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【特別秘蔵版】禁母 2

第二章  二人だけの温泉旅行 若義母と僕

 


 新緑の野原に洋介はいた。やわらかな風が頬をなでる。
「洋介、いらっしゃい」
 声のした方角にふり返る。家を出て行ったはずの実母が、両手を広げて立っていた。
「マ、ママっ」
 洋介は翔るように走って近寄っていく。母の胸のなかに飛び込んだ。
「ママ、帰ってきたの?」
 母を仰ぎ見た。明るい日射しのなかに、限りなくやさしい母の笑顔があった。
「ええ。ごめんなさいね。これからはずっと一緒よ。お母さんが側にいてあなたを抱き締めてあげる」
「うん……」
 洋介は母の胸に顔をすりつけた。やわらかな母の腕のなかで、洋介は安心感に包まれる。
(いやなことも、悲しいことも、つらいことももうない)
 寂しさも心細さもなく、ただ満ち足りたしあわせだけがつづくのだ。懐かしい母の顔を確認しようと、洋介はまた上を見た。しかし母の相貌に濃く影が差していた。
「ママ?」
 洋介は異変に気づいた。母の腕のなかにいたはずなのに、いつの間にか数メートルの距離ができていた。おかしいと思いながら、洋介は足を前に踏み出す。だが母との間は縮まらない。洋介は駆け出した。いくら急いで走っても母の姿はどんどん離れていく。洋介は叫んだ。
「あッ――」
 洋介はまぶたを開く。そこは旅館の個室だった。広い床の間付きの和室にはテレビがあり、テーブルがあり、窓の外には雪がしんしんと降っている。洋介は時計に目をやった。
(うたた寝したのか。……高校生にもなって、こんな夢をまだ見るなんて)
 実母が家を出て行った当時は頻繁に見た夢だった。未だ母の幻影にとらわれる自分に洋介はため息をつく。
(志穂さんはまだ温泉かな)
 浴場に行ったはずの義母は、まだ戻っていなかった。
 父、義母、そして洋介の三人でやってきた久しぶりの家族旅行だった。だが父は会社から緊急の電話があり、宿に到着する前に引き返した。急な仕事だという。
(ほんとうに仕事か怪しいものだけど)
 総合商社に勤めている父の帰宅は毎晩遅く、外に愛人でもつくっているのではと洋介は疑っている。実母が家を出て行ったのも父の浮気癖が原因だった。父は女遊びを繰り返し、母を顧みなかった。母の方も対抗するように父以外の男と関係を持ち、そして夫婦は破局を迎えた。
(僕も汗を流してくるか。せっかく温泉宿に来ているんだ)
 憂鬱な過去をふり払うように、洋介はすっくと座椅子から立ち上がった。寝汗が気持ち悪かった。もう一度風呂に入ってさっぱりしようとタオルを手に部屋を出た。
(あれは)
 大浴場へ向かう途中、洋介は足を止めた。廊下に一人の女性が佇んでいた。
(志穂さん……)
 藍染めの浴衣の上に袢纏を着けた湯上がりの義母、志穂だった。庭の方を向いて舞い落ちる雪を眺めていた。つぶらな瞳は翳り、紅い唇は寂しさを耐えるようにきゅっと引き結ばれていた。
(ママに外見や雰囲気が似てるんだよね)
 二十八歳の義母を見て洋介は思う。流麗な黒髪やはかなげな印象の色白の容貌、細身ですらりとした体つきは、先ほどの夢で会った年若い頃の実母とそっくりだった。そのせいか、洋介はどこか距離を置いて義母と接してしまう。
(志穂さん、父さんのことを考えているんだろうな)
 元々は父の部下だったのだという。
 志穂は夏に、父の再婚相手として家にやってきた。それから二年、会話こそ少ないものの、義母とは衝突もなくうまくやっていた。
(問題があるのは――)
 この場にいない父が家庭内に不和を生み出していた。最近とみに外泊が増え、安っぽい香水の匂いをつけて帰宅する日まであった。洋介さえ勘づいている女性の影に、志穂が気づいていないわけはない。
(父さんのせいで、僕と志穂さんまでどこかぎすぎすして……)
「お義母さん」
 洋介はしばらくためらった後、声をかけた。瓜実の美貌がふり返ったときには、口元にやさしい笑みがつくられていた。
「洋介さん。今夜はずっと降りつづけるんですって」
 純白の雪化粧を施された庭園に視線を戻して志穂が告げる。不安な気持ちを悟らせまいとする作り笑いを見ると、洋介の胸は痛んだ。
 洋介も外の景色へと目を向けた。白い雪は庭も緑も、何もかもを覆い尽くしていく。
(人の心もこんな風に、簡単に塗り替えることができればいいのに……)
 先ほどの夢が、まだ頭のなかにこびりついていた。
 洋介は母の傍らに寄り添った。肩と肩がふれ合うと、志穂がにっこりと笑みを浮かべた。洋介も頬をゆるめた。静かな時間が母子の間を流れる。
「おお、べっぴんさんですなあ」
 大きな声が静寂を破った。洋介はふり返る。浴場から出てきた数人の男性客だった。その視線は志穂に向けられていた。
「こりゃ色っぽいねえ」
「ああ、湯上がりの美人さんはいいねえ」
 たおやかで気品のある志穂の外見は男の目を引く。男性客はみな酔っているらしくじろじろと無遠慮な視線を志穂に向け、賛嘆の声を口々に上げて横を通っていった。
 志穂の繊細さを窺わせる細面がみるみる桜色に染まり、表情を隠すようにうつむいた。吐息で頬にかかった黒髪がゆれるのを洋介は見た。洋介は、酔客と義母との間に身体を入れて、不躾な眼差しを遮った。
「お義母さん……」
 洋介は志穂の手をつかんだ。ふだん控え目な接し方しかしてこない洋介が、自分の手をにぎってくることに、志穂が少し驚いたように目を見開いた。そして柔和に目を細め、息子の指をきゅっとにぎり返してくる。
 母と子は酔客が通り過ぎていくのを待った。
(志穂さんの手、やわらかい。それにいい匂い……)
 湯上がりの身体からは馥郁とした香が漂っていた。洋介の手の平がじっとり汗ばんでいく。
「お部屋に戻りましょうか」
 義母が告げた。既に廊下に人影はなかった。洋介は慌ててさっと指をほどいた。湿った手が恥ずかしかった。
「湯に浸かってくる」
 不思議そうな目で見る志穂に背を向け、洋介は浴場の方へ逃げるように走っていった。

 母と子、ふたりの夕食がはじまる。
「あの、お銚子は。主人がいませんし」
 仲居が料理と一緒に徳利を並べるのを見て、志穂が声をかけた。父用に注文しておいた分だろう。キャンセルしたのを忘れていたらしく、仲居が困った顔をつくった。
「いいよ。お義母さん呑めるんでしょう。僕に遠慮せずにどうぞ」
 酒の酔いが沈みがちな母の心の慰めになればいいと、洋介は徳利に手を伸ばした。杯を持つよう母を促す。志穂は苦笑し、杯を取った。
「そうね。せっかくゆっくりくつろぐために来たんですものね。じゃあ、いただきます」
 洋介が注いだ酒に志穂が口をつける。「おいしい」と艶美に笑んだ。仲居が頭を下げ、部屋を出て行く。ふたりきりだった。
「静かだね」
 鍋の煮えるぐつぐつとした音、そして音量を抑えたテレビの声が聞こえる。今夜は一晩中雪が降りつづくだろうと、テレビの天気番組のなかで若い女性キャスターがしゃべっていた。
「この辺も久しぶりの大雪なんだってさ」
「うふふ、じゃあ明日はふたりで雪合戦でもしますか?」
 母の冗談に洋介も頬をゆるめた。
「ねえ、こちら側で一緒に食べませんか? 火鉢もわたしの側にあるから」
 洋介はうなずいた。部屋が広々としているため、暖房が入っていても寒々とした感じがする。座卓の向こうにまわり、浴衣姿の義母の隣りに腰掛けた。
(きれいだよな、志穂さん……)
 洋介は正座する母をさりげなく眺めた。ストレートの髪は艶やかで、身体のラインはなよやかで色っぽい。
(そういえば、千佳さんも志穂さんのこと、美人でやさしそうなママだって褒めてたっけ)
 親友の母の顔が、ふっと洋介の脳裡をよぎった。
 ファーストキス、指を使っての甘い愛撫……。あの夏に経験したことは、忘れられない思い出として、今も洋介の胸のなかに納められている。千佳は大人の世界を垣間見せてくれただけでなく、母に捨てられた自分をやさしく見守るように接してくれた恩人でもあった。
