ぼくのことバカにしていた後輩ギャルが全裸で土下座した逆転のハメ撮り48時間プレミアムパック 3
第三章 全裸で土下座まで、あと五日
「マジこれ八月より暑くない? エアコンどうにかしないとやばない?」
遠藤以外は。
彼女だけはすぐ戻ってきて、それからも普通に気が向いたらやってきている。夏休みが明けてひと月が経とうとしても変わらない。
むしろ距離は近くなり、隣に座って「だるい」だの「暑い」だの愚痴を言ってくる。メイク直しやスマホいじりも近くでして、一人でしゃべり、僕が話しかけると無視したり。
部活に関係ないやつは来るなと言ったのに、それも無視だ。
「…………」
そして静かだなと思ったときは、だいたいマンガアプリだった。
「ほれ」
「見せなくていいってッ。そんなの部室で読むなッ」
最近はエロいマンガを読む手段を見つけたようで、けっこうきついのを読んでいた。しかもそれを僕に見せる。慌てるのが面白いらしい。
どう見ても僕以上に不毛な放課後だ。
仕事はちゃんとしているみたいなんだけど。彼女のインスタによると。
「うわ、あたしめっちゃ汗くさくてウケる。嗅ぐ、JKの匂い? コーフンするっしょ?」
腕を顔に突きつけるな。びっくりするくらいすべすべで白くて毛も生えてない腕を不用意に近づけるな。
前は僕が勃起しただのあらぬ疑いをかけて騒いだくせに、それ以来そっち方面のからかいも増えたし。
何を考えてるんだろうな、ギャルって。
とにかく僕は今日忙しいんだ。準備があって。
「どしたの、センパイ。今日は弾かないの、チョロ?」
チェロな。
「弾くよ。あとで」
「ふーん」
数日かけて作成した音源を、今朝から何度もイヤホンで確かめている。ちょっと緊張している。
「ねえ、センパイ」
「うん?」
弓を構えようとしたら、途中で遠藤に話しかけられた。この数ヶ月の間で、なんとなくお互いの中にできたルールがあった。
「センパイ」とか「遠藤」と呼ばれたら、無視しないでちゃんと聞く。
「……あたしのニックネーム『ぎりちょろ』にしてあげよっか?」
でもだいたい、やっぱり無視してもよかったぐらいのくだらない内容だったりする。
「いいけど、ださくない?」
「そりゃださいよ。ださかわいいのギリを攻めた結果、ださくなってるよ。でもそんなハッキリ言わなくてよくない? あたしこれでも本気で言ってんだけど」
「いや本気で言ってるなら、なおさら誰かに止めてもらったほうがいいし」
「知らん、もうッ。あー、めっちゃサガった。せっかく今日、新しいあたしになろうと思ったのに。特別な日なのにッ。最初に言う人、間違えた!」
急にキレる面倒くさい後輩だ。でも、これが日常となっているので、いいかげん僕も腹を立てたりしない。
たった一人で部活をやっていたときは気づかなかったけど、まあ、遠藤が来ない日は早上がりをしてしまうくらいには、観客効果もあるみたいだし。
少しは感謝していたりもしないわけではない。なので。
「遠藤」
「なーに?」
そっぽ向いたまま返事だけする彼女の隣で、僕は深呼吸してスマホの音源をスタートさせる。
アプリでプログラミングしたドラムとベースと、ノリで叩いてみたタンバリンと、チェロで弾いたサブパートと。
それと、生で演奏してみせる遠藤のリクエスト曲――あいみょのマリゴとかいう曲だった。
「え……音がキモい」
感想きついな。
でもそのとおりだよ。実際、こんなの音が噛み合わなくて弾いてるほうも気持ち悪いよ。
というかアレだな。普通に原曲を流して伴奏するだけでよかったな。そのほうが絶対聴ける。慣れない真似をするからだ。なんで余計なことしたんだよ。
だって考えてもみたら、みぃぽよとかいう子より先に、僕にリクエストしたのは遠藤だったから。それだけだ。
最後まで下向いて演奏しきる。途中でやめたらそれこそ恥ずかしいから。
顔を上げたら、なぜか遠藤は僕のことを動画で撮っていた。
「……なんで?」
スマホ越しに遠藤が僕を見ている。ちっちゃい顔にでっかいケースが重なって、彼女がどんな表情をしているのかわからない。
でも、手が震えているのはわかった。
「前にリクエストしてたし」
「そうじゃなくって!」
こくりと、スマホケースの後ろで遠藤の喉が動く。
「なんで……あたしの誕生日知ってんの?」
スマホがこっちを見ている。動画で撮られてる。今度は僕が唾を飲む。
