本販売日:2025/06/10
電子版配信日:2025/06/20
本定価:2,057円(税込)
電子版定価:2,057円(税込)
ISBN:978-4-8296-7949-4
「全員、裸で壁際に並んで尻をこっちに向けろ」
夫や娘の前で裸身を晒し、美臀を品評される令夫人。
愛する家族をかばうため、兵士たちに奪われる貞操。
侵略された国家を舞台に描く、壮大なハードロマン!
奇才・御堂乱、世紀の問題作が合本で復刊!
『敗戦国の人妻』
第一章 侵攻 占拠された大使館
第二章 敵兵に穢される令夫人
第三章 占領地の「人妻徴収」
第四章 収容所で待つさらなる悪夢
第五章 捕らわれた女レジスタンス
第六章 王宮前広場の屈辱
『人妻没収』
第一章 人妻牧場
第二章 母娘無残
第三章 公開恥刑
第四章 淑妻没収
第五章 媚肉尋問
第六章 肛姦初夜
第七章 慰安任務
本編の一部を立読み
敗戦国の人妻
第一章 侵攻 占拠された大使館
1
西ロメニア共和国の首都エトルリアにある日本大使館。
小楽団の奏でる優美なセレナーデに琴の音色を配し、豪奢にきらめくシャンデリアにも枝垂れ柳の風情を模すなど、「和」趣味を前面に押し出した小ホール「八重桜の間」では、色とりどりの華麗なイブニングドレスに身を包んだ各国の大使夫人らが、一流パティシエの手になるスイーツ類や年代物のヴィンテージワインを味わいつつ、教養とセンスにあふれたセレブ同士の会話を楽しんでいる。
月に一度、各大使館の持ち回りで開かれるレセプションパーティー。今宵のホスト役は、駐ロメニア日本大使・青木篤胤氏とその妻・佐和子であった。
「ほら、まただわ」
ベルギー王国大使夫人キャサリン・ベネットの、真珠のイヤリングが揺れる耳に小声で囁きかけたのは、フランス大使が三度目に娶った若妻で、ファッションモデル出身のソフィー・アントネッリである。
「あの遅刻、絶対わざとなのよ。遅れて来ることで自分は格上だと皆に見せつけたいのね。本当に癪に障る女。私、イギリス人は好きになれないわ」
勝ち気そうに言うソフィーの鼻はツンと上を向いてチャーミングだ。若くしなやかな肢体に、ドレープの豊かなベージュのドレスがよく似合っている。ややソバカスが目立つことを除けば、セミロングの栗色の巻き毛といい、良く動くコケティッシュな瞳といい、女としての魅力では誰にも負けないのだから、もう少し性格が穏やかなら完璧なのにと思いながらキャサリンが後ろを振り向くと、遅れてやってきたイギリス大使夫人のオリヴィア・マクダウェルが、ドレスの上にまとった薄紫色のショールをボーイに手渡しているところだった。
「あの長ったらしい髪。陰気くさいドレス。悪趣味ったらありゃしない」
ボーイが運んできたワイングラスに口をつける暇もないほどに、ソフィーの辛辣な批評は止まらない。
オリヴィアの黒髪は腰まで届く艶やかなストレートロングで、肌は透き通るように白い。清らかでスレンダーな肢体に光沢のある黒いドレスがよく似合っていた。口数が少なくクールな印象を与えるところも、伯爵の娘という出自の由緒正しさも、後妻でモデル出身のソフィーとは対照的だ。オリヴィアに何か言われたとか、されたとかいうことは多分無くて、ソフィーの方で勝手にライバル視しているだけなのだろうとキャサリンは思う。
二人の視線を感じたのか、オリヴィアはチラッとこちらに目を向けて軽く会釈したが、招待客たちの中に懇意にしている相手をみつけると、そそくさとそちらへ行ってしまう。
「こんばんは、マリア」
「まあ! オリヴィア!」
スペイン大使夫人のマリア・ガルシアは、いつもの率直な、そして過剰なくらいの愛情表現でイギリス大使夫人の身体を強く抱きしめた。
「お会いできて嬉しいわ」
「私もよ」
慈善活動に関心のあるオリヴィアは、北アフリカの某国に学校を建てるべく基金を募っている。その計画にマリアが賛意を表したことで彼女らの仲は急接近した。若干人見知りな傾向のあるオリヴィアには、マリアのラテン民族らしいあけっぴろげさが心地良かった。
そんな二人の様子を、ソフィーが興味津々な様子で観察している。
「ねえ、見てよキャサリン。あの二人ったら、笑っちゃうくらい見事なコントラストじゃないこと?」
今度はスペイン大使夫人に批評の矛先を向け、クスクスと笑った。