(だけど友人の母親だもの。それに一度きりって約束だった……)
 恋慕の想いはあの日以来、表に出さないと決めた。千佳に母親としての自制があるように、洋介にも親友の高明に悪いという気持ちがある。さいわい、あれから千佳と会っても妖しいムードになることはなかった。近所で顔を合わせれば挨拶をし会話もするが、あくまで友人の母として接していた。
 この春、高明は寮のある高校へ進学した。そのため現在の千佳は、広い自宅で一人暮らしだった。遊びにきてね、と千佳に会う度に言われているものの、高明のいない家にのこのこと上がり込む訳にもいかない。
(その代わり、スポーツクラブで会えるし……)
 テニスのクラブ活動で膝を痛めた洋介は、週に二回、リハビリを兼ねてスポーツクラブのプールに通っていた。そこは千佳も会員となっており、時間さえ合わせられれば毎週のように会うことができた。
 千佳は、膝に負担を掛けぬようプールを歩くメニューに一緒になってつきあってくれたり、競泳のタイムを計ってくれたりする。相変わらずむんむんとはち切れそうな千佳の水着姿を眺めては、洋介はプールの水の中で何度も勃起をしていた。
 千佳も少年の異変に気づいているはずだった。洋介がなかなかプールの外に上がろうとしないとき、千佳は「若いのねえ」と感心したようにこぼし、くすくすと笑っていた。
(ふつうは怒るよね。リハビリだってのにしょっちゅう股間を硬くしてさ。やっぱり千佳さんが怒ったりからかったりしてこないからって、甘えてるんだよな。もう僕には志穂さんていう存在がいるんだから、いつまでも千佳さんを頼ってちゃいけないのに……)
 志穂が自分を一心に愛そうとしてくれていることは、洋介にもよくわかっていた。この二年間、志穂の接し方に冷たさを感じたことは一度もなかった。常に洋介の目を見て喋り、どんな他愛のない話でも熱心に耳を傾けてくれる。
(おまけに僕と一緒にプレイできるようにって、テニスまで習い始めるんだから)
 最近、志穂は新品のシューズとラケットを買い、テニスクラブに通うようになった。義理の息子を理解し、互いの距離を少しでも縮めようと心がけてくれている義母の態度に、洋介はくすぐったいような安らぎを感じる。
(重要なのは血のつながりじゃないよね)
「洋介さん、そろそろ煮えたようですよ」
「ありがとう」
 義母が鍋の中身を取り分けてくれる。
「はいどうぞ……あら?」
 器を受け取るときに母と洋介の指がふれた。志穂が心配げな相を浮かべた。
「こんなに指が冷たくなって。火鉢をわたしの方にばかり寄せていたから。もっとこっちに近づいてくださいな、洋介さん」
 母の傍らに火鉢が置いてあった。志穂が洋介の腕をつかんで自分の側へと引き寄せる。母と子は火鉢を背にして、ぴたりと寄り添う形になった。
「どう、あたたかいですか?」
 首を傾げた志穂が、下から洋介の顔を覗き込んでくる。弾力のある胸の膨らみが、肘に押し当たるのを感じた。
(お義母さんの身体、やわらかいな)
 ふわっとした女体を意識した途端、洋介の身体は熱くなった。
(相手は母親なのに……)
 性的なものを感じ取る自分に嫌気が差す。ほんものの母と子のようになりたいと願っているのに、十代の身体は性の欲望を抑えきれない。
「うん、あたたかいよ。ありがとうお義母さん。温泉も気持ちよかったし、来て良かったね」
 洋介は平静を装って返事をした。世間的に許される類の欲望ではない。決して志穂に悟られるわけにはいかなかった。
「よかった。お酒もおいしいですわ」
 義母が目尻を下げてにこっと笑う。酔いがまわってきたらしく、志穂の頬がほんのりとピンク色に染まっていた。
「有名な地酒だって言ってたね」
 洋介は料理へと目を向けるふりをして、志穂から視線を外した。
(そういえば久しぶりだな。志穂さんが、楽しそうに笑ってるところ……)
 洋介は、日々笑顔が減っていった実の母のことを思い出す。志穂も同じだった。二年前はもっと明るく笑う女性だった。
(父さんも、せめて浮気の痕跡を隠すくらいのことをすればいいのに)
 女性をコレクションするような父の恋愛に、洋介は苛立ちを感じる。妻に対して申し訳なさなど微塵も抱いていないのだろう。幼い頃から感じていた父への違和感の理由を、洋介は思春期を迎えてやっとわかりはじめた。父は家族への愛情が希薄な人間だった。
(でも、何もできないよね……)
 この美しい義母に対して、何がしてあげられるのだろうかと考えた洋介は、己の無力感をただ噛み締めるしかない。少年にできることなどたかが知れていた。せめて生母のように不幸にはならぬよう祈るだけだった。
「どうかしました。お料理がお口に合いません?」
 志穂が心配そうな目で、箸の進まぬ洋介を見ていた。
(お義母さんは、父さんのことどう思ってるの?――)
 しかし、そんなストレートな質問を口に出来るわけもなく、洋介は首をふって押し黙った。年若い母との関係はうまくいっている方だと思うが、こうして言葉を呑み込む場面が来るたび、自分はまだ完全に心を開いていないのだと実感してしまう。
(こんなんじゃだめだ)
 洋介は箸を置き、母の方へと向き直ると思い切って口を開いた。
「ねえお義母さんは、結婚を後悔していない?」
 突然の問いに、義母も箸を止めた。長い睫毛がかすかにふるえ、黒目がちの瞳も潤んだように見えた。両手を膝の上に重ねて居住まいを正し、洋介を見つめた。
「後悔なんて……後妻なんですもの。母親になるって、もっと難しいことだと思ってたんです。でも、洋介さんは最初から、わたしのことお義母さんって呼んでくださいました。すごくうれしかった」
(そういうことじゃなくて。父さんの浮気のこと……)
 だが、寂しさを押し隠して微笑む義母を見ていると、洋介はそれ以上、何も言えなくなってしまう。膝の上に置かれた白い指へと視線を落とし、志穂の話を黙って聞いた。
「お父さまと――修司さんと結婚するとき、子どもはつくらないって、わたし決めたんです。たったひとりの息子を精一杯愛そうと思って……」
 初めて知る事実だった。自分をこれだけ大切に思っていてくれたと知り、洋介は面を上げて義母を呆然と見る。
「そうだったの……」
「ええ。でも、洋介さんに関係ないことでしたわね。わたしが勝手に決めたことですもの。恩着せがましい言い方してごめんなさい」
「そ、そんなこと。僕、うれしいよ」
 洋介の言葉を聞き、酔いで赤くなった顔がさらにあざやかさを増した。
「よかった。あのね洋介さん……」
 志穂が恥ずかしそうにもじもじと肩をゆらし、洋介を上目遣いで見た。
「わたし、あなたにお願いがあるの」
 義母が言いづらそうに切り出した。義母からの願い事など初めてだった。洋介は力強くうなずき、前に身を乗り出した。
「なあに、お義母さん。何でも言ってよ。僕にできることならなんだって」
 息子の反応に勇気づけられたのか、義母の口がおずおずと開く。
「今夜だけでいいんです。わたしのこと、ママって呼んでいただけませんか?」
 予想もしなかった義母の望みだった。洋介は固まる。
「えっ、あ、あの」
 発した声はかすれていた。すぐ「ママ」と返せばよかったのだろう。だがその短い語がどうしても喉を通らなかった。
(なんでママって一言、口にすることが……)
 どこか他人行儀な『お義母さん』という言い方でなく、親しみを込めて『ママ』と呼んで貰いたいと望む志穂の気持ちが、洋介にも痛いほどよくわかった。義理の母子につきまとうよそよそしさを、完全になくすことができたらと洋介自身、思っている。それなのになぜか喉が凍ったようになり、声が出ない。
(僕はなにやって……さっさと言えばいい、『ママ』って)
 期待に満ちていた志穂の瞳が、徐々に落胆の色を帯びていくのを見た洋介は、自分が完全にタイミングを逸したことを悟った。時が刻まれるほど、室内の空気が重苦しくなっていく。
「ごめんなさいね」
 気まずい時間を終わらせたのは、義母の方だった。正座したまま志穂が頭を下げる。
