4

第4話

 

 

「おい、そろそろ起きろ」
 ペチペチと頬を叩かれ、朱美は狼狽して目を開ける。少女は跳び箱の側面に背を預ける形で眠っていた。
 何度か瞬きを繰り返すと、少しずつ視界が明瞭になっていく。目の前には権藤と、それから二人の取り巻きがいた。随分人数は減っている。朱美は拘束されてもおらず、身体には布が被せられていた。
(私は何分眠っていたんだ……くそ……最悪の、気分だ)
 傍に落ちている竹刀をちらりと見遣る。身体は重く、血の中に鉛が混じっているように鈍い感覚がするが、無理矢理起こせないほどではないだろう。
「ふん……祭りはおしまいか? 私はまだ……満足していないぞ?」
「へへ、言うじゃねえか。開口一番がそれとは、感心するぜ」
 喋りながら記憶を手繰り寄せる。輪姦され、ピストンマシンに犯されて、それから服従の言葉を口にさせられた。思い出すだけで恥辱の炎が再燃する。朱美は内心で首を横に振り、忌々しい記憶を払った。
(仕方のないことだったんだ……そうしないと、気が狂うところだった……)
 それに、選択は正しかった。こうやってチャンスは巡ってきたのだ。相手は四人。最初に権藤。そして雑魚は適当にいなす。難しいことではない。
 朱美は目を細めて集中する。まずは間合いを測る。竹刀と腕の長さを計算し、彼らの瞬きや呼吸、視線から空気を探る。そして生まれた一瞬の隙に踏み込む。
 そして好機は直後に訪れた。棚に置いてあるバドミントンのラケットが床に落ちたのだ。床にラケットが転がった瞬間、男たちの意識がそちらに向く。その瞬間――朱美は竹刀を握り、渾身の刺突を――。
「ひぅぅうううううっ!」
 繰り出すことも叶わず、突如股間を襲った刺激に、嬌声をあげて膝を折った。
 指先から竹刀が滑り落ち、床に転がっていく。秘所から迸る性悦が脳天までを一瞬で焼き、下半身が完全に脱力してしまう。それは間違いなく、絶頂反応だった。
「な、何……なんなんだ、い、今のは……」
 ニヤニヤと見下ろす男たちに構う余裕もなく、違和感を覚えた身体を見下ろした。
 真っ先に目に映るのは自分の乳房だった。衣服は一切纏っておらず、精液をこびりつかせた裸身からは、あらゆる男女の性臭が漂っている。
 乳房にはダーツの的に似た模様が描かれ、その中央には赤くなったままの乳頭があった。落書きは身体の随所に施されており、下腹部には『牝犬』と文字が綴られている。
 だが何より朱美を動揺させたのは、己の股間を覆う訳の判らぬ道具であった。
 T字型の、ベルトとも下着とも取れない道具が装着されている。銀色の光沢を放つ部分はステンレスらしい。肌の表面には黒いシリコンが窮屈に密着し、指を入れる隙間もありはしなかった。そして小さいが明らかに頑強な南京錠がついており、T字の道具を固定している。
「な、なんだこれは……んぅッ、ぁあんッ……な、中に何か入って、ひぅうッ!」 
 ヴヴヴ……と振動音が響き、下腹部が震える。膣の中に何かが挿入されているのだ。その物体が振動を起こし、朱美の秘所を小刻みに刺激していた。
「それは貞操帯だよ。頑丈で肌に優しい優れものだ。ああ、排泄する穴はあるから安心しろ。オナニーはできないだろうがな」
「て、貞操帯って、なんでっ、こんな……ぁぐッ、あ、と、止め……んんッ」
 樹脂棒が膣中で震え、敏感な部分を執拗に擦る。込み上げる性悦で満足に言葉も継げなかった。スイッチを探すも見つからず、緩めるための場所もない。
「お前みたいな猛獣には首輪とリードをつけてやりたいが、流石に可哀想だと思ってな。ま、今後はそいつを付けて生活してもらうからよ」
「ふ、ふざけるなッ、こ、こんなもので、私を縛ぁぁあんッ、ぁあっ、ひぐ、んッ!」
 男たちを睥睨しようとするも、内側から樹脂棒に嬲られてはどうしようもなかった。小刻みに揺れ動いたかと思えば、ピストン運動まで再現して急所を抉る。恥骨の裏を擦られ、子宮口を叩かれ、朱美は股間を抑え込んで悶えるしかできない。
(う、うぅうッ……こ、これ、こんなの、どうしようもないじゃないかッ)
 体液は今も膣の内部に残っており、バイブによって掻き混ぜられ、ぐじゅぐじゅと熟れた水音を股間から響かせていた。
