ボーイッシュ幼馴染・南鳥アヤへの愛は永遠に終わらない!
卒業式を前にして、アヤと俺はクラスメイトと一泊二日の卒業スノボ旅行に!
ゲレンデではしゃぐアヤは最高に可愛くて、そしていつもより色っぽくて…
ホテルではみんなに内緒でこっそりお風呂に入って蕩けあい、
行き帰りの移動中でも俺の想いは抑えられなくて…
No.1イチャラブラノベ、待望の新巻! 全編書き下ろしで復活!
第一章 幼馴染とマラソン大会で汗を流した(百七十七日目 土・午前)
第二章 誰もこない美術室で幼馴染に何度も中出しした(百七十七日目 土・午後)
第三章 【アヤ視点】幼馴染に心も体もだめになった(百七十七日目 土・午後)
第四章 幼馴染と一泊二日の卒業旅行に出発した(百八十三日目 金・深夜)
第五章 スキー場で選択を迫られた(百八十四日目 土・朝)
第六章 罰ゲームで幼馴染にマーキングした(百八十四日目 土・夕方~夜)
第七章 【カナッペ視点】幼馴染に恋する人をあきらめた(百八十四日目 土・夜)
第八章 幼馴染に家族風呂へ誘われた(百八十四日目 土・夜)
第九章 我慢できない幼馴染にご奉仕された(百八十四日目 土・夜)
第十章 家族風呂で幼馴染に種付けした(百八十四日目 土・夜)
第十一章 新幹線の中で幼馴染に起こされた(百八十五日目 日・朝)
本編の一部を立読み
第一章 幼馴染とマラソン大会で汗を流した(百七十七日目 土・午前)
校庭に立ち、ぼーっと空を眺める。
2月下旬の寒さで、吐く息が白くのぼっていく。
今日は年に一度のマラソン大会。
3週間後に卒業式を控える俺たちの、最後の学校行事だ。
校庭に集まった生徒のほとんどは体操服姿で、一部は部活のユニフォームを着ていた。
どちらも寒そうだ。俺も、この冬空で半袖にハーフパンツの体操服はなかなかにきつい。
ふと、誰かに腕をつつかれた。
「やっほー、ぼーやん何見てんの?」
朝方とは思えない元気な声に、眠気が吹っ飛ぶ。
「アヤか。あー……空、見てた」
「空?」
茶色いショートヘアが揺れ、彼女がまぶしそうに上を向く。
眉間にシワを寄せて目を細める姿が、ドラマのワンシーンみたいだ。
「何もないじゃん」
アヤが俺のほうを見て微笑む。相変わらずぼーやんはぼーっとしてるな~と、少し茶色がかった瞳が言っている。
至近距離で見る彼女の可愛さに、つい変な声が出そうになった。
南鳥アヤ。
小学校からの幼馴染で、今は最愛の恋人。
一週間前のバレンタインで何度も抱き、数日前には彼女のバイト先へ迎えに行って会ったばかりだ。
なのに、この数日でまた可愛さが増している気がする。最近は会うたびにそう思う。
「アヤは、その格好で走るんだ」
彼女は体操服ではなく、バドミントン部のユニフォームを着ていた。
ピンク色のTシャツに黒の短パンという、これまた寒そうな格好だ。
だけど準備運動でもしたのか、むしろ汗ばんでいる。火照った体温が俺にまで伝わってくるみたいだ。
「バド部OBはユニフォームで走ろうって、みんなで決めたんだ」
アヤは少年みたいに口角を上げると、得意げな視線を向けてきた。
「部活の宣伝?」