「ち、違うんだ……」
 ようやく発することができたのは無様なうろたえ声だった。
「いいのよ洋介さん。久しぶりのお酒で酔っちゃって、わたしったらつまらないことを口走っちゃって。ばかね」
 志穂の切ない笑い顔が、洋介の胸に染みた。大切に思っている義理の母を、深く傷つけてしまったことに洋介は気づく。
(なんでこんなことに……)
「ああ、頭もぼんやりするわ。飲み過ぎちゃうなんて、まったく困った母親ですね。早い時間ですけれど、もう横にならせてもらってもいいかしら」
 志穂が立ち上がった。布団の用意されている隣室へと歩いていく。酔っていることは事実らしく、足元がおぼつかない。洋介は義母を追いかけた。ふらつく肩を脇から抱いた。
「あ、洋介さん、すみません」
 義母は身体を支える息子に気づくと、反射的にパッと顔をそむけた。義母の目元に、きらりとかがやくものが一瞬見えた。
(涙?……)
「あの、だいじょうぶですから。すぐそこですもの。ご、ごめんなさい」
 志穂がさりげなく目がしらを袖で押さえる。後悔の念が、洋介の内にこみあげた。
「あの、ごめんなさい……」
 弱々しく謝罪の言葉を吐いた。
「どうして洋介さんが、あやまるんですか」
 息子をふり返ったときには、志穂の涙の痕跡は消えていた。代わりにはりついているはかなげな微笑みを見て、洋介の胸はさらに締め付けられた。
(なんで僕は……これじゃあ父さんと同じじゃないか)
 美しい義母を苦しめている父の顔が思い浮かんだ。洋介は肩にふれていた手をそのまますべり落として、義母の腰にまわした。ぎゅっと力を入れる。
「あん、洋介さん?」
「このまま僕も休むよ。向こうのテーブルは仲居さんが片づけてくれるだろうし」
 洋介はふすまを開け、義母を抱えるようにして布団の敷かれた隣室へと入った。
「え、ええ、そうですね……もうお休みしましょうか」
 いつになく強引な洋介に、義母は困惑の相で応じる。洋介は後ろ手でふすまを閉じた。
「電気をつけないんですか?」
 身体から手を放そうとしない洋介に義母が尋ねてくる。室内に照明はついていない。代わりに障子の向こうから、わずかな月明かりが差し込んでいた。徐々に夜目に慣れてくる。母と子は、同じ布団の上にそろそろと膝を落として座り込んだ。
「洋介さん、どうなさったの」
 志穂の手がすっと洋介の頬を撫でた。その手はしっとりとあたたかかった。心配そうな顔で洋介を見上げていた。長い睫毛がゆれ、丸い瞳は青白い月の光を帯びていた。かすかに呼吸の音が聞こえた。
(僕は志穂さんのことが……)
 目の前の美しい母は、洋介の視線をつかんで放さない。母として慕いながら、常に一人の女性としても志穂のことを見ていた。認めたくない事実だった。
「洋介さんは、寒くたって、ひとりでじっと我慢しちゃうタイプですもの。さっきだって、お指を冷たくして……」
 志穂が頬にあてがっていた手を横へと伸ばした。布団の横に置いてあった自分のバッグを探り、なにかを取り出す。
「クリーム塗らないと荒れちゃいますよ」
 志穂の手にあったのはハンドクリームだった。ふっくらとした手で少年の手を包み、クリームをやさしく塗り込めてくれる。
「なんでも遠慮無く話してくださいね。わたしは洋介さんの母親なんですから」
(そう志穂さんは母親。だけど、この人ともいずれ別れる日が……)
 もし実母のときと同じように、夫婦生活の不和がこれからもつづくのであれば、似た結末になることは避けられない。
「お義母さんはまだ若いんだから、もっと真面目な人とやり直した方が」
 ずっと自分だけの母親でいて欲しいと思いながら、口から出たのは反対のセリフだった。年若い義母への想いは洋介自身把握し切れないほど、複雑によじれている。
「わたしは、気の利かないダメな母親なんです。だからお父さまも……。夫の気持ちも理解できない女が、お腹を痛めて生んだわけでもない子どもに好かれようなんて、無茶ですよね」
 淡い月の光に浮かんだのは、寂しい笑みだった。
(違う……僕は志穂さんのことが……)
 実母に捨てられた過去がなければ――、あるいは、義理の母と子でなく志穂こそが血の繋がった母親であったならば――、探るように言葉を選ぶのではなく、素直にありのままの心をさらけ出すことができたのにと洋介は思う。
「そんなことないよ……」
 しかし現実は、とってつけたような説得力のないセリフしかでない。
「いいえ。どこかわたしに馴染めないごようすでしたこと、わかっていますわ。だからなんとか洋介さんに認めてもらおうと、わたしは小狡いことばかり考えて……」
 志穂が浴衣の胸元をゆるめた。にぎっていた洋介の手をその隙間に差し入れる。
(ああ、志穂さんがこんなこと……)
 手がやわらかな乳房にふれていた。指先のぬくもった感触と、浴衣の合わせ目に己の右手がもぐり込んだ薄闇のなかの情景が、うまく結びついてくれない。
「あったかいでしょ」
 義母の声はかすれていた。洋介は指を広げ、膨らみを包み込んだ。
(おおきい……)
 こぼれ落ちそうで、片手ではつかみきれなかった。細身の身体だというのに、千佳と同じくらいのゆたかなボリュームがあった。
(尖ってる。志穂さんノーブラだったんだ……)
 義母は下着をつけていなかった。触感の異なる乳頭が指にこすれてくる。洋介の鼓動が早打つ。指を使った。
「ん……」
 かすかな喘ぎがもれ、義母の息づかいが速くなった。艶やかな音色は少年の青い欲望を焚きつけた。乳房をにぎる指に力がこもった。指を押し返す弾力が千佳よりも強かった。それでいて女性の乳房特有の吸いつくようなやわらかさは変わらない。夢中になって揉み込んだ。
「あん。せっかく洋介さんと家族になれたのに……こんな母親はだめですよねえ」
 静かな部屋にすすり泣くような声が響いた。
「ママっ……」
 洋介は二十八歳の母をしっかりと抱き締め、そのまま身体を倒し込んだ。母は後ろへと崩れ、母子は布団の上で重なり合った。
(母親を押し倒すなんて、どうしてこんなこと……)
 酔った状態の母をどうにかするなど、男として最低で卑怯だと思う。だが一歩前に踏み出してしまった以上、止まることはできなかった。洋介は母の胸に顔をすりつけた。
「ママ……」
「洋介さん、わたしをママって……ありがとう」
 喜びのにじんだ声だった。母の紅い唇がふるえていた。
「僕だってママと離れたくない。ママって呼ぶから……だからずっと僕の母親でいてよ」
 強い恋慕の想いと激情に後押しされて、洋介は母を強く抱く。しなやかな女体からは入浴後の甘い香がし、にぎり込んだ乳房は果てしなくやわらかかった。
「ママ」
「あん、洋介さん」
 洋介が母の相貌に顔を近づけていく。息子の行動を許可するように、志穂はコクンとうなずいた。母と子の唇が近づく。しっとりと重なり、こすれ合った。
(志穂さんと……ママとキスしてる……)
 母子の間では許されない禁断の行為だった。背徳の想いがこみあげるが、それを上回る悦びが洋介の胸に広がっていく。
(ママの口、やわらかくて甘い)
 日本酒の残り香だろう、果物の匂いがした。洋介は舌を伸ばし、合わさった紅唇を舐めた。ふっと母の口がゆるむ。すかさず隙間に舌をもぐり込ませようとしたとき、母も舌を差し伸ばしてきた。義母の切なげな吐息が、洋介の口に吐きかかる。
「ようすけ、さん……あむん」
「ママ……ん、んむ」
 味も、匂いも、母のすべてを得るように、唇を深くかぶせて吸いついた。豊満な双乳を両手で揉み込みながら、母の唾液を味わい、やわらかな舌を巻き付け合う。
 溜め込んでいた想いをぶつけ合うように、母子は唾液の音を弾けさせ、ヌメヌメと濃厚に舌を絡め合った。
「こんなキス、初めて……」
 長い口づけが終わり、母が激しさを恥じらうようにため息をついた。
 洋介は乳房から手を放して、志穂の浴衣をはだけた。細い肩が剥きだしになると同時に、かぐわしい年上女性の体臭がふわっと広がった。
(ああ、ママの匂い……)
