格付けされる世界で生きていく

第四部 承るのは、心の声

著者: 樹の棒

電子版配信日:2023/10/27

電子版定価:880円(税込)

シチュエーション

男女比率1:1万の新世界──文化祭と奉仕活動で多忙な日々が終わり、
ここで婚約した男女は幸せになれるという、十二月の聖夜祭が訪れる。
ユウタ、ケイタ、タクヤ、キョウバの婚約者は誰に……
そして白きドレスを纏うミナト大名家次期当主・ユキシロの胸の内は……
思惑が入り交じるなか、運命を激変させる聖夜祭の幕があがる。
心が、未来が、静かに激しく動きだす──衝撃と波瀾の第四部!

目次

第四部 承るのは、心の声


1 二学期の始まり

2 ケイタのクラスの変化

3 タクヤの決意

4 キョウバとルリカ

5 キョウバのクラス

閑話① セイラムの苛立ちと焦り

6 アオイとユキシロ

7 ユキシロとレイラ

8 ドレス店

9 キョウバの怒り

10 コンドーム

11 ユウタの文化祭

12 ケイタとタクヤの文化祭

13 キョウバの文化祭

14 キョウバの部屋

15 ミナト大名家

閑話② サオリとミオ

16 聖夜祭

17 聖夜祭の入場

18 聖夜祭のファーストダンス

19 聖夜祭で狂う

20 聖夜祭の求婚

21 聖夜祭の事件

22 聖夜祭の大事件

23 聖夜祭の終わり

24 クラスの夜会準備

25 ミナト大名家

閑話③ 王家

26 ミナト大名家②

27 大晦日

28 雪代

29 ヨシワラ大名家

30 上級学院一年生の終わり

閑話④ 初夜 アオイ

閑話⑤ 異変

登場人物

ユキシロ

アオイ

マナミ

ハヅキ

ハナサキ

ルリカ

セイラム

レイラ

ミオ

トモカ

本編の一部を立読み

第四部 承るのは、心の声



1 二学期の始まり

 クラス旅行など充実した夏休みが終わり、ユウタ達の上級学院一年生の二学期が始まった。二学期は九月、十月、十一月の三ヶ月で、十二月は冬休みとなる。
 二学期で一番大きな学院行事は、十一月にある文化祭である。この文化祭は各クラス単位で開催され、外部から招待客を呼ぶことができる。市民の女性達にとって、文化祭は男性特区内に入れる貴重な機会で、運が良ければ男性を見られたり、会えたりする機会でもある。
 クラスの名家の女子達にとっては男子との仲を深めて、特に直属は文化祭の翌月にある聖夜祭に向けて大事な時期となる。二学期が始まり、放課後のクラスでは女子達が文化祭の打ち合わせを行っている。この打ち合わせに、男子も参加してもらえるのが一番良い。
 ユウタはもちろん参加している。文化祭の打ち合わせがなくても、放課後にはできるだけクラスに顔を出しており、アオイ達と楽しく文化祭の準備を進めていた。
 ユウタは夏休みの間にアオイとマナミだけではなく、カナやヒトミ達の従属女子ともスキンシップまで仲は進み、クラスの雰囲気は良好だ。カナ達も、自分達がユウタの分妻……それも仮面妻ではないちゃんとした分妻になれる期待を持てているため、表情は明るく喜びに満ちていた。
 直属は複数いても誰か一人は必ず本妻になれる。そして本妻に選ばれなかった直属も、分妻として迎えてもらえることは多い。しかし従属は、分妻として選ばれるかどうかは未知数だ。男性に気に入ってもらえなければ、どうにかして仮面妻になるのを目指すしかない。最悪は仮面妻にもなれず、名家を維持できなくなるかもしれない。
 カナ達もアオイが直属の男子を決められずにいた頃は、正直不安は大きかった。ヨシワラ大名家次期当主を支える女子として選ばれたカナ達は、アオイの判断を待つしかない状況だったのだ。仮にアオイがユウタと出会わなければ……ヨシワラ大名家の力で、誰かに仮面妻として迎えてもらう人生が待っていたかもしれない。
 そんな最悪な未来を、いまのカナ達は微塵も想像することはないだろう。毎日のようにユウタは放課後にクラスにやって来て、アオイとマナミだけではなく、カナ達にも親しく、そして愛情を持って優しく接してくれる。男子とこれほど気軽に話せるのは当たり前のことではないのだろうと想像して、カナ達は自分達の境遇がいかに幸せかを噛みしめていた。
 男子との接し方を習う名家の女子も、実際に交流する男子は人生で一人なのが普通であり、他の男子との比較をすることはできない。アオイもマナミもカナ達も、ユウタを他の男子と比較することはできないのだ。しかし、聞こえてくる情報と、習ってきた知識からして、ユウタが自分達に接してくれている態度が、どれほど恵まれたものであるかは想像できた。
 ユウタ達のクラス文化祭は、サキュバス制服を使った企画を考えていた。文化祭に招待するお客は、ヨシワラ大名家支持者がほとんどを占めることになる。そしてその女性達は、ユウタの配信の会員登録者となるだろう。
 ヨシワラ大名家支持者でユウタの配信の会員登録をしているのは、ヨシワラ大名家の特別枠として会員登録した女性達だ。ヨシワラ大名家支持者以外でユウタの配信の会員登録をした女性達も文化祭に招きたいとユウタは考えているが、実際問題として招ける人数はかなり限定される。直属がアオイである以上、ヨシワラ大名家支持者を優先しなければ、批判の矛先はアオイに向いてしまうのだ。