「それもあるけど、後輩たちに先輩の最後の勇姿を見せようって」
「じゃあ頑張らないとだね」
彼女が任せてと言わんばかりに眉を上げ、また空を仰ぐ。
こうやって何にでも全力投球するところが、アヤの数多ある魅力の一つだ。
あらためて、その整った横顔に見惚れる。
半年前、修学旅行へ参加する前は、彼女が恋人になるなんて思いもしなかった。
俺も、もう一度空を見上げる。
全体が雲に覆われ白一色だ。
さっき眺めたときはつまらなく感じたのに、今は隣にアヤがいるだけで、空がわたあめか生クリームみたいに見える。
「この空も、もう見納めかねぇ~」
アヤがしみじみとつぶやいた。
言い方がおばあちゃんみたいで面白い。
「そうだなぁ」
俺も年老いた口調で返すと、彼女がぷっと吹き出してこちらを見た。
「ぼーやん、おじいちゃんみたい。似合うねぇ」
「アヤも似合うよ」
「私、まだおばあちゃんじゃないし」
言いながら彼女が手に持っていたバドミントンのラケットを振る。
だがふと動きを止め、眉をハの字にして心配そうに見つめてきた。
「ぼーやんは……無理しないでね。仕事、忙しいんだし」
「今度は奥さんみたいだね」
「奥さっ……ん、にはまあ、なるけど……」
反論しようとして、でもすぐにしてやられたという感じで照れる様子が可愛い。
本当にアヤは表情がころころ変わる。
そんな彼女に、悲しい顔はさせないように。
寂しい思いは一生させないように。
卒業して、二人で何不自由ない生活を送れるように、俺は今、スタイリストである姉貴の現場でバイトをしたり、知り合った雑誌の編集長の独立準備を手伝ったりしている。
撮影スタッフに依頼したり、モデルさんの日程調整をしたり、撮影場所を決めて許可取りをしたりと、やることに追われる日々だ。
「まあ、無茶はしないよ」
「ならおっけ。お互い悔いのないよう楽しもうね! ぼーやんはほどほどに」
にっこり笑ったアヤが、控えめに手を振って去っていく。
今日も徹夜明けで登校したから、さっきまで疲労が全身を覆っていたのに……アヤと少し話しただけで消えてしまった。
俺も男子生徒たちが集まっているスタートラインに向かって歩き出す。
いよいよマラソン大会が始まる。
去年も一昨年も俺は適当に走った。順位なんて気にせず、それこそほどほどのペースで。
今年もそうするつもりだ。
「位置について、よーい……スタート!」
先生が空に向かって空砲を撃つ。
──楽しもうね!
アヤの爽やかな笑顔につられるみたいに、俺は駆け出しからスピードを出した。
脚が妙に軽い。
俺は体のおもむくまま、さらにペースを上げていった。
視界が自分の吐く息で覆われる。
折り返し地点が過ぎたころ、俺はトップ集団の最後尾にいた。
マラソン大会は町内にある折り返し地点まで行って、戻ってくるコースだ。
男子と女子では走る距離も、スタート時間も違う。
だから折り返し地点も男子より女子のほうが手前に設置されている。
さっき来た道を戻り、女子の折り返し地点を通り過ぎるころ。
向こうから女子の先頭集団が見えてくる。
その中に、ピンクのTシャツを着たアヤがいた。
彼女も俺に気づき、目を見開く。
──マジ?