「いいか? お前が逆らえば、今後は容赦なくバツを与えていく。俺たちを襲いかかろうとしてみろ。ソイツでイキ狂わせてやるからな。そして反抗的な態度が酷いようなら、ピストンマシンで再教育してやる」
「わ、判った……判ったからっ……んぁあっ、ひぐっ……と、止めてくれッ!」
「言葉遣いがなってないぜ。言っておくがコイツはスマホアプリで作動するんだ。全員のスマホで、お前のま×こをイキ地獄にできるんだぞ。もっと誠意を見せろ」
「ぁっ……ぁあ……そ、そんな……」
 朱美は顔を青くする。膣に道具を埋め込まれ、そのうえで脅迫される。先と状況は同じだが、今回は理性が残っている分、躊躇いも強かった。
 それでも選択肢はない。権藤の傍にいる不良がスマホをタップすると、バイブは振動を一段階強めた。視界に火花が咲き、刺激された膀胱から尿が溢れそうになる。
「わ、わがっだっ、言うっ、言いまずッ……止めてくださいお願いしますっ……!」
「んー、だめだな。言い方が悪い。俺が言う通りにしろ。そうだなァ……」
 権藤が見慣れた下品な笑みを浮かべ、朱美の耳元で卑猥な言葉を囁く。既に紅潮した朱美の顔が、殊更に熱を帯びて赤味を強くした。
(言いたくはない……だが、言うしかない……こんなものでイキ続けるなんて嫌だ……)
「はぁっ、ぁあっ……くそっ……くそぉ……」
 朱美は両手を前に出し、脚を正座の形で折り畳む。恥辱と快感に美しい裸体を痙攣させながら、少女は権藤たちに向かって――深々と、土下座をしてみせた。
「お、おま×こ……イッてます……イキ過ぎて、馬鹿な朱美の頭が、もっと馬鹿になってしまいそうなので……バ、バイブを止めてください……ご……ご主人様……」
「よし、次は尻をこっちに向けろ」
「ま、まだやるのかぁああんっ!」
「何度も言わせるな、犬」
「はーっ、はひっ……わが、わがりましたがら、あ、あああ……」
 朱美は言われるがまま、尻を男たちに向かって突き出す。それから臀部を高々と掲げ、自らの手で肛門を左右に開いた。必死に頭を回転させ、気を失う前に散々言わされた服従の言葉を思い出し、必死に声を絞り出した。
「皆様ご存知の通りぃっ、ぁあんっ……麻比奈朱美はぁ……はっ、はっ……おま×こでしか物事を考えられない……ぁあっ……馬鹿でスケベな牝犬です……これ以上はぁっ、ぁっ、もっと馬鹿になってしまうのでっ、ぁっん! バイブ、止めてくださひッ……!」
「へへ……良いねえ。それじゃあ、次のステップだ」
「ま、まだあるのか……」
 言葉を発してすぐ、朱美はドキリと心臓を跳ねさせ、権藤から顔を背けた。それは間違いなく恐怖だった。今まで不良どもと争ってきて、恐いという感情は一度たりとも覚えてこなかった。だが今この瞬間――朱美は確かに委縮したのだ。
(私が、こいつらに恐怖した……? そ、そんな、馬鹿な……)
 認めたくはない。だが事実であり、実際に、命令には逆らえない。
「記念撮影ってやつだよ。牝犬宣言した記念だ。一生モノだぜ。ほら、言われた通りにしろ」
 まさに記念撮影のように、朱美の周りに男たちが立つ。
 指示されたポーズは恐ろしく淫猥だった。蟹股で屈みながら、両手でピースマークを作るのだ。そして頭の上には、背後に立つ権藤のペニスが載っている。両脇に立つ男二人は、朱美の豊かな乳房――その頂にある乳首を指で抓み、ぎゅっと引っ張った。
「さ、笑って笑ってー。ほら麻比奈、表情が硬いよー。ニッコリニッコリ」
 男の言葉に、朱美は引き攣った笑みを浮かべる。身体中には落書きだらけで、不良に囲まれて笑みを浮かべる裸の風紀委員――自分がどこまでも落ちぶれた事実を実感しながら、朱美は涙をぐっと堪える。これは夢だと言われた方がまだ納得できるものだった。
「もう一枚撮影するか。じゃあ今度は、ち×ぽとキスしろ」
「え……っ!」
 躊躇っている間にも、権藤が陰茎を朱美の口に突き出す。勃起してカウパー汁が垂れた亀頭に、少女は否応なく唇を触れさせた。男たちもペニスを露出し、柔らかな手に触らせる。口と両手で陰茎に触れながら、少女は何度もカメラに撮影されていくのだった。
 撮影が終わった後、ようやくバイブはピタリと止められた。そして不良どもは、万事計画通りとばかりに、立ち上がって荷物を片付け始める。
「よぉし、今日はもう充分だ。よう麻比奈、もう帰っていいぜ」
