藍色の姦奏曲【麗央と季里子】

著者: 綺羅光

本販売日:2024/09/24

電子版配信日:2024/10/04

本定価:1,056円(税込)

電子版定価:1,100円(税込)

ISBN:978-4-8296-4758-5

麗央……名門私立大に在籍するジャズピアノの才媛。
季里子……藍ヶ丘学院の軽音楽部の顧問女教師。
教え子と恩師、強い絆で結ばれた二人を襲う暴虐の罠。
聖職者の媚肉を貪り、色事を仕込んだ淫鬼たちは、
才気に溢れ、令嬢の気品を持つ麗央に毒牙を向け……
暗色の旋律が流れるとき、美囚の絶叫が肉檻に響く!

目次

第一章 聖職者たちが堕ちた倒錯の浮遊世界

第二章 淫獣の本性を露わにする同僚教師

第三章 黒の部屋で嬲られる緊縛裸身

第四章 才媛・麗央が招かれた暗黒の舞台

第五章 おぞましい生き地獄に啼き狂う令嬢

第六章 肉奴隷への道を歩み出す十八歳

第七章 酒席で強いられる恥辱の性接待

第八章 公衆便所で肉便器にされる乙女

第九章 せんべい布団の上で貫かれる牝娼婦

第十章 百合の禁絆に溺れていく二匹の美囚

本編の一部を立読み

第一章 聖職者たちが堕ちた倒錯の浮遊世界

 湿気を含んだ風が生ぬるく吹いて、肌に不快にまとわりついてくる。近づく梅雨の気配を感じさせるそんな一夜。高任守真は、遠方からの客を伴い、行きつけの居酒屋の暖簾をくぐった。
 連れの名は荻井礼という。東京の大学時代の二年後輩で、今は山陰地方のとある市の教育委員会に所属する。
 今回、荻井は仕事で上京した機会を利用して、初めてМ──市まで足を延ばした。そこで高任の奉職する藍ヶ丘学院を訪れ、校内や付属施設を一通り見学したのだった。
〈先輩には大感謝です。音に聞く私学の名門校の施設をつぶさに視察したとなれば、私も地元へ帰って鼻が高いですわ〉
 高任に校舎内を案内されながら荻井は、柄にもなくそんなおべっかを使っていた。
 藍ヶ丘学院は、都心から電車で一時間半の地方都市にある私立の中高一貫校。男女共学で偏差値は70前後と高く、関東圏の学校の難易度ランキングで常に上位に挙げられている。
 まず男たちは生ビールで乾杯して、それから熱燗に切り替えた。
 荻井は酒が滅法強く、辛口の日本酒が好みなのだが、本人自身のキャラもかなり辛口だった。二本目のお燗に取りかかる頃には、いつものぶっきらぼうな表情で本音をぶちまけ始めた。
 今後、どんどん少子化が進むというのに、あそこまで立派な大講堂はいらないだろう。たかが中高校生相手に洒落たカフェテリアを用意するのは、あまりに生徒におもねり過ぎている。音楽スタジオの設備は素晴らしいが、藍ヶ丘ではミュージシャンを養成するつもりなのか、云々……。
「わかった、わかった」
「いや先輩。のんきに構えてる場合じゃないですよ、これは。俺の考えでは……」
「おまえ、少しは先輩に忖度したらどうだ」
 相手のこき下ろしがなかなか止まらないので、たまりかねて高任は言った。
「そんなに我が校の将来はお先真っ暗か。荻井、おまえはそれを言うためにわざわざМ──市までやって来たのか?」
 声のトーンは落ち着いてはいるものの、温厚な高任にしては珍しく険のある、とがった言葉づかいになった。
 荻井は勢いを削がれ、白けた顔つきでお猪口を口に運んだ。
 気まずい雰囲気になったが、二年後輩の荻井はそれを取り繕おうとはしない。学生の頃からそういうふてぶてしさが、この男の特徴なのだった。
(ほんと、可愛くない性格だよ。だから嫁さんも来ないんだ)
 高任は腹の中で毒づいた。
 だが腹が立ってもなぜか憎めない所が荻井にはあり、すぐにまた親しく口をきくようになるのも学生時代から同じだった。
 四十歳の荻井はいまだに独身。顔立ちはごくまともで、小柄だがハゲでもデブでもなく、外見上これといった難点はない。だが人をほめたり、喜ばせたりするのが大の苦手だし、サービス精神が欠如しているから、せっかく彼女が出来てもすぐに愛想を尽かされてしまうのだ。
 四十二歳の高任も外見にあまり特徴はない。髪はさっぱりと短めで、地味なメガネをかけ、お堅いサラリーマンという印象である。荻井と比べると身長が百八十センチと高く、あぐらをかいても背筋が伸びて姿勢がいい。高校まで剣道をやっていたせいだろう。
「そうだ──」
 やおら荻井が顔を上げた。目が輝いている。
「藍ヶ丘学院にも希望がありますよ、高任さん」と声をはずませた。
「さっき、渡り廊下で挨拶した女性教師、ええと三島先生だっけ。彼女はとても素敵だ。あれほどの美人教師がいれば、今後もじゃんじゃん生徒を集められるでしょう」
 自分の事を一切かえりみず、女性への評価も常に厳しい荻井なのだが、珍しく口をきわめてほめそやした。
「何を言い出すのかと思えば、まったく……」
「先輩が羨ましいよ。三島先生のような女性と毎日一緒に仕事が出来るんだから。俺なんか無給でもいいから、藍ヶ丘学院で働きたいくらいです。ところで彼氏は、いるんですかね?」