表情がそう言っているのが分かった。
俺がこんなに早く戻ってくるとは思ってなかったのだろう。
こちらへ向かってくるアヤとの距離が近づく。
「ぼーやん、がんば!」
「アヤもね」
すれ違いざま、彼女が笑顔でラケット振り上げたので、俺も親指を立てて格好つける。
どうせなら高順位でゴールして、目をまん丸にして驚くアヤを見たい。
やがて学校が見えてきた。
さすがに息が苦しい。体の節々も悲鳴を上げている気がする。
このままゴールしても自己最高記録だ。アヤにいいところを見せるのには十分だろう。
無茶をせずほどほどに、という彼女との約束を破るわけにもいかない。
走るペースを維持しよう──そう思った矢先、横を誰かに追い抜かされた。
「げっ、ぼーやん……!」
アヤの元カレ──時田だ。
サッカー部のユニフォームを着た時田が、こちらを振り返って嫌な顔をしている。
(ほどほどで、終えたいんだけどな)
別にアヤの元カレだからといって張り合うつもりはない。
このマラソン大会の勝敗が、アヤとの未来に影響を及ぼすこともない。神の直感もそう言っている。
なのに両脚が勝手に地面を蹴りだす。
気づけば時田を追い抜き返していた。
「くっそ!」
背後で舌打ちが聞こえた。
時田はサッカー部でも瞬発力が売りだが、長距離走には向いていない。しかも今は片手にサッカーボールを持っているというハンデ付きだ。
一方の俺は、短距離走は苦手だが、昔から持久力だけはあった。
最近は現場で重い撮影機材を運んだりしているから筋力もついた。
それに……この半年アヤとセックスをしまくって、時には4回戦まですることがある。おかげでさらに体力が増している気がする。
俺は、アヤを奪った。
時田にしてみれば理不尽で許せなくて憎らしい相手だろう。
だからせめて、時田の前ではそんな奴でいなきゃいけない。
そんな気がしただけだ。
学校の正門を走り抜け、校庭に設置されたゴール地点が見えてくる。
最初にゴールテープを切ったのは陸上部の男子だったが、俺は見事5位で到着した。
他の男子生徒たちも次々と駆けこんでくる。
「あー負けた!」
やや遅れてゴールした時田が悔しそうにサッカーボールを蹴り上げた。
空に描く曲線を、不思議と目で追ってしまう。
ボールが地面に落ちてから、正門付近へ顔を向けた。
男子たちに交ざり、女子の先頭集団が走り込んできている。
アヤは、前から数えて4番目くらいにいた。
本当に運動全般が得意な子だ。これで短距離も速いのだからすごい。
ふと、隣からポツリと声がした。
「南鳥さん、相変わらずかっこいいね」
「え?」
見れば、すらりとした体つきの男子生徒がアヤのほうをじっと見つめている。眼鏡をかけ、茶色髪で耳が隠れていて、温和な雰囲気だ。
(たしか、クラスメイトの)
……あいにく名前が思い出せない。
相変わらず俺はアヤ以外の人に興味がなかったのだと、内心で苦笑する。
だけどその整った顔立ちにはもちろん覚えがある。多分、イケメンとか美少年とかいわれる部類だ。
そういえばさっき、俺に続いて6位でゴールしていた気がする。
「アヤ先輩、頑張ってんな~」
彼に相槌を打とうとしたそのとき、少し離れたところで下級生の男子二人が話している声が聞こえた。
自然と注意がそちらに向く。
「アヤ先輩のユニフォーム姿も最後かー」
「やっぱいいよなぁ……」
どうやらバドミントン部の後輩らしい。
スマホとかで撮影している様子はないので、ひとまず安堵する。
彼らの見つめる先、ゴール地点をアヤが駆け抜けた。
(……たしかにいい)
アヤは、なんというか息をのむほどの魅力を放っていた。
やりきったという笑顔は、どこか少年っぽい。
しかし今や美少女から美人に変わりつつある、綺麗な目鼻立ち。
細い首筋をなぞるように流れる汗。
ピンクのTシャツの袖がめくられ、ほっそりとしているのに柔らかい二の腕が露出している。
他のバド部の女の子とハイタッチをするときに見えてしまう、つるりとした腋の下がまぶしい。
その全部に、周囲の男子たちの視線も吸い寄せられているのが分かった。
