05/08 電子版発売

格付けされる世界で生きていく 第七部 貴方と結ばれたくて

著者: 樹の棒

電子版配信日:2026/05/08

電子版定価:990円(税込)

男女比1:1万の新世界で上級学院三年生となったユウタ。
レイラは初恋の相手・ユウタへの想いと、過酷な現実とのギャップから逃避し、
夢の世界でユウタと結ばれる理想の未来を何度もループしていた。
自身の穢れに絶望するレイラだったが、夢の世界へ介入を試みるユウタや
ユキシロの優しさに触れ、閉ざされた心に変化が……
そして迎える最後の聖夜祭、ユウタの意思が新世界の秩序を創造する──
今こそ運命を乗り越える、裁きと再生と希望の第七部!

目次

第七部 貴方と結ばれたくて


1 レイラ 中級学院一年生①

2 レイラ 中級学院一年生②

3 レイラ 中級学院一年生③

4 レイラ 中級学院一年生④

5 レイラ 中級学院一年生⑤

閑話① 中級学院一年生のキョウバ

6 レイラ ラグナロク①

7 レイラ 中級学院三年生の始まり

8 レイラ 中級学院三年生二学期

9 レイラ 中級学院三年生三学期

10 レイラ 上級学院

11 上級学院二年生三月の終わり

12 上級学院三年生① 始まり

13 ユウタとサオリ

14 ユウタとタクヤ

15 夢の世界へ

閑話② マクハリ

16 レイラ 中級学院三年生一学期 ?回目

17 レイラ 中級学院三年生二学期 ?回目

18 レイラ 上級学院 ?回目

19 レイラ 上級学院二年生 聖夜祭の日

20 レイラ

21 愚か者

22 罰

23 東京ノア

24 上級学院三年生② 一学期

25 上級学院三年生③ 夏休み

閑話③ キョウバ ミール王国①

26 上級学院三年生④ 九月

27 上級学院三年生⑤ 文化祭

28 上級学院三年生⑥ 聖夜祭

29 上級学院三年生⑦ 年末年始

30 上級学院三年生⑧ 卒業

閑話④ キョウバ ミール王国②

閑話⑤ アマテラス

本編の一部を立読み

第七部 貴方と結ばれたくて

1 レイラ 中級学院一年生①



 寝起きは最悪でした。まどろむ意識は痛みで目覚めていきます。夢の中でも辛く苦しかったのに、感じる痛みにあれは現実だったと思い知らされます。
「……嫌」
 中級学院生になった私は『性技の特訓』と言われ、お母様に屋敷のある部屋へ連れていかれました。その部屋には男性を模した人形がいくつも置かれていたのです。
 これから私はミナト大名家分名家の娘として男子と交流していきます。男子を喜ばせるための性技を学ぶのは、名家の淑女には大事なことです。でも、この人形との特訓はお母様の生まれたミール王国での学習方法でした。下級学院や中級学院で学ぶ性技とは違う……しかも、複数の人形を同時に相手にさせられるのです。
 複数の男性と関係を持ち、時には同時に複数の男性に抱かれることのあるミール王国では、このような特訓は必要なのでしょう。でもニホン王国は違います。私が関係を持つ男性は生涯で一人だけ。まして、複数の男性に同時に抱かれるのはあり得ないのです。
 それでも、お母様は私に人形の特訓を課しました。私の身体が男子を喜ばせるものになるようにと。複数の人形を相手に無理な体勢を強いられると、身体は痛みに悲鳴を上げていきます。
「……起きないと」
 今日は初めて男性特区の中級学院に登校する日です。今日は挨拶だけとは言え、身だしなみは整えないといけません。ベッドから起きてシャワーを浴びて身支度を整えていきます。