とりあえずカメラから顔を背けて、無意味に足を組んでポーズを取ってから答える。
「インスタで見た」
「インスタ見てんのッ?」
「いや、遠藤がこんなとこでダラダラしているの見てたら、ネットの遠藤がちゃんと活動しているのか気になって……」
「フォローしてんのッ?」
「まあ……それは」
「エっロ!」
「なんでだよ?」
遠藤はスマホを下ろす。真っ赤な顔してこっちを睨んでいた。
「後輩のインスタ覗くとか信じらんないッ。何目的なんすか。センパイに見られてると思ったら怖くて写真あげられないんですけどっ。いつから覗いてたのッ?」
「六月くらい? いや、でも、そんなことを言ったら遠藤のフォロワー二十四万人たちはなんなのっていう……」
「な、夏休みにプール行ったときのもあげてんだけどッ。あれも見たの? センパイ、あたしの水着見たのッ?」
「…………」
「無言って!」
「いや見たよ。遠藤の水着姿を見たよ。でもそれは僕のせいではないだろ。アップしたのは自分だし!」
「待ってッ。待って待って待って……え、ウソでしょ。あたしストーリーでメイク動画もあげちゃってんだけど……まさか見てないよね。す、すっぴんのやつ」
「あぁ、見たけど」
「殺す~!」
「え、なんで。そっちは別によくない?」
なぜか水着よりも遠藤は怒り出した。もぎゃもぎゃして、わなわなして、湯気が出そうなくらい真っ赤になり、両手で顔を隠した。
どうしてだよ。メイク動画くらい誰でもやってるだろ。すっぴんでも可愛いとか女子の間で言われるやつだろ。
まあ、遠藤のすっぴんも、個人的にはメイクをガチガチにしてるときよりいいかもなって評価してやったくらいなのに。いいねはしないけど。
「センパイのスケベッ。ヘンタイッ。マジ怒った、スマホ貸せ!」
「え、なにするんだよ?」
「アカウント教えろ。ブロックしてやる」
「いいよ、フォロー外すよ、自分でッ。もう誰が見るかよっ」
「信用できないッ。いいからスマホよこせ!」
取り上げられて、インスタのアプリ見られて、きっちりブロックされた。そして叩きつけるように僕にスマホを投げ返す。
「センパイはインスタ禁止!」
どうしてそんな怒るのか知らないけど、カバンを持ってさっさと遠藤は出ていってしまう。
扉を思いっきりバーンと閉めて、バーンと開けて、「マリゴはありがとぉ!」と吠えて再びバーンと閉めて、ようやく静かになる。
……まあ、いいけど。
らしくないことをした僕も悪い。
彼女のような人間がどうしてこんなところをウロウロとしているんかわからないけど――水着姿をあげただけで、あちこち転載されてフォロワーが一万人も増えるようなとこ、僕も見たくなかったし。
アカウントなんていくらでも作れるけど、見るなというならもう見ないよ。どうせ僕には関係ない。楽しそうに笑うあの遠藤は、SNSの中にしかいないんだ。
僕とは無縁の、無敵の世界に彼女はいる。
その翌日に遠藤は炎上したそうだ。SNS怖いな。
部室に来て机に伏したまま全然動かない。ずっとこの状態だ。スマホを握りしめた手も、ゆるいパーマの金髪も、力なく机の上に広がっている。
いつもうるさい遠藤が今日は無言だ。「どうした?」「炎上した」という短いやりとりを最後に。
がらりと教室の扉が開く。遠藤の同級生ギャルたちが久々にやってきた。
「いたー、ちぎちょ。こんな日も部活なん?」
「まっじめ~」
「センパイ、うぃ~す。ひさしぶりだね」
例の「みぃぽよ」も、見かけない間にまた色気を増したみたいで、ブラウスのボタンがさらに開いている。久しぶりって感じでその谷間に目を奪われた。
でも、それより気になる発言があった。
「……部活って、遠藤なにかやってたの?」
みんな「?」という顔をした。遠藤を見ると、机に突っ伏した耳が赤くなっていた。
「あぁッ。それより、ちぎちょ大丈夫~?」
みぃぽよが、空気を変えるように話を戻す。僕の質問には誰も答えてくれない。
忘れていたよ。そういや、遠藤の友達も基本的に僕の存在は無視していたっけ。別にいいけど。
遠藤を取り囲んで、ギャルたちは明るく根気よく励ます。燃えた原因は知らないけど、リアルの友達とは上手くいっているらしい。
そのうち、みぃぽよが手招きをして僕を教室の外に連れ出す。壁にもたれかかって、遠藤の前では見せなかった疲れた表情を見せた。
というか、腕組みをするとむちっと盛り上がる胸。本当に一年生なのか? この子、性に強すぎないか?