 白い肌が眼下にあった。横たわる母の裸身をもっとよく見ようと、洋介は手を伸ばして障子を開ける。雪夜の月光が、室内をぼうっと照らした。母の柔肌がまばゆくかがやいた。
「ああ、恥ずかしい」
 明るい場所で見たなら、きっと真っ赤になっているだろうと思える含羞の声音だった。艶めかしく女体をくねらせ、熟れた乳房を大きく息づかせていた。
「ママ、きれい……」
 洋介は母の額に手を置いた。指先で汗をぬぐう。少年にやさしい手つきで撫でられる羞恥が母の瞳を潤ませ、月の光を大きく宿らせる。
「洋介さん、これは……」
 母の太ももに、洋介の股間が押し当たっていた。志穂はスッと手を差し伸ばし、強張った部分に指をかぶせると、問いかけるように洋介を見上げた。
「あ、あの、これは……」
 洋介は、口ごもる。
「照れる必要ありませんよ。わたしの方がずっとずっと年上なんです。……苦しいんですよね?」
 抑えられた声とともに母の指が腰を探り、洋介の帯をほどいて浴衣の前を開いていく。下着越しに硬くなった部分にふれた。
 志穂の口元にはやさしい笑みが浮かんでいた。勃起する息子を責めてはいないとわかり、洋介の胸に安堵が押し寄せる。
(この人は、僕を置いて家を出て行ったママとは違う……)
「なだめて差し上げましょうか?」
「えっ?」
 思いも寄らない母の申し出だった。洋介は瞬きを忘れて目の前の母に見入った。志穂は真っ直ぐな眼差しを息子から外そうとはしない。
「じゃ、じゃあ、こすってくれる?」
 洋介は目を合わせたまま、志穂に愛撫を求めた。どこまで自分を許容してくれるのだろうかと、試したい気持ちがあった。
「はい。洋介さんくらいの年だと、むらむらがたまって大変なんですよね」
 母は眼差しをしっとり受けとめ、血の繋がっていない息子を艶っぽい目つきで見上げた。
(ママが、僕のアソコを……)
 張り裂けそうに心臓が高鳴った。下着のウエスト部分を持ちあげ、母の右手がなかへとすべり込む。指が絡みついた。
「ああ、おおきいわ……」
 脅えさえ感じさせる驚きの声が、母の口からもれた。
「そうなの?」
 千佳にも同じように言われたことを思い出しながら、洋介は訊く。我が子の太さ、長さを確かめるように指が棹の表面をゆっくりと上下にすべっていた。
「え、ええ。洋介さんは、すっかり大人なんですね……」
 千佳に包茎を剥いてもらった頃とは違い、ペニスも成長していた。母の指のなかで若勃起は歓喜するようにわななく。志穂が、最初は恐々と洋介の表情を窺いながら、そして徐々に指に力を込めて猛った肉柱をしごく。
「こんな風に苦しそうにふるえていると、こすってなだめてあげたいって思いますね。母親の本能なのかも……」
 手を動かすのに邪魔なのだろう、洋介の腰から下着がするすると引き下ろされていった。
「胸板も厚くて筋肉もついて……」
 熱っぽく息を吐きながら、志穂は改めて肉茎をにぎり直し、右手を繰った。左手では洋介の裸の胸を愛しげに撫でていた。
「高校生だもの、ああ……ねえママ、つばをつけてやってくれる?」
 洋介はさらなる願いを口にした。果たしてこの清純そのものの義母が、千佳のしてくれたような淫らな手技をしてくれるだろうかと、ヒリつくような期待感を抱きながら返事を待った。
「つばを?」
 本気なのかと尋ねるように、志穂が息子を見た。
「うん」
 洋介の首肯からしばらくして、志穂が右手をペニスから外し、上へと戻した。口元を隠すように手の平を唇に重ねた。
(ママがつばを……)
 口のなかの唾液を溜めて、いま己の手に吐き出し、塗りつけているのだろう。洋介の心は感動でふるえる。
「こんな風にするのがふつうなんですか? わたしはこういうやり方には疎くて」
 志穂は、惑いの声をこぼすと右手をまた洋介の股間へと伸ばしていった。紅い唇がテラテラと濡れ光っていた。唾液をたっぷり絞り出したことがわかる。
「あん、ヌルヌルで気持ちいい……あ、ああん、ママ」
 指が巻きつき、あたたかな唾液が少年のペニスにねっとりと塗りつけられていく。やわらかな指がしなやかに動きはじめた。欲望を煽る汁音が、リズミカルにもれ響く。
「ママって呼んでもらえることが、とってもうれしいの。洋介さんが生みのお母さまにだけ向けていた特別な言葉なんだって、高明くんのお母さま、千佳さんからお聞きしたんです」
「おばさんに?」
「ええ。テニスクラブで一緒になったときに。小さい頃の洋介さんの話もいっぱい聞かせて貰いました。真面目で正義感が強くて、心のやさしいいい子だって千佳さんいつも褒めるんですよ。わたしもうれしくって」
 母がにっこりと笑う。
(千佳さんと志穂さんが、同じテニスクラブに通っているのは知っていたけど……)
 もしかして母は、自分と共通の趣味を持とうとしたのではなく、千佳に近づくためにテニスをはじめたのではないかと洋介は思った。幼い時分から自分をよく知る千佳に話を聞くことで、親子関係を改善する手がかりを得たかったのかもしれない。
「どうです? 気持ちいいですか。こんなことでよかったらいつだってママがしてさしあげますよ」
 唾液でぬめった手の平で、亀頭をくにくにと揉み込んでくる。アルコールの芳香が甘く漂っていた。酔いが、淑やかな義母を大胆にさせているのは間違いない。だが、それ以上に志穂の包みこむような母性愛を洋介は感じた。
 洋介は母の双乳を両手でつかみ、その谷間に顔を埋めた。
「ママのおっぱい……ん、ふかふかでやわらかい……」
「ああん、もっとママって呼んでください」
 志穂が左手できゅっと洋介の頭を抱いてくる。鼻も頬も弾力ある肉丘にみっちりと押し当たっていた。全身が幸福な安心感にくるまれたようだった。
「うん。ママ……ああ、ママぁ……」
 舌足らずな口調で洋介も応じ、ちゅっちゅっと左右の乳首を交互に吸った。高校生にもなって幼子のような声を漏らす気恥ずかしさはあるが、母に甘える至福はそれよりも勝った。乳首を舐め、きつく吸い立てた。ピンと充血した感触に懐かしいものを感じながら、夢中になって双乳をしゃぶりつづけた。
「ああ、洋介さん……ああっ」
 母の悦びのこもった喘ぎが、頭の上でこぼれる。股間を甘くあやしつつ、志穂も洋介の胸愛撫に身悶えしていた。
「ああ、待って、気持ちよすぎてでちゃうよ」
 洋介はうめき、胸から顔を上げて恍惚に呑まれた双眸を母に向けた。
「まだ、イキたくないんですか?」
「うん、もう少し……もう少しだけママと抱き合っていたい」
「はい」
 うれしさをにじませて、母が汗に濡れた美貌に笑みをつくった。洋介の頬を左手で撫で、股間の右手は暴発させぬよう穏やかな動きへと変えた。
「ママのおっぱいおいしかった?」
「うん」
「よかった。……だけど」
 やさしげな母の笑みがふっと翳った。
「こんなこと、ほんとうは許されないのにね」
「うん、でも――」
 洋介は言葉の代わりに母の唇を口で塞いだ。相姦の罪の重さは、洋介もよく理解している。朝を迎えたとき、後悔と反省が胸を押し潰すこともわかっていた。それでもこの母と子の睦み合いを止めようという気にはならない。
(僕は、ママのことが……)
 母が目を閉じていく。愛を告げる代わりに、洋介は志穂の口に唾液を垂らした。つばを流し込まれるとは思ってもいなかったのだろう、母が当惑を伝えるようにペニスをにぎってくる。
(呑んでよ、ママ)
 細顎を指で押さえて、なおも唾液をたらたらと送り込んだ。やがてきゅっとくねっていた細眉が元に戻り、嚥下の音が聞こえた。
(呑んだ。ママに僕の唾液を呑ませてる……)
 母は諦めたらしく、コクコクと何度も喉を鳴らして呑み下す。背徳感を伴った歓喜が少年の胸を灼き、肉茎の充血も上昇した。
(ああ、もれちゃいそう……)
 先走りの興奮液が潤沢に漏れて、母の唾液まみれの細指をドロドロに汚していた。洋介は母の唇を解放する。志穂がまぶたを開け、濡れ切った瞳で息子を見た。
「どこでこんな口づけのやり方、覚えたんですか」
 ほうっとため息をつく。ペニスから指をほどくと、口の横に垂れた唾液を人差し指で拭った。