 この屋敷はミナト大名家所有のもので、働いている人達もミナト大名から送られてきています。ミール王国出身のお母様が、ニホン王国で財力を持っていないのは理解できます。サオリ様を本妻に迎えたお父様にたまたま気に入られて、ミナト大名家の分名家となったお母様が、ミナト大名家から支援を受けるのは自然な流れです。
 でも……お母様はご自分で事業を始めることはありません。ずっとミナト大名家の支援に頼っています。いえ、頼るどころか支援を受け続けるのが当たり前だと思っているようです。昨夜もこの屋敷に泊っているお父様……シグロ様から寵愛を受けている自分が、ミナト大名家のお金を使うのは当然だと考えているのでしょうね。
「おはようございます、お父様」
「おお、レイラか。おはよう」
 玄関に向かおうと廊下を歩いていると、お父様と会ってしまいました。
 ミナト大名家当主サオリ様を本妻とするお父様ですが、サオリ様との仲は良好とは言えません。
 お母様とサオリ様の仲が悪いのはまだ理解できます。本来、本妻と分妻は良好な関係で夫を支えるのが最良ですが、必ずしも良い関係を築けるわけではありません。お母様のサオリ様への態度を考えれば、嫌われて当然です。どうしてお母様はサオリ様に、あのような無礼な態度を取るのでしょうか。お父様から寵愛を受けているからと言って、ミナト大名家当主のサオリ様に対して取っていい態度ではありません。
「行って参ります」
「今日は男子の中級学院への初登校だったな」
「はい」
 お父様は面白くなさそうな顔で私を見つめてきます。いつからでしょう……お父様のこの視線に……まとわりつくような嫌な感じを覚えるようになったのは……。
「今日は挨拶だけか。どうせ碌な男はいないだろう」
「……失礼のないように挨拶して参ります」
 私はお父様の視線から逃げるようにその場を去ると、屋敷の前で待っていた車に乗ります。お父様が起きる前に朝食を済ませておいて正解でした。
「レイラ」
 車の窓が開いていきます。この車は自動型ではなく運転手さんがいて、屋敷から出てきたお母様を見て窓を開けたのです。
「行って参ります」
「分かっているわね?」
「はい」
 念押しのためだけに、わざわざ見送りに来るなんて。普段、私が学院に通う時には気にもしないのに。よほどユキシロ様が誰と交流するのか気になるのですね。
 トウキョウに住む私と同い年の名家の女子が、男性特区の学院に初めて登校します。その中にはミナト大名家次期当主のユキシロ様もいます。私と異母姉妹のユキシロ様は、同い年の名家の女子の中で最も美しく優れていると評判です。同じ大名家のヨシワラ大名家次期当主アオイ様も素晴らしいけど、私もユキシロ様の方が優れていると思っています。
 そのユキシロ様が誰と交流するのか、しっかり観察するようにお母様から指示を受けています。それは分名家の同い年の女子として、ユキシロ様の男子との交流を支えるため……ではありません。
 本来なら私はユキシロ様を支える立場ですが、私とユキシロ様の関係は違います。幼い頃は仲良くお話をしていたけど、下級学院の五年生……サオリ様がミナト大名家当主に就任された時から、お母様は私にユキシロ様と距離を置くように指示してきました。
 アオイ様の異母姉妹のマナミ様のように、私もユキシロ様を側で支えるはずだったのに、今ではユキシロ様とお会いしても微妙な雰囲気になってしまいます。
 お母様のサオリ様への態度からして、私を使ってユキシロ様の交流を邪魔させようと考えているのでしょうね。ユキシロ様との交流を邪魔されたら男子が激怒して、私を排除するに決まっています。お母様に言われた通り観察するし、邪魔してこいと言われたら従いますが、すぐに男子から私が拒絶されて終わるに決まっています。
 そんなことを考えていると車は男性特区に入り、中級学院の前に到着したのでした。