「十一月の日程全てを押さえるのは無理ですよね」
「はい。さすがに体育館の日程を全て押さえるのは難しいかと」
 文化祭を十一月の何日から何日まで開催するかも、各クラスが自分達で決めることになる。上級学院一年生の男子校舎内で開催するため、体育館などの施設を利用したい場合は、各クラスの直属女子が話し合って日程を調整するのである。
 通常、同じ日に体育館を使いたいという希望があっても、運動会を行った体育館は広く、二クラスから三クラスぐらいは合同で利用することが可能だ。
 しかし、ユウタの招待客の多さを考慮すると、体育館をユウタのクラスだけで利用したい。それでも広さは足りないぐらいだ。そして十一月一日から三十日までの日程全てを押さえたいのが本音である。ユウタ達のクラスの文化祭は、十一月一日から三十日まで、十一月中ずっと開催する予定なのだ。
 通常は一週間程度の開催のため、一ヶ月ずっと開催するのは珍しいが、これも招待客の多さから考えると足りないぐらいである。
「体育館が取れない日は、教室を使うしかないですかね」
「企画は成立しますが……。招待客の皆様にユウタ様を見ていただける時間は少なくなってしまいますね」
 クラス文化祭の企画のメインは、ユウタとの抱擁会である。サキュバス制服を使った抱擁会なら、ユウタが抱擁した女性の感触を全員が感覚共有することができる。最初に抱擁してもらった女性も、二階の観客席など効果範囲内にいればいいのだから。
 そして広い体育館なら順番を待っている間、女性達がユウタの姿を見ることができる。遠くからであっても、ユウタを長い時間見ることができて、しかも抱擁の感覚共有でずっと抱きしめてもらえるのだから、幸せな時間となるだろう。
 それが教室だと、教室内に入ってきた時しか実際のユウタを見ることができない。抱擁の感覚共有はできても、ユウタを生で見られる時間が少ないのは残念なことである。
 ユウタに限った話ではないが、市民の女性達にとって男性と実際に会えるのは一生に一度のことである。体育館の日と教室の日があるなら、誰もが体育館の日に招待されたいと願うだろう。
「不公平をなくすなら、教室だけで開催します?」
 ユウタの考えに異を唱えたのはアオイであった。
「不公平ではありませんので、問題ありません」
「不公平ではない?」
「はい。不公平とは、公平ではないことです。では公平とは何かを考える必要があります。全ての人達が享受できるものを、誰かに意図的に与えないのは不公平だと考えます。ですが、限りあるものを誰かに与えるなら、享受できる人とできない人がいるのは不公平ではないと私は考えます」
「なるほど……。この場合は不公平ではなく、何と表現するべきなのでしょう?」
「そうですね……区別された結果の選択でしょうか」
 ユウタは文化祭の招待客を、アオイに一任している。招待客を格付けして、区別した結果、体育館の日と教室の日に振り分ける選択はアオイがすることになる。
 もちろんユウタが、この女性は体育館の日に招待してあげて欲しい、とアオイに言えば、その女性は無条件で体育館の日に招かれることになるだろう。
(お飾りの王様……とは言いたくないけど、僕は希望をアオイさんに伝えるだけで、何かの責任を負わない方がいいんだろうな)
 男子は自分の価値観や好みに合った希望を直属に伝える。直属は男性の希望に沿ってクラス運営をする。男性の希望の先にある問題や責任を負うのは直属の女性だ。そこに男性が足を踏み込もうとすれば、さらなる問題が発生してしまう可能性が高い。
 ヨシワラ大名家次期当主のアオイは、ユウタの希望に沿って物事を進めていくが、ヨシワラ大名家にとっても最良となる形を考えて選択していくのは当たり前のことなのだ。
(何かを選択するために区別する。区別するために格付けをする。仕方のないことだ)
 文化祭で体育館の日に招待される女性達は、教室の日に招待される女性達よりも、ヨシワラ大名家にとって優秀で重要な女性と格付けされる。この女性はあの女性より優秀で重要だという判断を、アオイはしていかなくてはならない。
 そんなアオイは、ユウタが自身との良好な関係を望んでくれて、愛情を一緒に育てる努力をしてくれているおかげで、クラス運営における様々な判断を迷うことなくできていた。
(かかあ天下じゃないけど、委ねた方が上手くいくこともある。後は互いがどれだけ相手を信じて寄り添えるか。僕とアオイさんなら、ちゃんと愛情を育てていけるはずだ)
「他のクラスに迷惑にならないように、できるだけ体育館を押さえてください」
「承知いたしました」
 ユウタは男子の中でも希有な価値観を持っており、自身の好みや希望だけではなく、アオイのことを考えて自身の価値観を築いてくれている。通常の男子は、直属の女子のことをここまで深く考えて物事を判断しようとしないのが普通だ。
 現に、とあるクラスの直属女子は大いに悩んでいた。
 ケイタの直属のハヅキである。

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