「ちぎちょ、何か言ってました?」
髪を耳にかけ、インナーカラーのグリーンを見せながら心配してみせる仕草も色っぽくて、僕は顔が熱くなる。
「……さあ。炎上したってだけ」
みぃぽよ(いいかげん本名を知りたい)は、腕に載せた胸をさらに持ち上げるように寄せ、「は~?」と顔をしかめる。
「センパイ、インスタやってないの? 原因知っててその態度ってわけじゃないよね?」
「いや、前はやってたけど、遠藤がキレたから今は出禁。どうして炎上したのかも知らない」
「あー……ったく、めんどうな人たちだなぁ」
今度は、完全にさげすんでいる顔になった。なんなの今年の一年生。先輩に対する圧じゃないだろ。
「炎上原因くらい知っといてください。一応、男関係ってことになってるんで」
「え?」
「ちぎちょ、彼氏いないってずっとインスタで言ってたでしょ。でもこないだ誕生日に「#さいこーのプレゼント」とかいって短い動画を流してて。一瞬だし、不気味な音しか聞こえないし、あたしらくらいにしか意味わかんないヤツなんだけど」
みぃぽよは、僕の反応を見るように見上げる。
胸を見ていたことがバレないように、うなずくふりをして目を逸らした。
「その動画に、教室の床とチラっと男の足が映ってたんですよね。もしかして彼氏からなんかもらったんだろって、めざといヤツがコメントつけてくれちゃって」
「……それだけで?」
「いや、そしたら解析班みたいな連中も動き出したの。前から教室の自撮り画像にも同じ足が写ってたって。彼氏同級生だろって話になって。そんで前から男いたんじゃねーかって燃えたんですよね」
同級生の彼氏?
「まあ、あたしらにしてみれば『今頃かよ』って感じだけどねー」
同級生の……彼氏?
「実際燃えたっても一部の勘違いヤツとか、なんにでもキレてそうなヤツとかの、しょぼい炎上なんすよ。普通におめでとってコメントのが多いし。でも最近ちょっと一緒の写真多すぎるし、匂わせすぎじゃねって、あたしらも言ってたんですよね」
同級生に……彼氏いたのか……。
「ていうか、あたしがセンパイに説明すんの絶対おかしくね? 今日もセンパイに相談しに来たのかなって思ったんだけど……聞いてる?」
「え、は、なに?」
「いや、しっかりしろ? センパイからちぎちょに何か言ってやんないの?」
「僕は何も……わかんないし……」
「はあ?」
そういうのは、彼氏と相談すればいい。
どうせ遠藤と釣り合うような、イケメンで、スポーツとかできて、オシャレな陽キャなんだろうし。二人で仲良く顔出しして結婚報告でもすればいいんだろ。
「もうなんなの~。あたしにどうしろっての、コイツらはぁ」
みぃぽよは、腕組みを解いておっぱいを解放することにより、ドゥンと音がしそうなくらい揺らして僕の脳に衝撃を与えた。目が覚めた。
「センパイ、マジであたしがドーテー喰ってやろっか? そしたら少しは女に自信つく?」
「えっ、いや、そんなっ、なにを」
「だったら早くちぎちょを喰え。こんなママゴトみたいなじれったい関係、卒業するまで続けるつもり? そんなんでギャルが捕まると思ってんの。あ?」
そして、そのおっぱいで僕を壁際に追い詰め、ドンと手をつく。
頭一つ分くらい僕より小さいのに、眼力強いし、やっぱりギャルって怖い。
だけど、そのはだけたブラウスの胸元には、どうしようもなく目が惹きつけられる。男子の好奇心が根こそぎ奪われる。
そんな僕にため息をついて、髪を耳にかけ、紫色の下着と同じカラーのもみあげを見せ、みぃぽよは――
「センパイに一週間あげる。来週までにちぎちょをなんとかしてやって。そんぐらいもできない人なら、そろそろ終わりにしよっか。あたしらが全力でちぎちょを引き離す。他にいいオトコ見つけちゃる。だからセンパイはセンパイでがんばれ。とゆーことで」
僕の手を取って、自分の胸に押し当てた。
ぽよん、というか、ぽよぽよぽよっていう感じにどんどん指がめり込んでいって怖くなった。マジで沼。
「えっ、ちょっと、な、なにッ?」
焦って手を離す。一瞬躊躇したけど、なんとか引き離す。
「さっきから、めっちゃあたしの胸触りたそうにしてんじゃん。そんであたしも前に言ったじゃないすか。センパイとならしてもいいって。マジだってわかった? これが男と女の同意ってやつ。どっちもしたいと思ってんだからいいの。そこを間違えなかったら、二人は何してもいいんだって」
チョロいもんでしょ、と彼女は言う。
でもさすがに顔を赤くしていた。僕のほうがもっと赤いに違いないけど。
「どう、イケそ? それとも、もう少し練習する?」
みぃぽよが、じっと睨む。
僕は動揺しちゃって言葉も出てこない。口をパクパクさせるだけだ。
「はぁ~。もう……特別だぞ? ちぎちょには絶対にナイショね」
僕の手を引いて、「こっち来い」とみぃぽよは隣の教室に連れていく。
誰もいないことを確かめて「よし」と彼女は掃除用のロッカーを開け、狭いその中に入ってしまう。