「……あぁ……」
 反抗する余力など、ほんの微かにもない。ただ今は、帰宅を許されたという事実だけが幸いだった。今更竹刀を振るったところでどうにもならないだろう。
「お、おい……この貞操帯とやらは、その……」
「ああ、それはプレゼントだからな。ずっと付けてて良いぜ」
「い、い――嫌だッ! 頼む……こ、こんなもの嵌めていたらっ、私ッ!」
「私?」
 権藤はスマホをちらつかせた。それだけで、朱美の身体からは力が抜けてしまう。「なんでも、ない……」と、少女は弱弱しく言った。牙も爪ももがれたように、権藤に逆らえない。
「ま、そういうことだ。今日からは、それがお前のパンティーだからな。明日からはノーパンで過ごせよ」
「あ、ああ……」
「もちろん、このことを言いふらしたりすれば、お前の写真も動画も全世界に一斉公開だからな。へへ……じゃあな。精々気をつけて帰れよ、牝犬ちゃん」
 権藤に肩を叩かれる。他の不良どもは、帰り際に乳房や尻を無遠慮に揉みしだき、愉快気な様子で帰っていった。
「…………体育倉庫……綺麗に、しておかないとな……」
 この現実を受け入れたくないのか、脳が麻痺してしまったのか――朱美はそんな風に思いながら、自らが凌辱された痕跡を、一人で拭い始めるのだった。


 帰宅するだけでも、尋常ではない程の時間が必要だった。グラウンド脇の水道で簡単に洗ったが、身体からは精液としか思えない臭気が放たれている。それに加え、発情した牝の淫臭は、フェロモンとなって闇夜に漂う。それは嗅いでいる当人すらも陶酔させてしまう。クラクラと脳を揺らし、朱美は民家の塀に手を置きながら歩んでいった。
 だがやはり、一番の障害は貞操帯だろう。バイブはピタリと止まっているが、歩くたびに敏感な部分が擦れて仕方ないのだ。歩くだけで自慰をしているような気分にもなる。
「はぁっ……はっ……ぁあ……くそっ……くそぉッ……」
 忌々しく呟いて、体操着に着替えた少女は夜道を歩く。その体操着もまた、冷や汗と脂汗でぐっしょりと濡れ、豊満な胸の形が浮き上がっていた。赤みがかった乳首が、白い生地の下でツンと尖っている。
「た……ただいま」
 やがて家に辿り着き、小さな声で帰宅を告げた。不審に思う家族はいないだろう。唯一教育面で厳しいのは祖父だけだが、彼は実家に住んでおり、この家には朱美、両親、弟の四人家族が住んでいた。朱美が剣道と風紀活動で忙しいのは皆が知っており、帰りが遅くなっても余計なことは言われない。今はそれが救いだ。
 居間からテレビの音が響く中、朱美は廊下を通り、ひっそりと浴室へ向かう。すぐに着替えてしまおうと脱衣所でシャツを脱いだ。
(この落書き……ちゃ、ちゃんと消えるんだろうな……)
 油性ペンなら相当骨が折れそうで、朱美は精液臭い溜息を零す。とにかく風呂に入ってから考えるしかないと、体操着のズボンに手を掛ける。その瞬間、脱衣所の扉が開く音がして、朱美は脱いだ白いシャツで身体を隠し、半脱ぎ状態のズボンをぐっと引き上げた。
 扉の隙間から弟――悠陽が姿を現す。既に寝間着姿の弟は、そこに立つ朱美を一瞥した。それから目を見開き、気まずそうに目を背ける。しかし部屋から出ることはない。歯ブラシに歯磨き剤を付け、シャカシャカと歯を磨き始める。
「お、おい、悠陽! お前、ノックくらいしないか! 女が脱いでいるときに入るなど、失礼じゃないか!」
 悠陽は何も返さない。鏡に向き合ったまま歯磨きを続ける。ずっとそうだった。ここ最近、弟とは満足に口を利いていない。いつからこうなったのかは覚えていないが、悠陽は朱美と距離を置いているようだった。剣道も辞めてしまい、最近は勉学にも励んでいないという。
「おい悠陽、返事しないか」
 朱美は落書きと貞操帯を懸命に隠しながら、不愛想な弟に言葉を掛ける。早くこの状況を打破すべきではあるが、かと言って、この不躾な行為は見逃せなかった。
「お前、最近変だぞ。私が嫌いなのは別に構わないが、剣道も辞めてしまったし、学校だってサボっているらしいじゃないか。お前がそんな調子だと、おじい様が――」
「うっさいな。なんだよ。別に裸見られたって気にしてなかっただろうが」
 悠陽は舌打ちして、歯磨きを進める。だが、その耳朶や首筋は、よく見れば朱色に染まりつつあった。