透き通るように白い肌のオリヴィアと並ぶと、マリアの健康的な褐色の肌は野性味すら感じさせた。体型も、片や処女と見紛うスレンダー、片やどぎついほどの肉感を溢れさせている。その褐色のナイスバディーを、マリアは胸の谷間や背中を惜しげもなく露出した純白ドレスに包んでいた。大胆に切れ込んだスリットからはムチムチの太腿ものぞいている。
「お色気が過ぎて、見ているこっちが恥ずかしくなるわ」
ソフィーはヒソヒソ声で、しかし皮肉たっぷりに言う。
このぶんだと、陰で自分もどんな悪口を言われているかも知れないとキャサリンは思った。まだ二十代のソフィー、三十代のオリヴィアやマリアと違って自分は四十代なので、ひょっとすると「トウが立ったおばさん」などとからかわれているかもしれない。
そんなキャサリンの危惧を感じとったのか、
「私はねェ、キャサリン」
ソフィーは不意に彼女の手をとると、
「上流界の人間って大嫌い。気取ってるし、退屈だし」
媚びを含んだ甘い声で言った。
「でもあなたは別よ。ここに来ている人の中で私が好きなのは、キャサリンとサワコだけなの」
もしも「あなただけよ」と言われたのなら、まるで信じる気にはならなかったろう。日本大使夫人の青木佐和子と並べられたことで、キャサリンはまんざらでもない気分になった。
混み合ったホール内でも佐和子の姿を見つけ出すのは容易だった。華やかなドレスをまとった大使夫人たちの中で、彼女だけが日本の伝統的衣装である「キモノ(着物)」を身につけているからである。「和」を基調にしたパーティー会場に、その淑やかな姿はしっくりと溶け込んでいた。品の良い美貌に柔らかな微笑みをたたえながら、青木佐和子は来客の一人一人に挨拶の言葉をかけている。
(本当にサワコは素敵……)
ホスピタリティーのことを日本語で「オモテナシ」と言うのだそうだが、あの真心のこもった気遣いは、年長の自分も見習わなくてはいけないと、キャサリンは心から感心してしまうのだ。
華やかなファッションに身を包んだ夫人たちに対し、夫である大使たちはスーツ姿か燕尾服だ。その会話はもっぱら直近の政治的問題──隣国の東ロメニアで起こった軍事クーデターの話題で占められていた。
「なあに、ガイウスなんぞという無知な田舎者に国を治められるはずはありません。失脚まで半年とはもちますまい」
でっぷり太ったポーランド大使が自慢の口髭をひねりながら言うと、
「そうですとも、そうですとも。奴など怖るるに足りません」
「いざとなれば我がフランス政府も、ヨーロッパの盟主として手をこまねいてはおりませんぞ」
「『総統』などと大きな顔をしていられるのも、今のうちだけですよ」
他の大使たちも同意して頷いた。
ロメニアでは永く王制が続いていたが、二十年前に民主革命によって共和制となると同時に東西に分離した。分離の原因は民族問題である。プロキア人が多数を占める東部に対し、西部にはエルメス人が多く居住していた。分離後、西ロメニアは工業化に成功し国民所得も高くなったが、農業しか主産業のない東ロメニアの国民は貧困にあえいでいた。そんな国民の不満を背景に軍が台頭し、将軍ガイウスがクーデターによって政権を奪取したのが先月のことである。
ここエトルリアから東西の国境線までほんの四十キロの距離しかない。もし総統の座に就いたガイウスが侵攻を決意したなら、首都の陥落は時間の問題だ。東ロメニアの後ろ盾である大国ロキアの存在を無視はできず、アメリカやEUも迂闊には動けない状況だった。威勢のいい口ぶりとは裏腹に、この一ヶ月、そのことが大使らの心に重くのしかかっていた。
「図体はデカくとも、あの男は口先だけの臆病者なのです」
不安を掻き消そうと、誰かがことさらに大きな声で言った直後だった。
パーン!
外で花火のような音がした。
音楽が途切れ、一瞬にして静まりかえったホール内で、皆が不安そうな顔を見合わせた。
パーン! パーン! パーン!
散発的な破裂音に続いて、
ダダダダダダダダッ!
耳慣れない炸裂音がホールの窓ガラスを震わせた。
異常事態が起こったことは明らかだった。男も女も、全員の顔から血の気が引いていた。
大勢が階段を駆け上がってくる音がして、バーンと乱暴に扉が開かれた。自動小銃を構えて雪崩れこんできた迷彩服の兵士らを見て、イブニングドレス姿の大使夫人らは甲高い悲鳴をあげた。