そして、ロッカーの扉は開けたまま廊下側からの目隠しにして、僕に「誰か来たらすぐ閉じてよ」と言い、ブラウスの背中に手を入れた。
ぷちん。
薄く透けていた紫のブラが、その音と同時にちょっと浮いた。
「ちょっと反則っぽいけど、勝手な条件つけたのこっちだしねー。少しだけセンパイに勇気あげる。女、軽く体験していきな?」
そしてブラウスの裾を広げて、ひらひらとおへそを見せてお腹を突き出す。
「手ぇ入れていいよ」
挑発。誘惑。生意気。
ギャルに似合いそうな単語は全部みぃぽよにはよく似合う。僕はごくりと息を呑む。
「早くして。誰か来たらヤバいじゃん。ほら、おっぱい触りたいんでしょ?」
みぃぽよが、僕の右手首を握って持ち上げ、下からブラウスの中に入れる。お腹の柔らかさに驚いた。すべすべで感動した。
股間がギンギンに硬くなってて、心臓が飛び出しそうだった。
「ブラ、取らないでね。誰か来たらすぐつけるから、外すのナシね」
こういうの学校でしたことあるんだろう。馴れてるんだ。だから僕にも触らせてくれる。ただのサービスで、深い意味はないんだ。
勝手な言い訳を作って、僕はみぃぽよの――生ぽよに触れた。
「う、うわッ」
ずしりとした重量感と、ふわふわの触感。指がどこまでも埋まるのに、みちっと押し返してくる弾力。
ぽよぽよしていた。ぽよぽよの、ぽっよぽよだった。
「うわって。センパイ、ビビりすぎ。ただのおっぱいじゃん」
ぽよぽよは、いや、みぃぽよも、そう笑いつつ赤くなっていた。僕に触らせたまま「気持ちいい?」と目を細める。頭が全然回らなくて、率直に答えるしかなかった。
「気持ちいい……」
「あははっ。男ってホントおっぱい好きだよねぇ。いいよ、揉んでも」
いいの? こんないいもの、本当に揉んでいいの?
みぃぽよは、見つめられるとやりにくい僕に気を遣ってか、視線を横に向け、そっと顔を伏せる。見てないから好きにしなって、言われてるみたい。
右手を緊張させたまま動かす。ブラジャーの上はぴっちりしたブラウスで、いやでも手のひらが密着するから、指がどんどんとおっぱいに食い込む。呑み込まれる。
「ん……あん」
どうせサービスだとわかってるのに、みぃぽよのエロい声にゾクゾクする。狭いロッカーの中にギャルの匂いと呼吸が満ちて、脳みそが麻痺していく。
「あんッ」
ブラの中で指を蠢かせ、頂きを目指した。ぷに、と人差し指と中指の間にしこりが挟まる。ドキっとして手が震える。
みぃぽよが、指の背を咥えるようにして声を押さえた。びくんと腰のあたりを痙攣させた。。
これだって演技だ。と、思っているのに、僕はパンツの中を濡らしている。
でも、そんな切迫した下半身事情にもかまっているヒマないほど焦って、みぃぽよのおっぱいを揉む。揉んでないともったいない。童貞の男子高校生には、金に値する胸だった。
指で波を作るように。この柔らかい肉が震えるように、僕は感動しながら揉みしだく。。
「ん、ん、んんっ、ふぅ、んっ」
僕の手のリズムにぴったりシンクロして、みぃぽよが甘い吐息をこぼした。汗ばんでいる僕の手に、みぃぽよのおっぱいはしっとりと密着した。きっと僕ら、楽器を持って演奏しても息が合うんじゃないかと思った。
放課後のギャルの感触。一日を過ごした肌の湿り。
胸と胸の隙間から、香水のような匂いに混じって生々しい肉体の匂いも立ち上る。友達でもない女子のおっぱいを揉んでいるという非日常感と、リアルな女の子の芳しさが、ますます僕を混乱させて興奮させる。
神秘的で謎だらけの女の子の体が、僕と同じ汗を流して、セックスを予感させる。予感だけで僕はパンツを濡らしている。
かたん、かたんとモップの柄をお尻で押しながら、やがてみぃぽよは蕩けた顔で笑った。
「ねえ、センパイ……アレも触りたい?」
「ア、アレって?」
みぃぽよの熱っぽい吐息が、僕の頬にキスするみたいに近づいてきて。
「マ・×・コ」
そのささやきは、耳の奥でエコーするように響き、僕はパンツの中に射精したことを、ハッキリ自覚した。
「ん、ちょっと待ってね」
僕におっぱい揉ませたまま、みぃぽよはスカートの中に手を入れてもぞもぞとお尻を揺らした。
ぴっちぴちの細い下着を、紫色の紐みたいに細いパンツを、太ももに食い込ませるような位置で引っかける。
「はい。スカートの下から手を入れて。めくるの禁止ね。さすがに恥ずいし。でも触るのはOKだよ」
ギャルは天使かと思うくらい、僕には優しいルールだった。
僕は左手を(右手は生ぽよ中)スカートの中に潜り込ませる。彼女のほぼ唯一の禁止であるスカートめくりをしないように、慎重に下から指を伸ばして――柔らかい、ふよっとしたものに触った。
「うわ、わッ」
「だから、うわわって」
みぃぽよがまた笑った。僕にアソコを触られてるのに笑ってる。
マジで触るのアリなんだ。この子。
「あんっ、んんっ、センパイ……」