そして。
「アヤ先輩の、やっば……」
後輩くんたちが一心に見つめている、ひときわ豊かなバスト。
アヤは今スポーツブラを付けているだろうから、走っているときに揺れてはいなかったし、大きさも実際より控えめに見える。
それでも俺を含めて男子の視線を釘付けにするには十分すぎた。
「Fあるってマジかな」
「え、それどこ情報?」
「二年の女子が噂してた」
「ならガチじゃん。すげー、グラビア並」
「グラビア出たらぜってー買う」
「アヤ先輩はそういうの絶対出ないだろ」
「だよなー……てか結局アヤ先輩って新しい彼氏いるんだっけ」
「いるって聞いたけど」
「だよなぁ、タクマも玉砕してたし」
「もうヤってたりすんのかなぁ、彼氏と」
「おい、先輩たちに聞かれたら俺ら殺されんぞ」
「だってさぁ、もう部活で会えねーんだぜ」
「まー普通に寂しいよな」
「アヤ先輩いると空気がこう、明るくなるっていうかさー」
「だなー。前に俺らが試合で負けたとき励ましてくれたの、あれは食らったわ」
「あんな可愛い先輩、他にいねーよ絶対」
「確かに……バド部入って正解だったな」
「せめてずっと処女でいてくれんかなぁ~」
「……まーでもさ、ヤってはないんじゃん? ほらアヤ先輩ってそういう感じしないし」
「わかる。キスとかもまだそう」
「お前もだろ」
「あぁ~初キスはアヤ先輩に捧げたかった~」
「お前もう黙っとけ……」
アヤに関してこの手のトークで盛り上がるのは、もはや後輩あるあるなのかもしれない。
学年が違うからアヤとの交流が薄いぶん、遠慮なく妄想したりエロい目で見たりできるのだろう。
彼らがアヤに何かするわけではないことは、分かっている。
だけど、どうしても心がピリついてしまう。
彼女は昔から無防備なところがあって、勘違いした男に声を掛けられたり変な目で見られたりすることが多かった。
中学で時田と付き合い始めてからは、校内でアプローチされることはなくなったが、別れた今は、俺が事前に排除しないといけない。
冷えきった感情を募らせていると、さっきから隣にいた眼鏡の男子がため息をついた。
「本当、ああいうの嫌だ。南鳥さんもいい迷惑だよ。ぼーやん君もそう思うよね」
「あぁ、うん」
曖昧に返事をしつつ、彼の名前はなんだっけと再び脳をフル回転させる。
すると遠くからアヤが近づいてくるのが見えた。
「あれ、ぼーやんと相川君って仲良かった?」
(ああそうだ、相川君)
どこか嬉しそうな笑顔を浮かべるアヤに、当の相川君は恥ずかしそうにうつむいていた。
なるほど。
どうやら彼も、俺と同じように人付き合いが苦手なタイプらしい。
見るからに陽のオーラを放つ彼女に話しかけられ、返答に困ってしまう。そんな姿に親近感が湧く。
俺も、アヤが幼馴染じゃなかったら似たような反応をしていたかもしれない。
小学校のとき仲良くなれて本当に良かった。
「アヤ、4位だったね」
結果を称えると、意外なことに彼女はうーんと眉をひそめた。
「今年もぼーやんより先にゴールして、3連勝できると思ったんだけどな~」
「毎年張り合ってたんだ」
「なんとなくね」
アヤは不服そうにラケットのガットを見つめ、くるくると横回転させた。
まるでラケットの調子が悪かったせいとでも言わんばかりの仕草が、面白い。
というか毎年俺の順位を意識してくれていたのが地味に嬉しい。
「でも、アヤ頑張ったね。自己ベストじゃない?」
もちろん俺も彼女の走りを毎年意識していた。一昨年は12位で去年は9位だ。
順位を上げたのは上級生になったからというのもあるだろうけど、俺とのセックスで体力がついたおかげかも……なんて発想が浮かんでしまう。
「ふふ、私もやってやった。バド部の威信は保たれた」
俺を見上げ、にかりと笑うアヤに心臓を打ち抜かれる。
走ったせいで前髪が分かれ、おでこに汗がにじんでいるのが可愛い。そして妙に色っぽい。
獣じみた情欲が湧いてくる。
だけど校庭のど真ん中で股間を反応させるわけにはいかない。
顔をそらせば、相川君が驚いたようにアヤを見つめていた。おそらく呼吸も止まっている。