 当然だろう。何せ、今の朱美からは堪らないほどの色香が漂っているのだ。姉の事情も知らず、貞操帯や落書きは見えていないようだが、それでも布の隙間から覗く締まった肢体は情欲をそそる。
 考えるほどに、早急に入浴を済ませるべきだった。どうしても精液の匂いが悠陽に届く。だが、目の前で服を脱げば、卑猥な姿が露呈してしまう。
「……ちっ、判ったっての。なんだよ。普段は女扱いされるとキレるくせに」
 悠陽は忌々し気に言って、歯磨きをさっさと終えて出て行った。少女はほっと安堵で力を抜く。弟の股間が膨らんでいたことは、意識して気が付かぬようにしていた。
(何はともあれ……悠陽に露呈せずには済んだようだな……もし不良に敗れて輪姦された挙句、こんな卑猥なブツを取り付けられたと知れば……ああ、くそ、大問題だぞ……)
 絶望的な状況に頭を抱える中、鞄に入れていたスマートフォンが振動を始めた。見覚えのないアドレスからメールが来ている。胸のざわめきを覚えつつも、朱美はメールを開いた。予想通りと言うべきか――そのメールは権藤からだった。
『今日は楽しかったな牝犬ちゃん。今時メールしか使わないとはお堅いねえ。今は何をしているのかな? 部屋でオナニーか? トイレでクソでも垂れ流してるか? メールを読んだら電話してこい』
 そんな汚らわしい文面と共に、電話番号と撮影された写真が添付されている。蟹股に開脚し、胸と太腿に落書きを施され、貞操帯だけを履いた女の姿。精液だらけの顔に引き攣った笑みを浮かべ、手は無理に作ったピースサインを示している。
 朱美は否応なしに電話した。『よぉ牝犬』と、権藤の声が耳の傍で響く。不快感に眉根を寄せて朱美は言葉を待った。
『ちゃんと電話してきたな。偉いぞ。まあ別に用件はないけどよ、お前は今何してる?』
「……なんだっていいだろうが。用事がないなら切る」
『おー、怖いねえ。だが今のも歯向かったとみなす。ペナルティは三十分にしておいてやるよ』
「ペナルティ? お、おい、それってどうひぅぅううっ!」
 突如として貞操帯が振動を始め、秘所から爆発的な快感が噴きあがる。朱美は慌てて口元を抑え、電話の向こう側に向かって懇願の声をあげた。
「お、おいっ、止めてくれっ、おい!」
『お、ちゃんとこっちからでも操作できるな。流石は高級貞操帯。へへ、じゃあな』
「なっ――ま、待て! おい権藤、おいッ!」
 朱美の声を無視して通話は強制的に切られる。何度も電話を掛け直すものの、権藤が再び応じることはなかった。
(そ、そんな……遠隔でも動かせるのか……こ、これじゃあ本当に、私は何も……)
 ただ口実を作り、貞操帯の調子を確かめたかっただけなのだ。朱美は貞操帯を外そうと試みる。しかしベルト部分も錠も相当頑丈な作りのようだった。
 それでもハンマーを使えば壊せる可能性はある。だが壊すなどしてしまえば、彼らがどんな罰を朱美に与えることか判らない。
「ぁあっ……あいつらぁッ、ぁあっ、あッ……!」
 憤怒の感情を滲ませるも、相手はここにおらず、股間を抑えていては虚しいだけだった。達するほどではない振動に股間を擦り合わせ、腰をビクつかせながら服を脱ぎ、朱美は膝を震わせて入浴する。そして髪と身体を入念に洗った後――風呂の湯に浸かった瞬間、膣粘膜から激しい性電流が奔った。
「ひぃっ、ひぐっ、ぅうぅっ、ぁあっ、な、なんれ、いぎなりいぃいッ!」
 バイブがピストン運動を開始し、円を描きながら朱美の膣肉を嬲る。湯の中で泡がごぼごぼと浮かび、少女は浴槽の縁に掴まって股間をカクつかせる。
 貞操帯は日時も場所も全く配慮してはくれない。これが父や母の前であれば? 登下校の最中なら? 集会でスピーチをしているときなら?
(わ、私に恐怖心を植え付けて、従順な犬にしようと言うのだろう……だ、だが、私はッ……わ、わらひは、イグッ……わ、私、イグッ、イクッ、イッじゃうッ!)
「ぁああッ、いぃいい、イグッ……まだッ、まだイッじゃッ、ぁあああッ! はぁっ、はひっ、じ、じぬっ……機械に犯されてじんじゃッ……イクッ……イグぅうッ!」
 思考を一瞬で掻き消す狂気の絶頂地獄に、朱美は身を跳ねさせ続ける。白い肌を真っ赤に火照らせながら、風呂場でオーガズムに溺れるのだった。