「ねえ、ママとしたいよ……」
「え? そんなこと」
「だめなの?」
「だって母親と息子なんですよ。年の離れた恋人とは訳が違いますわ」
 静かな声だが、拒絶の意思がはっきりと感じられた。
「でも血は繋がってないよ」
 洋介は母の身体の上を這い下がっていった。するりと帯をほどき、ほとんどはだけた状態だった母の浴衣に手をかける。
「あ、あの、ちょっと洋介さんっ」
 母が引きつった顔で息子を見ていた。一方的なやり方に自分でも抵抗感を抱きながら、洋介は浴衣を剥がすようにして脱がせた。
「ああ……」
 だが母は恥ずかしげにうめいたものの、浴衣を押さえたりはしなかった。下着一枚の裸身があらわれる。女らしい丸い腰は、清楚な白いパンティで覆われていた。
(これがママのパンティ……)
 洋介は両端に指を引っかける。
「ね、待って洋介さん、あん、だ、だめっ」
 母が惑いの声を発した。しかし今更止まれるわけもなく、洋介はパンティを引き下ろしていく。黒い繊毛が足の付け根に顔を覗かせ、母が恥ずかしそうに顔をそむけた。洋介は一気にパンティを下げ、膝をくぐらせて足先から引き抜いた。
(ママのからだ……)
 洋介は息を喘がせる。何一つ身につけてない二十八歳の裸身が、目の前に横たわっていた。
「きれいだよ、ママ」
 淡い月の光が、女体を幻想的にかがやかせていた。ゆたかな乳房は仰向けになっても形崩れせずに上向きを保ち、腰は女らしい優美な曲線でむっちりと張っていた。着衣のときはスレンダーに思えた身体は、二十代後半の年齢らしく妖艶に成熟していた。
「ああ、そんなに見つめないでください」
 羞恥の声で志穂が訴えてくる。我慢できないというように、両手で乳房と股間を覆い隠し、左右の太ももをぴたりと重ね合わせた。
「あ、ママ、いじわるしないでよ」
「そんな違います。いじわるじゃなくて……」
 すがるような眼差しが洋介に向けられた。
「僕だって、ママのことをもっとよく知りたいんだ」
 血のつながりのない母子関係のもろさを利用するようなセリフだと自分でも思いながら、洋介は母の膝に手をかけた。
(だけど僕は父さんとは違う。ママを悲しませたりはしない……)
 決意を裏付けるものはなにもなかった。十代の青さも自覚している。それでも朗らかな笑顔を奪っている父より、自分の方がはるかに義母に相応しいと洋介は信じる。
「志穂さんが、僕のママになってくれてうれしかったよ。友だちもみんなきれいだってうらやましがってさ。この前の面談でママが高校来たときも大騒ぎだった。あんな美人でやさしそうな母親いいなあって……。ねえ、だめなの?」
「洋介さん……」
 母の深い嘆息がもれた。そして志穂は諦めを呑むように喉をゴクリと鳴らした。
「み、見せるだけですからね」
 両手がそっと外された。義理の息子の前に、母の裸体が改めて披露される。羞恥と興奮のためだろう、肌の表面には汗がにじみ、きらめいていた。
「うん」
 脚から力が抜けるのを感じた洋介は、母の右膝と左膝をゆっくりとひらいていった。母の脚はぶるぶるとふるえていた。
「あ、ああ、そんな場所を息子に……」
 母が恥じ入ったように切れ切れの嗚咽を放つ。
(これが女のひとの……)
 暗がりのなか、洋介は母の脚の間に頭を入れて覗き込んだ。ほんのりとした月夜の明かりを浴びて、漆黒の繊毛の下に百合の花が咲いていた。
(ママの身体でも、こんないやらしい形の部分があるんだ……)
 生まれて初めて見る女性自身に洋介は生唾を呑む。横にはみ出す紅い肉の花びらはキラキラときらめき、その合わせ目からはハチミツのような透明液が尻の狭間に向かって垂れていた。むちっとした太ももには汗粒がにじみ、流れ落ちていく。そして千佳からも匂っていた甘酸っぱい発情の芳香が、むわっとたちこめていた。
(ママ興奮してる……僕に見られて悦んでるの?)
 緊張と羞恥だけではない妖しい盛り上がりが母の内に生じていることを、童貞の洋介でも感じ取った。洋介は指を伸ばし、母の柔肉にふれてみる。
「あんっ……だめ、いじらないでっ」
 指先が当たった瞬間、母の腰がビクンとふるえた。洋介は花弁を左右の指で広げ、人差し指をそっと差し入れてみる。そこは火照って潤んでいた。
(濡れて熱くなっている。ここにペニスが入って……)
 女性と交わった経験はなく、こうして直接いじっていても未だ女穴の詳しい場所さえよくわからない。それでも今指がくるまれているあたたかな内部に、充血しきった勃起を差し入れる快さは洋介にも想像がついた。
「ねえ、ママ、いい?」
「あん、なにが?……」
 混乱の眼差しを息子に向けた母だが、すぐに洋介の言葉の意味に気づいたらしく、慌ててシーツの上で相貌を左右にふり立てた。
「だ、だめです、それだけはいけません……母親と息子なんですよ」
(やっぱりだめだよな……)
 いくら母を愛していても、それが相姦の免罪符とはならない。劣情に浮かされた頭でも、そのくらいは判断がつく。己の強引さを恥じる心もあった。洋介は潤みのなかに差していた指を引き抜いた。
「あっ、いや」
 名残惜しそうな悲鳴が漏れた。
(ママ、もしかして……)
 洋介は外した指を戻し、今度はもっと沈めた。ヌプッと蜜壺のなかに呑み込まれていく。内部がきゅきゅっとうねって指に絡みついてきた。肉体の寂しさが伝わってくる歓喜のうごめきだった。
「あ、ああ……あん」
 はまった指で亀裂を探ってみると、母の喘ぎは高音になり、奥の方からじわっと熱い粘液があふれてきた。
(ママだってほんとうは僕と……)
 熟れた肉体のなかでも、性の欲望と道徳心がせめぎあっていることを、洋介は理解した。
「ねえ、ママとしたいよ」
 母の上に覆い被さりながら、洋介はささやいた。眉間に皺の寄った煩悶の美貌が首を力無くゆらす。首筋にかかった黒髪が汗ではりついていた。
「わたしが悪いんですよね。洋介さんにキスをして、ココをさわったりしたから」
 志穂が手を下腹の方へと差し伸ばし、反り返る洋介の肉茎をつまんだ。先端からはカウパー氏腺液がだらだらと垂れ流れ、今にも勃起は弾けそうになっている。それを指先に感じて、母が悩ましげに吐息をついた。
「ああ、涎れをこんなにこぼして……ねえ、今日だけって約束してもらえますか?」
 母が問いかけながら、脚を受け入れる形に開いていく。洋介はうなずき、腰を沈めていった。母の指が女の中心へと洋介の分身を導いていく。亀頭の切っ先を秘部にあてがった。だが、なかなか挿入しようとはしない。愛液をペニスに塗りつけるように、あるいは先走り液を陰唇で拭き取るようにねっとりこすりつけて上下に動かした。
「あ、あん……こんなことをするのは、これ一回きりですから……」
 志穂は喘ぎつつ念を押してくる。淫らな母の手つきに、洋介の腰にも痺れるような快感が走った。
「ああっ、うん、わかったから、そんな風にしないで。出ちゃうよ、早くママのなかに……」
「洋介さんを慰めて差し上げたかっただけなんです。いつもやさしく笑ってくれるくせに、ほんとうの気持ちをこれっぽっちもママにぶつけてくれないから……」
 お互い一歩だけ歩みよった結果が、淫欲に呑み込まれての母子相姦だった。どうしてこういう風になってしまったのだろうと、母と子は泣き笑いの相で互いを見合った。
「僕だってママに甘えたかっただけなのに……」
「わかっています。わたしが我慢できなかったから……。息子と母親なのに、あ、ああんっ」
 母の指が肉柱を己が内へと沈めた。熱くぬめった潤みのなかへと亀頭がもぐっていく。
「あ、ああ、ああっ……」
 生まれて初めて味わう挿入の感触に、洋介は喉をさらしてうめいた。ズズッ、ズズッと埋まっていくほどに、腰のふるえる愉悦が跳ね上がっていく。
「すごい……ママのなか、気持ちいいよっ……」
 粘膜が膨らみきったペニスに絡みついていた。溜まった精液を絞り取ろうというように、膣道全体が強弱をつけて締め上げてくる。
「ああ、この圧迫感……お父さまよりも、んくっ」
(父さんよりも?)