でも、焦るな。ここは大事な場所だと聞く。ゆっくりと、張り替えたばかりの弦を撫でるようにヒダヒダの部分を触れる。右手はリズムを保っておっぱいを堪能する。
左手の中指が、少し深いところを撫でた。指先がぬるりとする。僕の勘違いでなければ、これはよい兆候。女子が男子にくれるOKのサイン。
みぃぽよが、シルバーアッシュの前髪の隙間から、目の周りを赤くして微笑む。
「ね? あたしがセンパイいいって言ってたの、これで本気だってわかった?」
わかった。嬉しかった。女の子に許され、包まれる幸福を体験した。
「センパイ、やっぱ、楽器やってて、正解だよ。んっ、これ、めっちゃ上手なやつ。んっ、女に、もっと自信、持っていいよ、あっ」
みぃぽよの腰が、くいくいと前後する。僕はさらに指を曲げる。「あ」の形に口を開けて、みぃぽよは後頭部をモップの柄にぶつけた。
でも、右手も左手も止まらない。みぃぽよも僕を止めない。
どんどん熱くなって、ぬるぬるが溢れる。女子ってすごい。こんなに濡れるのか。
「はぅ……センパイ」
みぃぽよが、顔の横で小さな手を丸める。きゅ、きゅ、と僕の指に演奏されるように動く。
濡れた瞳で僕を見つめ、少しだらしなく開いた唇を何度も舐めて。ぞくぞくするくらいに色っぽくて、やっぱりみぃぽよは危険だった。
熱い汁が手に垂れてきた。指が簡単に潜っていく。奥に行くたびきついのに、滑ってどこまでも呑み込んでくれるんだ。とろとろに温かい場所に。
もし、ここに僕のが入ったらって想像しちゃう。セックスのことを考えてしまう。するに決まってる。おっぱいを握りしめるように回し、指を曲げて汁を掻き出した。
「センパイぃッ。マぁ、ジ、上手いってば。あ、あっ、やだ、なんかイキそ、こんなとこで、センパイ、だめ、んんっ、センパイぃ、だめぇ……ッ」
みぃぽよが僕の肩を握る。かかとを浮かせ、腰を持ち上げるようにつま先立つ。
僕は、彼女のきつくて温かくて気持ちいいアソコを、逃すまいとさらに指を深く――
「みぃぽよー、いる?」
隣の教室から聞こえる友達の声に、僕らは慌てて体を離した。
「お、おー。ちょっとセンパイに説教してた」
ブラウスの上から素早くブラを留め、教室の扉から顔だけ出してみぃぽよが応える。
「あはは。説教ウケる。もう帰ろ。ちぎちょも帰るって」
「わかったー」
しかし、まだパンツを穿いてなかった。
僕にお尻を向け、友達と扉越しに会話しながら、もぞもぞとパンツを引き上げる。割れ目がチラっと見えてしまった。めちゃめちゃエロいパンツが、お肉いっぱいのお尻に食い込んでいくところも。
僕の下着は、もうぐしょぐしょだ。
「じゃね、センパイ。がんばって。見込みはかなりあるよ。ちぎちょも絶対喜んでくれるって」
ぽよん、と胸で体当たりして。何度もぽよんぽよんとぶつかって、僕を壁に追い詰め。
「大丈夫。失敗しても、あたしが慰めてやっから心配すんな」
みぃぽよは、ニカッと笑って遠藤と帰っていく。
それから、しばらく呆然としていた。
でも、一人になっていろいろ考えていたら、ちょっとなんだか、だんだんムカついてきた。
肝心の遠藤の彼氏はなにしてんだよ。真っ先に慰めて力になってやれよ。
遠藤って、そもそも男選びもへたくそっぽいよな。変なやつに騙されそうなとこある。周りに心配ばっかりかけて、そういうとこもムカつく。
なんで僕がイライラしないとならないんだよ。たかが後輩のために。ギャルなんかのために。
……もうこんなとこ来るなよ。彼氏も友達もいるんだから。
僕の右手には、みぃぽよのぽよが残っている。左手にはもっとすごいのも。僕は先ほどのポーズを再現して回想する。
大丈夫だ。これさえあれば卒業まで余裕で戦える。一人で充分だよ。
彼女の言う一週間でどうこうって話は、そういや全然わかんなかったけど。
ちょっと前に上期の委員会活動も終わって、僕は風紀委員の役職から解放されていた。
委員時代にコンビを組んでいた設楽さんは、下期には生徒会役員に推薦されていて、今の肩書きは副会長だ。
なんでもそつなくこなしちゃうイメージあるから、頼りにされるんだろう。本人は「非常に迷惑」と、さして迷惑そうにも見えない顔で言っていた。あいかわらずだ。
「これ面白かった。ありがと」
「でしょ? 私もすぐハマった。冒頭からもうヤバいよね」
委員が終わってからも僕たち個人の関係は変わらず、時々のラインとか小説の貸し借りとかは以前と同じように続いている。
クラスが違うから、こうして用事があるときに廊下でとか、そんなに頻繁に話すわけではないんだけど。
「そうだ。生徒会でこないだ話題になってたよ。弦楽部、部員増えたんだって?」
「え?」
「えって、知らないの? やっぱりデマだった?」
「デマだよ。部員はあいかわらず僕一人。名簿上だけ五人のはずだけど」
「ふぅん。まあ、そっか。さすがに私もないと思ったけど。ちぎちょが弦楽って」
「遠藤が?」