「キョウバ様にご挨拶申し上げます。ユキシロと申します」
 ユキシロ様はキョウバ様という男子に挨拶をしています。ユキシロ様の後ろにいるのはアカリさんです。アカリさんの御実家はそれほど力のある名家ではありませんが、聡明なアカリさんをユキシロ様は信頼されているとか。
「お前がミナト大名家次期当主か」
「はい」
 キョウバ様は挨拶をしてきた他の男子と比べて、自信に満ち溢れた強気な男性という印象を受けました。ユキシロ様を興味深そうに見ています。
「俺様の言う通りに何でも従うなら、上級学院で直属してやってもいいぞ」
 ただ残念なことに、キョウバ様は女性を見下すタイプの男性のようです。貴重な男性は替えの利かない存在ですので、どんな男性であろうと必ず名家の女性の誰かと結婚して夫となります。
 男性等級が低くても、名家の女性と結婚できない男性はいないのです。男性は高い等級を目指して頑張ることが社会貢献であると教えられているはずですが、女性と良好な関係を築けない男性がいるのも事実です。
 生まれた時から歩むべき道を決められているのは、名家も男性も同じです。ただ、名家の女子は男性と縁を結べずに、市民となる人生もあります。名家から市民に堕ちるのは恥とされるでしょうが、私からすれば市民となって自由になれるのは悪くない人生だと思えます。その後は自分の力で生きていかなくてはいけない厳しい道ではあっても、勝手に決められた運命に縛られることのない人生を歩めるのですから。
「キョウバ様にご挨拶申し上げます。レイラと申します」
 ユキシロ様とアカリさんに続いて、私もキョウバ様に挨拶をします。ですが、ユキシロ様の時のように何か質問されることはありません。私だけではなく、キョウバ様はユキシロ様以外には何も仰らないのです。アカリさんもそうでした。
 ヨシワラ大名家次期当主のアオイ様には……何か質問されるかもしれませんね。キョウバ様は大名家当主の夫の地位を欲しているのでしょう。

 私たち名家の女子が通っていた下級学院、そして普段通っている中級学院には、名家の女子だけではなく市民の女子も通っています。市民の女子だけが通う学院と比べて『男性との交流』に関して多くを学ぶ学院です。そのため、将来に奉仕活動で男性との交流を望んでいる市民の女子も通っているのです。
 月に一度、名家の女子たちだけ男性特区の中級学院で男子との交流を持てます。市民の女子からは羨望の眼差しと共に、交流の状況をあれこれと噂されたりします。
 名家の権力構図は夫次第と言われます。母親が本妻でも娘が分妻となれば権力は落ち、母親が分妻でも娘が本妻となれば権力は大きくなります。そして夫がいかに社会貢献を果たして高い男性等級であるかも重要です。
 男性の社会貢献。
 本妻分妻と良好な関係を保ち、市民の女性に奉仕活動を行って、多くの市民の女性を愛人として、多くの子を残したか。男性に求められる理想像です。
 月に一度の交流の後では、あの男子はこうだった、この男子はああだったと、口の軽い名家の女子から話を聞いた市民の女子たちは盛り上がるのです。