 気の遠くなる快美のなかでも、洋介は父と比較するかのような母の引きつった声を聞き逃さなかった。
(こんなきれいな人を父さんが放っておくから……)
 母のまぶたがトロンと落ちかけていた。紅唇も半開きになっている。洋介はグイッと腰を前に突き出し、すべて埋めこんだ。
「ひっ、そんな奥に」
 母は充塞に悲鳴をこぼして仰け反った。白い首がのたうち黒髪がシーツの上でざわめく。
(ママと繋がっている)
 肉柱を深々と咥え込んで、息を乱す母は美しかった。白い乳房までが淫靡なかがやきを放っている。洋介は腰を軽くゆすった。膣奥までぴっちりと収まった状態で秘穴をこねると、膣粘膜が悦喜するように絡みついていた。
「あ、いや……だめ、しないで」
 母が太ももで洋介の腰を挟み込んだ。頬も両手で包んでくる。
「洋介さんはきれいな身体なのよね。ごめんなさい。洋介さんの大切な純潔をわたしがもらってしまうなんて」
 すすり泣くような声で母が詫びる。洋介は相貌を落とした。
「僕、うれしいよ。初めての相手がママで」
「洋介、さん……」
 母が顎を持ちあげ朱唇を差し出す。そのまま母と子は口づけした。母の手が頭にまわり、洋介の髪を愛しげな手つきで撫でてくれる。下ではみっちりと結合したまま、汗に濡れた肌をふれあわせていると、母と一体になったようだった。腰にふれる太ももの弾力もたまらなかった。洋介は満ち足りた安らぎに酔いながら母の口を吸った。
(ここから動いたらもっと……)
 洋介が恐るおそる腰を前後にふると、女肉はますます粘っこくこすりついてきた。想像以上の性交の愉悦に、洋介の出し入れの動きは激しくなっていく。
「あ、そんなにされたらママはっ……ああっ」
 母が口を離して訴えてくる。
「でも……我慢できないよ、ああ、ママのなか、すごいっ」
「あ、あん……な、なかには出さないでね洋介さん」
 絶え絶えの喘ぎのなかで母が懸命に訴えてくる。
「うん。抜けばいいんだよね」
 洋介は相貌を縦にする。避妊法としては間違いなのかも知れない。だが避妊具の用意などないふたりにとっては、それしか手立てはなかった。
 洋介の顎先から汗がしたたり落ち、母の乳房を濡らす。腰をふる度に、母のゆたかな双乳がぷるんぷるんとゆれていた。両手で乳首をつまむと母の紅唇がわなわなとふるえた。
「そんな強くつままないで、んく」
「こんな硬くなってる……ねえママ、さっき父さんと僕のチ×ポのサイズ比べたでしょう」
 自分でも予想もしなかった嫉妬心の表出だった。己の勃起を呑み込み、可憐に乱れてくれる義母を他の男に渡したくないと思う。
(たとえそれが父さんだって……)
 実の父への対抗心が、少年の腰遣いにあらわれる。恥骨をぶつけるようにして勃起を出し入れした。
「あ、ああっ、して、ませんっ、ああん」
 息子にしたたかに肉杭を打ち付けられ、母の上半身が左右にくねった。熟れた乳房はたっぷたっぷと肉感的にふるえる。洋介は母の双乳を両手で鷲づかんだ。
「ママのうそつき。どっちが大きい? どっちのがママ好みなの? ねえ」
 奥歯を噛み締めて、漏出感を懸命に抑え込み、休みを与えずに母を貫いた。汗と体液を吸った互いの繊毛までもが接合部でヌチャヌチャと絡み合っていた。
「そ、そんなこと聞かないで……」
 上気した美貌は恥ずかしそうに視線を外した。すすり泣くように言う。だが息子に問い詰められるほど女壺はきゅうっと締まり、粘膜が絡みついてくる。
(ああ、ママの身体ってたまらない……)
 常にやわらかく食い締めて、少年を悦楽の向こう側へと連れて行こうとする。貞淑なふだんの姿を忘れたようないやらしい反応に、巻き込まれぬよう耐えるのが大変だった。
 この魅力的な年上の女性を自分だけのものにしたいと、洋介は思う。乳房を絞り、想いを込めて肉柱を突き刺した。
「教えてよ、ママ」
「ああっ、そんなにママを責めないで、お願い……。よ、洋介さんよ。ああ、すごい、洋介さんはお父さまと違ってずっとカチカチなの……」
 これ以上の告白は許して欲しいと、母が首を差し伸べ、洋介の口を紅唇で塞いだ。
(僕だったらママが満足するまで愛するのにっ)
 洋介は口内の泡立った唾液を垂らし、母の口に注ぎ込んだ。
「んむ……んふ」
 むせぶような鼻声をもらして、母が粘ついた唾液を啜り呑んでいた。汗の伝う細首を抱き、母の豊乳を胸でやわらかく押し潰して肉塊の出し入れを繰り返した。母が耐えられぬように顎を跳ね上げて口づけから逃れ、口を大きく開けて空気を吸い込む。
「はあ、んむ……よ、洋介さんっ、ああん」
 喘ぎ声は艶っぽく崩れていた。肉体のふるえと発汗も大きくなる。なにより切羽詰まった感じの柔ヒダの動きが、後一歩で母が頂上に昇り詰めることを教えていた。
「ああ、いや、そんなっ、あ、ああだめ……おかしくなるっ」
 よがり泣きが紅唇から噴きこぼれた。汗を吸った黒髪が布団の上から舞い上がり、形の良い眉がくねる。
「んんっ、ううっ……」
 女体がヒクヒクッと痙攣していた。女壺の蠕動が激しい。志穂は唇を噛み締め、絶頂の声を押し殺していた。口の隙間から乱れた呼吸の音が漏れる。洋介は腰遣いをゆるめ、大人の女性の凄艶なアクメ顔に見入った。
(僕がママを……)
 この一瞬だけであっても、美しい母を自分だけの女にしたという悦びが洋介の胸にこみあげる。そして初めての性交で、自分より遙かに年上の女性をアクメまで押し上げることができた達成感。洋介は歓喜の息を吐いた。射精を懸命に耐えてきた緊張感までもがゆるむ。
「あ、ああ、お願い、なかは……今、ママ危ないの」
 陶酔に意識を朦朧とさせながらも母が必死に訴えてくる。洋介は腰を引き、結合を解いた。そのままぺたんと座り込み、ハアハアと肩を喘がせた。硬いままの肉柱が脚の付け根で反り返っていた。先走り液がドクドクとあふれてくる。亀頭部分が灼けそうに熱かった。
「ようすけ、さん……」
 母が身を起こしていた。絶頂の恍惚から完全に抜け出した訳ではないらしく、あふん、うふん、と色っぽく口で呼吸しながら、肘と膝で這って洋介に近寄り、下腹を打つ状態のペニスに指を重ねた。千佳のように手で射精の介助をしてくれるのかと思い、洋介は母の手つきを見つめた。
「あ、ああっ……何か塗っているの?」
 母の指には冷たくヌルッとした感触があった。洋介は戸惑いの目を火照った美貌に向ける。
「クリームよ。待ってね」
 母が先ほど、自分の指に塗ってくれたハンドクリームだろう。傍らにクリームの小瓶があった。放精させぬよう加減しながら丁寧にペニスにまぶしていく。
(なんのために……)
「ごめんなさいね。イキたくてたまらなかったでしょう」
 塗布を終えると母は身体の向きを変え、うつ伏せになった。膝を立てる。むっちりと張った尻を洋介の方に突き出す格好になった。
「ああ、恥ずかしい……」
 か細い声でうめいた。女の亀裂はおろか、黒い陰毛、会陰、尻の小穴まですべてが丸見えだった。
(すごいポーズ……)
 息子の肉茎を咥えたばかりの秘唇は、開いた形に変わってヌラついた粘膜をさらし、その上には母に似合いのかわいらしい排泄の小穴がある。蕾を開きはじめた菊の花と、爛熟の百合の花が縦に並んで咲いているようだった。
 志穂が膝の間隔を広げて、右手をお腹の方から股間へとまわした。指に残ったクリームを、排泄器官に塗り込めていく。
「こっちでなら、洋介さんも存分に出すことができますから」
(そうか、ママはアナルセックスの準備を……)
 母のセリフで、ようやくしようとしていることを洋介は理解した。後ろの穴でも性交できるくらいの知識は洋介も持っている。それに確かに妊娠の心配はない。
(だけどこんな場所でママと……可能なの?)