彼女の不意打ち気味の可愛さにやられてしまったのだろうか。
──。
神の直感は、アラートを発していない。
ここまでの態度を見るに、相川君もアヤに思いを募らせている一人だろう。今まで何人も見てきた。
でも警告がないということは、放っておいても問題ないということだ。
内心で胸を撫で下ろす。
できれば相川君には牽制したり、先を読んで手を打ったりなんてことはしたくない。
「お~いアヤー!」
はきはきした女子の声が校庭に響く。
アヤの親友──カナッペが手を振っていた。
モデルのように手足が長く、背も高いので遠くにいるのに目立つ。
比較的小柄なアヤと並ぶと凸凹(ルビ:でこぼこ)コンビといった感じだ。一重の目元はキツそうに見えて、すごく情深くて涙もろい子なのだと、以前アヤが言っていた。
「お、どしたカナッペ~!」
アヤがラケットを掲げると、それを目印にするかのようにカナッペと、ついでに数人の男女が集まってくる。
「ぼーやんもいるじゃん、好都合だこりゃ」
「なにが好都合だこりゃ?」
「とっておきの話があるんだこりゃ」
アヤとカナッペが冗談めかしたやり取りをするあいだに、周りには7、8人のクラスメイトが集結していた。
ナチュラルに人の輪を作ってしまうアヤに、あらためてクラスの人気者なんだなと思う。
俺がラケットを掲げても一人として集まる気がしない。
「アヤ、来週末クラスのみんなで卒業旅行いかん? スノボ。金曜夜に深夜バスで行って、一泊して帰るみたいな感じでさ」
「いいね、行きたい!」
アヤの可愛らしい声が校庭に響く。
そして俺を見上げ、ぼーやんも来れそう? と目で問いかけてきた。
「俺も行っていいの?」
「当然。君らはセットだし」
カナッペが二本指で俺とアヤを指す。
どうやらアヤの親友は、俺たちが付き合っていることを当たり前のように受け入れているようだ。少し安心する。
「ぼ、僕も参加していいかな?」
相川君が控えめに手を上げた。
「おっ、相川君も来る? いいよいいよ~! 多いほうが賑やかでいいし。ってことでみんな明後日までに親とかに確認しておいて。深夜バスのチケット取っちゃうから」
カナッペが場を締めて、解散ムードになる。
すると女子の一人がスマホを取り出し、写真とろ~と皆を集め出した。
俺と相川君以外のクラスメイトが、当たり前のようにその女子の周りへ集まる。もちろんアヤも。
「俺、撮るよ」
「お、ぼーやんサンキュー」
当然のようにスマホを受け取り、皆の前に立つ。
昔から撮影係をお願いされることが多かったので、この流れは慣れたものだ。
スマホ画面越しに、やや右側に立っているアヤを見つめる。
彼女は両手で大きく円を描いてから、顔の横でダブルピースをした。
「アヤなにそれ、ウケんだけど」
カナッペに可愛い生き物を眺めるような視線を向けられ、アヤが「え゛」と赤面する。
確かに、いつもは控えめに片手ピースをしている彼女にしたら大げさなポーズだ。旅行が楽しみすぎて浮ついているのだろうか。
なんにせよこっちの口元がゆるんでしまうくらい可愛い。
「じゃあ、撮るね」
声を掛けると、アヤがほんの少しだけ困り眉になった。
彼女が、実は写真に映るのが苦手なことを、いったいクラスの何人が気づいているのだろうか。
俺は画面の中心をアヤから真ん中へずらし、シャッターボタンを何回か押した。
今度こそ解散の流れになり、クラスメイトたちが校舎や正門へ散っていく。
誰もが去る前にアヤへ声をかけ、彼女もいつもより明るい笑顔を返す。
やっぱり旅行が楽しみでテンションが上がっているのだろうか。
一通り挨拶したり手を振ったりしてから、アヤが上機嫌そうな顔で近づいてきた。
幼馴染と恋人の中間くらいの距離で向かい合う。
「スノボ、楽しみだね」
彼女が嬉しそうにつぶやく。声色からもウキウキが伝わってくる。
「アヤ、スノボ滑れたっけ?」
「スキーは家族で行ったことあるよ。ぼーやんは?」
「スキーもスノボも行ったことないな」
「だよね。私が教えてあげよっか」