「部員名簿に遠藤ちぎりの名前があるって、誰か言ってたんだけど。ウソなんだよね?」
設楽さんは、なぜかいつもよりちょっとだけ距離が近くて、僕の顔をじっと見つめながら言う。
「いや、遠藤ならたまに来てるよ。昨日も来てた。ヒマつぶしの場所に使われてるだけで部員じゃないよ。関係者以外は出てけって言ったことはあるけど、聞かなくて」
ただの迷惑な後輩だった。変な関係だ。あれからどうなったのも僕には知りようがない。ラインもできるわけないし。
「ふぅん……あながちウソってわけでもないんだ」
設楽さんは、僕の説明をじっと聞いて、床に視線を落としてから言う。
「私、じつは小学生のときバイオリンやってたんだ。言ったことあったっけ?」
「いや、え、初耳だと思うけど。本当に?」
わりと衝撃だった。
だったら、もっと早くに言ってくれても。
「今は全然触ってないし。音楽室にあるの?」
「あるよ。弦は張り替えないといけないけど、弾けると思う」
それぐらいなら動画を見ながら僕でもできた。一応部活なので弦くらいは買えるし。
「今度行っていい?」
「もちろん。楽しみだよ。弦も用意しておくし」
「じゃあ、そのときに……その」
設楽さんが、僕の制服の袖をツンと引いた。
彼女にしては本当に珍しい距離感で、僕は少しドキドキしながら次の言葉を待つ。
すると設楽さんが、また珍しいことに「目を丸くする」という驚きの表情になった。
振り返ると、遠藤が立っていた。
なんだかすごい。なんというか、すごいギャルのオーラみたいのを立ち昇らせながら。
「おぉ」
何を言っていいのかわからなくて、オットセイみたいな声を出してしまう。
設楽さんが、サッと僕から離れた。遠藤は背中を向けて走り出した。このパターン、前にもあったな。そのときも設楽さんがいた。でも今は彼女を追いかける理由もなくて――
「……行ったほうがいいよ」
だけどあの日と同じように、設楽さんは僕に変な役目を押しつける。
「ごめん。さっきの話はナシで。私、部室には行かないから。バイオリンなんて本当は半年もやってないんだ」
「え?」
「イラっとしたからつい言っちゃっただけ。まさか、あのちぎちょがね。いやはや。これはこれは。もう私なんていいから、きみは急いで彼女を追いかけたほうがいい」
うつむいて早口気味に言う設楽さんは、なんかやっぱりおかしい気がした。窓に映る自分を見て、下唇を噛んでいる。
「……みっともない。バカだな、私。ちぎちょになんて、じゃんけんでも勝てる気しないのに」
あのとき負けたのは私だったか。
と、設楽さんにしては珍しく皮肉っぽい笑い方をして、僕の肩を押す。
「早く行きなって。じゃあね」
ついと僕に背を向け、校則を遵守した短い髪を揺らし、彼女のほうが行ってしまう。
なんとなく設楽さんの後ろ姿に寂しさを感じて、こっちを追いかけるべきのような気もしたけど、同じくらい悪い予感もしたので、とりあえず部室へ向かってみることにした。
――災害かよ。
悪い予感どころではなく、部室の机や椅子はめちゃくちゃに倒されていた。幸いにして楽器は置いてなかったけど、譜面は床に散らばっていた。
誰かが部室で暴れたのは一目瞭然だし、誰なのかもすぐにわかった。
「あたしじゃないッ」
そんなわけないだろ。大暴れしてくれたな。吹奏楽部に注意されるのはいつも僕なんだぞ。
なんでこんな後輩の尻拭いばかり……。
「センパイが悪い。あたしのせいじゃないッ。センパイがぜ~んぶ悪いの!」
遠藤は、勝手なことを叫んで、カバンを振り回して床に叩きつける。
教科書とか入ってなさそうな音がした。
「あたしがなんでこんな思いしないとなんないのッ。一人で浮かれて、炎上して、知らんやつらにまでバカにされて。センパイは……センパイは同級生なんかとッ。あたしの知らない、けっこう似合いな同級生なんかと、イイ感じになってて。あたしだけバカみたい。ずるい。今さら同級生なんて出てくるのずるい。同級生は絶対ずるいッ。全部センパイが悪いんだ!」
僕が悪いのか、僕の同級生(?)が悪いのか、遠藤は今日もわけのわかんないことでキレている。
いや、いつもよりよっぽどひどかった。
「なんで、なんであたしだけこんな……めっちゃ、めっちゃ苦しいよぉ……あぁぁぁぁぁッ。もうやだ、うわぁぁぁぁぁぁッ」
子どもみたいにわんわん泣いて――そしてまた怒り出す。
「センパイのせいだぁッ」
振り回したカバンは、明らかに僕を狙っていて、でも中身はやっぱり高校生活をなめているのかなってくらいに軽くて柔らかいんだけど、ボコボコと殴られるとそれなりにイライラする。
「なんでこんなヤツと、あたしが炎上しなきゃなんないのよッ。死っ……ななくてもいいけど、大っ嫌いッ。センパイなんて、あたし好きじゃないんだからぁ!」
そんなのこっちこそだ。遠藤なんて、死ななくていいけど、もう来なくてもいい。
これ以上僕の部活に、僕の教室に、僕の心に――ずかずか上がり込むな。
彼氏いるくせに!