 後ろの小穴を使った性交がどんなものか、洋介にはまったく想像がつかない。躊躇いの眼差しで洋介は母を見た。
(それにしても、なんていやらしいんだ……)
 ごくっと生唾を呑んだ。月明かりの下、息子に向けて丸みのある尻を差し出し、恥じらいつつ可憐な窄まりを指先でクニクニと塗り込めていくさまは、見ているだけで射精してしまいそうな興奮を生んだ。
(こんな光景が見られるなんて……)
 アクメに酔った顔を見られまいと、身体の向きを変えたのだろうが、淫靡さは今日一番だった。勃起がジンジンと痛んだ。肛門性交への惑いなど、いつの間にか頭のなかから消えていた。
「ママってお尻大きいから、這った姿勢がよく似合うね」
 洋介はかすれ声を発した。
「そんな……。ああ、洋介さんの前なのに。酔っていないとこんなこと、できませんね」
 志穂の恥じらいの嘆きが響いた。アルコールのおかげで、母の羞恥心が軽減されている幸運を洋介は感謝した。
「どうぞ……」
 指が窄まりから離れ、母が小声でささやいた。四つん這いのまま、双丘をくいっと高く掲げた。
「いいの? ほんとうに入れちゃって」
「わたしだけが気持ちよくなっちゃって……申し訳ないですから」
 母が黒髪をゆすって背後の洋介をふり返った。不安げな相が薄闇に浮かんだ。
「それともこんな場所ではおイヤですか?」
「そ、そんなことないよ」
 洋介は素早く両手で双臀をつかんだ。母性を感じさせるゆたかなヒップ、そのもっちりとした手触りだけで、ペニスがピクついた。
「うれしいよ。ほんとうに」
 淑やかな母の対極にある倒錯の行為だった。どれだけの勇気を持って母が誘ってきたか洋介にも想像できた。
(それに僕だってママのなかで……)
 洋介にも、愛する女性の身体のなかで射精したいという願望がある。ペニスの先端を尻穴にあてがうと、ゆっくりと押し込んでいった。
「んむっ」
 母がうめく。入るのだろうかと疑問に思えるほど、窄まりは緊縮していた。
「ママだいじょうぶ?」
 膣と違い、跳ね返そうとする力は大きい。心配げに尋ねながら、それでも洋介はジリジリと沈めていった。
「え、ええ。ずっとお湯に浸かっていたから、平気ですわ。そのたくましいモノで、ママを慰めて下さい。遠慮しないで……あん」
 志穂がふり返って肉刺しを請うように流し目を送ってくる。息子の忌避感を軽減させようと、故意に自分を下に置いた言い方をしているとわかった。
(ごめんママ、止めるつもりなんて僕にもないんだ)
 肛門と亀頭がこすれ合っているだけで、肉柱に快感が走る。変質的な交わりだという抵抗感よりも、あたたかな母の体内で思いっきりぶちまけたくてたまらない欲求の方が意識をはるかに占めていた。
(早く溜まった精液を吐き出してすっきりしたい……。それにママのお尻ってほんとうに物欲しそうな形なんだもの)
 艶美な曲線は犯されるのを待っているかのようだった。母の色気に挑発されて肉茎は鋼同然の硬さとなり、窄まりのなかにじわじわと割って入っていく。括約筋が温泉の湯でほぐされているだけでなく、愛蜜と先走り汁、そしてクリームと幾層にも重なったペニスのヌメつきが、困難な挿入を可能にしていた。
「あ、うんっ……んん」
 亀頭がツルッともぐった瞬間、母の肩から幾筋かの黒髪が、さらさらと流れ落ちた。耐えられぬように肘が折れ、相貌が布団の上に沈んだ。
「ママ、痛いの?」
 布団に右頬を押しつけ喘ぐ横顔は、眉間にぎゅっと皺が寄り、月明かりをまとったなめらかな女体は小刻みにふるえていた。
「いいえ。どうぞ、もっと奥まで……んう」
 けなげな声に、洋介はうなずきを返し、母の豊腰を自分に向かって引きつけた。入り口の絞りは、女壺の比ではない。それでもクリームの潤滑のせいで肉柱は着実に埋まっていく。
「ああ、入った……」
 洋介の腰がぴたりと母の双丘にふれ合っていた。勃起は根元まではまり込んでいる。
(すごい、こんな感触なんだ。気持ちいい……)
 膣洞と違ってヒダとこすれる感じはなく、なめらかな粘膜にぴっちりと隙間の無い状態で締め付けられている感覚だった。
「ううむ……んむ」
 母が唸っていた。つらいのだろう、美貌は苦悶に歪み、滝のような汗が肌を覆っていた。口からハーハーとせわしなく息を吐いては、懸命に肢体を弛緩させていた。
「ママ、苦しいんでしょ? 一度抜くね」
 さすがに母がかわいそうになり、洋介は下半身を後ろに引いた。
「そ、そんなことありませんわ。洋介さんの好きなように動いて構いませんから」
 志穂は自ら丸い尻をたぷんと打ち振って、肉棹に摩擦を与えてきた。
「あ、ああっ、そんなことされたら、僕っ」
 さんざん耐えてきた洋介には酷な刺激だった。軽くしごかれただけだというのに痺れる悦楽が背筋にビリッと走り、射精したのではないかと錯覚するほどのカウパー氏腺液が、尿道を通って母の腸内へとドロドロともれていった。
 カアッと盛り上がった淫欲が、自制を吹き飛ばした。洋介は母の括れたウエスト部分を左右の手でがっちりとつかみ、肉刺しを加えていった。
「あ、ううっ、うあん」
 シーツを両手でにぎり、母が抽送に耐える。
「ごめんママ」
 夢中になって抜き差しを繰り返した。腰が跳ね当たると母の双臀が波打ち、括れた腰がきゅっとたわむ。痛苦の脂汗だろう、背中がびっしょり濡れていた。背筋の窪みに溜まった汗粒は、月の光を吸って宝石のようにかがやく。
「い、いいのよ。そのまま、どうぞ……んむ」
(ああ、だんだんスムーズに……)
 引っかかるような圧搾が少しずつ薄れていく感じがした。洋介は腸管にはまった肉刀に意識を集中する。緊縮する肛門と、引きつるようだった内粘膜に徐々にゆるみが生じ、腸管全体が肉柱に馴染んでくるのがわかった。
「ママのお尻の穴、だんだんふっくらやわらかくなってきたね」
「ん……ああっ、んうっ」
 母の声も変調していた。甘ったるい気配を帯びている。
「どうしたの? 気持ちいいの」
 洋介は右手を母の脇からまわし入れ、媚肉の表面を撫でた。
(ママ、熱くなってる……)
 母の秘唇は口を開いてヒクついていた。洋介の指がふれるとキュンと吸いつくような動きをみせて、絡みついてくる。
「ママ、下に垂れていってるよ」
 秘裂からもれた愛液が内ももを垂れ、布団の上に染みをつくっていた。洋介のまさぐる指にさえ、ポタポタと熱くしたたってくる。指の動きに合わせて汁気にあふれた音が響いた。
「いや、言わないで。ああっ……おかしくなってしまう。なんで、こんな場所で……お尻の穴でなんて……んふっ」