「心強いけど、アヤも初めてなんだろ?」
「まぁね」
なぜか自信満々といった感じで彼女が片眉を上げる。
多分スキーとスノボは勝手が違うと思うが、運動神経抜群のアヤならすぐ滑れるようになるだろう。
それにしても、卒業旅行か。
「なんか修学旅行みたいだね」
アヤが俺と同じ気持ちを口にした。
「ああ、楽しみだな」
俺もアヤと同じ気持ちを言う。
二人並んで、生徒の姿が少なくなっていく校庭を眺める。
もし、修学旅行でアヤを寝取らなかったら、卒業旅行に誘われたのは時田だったのだろうか。
いや、多分俺も誘われ、断っていただろう。
行ったところで仲睦まじいアヤと時田の姿を見せつけられ、そんな中で平気な素振りをするのは骨が折れるな……なんて思って。
ふと、頭の中にキィンという耳鳴りのような音が響いた。
脳内に情景が浮かぶ。
これは直感が見せてくる、あったかもしれない未来の光景だ。
──空き教室で言い争う、時田とカナッペ。
二人の会話はよく聞き取れない。
ふてくされる時田を、カナッペが眼光鋭く睨みつけている。
多分だが、なかなか体を許さないアヤにしびれを切らした時田が、アヤに強く当たったか浮気じみたことをしたのだろう。
見かねたカナッペが時田に激怒した。そういう剣幕だ。
不意に場面が飛ぶ。
マラソン大会を終えたクラスメイトたちが集まっている。
やや外れたところに不機嫌そうな時田。
カナッペはそんな時田を無視している。
「アヤは来るでしょ? 卒業旅行」と誘うも、アヤは「私もやめとくね」と寂しそうな笑顔で謝っていた。
きっと時田やカナッペに気をつかったか、時田に行くなと言われたのだろう。
校庭の端で、時田がふてくされたようにサッカー部の後輩たちとパス回しを始める。
その様子を、カナッペが憎々しげに睨んで──。
脳内の映像が切れた。
なるほど。
本来アヤは卒業旅行に参加しなかったらしい。
彼女を、奪ってよかった。
でなければ、こんなに楽しみにしているアヤを見れなかったし、俺も──こんなふうに卒業旅行を楽しみにする日は来なかった。
以前の俺は集団行動が苦手だったし、学校生活もぼんやりと灰色がかっていた。
一秒一秒がこんなにカラフルなのは、全部彼女のおかげだ。
「アヤ、ありがとね」
「ん? どしたの急に」
キョトンとした幼馴染の頭を、無性に撫でたくなる。
撫でるだけじゃなく、もっと──。
「ぼーやん君、僕マラソン大会の委員だから片づけ行くよ。また来週ね」
相川君の控えめな声が聞こえた。
まだ隣にいたらしい。
俺と同じく存在感が希薄なせいで気づけなかった。
「あ、うん、相川君また来週」
「えっと、南鳥さんも、またっ……」
「うん! 卒業旅行楽しもーね!」
アヤの満開の笑顔に相川君がまたも目を見開いて、去っていく。
やっと、俺とアヤだけがその場に残された。
「俺たちも帰ろうか」
「うん、あ……着替えなきゃ」
彼女がさっきより落ち着いた声色でつぶやく。
アヤは、俺と二人きりになると声のトーンが少しだけ低くなる。それが恋人にだけ向ける声音なのだと分かって嬉しい。
「ユニフォームで帰ってもいいんじゃない?」
「ぼーやんも体操服で帰る?」
「それはちょっと寒いな。体操服で電車乗るのも恥ずかしいし」
「じゃー私も制服で帰る」
「そう? それで電車乗ったらいい宣伝になるんじゃない」
「なるかなぁ……ってならんでしょ」
アヤが表情の変化だけでノリツッコミをする。
とりとめのない会話が楽しい。
気づけば、校庭にいたはずの生徒たちの姿もまばらになっていた。
さっき男子トークで盛り上がっていた後輩くんたちの姿もない。
「アヤ、着替えは部室?」
「ううん、部室で着替えてから、制服は教室に置いてきた。部室のロッカー空いてなくてさ」
「じゃあ、ひとまず教室に行こうか。俺も荷物置いてあるし」
「うん、そだね」
校舎のほうへ歩き出すと、出てくる生徒たちの姿が見えた。
多分、もう俺たち以外に教室に用事のある生徒はいない。
歩きながら自然と互いの体が近くなり、トンと腕同士が当たる。
幼馴染ではない、恋人の距離だ。