「いいかげんにしろよ、もうッ。何がしたいんだよっ。ここは遠藤に関係ない場所だろ。荒らすな。もう僕のことは放っておけよッ」
「それはこっちのセリフだバカッ。あたしをめちゃくちゃにしてんの、あんただろぉッ。ほっとけとか言うな。それができればとっくにやってんだよ!」
「遠藤が……おまえが来るせいで、僕は練習にならないんだよッ。ていうか、来るなら毎日来ればいいだろ。来ない日はなんなんだよ。彼氏とデートかよ!」
「仕事だってあるんだよッ。事務所入ってんだから、SNSで何する会議とか、インタビューに答えるとか、そういうのやんないといけないときもあんのッ。来たくても毎日来れないんだよ、バカ!」
「じゃあそう言えよッ。ライン使っていい感じで言えよ、そういうの得意なんだろッ。僕には一度もラインしたことないじゃないか。彼氏ばっかり!」
「だから彼氏なんていたこともねーよッ。やっぱバカかよ、センパイはッ。あんなデタラメな噂を信じてんじゃねーよザコ。あとラインは普通に男からだ、ザコ!」
「インスタもブロックされてんだから、ラインも当然疑ってかかるだろ。そこもブロックされてたら僕は本当にザコ確定だろ。できるかよ!」
「いいからしろ! そういうとこだよ、ザコドーテーのクソドーテーッ。ラインブロックなんてするわけないじゃん、普通に待ってたしッ。でもインスタだけは絶対ダメッ。あたし、メイク動画とかマジのすっぴんでやってんだから!」
「すっぴんでもイケるだろおまえはッ。そんなくだらない理由で……言っとくけど、アカウントなんていくらでも作れるんだよ。でも、おまえが怒るから、こっちは我慢してんだよ。僕だってここで撮った写真くらい見たいのに!」
「あんな写真なんて見て何が楽しいのよッ。ここで生のあたしいっぱい見れるのに、センパイはいっつもチョロばっか弾いて、あたしのこと全然見てくんないじゃん!」
「だってそれは――」
「てか、イケるってなに? あたしのすっぴんで、なにがイケるのよセンパイッ。マジ頭おかしくない? どさくさにまぎれて、なに言ってんのよ!」
「え、いや、待って。イケるってのは、そうじゃなくて違くてッ。見た目がいいねの意味のイケるだよッ」
「ヘンタイじゃん。ハラスメントじゃんッ。なんで男ってえっちばっかりなの。あたしをそんな目で見てんの? センパイなんてありえないんですけど。絶対ありえないんだけどッ。ヘンタイっ、センパイのヘンタイ!」
ボコボコと殴られるカバンと、あらぬ誤解と軽蔑の視線。
さすがに僕もカッとなった。
頭にきたし恥ずかしい。遠藤にとって僕なんてありえないのは知っている。僕だって遠藤はありえない――というのがウソだと、彼女にはもうバレてしまっている気がした。
とっくにバレてて、ずっとバカにされてたんだと思った。
だから、とんでもないことをした。
カバンを掴んで、引き剥がして、楽譜の散らばる机の上に、無理やり彼女を押し倒していた。
どうかしてた。すごい興奮していたんだ。
「いいかげんにしろよ……犯すぞ、おまえ!」
すぐ近くにある遠藤の顔。唇。おっきく開いた目。謎のいい匂い。
お互いの呼吸が唇に触れる。遠藤の手首の細さにびっくりする。遠藤のくりんと上がったまつげの長さに目が離せなくなる。
「……あ」
遠藤が身をよじろうとしたけど、僕の体は硬直して動かなかった。がっちりと押さえていた。
僕らの視線は、まっすぐに、複雑に、お互いの気持ちもわかんないまま絡み合う。
女の子の柔らかさを僕は知っている。遠藤も絶対に気持ちいい。
そんなこと想像して顔が熱くなり、息も荒くなる。たぶん、きっとケダモノみたいな顔を遠藤に見せている。
唇は少しずつ近づいていく。
彼女が息を呑むのもわかった。怯えた目をしてるのも。
そのことに興奮して――遠藤が怖がっているってことにひどく凶暴な気分になってしまって――確信的に、唇を奪いに行く。
「う、あ……うぅ」
遠藤は、真っ赤になったかと思うと、「んっ」とまぶたを閉じてあごを上げた。
そして、なぜかこのタイミングで、隣の吹奏楽部が演奏し始めたレモンで我に返ってしまった。
「あ、あぁっッ?」
急な米津に慌てて遠藤から飛び退き、「ごごごめごめごめんなさい」とメガネをドリブルさせる。
遠藤は、呆けたように天井を見上げていて、しかも下着が見えそうになっていて、急いで目をそらす。