 母自身、予想もしていなかった肉体の反応なのだろう。息子のためと思って許した不浄の穴で、自身が快感を得ていることに混乱のうめきを放っていた。
「ママも感じているの? 一緒にイこう、僕も、もうっ」
 洋介の肉棹も極限まで充血していた。放精の予兆がすぐそこまできていた。洋介は重そうにゆれ動く乳房を、脇からまわした両手でつかんだ。
「ひいっ、あひいっ」
 豊乳を絞りながら出し入れを強めていくと、母がすすり泣いて、艶っぽい高音を奏でる。
「ママッ、ああぁ、ママあッ」
 ふくれあがった肉茎を、母の排泄器官にズンズンと打ち込んだ。もっと母の内部を味わい、楽しみたかった。しかし、我慢しようにも限界間際まで上昇している射精感はこれ以上抑えようがない。
「ああん、ど、どうぞママのなかで射精してください……このまま洋介さんがイクところを感じたいの……きてっ」
 息子の欲望が弾ける瞬間を身体で受けとめたいと、母が訴えてくれる。紅いオルガスムスの色にしあわせなやわらぎの色が混じって、洋介の意識はトロリととけていく。
「ああ、イクよっ、ママあっ」
 快感が極まり、痺れが全身を駆け抜けた。腸管のきつい圧迫のなかに、溜め込んでいた粘液を勢いよく吐き出す。
「ああ、お尻、熱いっ」
 樹液の噴出を感じた母も、細い首筋を引きつらせ、切なさのこもった声でむせび泣いた。艶やかな裸身が肌に伝う汗をはじいて痙攣する。息は速まり、黒髪が華やかに乱れ散った。
「そんな、うあ、気持ちいいわ……ああ、イクッ、ママもイキますっ」
 遅れて絶頂に達した女体が、わななく肉茎をぎゅっぎゅっと締め上げてくる。
「ああっ……あう、ママ」
 根元部分を絞られると、放出の快楽はすさまじく跳ね上がった。頭のなかが昂揚の朱一色に染まっていくのを洋介は感じた。前のめりになり、女体の上にぴたりと覆いかぶさって、洋介もまた母のようにすすり泣く。
「んん、ようすけ、さん、ああ、うあ……」
 母の上ずった嗚咽を肌を通して聞きながら、洋介は腸奥に劣情の迸りを流し込みつづけた。
(……もう止まったんだ……)
 狂熱の渦のなかを漂っていた意識がわずかに表層へと戻り、洋介は射精の終わりを自覚した。のろのろと腰を引き、結合を解いた。
(ドロドロだ……)
 精液、ハンドクリーム、汗、さまざまな粘液がまだらになって半萎えのペニスにこびりついていた。湯気の昇りそうな熱気と、ツンと鼻を突く獣性の臭気がむわっと広がる。
(ああ、ママのお尻も……)
 正面には、膝立ちの格好で差し出された臀丘がそのままあった。汗の伝うツルンとした尻肌、蜜をにじませる女肉、そしてなによりぽっかりと開いたままになった秘肛の様相に、洋介は言い様のない妖しい興奮を覚えた。
「ああ、ごめんなさい。匂いますよね……すぐに後始末しますから……」
 母がふるえ声で謝り、後始末するために身を起こそうとする。洋介は手を伸ばし、母の双臀を両手でつかんだ。
「あ、なにを」
 困惑の声がもれる。洋介は母の尻に顔を近づけた。
(ママでも、こんな匂いするんだ……)
 鼻を鳴らし、腸液の臭気を嗅いだ。清楚で可憐な母には、あまりに不似合いなあさましい香だった。「あ、いやっ」と含羞の悲鳴がこぼれる。恥辱を掻き立てられる洋介の行為から逃れようと、母は腰をふって、身をよじった。
「ママ、あふれてきたよ……」
 だらしなく口を広げたままの尻穴から、今流し込んだばかりの樹液が垂れこぼれてきた。トローッと糸を引いて、尻の狭間を流れていく情景に洋介は見入った。
「ああ、見ないで、そんなところ、見ないで下さいっ」
 母のかすれ声が響く。必死に腰をくねらせて、尻をつかんでいた洋介の指を外すと、立てていた膝を滑らせてうつ伏せになり、恥ずかしい尻穴の状態を見せないようにした。
(そうだ、何も一回で終わらせることないんだ……)
 洋介は腹這いになった母の上に、覆い被さっていった。
「あ、洋介さん、何を? んあんっ」
「いいんだ」
 母の首の裏で告げ、抜き取ったばかりのペニスをまたヌルリと挿入する。生々しくも凄艶なさまに、股間の充血は急回復していた。
「ん、んむっ、そ、そんなっ、うそ……」
 母が息子の雄渾さに驚いたように細肩をゆすって、背中をふり返った。
「ママの身体だって……」
 洋介は頬にかかった母の黒髪を指でよけながら告げる。灼けつく粘膜の熱さと、抜くことを拒むような関門の緊縮の心地は麻薬だった。洋介は根元まで埋めると、ヒップに密着した状態でグッグッと排泄の器官を抉った。
「ねえママ、ここは僕だけの場所だよね」
「え、ええ、洋介さんが初めてです……うぐ」
 甘えた声でささやきながら母のなかから引き抜き、次の刹那ズッポリと突き込んだ。
「ひいっ、ひいい、うう、こんな硬い……ああ、十代ってすごいっ……」
 母が紅唇をふるわせてうめく。苦悶と快楽に揉まれる白い女体は、汗に濡れてまばゆいばかりに美しく、いやらしかった。
(こういう交わりでもいい。ママのぬくもりさえ感じられるのなら……)
 満ち足りたほっとする安息の心地と、括約筋にきりきりと圧搾される快楽が混じり合って少年を虜にする。いましがた流し込んだばかりの精液がローション代わりだった。一回目よりもなめらかに勃起は出し入れされる。
「いやぁ、ママも……また感じて、ひ、ひいっ」
 白い首がのけぞり、紅唇が開いてふるえる。洋介は前に腕をまわし込んで母の頬を撫でた。
「ああ、僕もまたイキそう……」
 二十八歳の裸身を抱き、何度も何度もこねまわして、食い締めてくる感触に浸る。尻穴性交への嫌悪はなくなっていた――いや最初からそんなものはなかったのかもしれないと、根深くねじ入れた肉柱で腸奥を小突きながら洋介は思う。
「よ、ようすけ、さん……ん、んう」
 志穂が顔をゆり動かして、頬に添えていた洋介の指を咥えてきた。唇に含んでちゅるちゅると舐めしゃぶり、肛門は息子とのつながりを確かめるようにクイクイと引き絞っていた。
「ママっ……」
 洋介は息を吐いて、母のうなじにキスした。強く吸って容易に消せない赤い痕を残していく。
(いつまでもこうしていられたらいいのに……)
 肌を通してとけ合っていくようだった。禁忌の罪悪と倒錯の性愛を乗り越えて、血のつながりのない母と子は一つに重なり合う。
 ヌチュヌチュとこねくる汁音の響きはいつまでもつづき、温泉宿の一室で母子姦は深まっていった。

 

【次回更新:2024年12月29日(日)】

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