「いるよ。あいにくだったな」
 荻井は落胆の色をありありと浮かべ、吐息をつくと、ヤケ気味に熱燗のお代わりを注文した。
 三島季里子は二十五歳の数学教師で、高等部二年E組の担任をしている。物理担当の高任は、同じ二年生の学年主任でもあり、彼女と接する機会は何かと多かった。
「ついでに付け加えると、三島先生に彼氏を紹介したのはこの俺なんだ。他校の教師なんだがナイスガイで、そいつがどうしてもと頼むから仲を取り持ってやったんだよ。彼女、男性の好みはうるさそうだから気を揉んだけど、あにはからんや二人はすぐ意気投合して、順調に愛を育んでいる」
 さっきのお返しとばかりに高任は嬉々として告げた。
 荻井はくやしそうに髪の毛をかきむしりながら、「相手の男はいくつなんです?」とたずねた。
「確か二十七、か。長身のスポーツマンで、イケメンだ。四十歳のおまえが逆立ちしてもかなわないよ」
「クソッ──。すっごく久しぶりに胸がときめいたのにな。ほんと、一目惚れというか」
「バカだねえ。恋人がいてもいなくても、三島先生が荻井を相手にするもんか。彼女の好みのタイプなら俺にはよくわかってる」
 ここぞとばかりに高任は、不届き者の後輩を叩きのめした。
 三島季里子は若く美しいだけでなく、数学教師としても秀でており、二年生の模試の平均点数はこのところ上昇し続けている。荻井に指摘されるまでもなく藍ヶ丘学院は今後、彼女を学院の看板教師にしてゆく方針らしい。
 サイドパーツの抒情的な黒髪がまず目を惹く。細面の理知的な美貌の持ち主の季里子だが、それとは不釣り合いなくらい豊満なボディをしている。心根はどこまでも清純で、慎み深く、まさに聖職者になるために生まれてきたような女性だった。
 決して荻井の前で口には出せないが、季里子を見ていると、もっと自分が若ければ、と思うことがたまにあるのだ。しかし高任守真はすでに四十二歳で、結婚して子供も二人いる身なのだから、今さらどうにもならない。
 したがって三島季里子にふさわしい相手を自分が見つけてやることが出来て、ホッと安堵した反面、一抹の寂しさを覚えてもいるのだった。
 がっくり首を垂れ、打ちのめされた感じの荻井だが、ダメージから立ち直るのも早い。学生時代からそうだった。今もまた、顔を起こした荻井は目の輝きをふたたび取り戻している。
「三島先生、さっき卒業生と一緒でしたね。黒木さん、かな。あの子も抜群に可愛かったなあ」
「おまえ──」
「そうだ。彼女を学院のホームページで使ったらどうです、高任さん。あんな魅力的な卒業生がいるのに、それを活用しない手はないですよ。そういうビジュアル的な戦略が欠けてるんだな」
「誰も荻井に学校経営のコンサルティングを頼んでないからさ」
 やれやれという感じで高任は息を吐いた。
 黒木麗央は今春、藍ヶ丘学院を卒業し、名門私立大の文学部に進んだ。多才で、高校生の時には美術部と軽音楽部に在籍していた。彼女が長い黒髪をひるがえらせ、ジャズピアノを華麗に弾く姿は圧巻で、誰かがSNSに載せ、他校にもその存在は広く知れ渡ったほどである。
 その軽音楽部の顧問をしているのが三島季里子なのだ。季里子もまたピアノを弾くし、芸術への造詣が深いため、あまりえこひいきにならない程度に麗央を可愛がっていた。晴れて麗央が大学生となった今、二人はさらに強い絆で結ばれているようだった。
 今日、黒木麗央はたまたま後輩たちの部活の指導に来ていたらしい。線が細くて、はかなげな美少女だった麗央が急に大人びた雰囲気を放ち始めて、さっき会った時、高任を驚かせたものだ。
「ウム。黒木さんのピアノ、ぜひ聴いてみたいな。俺のベースで一度、ジャムセッションするのもいいかも」
 郷里でオヤジ・バンドを組んでいるという荻井はそう言って、楽器を弾くように左手の指を動かした。
「あのさ、訊かれる前に答えておくけど、黒木さんにもちゃんと彼氏がいるから」
 高任は釘を刺した。本当の所は黒木麗央について何も知らないのだったが、荻井に妙な期待を抱かせたくなかった。
 荻井は一瞬、黙り込んだが、自嘲気味な笑みをたたえて、「黒木さんは、いくら何でも俺には年下過ぎるわ」とつぶやいた。
「そりゃそうさ。おまえにふさわしい相手となれば、三十代だもの。高望みさえしなければ、まだチャンスはあるだろうし」
 高任なりに気を遣ってみたつもりだが、この後輩には通じない。
「でも、そういう常識はもう古いな。先輩」
 荻井は小鼻をふくらませ、二十歳以上も年の離れた女と結婚した芸能人の例を二、三、挙げてみせた。
「今の若者は優しいばかりで、ふやけきって何とも頼りないし、三島先生も黒木さんも、いつかは彼氏に嫌気が差すかもしれない。そんな時には俺が親身に相談に乗ってあげたいから、先輩、すぐに連絡を下さいよ」
 どこまでも荻井は独りよがりの言葉を吐いて、高任をイラつかせるのであった。

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