心臓バクバク。なのに頭は氷水をかぶったみたいに冷えていた。
「ごめん……片付けるから遠藤は帰って。ごめんな」
やってしまった。
最低だ。僕はバカだ。風紀委員どころか学校クビで母さんも泣かす。
それよりも、遠藤は二度とここに来ないだろう。
「ごめん……本当に、ごめん……ッ」
過呼吸みたいになって胸が痛い。遠藤のほうを見れない。指が震えて楽譜が拾えない。
ぐるぐるぐるぐる最悪のことばかり頭の中を巡って、床と紙の間を何度も爪で引っかき、まごまごしている僕の前に赤い下着がいきなり目に入る。
遠藤が、僕の代わりにしゃがんで楽譜を拾った。
胸に抱えて、揃えて、丁寧に拾い集めていく。
「い、いいって。僕がやるから、遠藤は家に帰って」
「やったのはあたしなんで」
最後まで片付けますと、彼女は言う。
どうしてかわからないけど、遠藤は黙々と片付けを手伝う。僕も何を話していいのかわからず、一緒に机を端っこに寄せ、椅子を重ね、楽譜を元の位置に置いて元どおりにする。
いつもの空き教室と、いつにない空気。
僕らは教室の真ん中で、どうしていいのかわからないまま、隣に立つ彼女と窓の向こうとかを見て。
「……そろそろ帰ろうか」
「あ……はい」
いつになく後輩らしい遠藤と、一緒に学校を出た。
で、なぜか遠藤は僕の後ろをついてくる。
ちなみに彼女の家がどこにあるかなんて知らない。それはお互い様のはず。斜め後ろ、一歩下がった位置で黙って歩いている遠藤に、僕はなんて声をかけていいのかわからない。
ただ、通りすがりの人がみんな遠藤を見ている気がした。こんな感じで街を歩かなきゃならない彼女は大変だなとなんとなく思う。僕まで緊張していた。
この空気、どうしてくれようかと思った。
「……センパイ」
「はいッ?」
いきなり声をかけられ、思わず背すじを伸ばす。びびりすぎだろ僕。
「あそこでレモンて、めっちゃウケましたね」
全然ウケてなかったくせに、思い出したようにくすりと笑う。
まさかストレートにその話題を出してくるとは。僕は内心かなり焦ったけど、なんとか遠藤に合わせて「レモンはないよな~」とニチャアと笑った。
「あたし、あのときマジで犯られると思ってたんで。めっちゃウケました」
ギャルって、本当なんでもストレートに言っちゃうんだよな! 日本語のワビサビを使ってくれないんだよな!
なんて謝罪していいかわからないけど、誠意を見せないと殺されると思ったら緊張はさらに高まり、でも心のどこかでは遠藤をあのまま犯したかった自分もいて、しかも諦めたくない気持ちもまだ残ってて、最低だよなと思考がごちゃごちゃになった心の隙を、ギャルに捕まる。
「……ね、センパイ」
袖を後ろからちょんと摘ままれ、そのわずかな接触で僕はもう真っ白になった。
そして次に、恥ずかしそうにもう一度言う彼女に粉々になった。
「あたし、今日センパイに犯られるんだって、マジで思っちゃったんですけど」
足が止まって、二人とも下を向いて無言になる。
さっきから、耳に残ったレモンがエンドレスでイヤになる。
「……そういうこと言うなよ」
なんとか絞り出して答えた。
「僕のこと知らないくせに、そういうこと言うな」
遠藤は、ぎゅっと袖を掴む指に力を込め「どういうことっすか?」って声を震わせる。
というか、なんでさっきからギャル敬語なんだ。やめろ。それはすごいワビサビ効いてるからやめてくれ。
壊れるから。理性。
「だから、僕の両親が二人とも技術者で、今シンガポールを南北に縦断する地下鉄を作りに行っていて、年末まで帰ってこないから家に誰もいないって知らないくせに、そんなこと言うなって!」
「……マ?」
コンビニに寄った。
初めて避妊具なんてものを買った。
遠藤はずっと他人のフリしててずるいと思った。
とりあえず弁当もあったほうがいいかなとか。でもギャルはやっぱりスイーツとか映えるやつが主食なのかなとか、余計な買い物もしてけっこうな量になり、遠藤を「あたし泊まるんすかッ?」とびびらせてしまった。
「わ、わかりました。親にラインしときます」
ライン一つで泊まりOKって放任かよ。てか泊まりOKなのかよ。
だったら、僕が否定しなきゃならない誤解は何もなかった。
(次回更新:2025年1月2日(木))