「ユウタ様にご挨拶申し上げます。ユキシロと申します」
 ユキシロ様はユウタ様という男子に挨拶をしています。
「挨拶……ありがとうございます」
 ユウタ様はどこか元気のない声で返事をされたのですが、女子に「挨拶ありがとうございます」と丁寧に返事をしてくださいます。これだけでユウタ様が優しい男子だと分かります。
 キョウバ様ほどでは無くても、中級学院の男子は女子を見下したり威圧的だったりすることがあると学びましたが、ユウタ様は違うと思えました。
 名家の女子にとって男子との交流は名家維持のためにも最重要な問題ですが、それは男子も同じです。自分の一生を預ける女子を選ぶのですから。
 特に中級学院一年生の男子は、まだ女子との交流経験がありません。下級学院まで一緒に暮らしていた母親とは離別したばかりです。担当官との信頼関係構築もこれからで、周りにいる女性たちを信頼していいのかどうか不安は大きいはずです。女子に対して威圧的なのは自己防衛本能でもあると思います。
「ユ、ユウタ様にご挨拶申し上げます。ア、アカリと申します」
「挨拶ありがとうございます……あれ……足……痛いの? 大丈夫?」
「え、え、あ、だ、大丈夫です!」
 アカリさんが挨拶をすると、ユウタ様はアカリさんの足を心配されました。アカリさんの歩き方が少しおかしいと思っていましたが、男子のユウタ様がお気づきになるなんて……。
 アカリさんに続いて、上級学院でユキシロ様の従属候補の女子たちがユウタ様に挨拶をしていきます。従属を認めるのは男子ですが、男子に従属を推薦するのは直属の女子です。
 ユキシロ様は間違いなく誰かの直属になられるので、その男子の従属候補をユキシロ様はお連れになっています。
 本来は私もその一人……筆頭でなければいけないのですが……。
「ユウタ様にご挨拶申し上げます。レイラと申します」
 ユキシロ様の従属候補の女子たちの挨拶が終わった後、私もユウタ様に挨拶をします。
「挨拶……ありがとうございます」
 やはり元気がありません。
 男子は初めて同い年の女子と会って、たくさんの挨拶を受けるのでお疲れにもなります。疲労から挨拶を切り上げる男子もいます。ユウタ様もお疲れなのでしょうか?
 そうであるなら、ユウタ様の担当官が動かないのはおかしいです。特に名家出身が務める主担当官の女性は、男子の体調を注視しているはずです。ユウタ様の後ろには担当官が二人います。どちらが名家出身の主担当官かは……一目瞭然ですね。
 金色の髪に蒼い瞳の女性。ニホン王国ではあまりに目立つその容姿は、彼女がサシャール王国の血を引いていると分かります。
 金髪の主担当官も、黒髪の市民の副担当官も、ユウタ様への挨拶を止めに入る素振りはありません。ただ、とても心配そうに見ています。矛盾する態度の意味を、私は理解できませんでした。
「…………」
 ユウタ様は私をじっと見つめています。視線が外れたら「失礼いたします」と立ち去るのですが、ユウタ様の視線が外れないので動けません。
 何か失礼をしてしまったのでしょうか……不安が心に広がっていきます。
「……綺麗だね」
「え?」
「あ、いえ……」
「あ、ありがとうございます」
 ユウタ様に「綺麗だね」と言われた私の顔は、一瞬で真っ赤になっていたことでしょう。思わず「え?」と失礼な返しをしてしまい、慌てて感謝を伝えました。
「し、失礼します」
 初めての交流は挨拶だけという決まりのため、このまま話を進めることは出来ません。
 私はお辞儀をして、その場を立ち去ったのでした。

 廊下に出た私の心臓は鳴り止みません。ドクドクと鼓動がはっきり聞こえてきます。初めてお会いしたユウタ様に……綺麗だねと……言って頂けた。
 綺麗だね……な、何が綺麗だったのでしょう?
 顔? それなりに整った顔だと自分でも思っていますが、顔立ちならユキシロ様の方がずっとお綺麗です。
 髪? ユウタ様の主担当官がサシャール王国の血を引いた金髪のように、私もミール王国の血を引いた銀色の髪をしています。
 それとも緑色の瞳? 褐色の肌?
 ユウタ様は主担当官の金髪で蒼い瞳の女性のように、ニホン王国の一般的な女性とは異なる容姿を好まれるのかしら?
 もしそうだとしたら……私を好んで下さった?
「あ……」
 廊下でしばらくユウタ様のことを考えていた私は、ユキシロ様たちがどこに行ってしまったのか分からなくなっていました。お母様からユキシロ様の様子を観察するように言われていましたが……。
 私の勘では、ユキシロ様はユウタ様に好感を抱いていました。アカリさんの足の具合を気にして下さった優しいユウタ様ですから。
 逆にキョウバ様には嫌悪感を抱いたように思えます。表情には一切出していませんでしたが。
 その他の男性は可もなく不可もなくといった感じで、この後もたぶん同じでしょう。
 ユキシロ様はきっとユウタ様をお選びになるはずです。そうなれば私もユウタ様と……。もしお母様からユキシロ様の邪魔をしてこいと言われても、ユウタ様と交流できるなら……ユキシロ様に協力を願い出てお母様を騙せば……。

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