本販売日:2023/10/10
電子版配信日:2023/10/20
本定価:1,716円(税込)
電子版定価:1,716円(税込)
ISBN:978-4-8296-7929-6
肉取引の罠に堕ち、淫鬼に饗せられる美都子。
オーナーから転落した令嬢を待つ被虐の日々。
昼夜の別なく肉奉仕を強制される地獄地下室。
マゾの愉悦を覚えた23歳は運命に逆らえず……
第一部 生贄・魔姦地獄
第一章 獣性を呼びさます美貌
第二章 歪んだ甘い過去
第三章 暗躍する陰の淫鬼
第四章 忍びよる魔手と毒牙
第五章 屈辱の下着接客
第六章 おぞましき見世物の開演
第七章 涙と生唾と愛汁と
第八章 哀しき奴隷化粧
第九章 供された二十三歳の生贄
第二部 生贄・淫虐痴獄
第一章 女体を蝕む被虐の愉悦
第二章 情婦という名の牝奴隷
第三章 とろける蜜汁の香り
第四章 嬲縄が引き立てる凄艶美
第五章 色責めの解禁指令
第六章 胸張り裂ける恥辱
第七章 高級娼婦の初舞台
第八章 淫虐痴獄に泣く美囚
第三部 生贄・性蝕の極印
第一章 ドス黒い欲望
第二章 新たなる倒錯の幕開け
第三章 呼び起こされる魔性
第四章 初めて味わう名器
第五章 畸形な新婚生活
第六章 完璧な縄化粧
第七章 地獄からの使者
第八章 十字架を背負った隷女
第九章 嫉妬と淫欲の狭間で
第十章 極彩色の快楽
第十一章 奴隷娼婦の部屋
第十二章 美都子・生贄の極印
本編の一部を立読み
1
大鷹市は人口およそ十万の、東北の山あいの町である。製材業と木工業がさかんだが、地方の小都市の例にもれず若者が離れてゆく傾向にあり、ここ十数年、人口はおだやかな減少をつづけている。
東京からの交通の便が悪いうえ、これといった名所旧跡もなく、訪れる観光客もきわめて少ない。そのためか町の眺めは三十年前とほとんど変わらない。
古い木造の駅舎を抜け、駅頭に降り立つと、周囲に背の高いビルがひとつもないことに気づくだろう。駅前ロータリーには、タクシー会社、駅前食堂、パチンコ屋、本屋、喫茶店などがのんびりと平和そうに立ち並んでいる。
のどかで牧歌的なこの大鷹市だが、しかし水面下では地殻変動が起こりつつあった。
発端は、ミニ新幹線計画の発表である。これにより七年後に今は三時間かかる大鷹=仙台間は一時間で結ばれ、東京へもぐっと近づくことになる。それを受けて駅前の大規模な再開発構想が議会に提出され、十年前も十年後もずっと同じと言われていた駅周辺の地価がにわかに上昇しだしたのだ。
そしてご多分にもれず地上げ屋が東北の片隅のこの町にも姿を現わした。
折からの不景気と人手不足に悩んでいた商店主のなかには、さっさと見切りをつけて立ち退き交渉に応じ、何代にもわたって営んできた店をたたんだ者もある。
いま町中を歩くと、まだそれほど数多くはないが、店じまいした商店や、すでに取り壊されて更地になった区画がちらほら目につく。今後、櫛の歯が抜け落ちるように空き家が増えていくかもしれない。
地上げをめぐってトラブルも起きている。血の匂いを嗅ぎつけたハイエナのように、やくざ者が暗躍をはじめたのだ。
ドス黒い欲望の巨大なうねりが、のどかなこの町を少しずつ呑みこもうとしていた。
物語の舞台となる城戸珈琲は、その大鷹の駅前通りの一等地にある。
創業四十年、喫茶店としては老舗であろう。創業者の城戸寛治は、自家焙煎による本格コーヒーを周辺ではいち早く提供した。その感化を受けて大鷹市の人々にはコーヒー通が多いという。
大鷹きっての製材所の家に生まれ、経済的に恵まれていた寛治は、欧米へ遊学して二十代の前半をすごし、かなりの粋人だった。アンティーク蒐集家として東北屈指であり、また自ら絵筆をとって見事な油彩の風景画を数多く残した。それらのコレクションは、豊富な観葉植物とともに店内のいたるところに飾られて、コーヒーを味わいにきた客の目を楽しませている。
寛治はつい最近、七十七年の生涯を閉じて、孫の城戸美都子が二十三歳の若さで店を引き継いだ。
四十坪のスペースに対し客席はカウンターを入れて四十五。都心部では考えられない贅沢な空間のとり方で、この広さだと普通は七十から八十席は設けるはずだ。
製材所を弟に譲った代わりに多額の資産を分けてもらい、生活に困ることのなかった寛治は、この店を大鷹市の文化サロンのような場にしたかったのである。売上げにこだわらず、客がゆったりとくつろげるスペースをつくることが最優先され、そしてその伝統は今も変わらず生きている。
現在の店のスタッフは美都子と、焙煎職人の六郎、それに交代制のウエイトレスが三名。六郎は五十一歳。三十年間、城戸珈琲に勤続している一徹な男で、美都子のコーヒーの師匠でもある。
その日の夕方、城戸珈琲に、明らかに都会からとわかる男たち四人が入ってきた。
業界人という雰囲気の彼らは、歳月を感じさせる木の床や店の内装を珍しそうに眺め渡した。
やがてコーヒーをすすりながら、陳列棚に並んだアンティークの懐中時計やライターをのぞいて、店じゅうに響くほど大きな声で話しはじめた。
「へへえ。たいしたもんだね。田舎に来ると、こういう粋な喫茶店がまだ残ってるからうれしいよな」
「このビロード地の椅子もかなりのアンティークものだぜ、山ちゃん。おまけに灰皿はテーブルへ埋めこみ式とくる。泣けちゃうねえ、まったく」
「コーヒーもいけますよ。ペーパードリップの一杯だてで、焙煎もちゃんとしてる」
「だけど、あの絵はいただけねえなあ。ださいよ、センスが。きっとここのマスターが描いたんだぜ。ハハハ。中野にもさ、これによく似た店があったっけ」
男たちは馬鹿にしきった薄笑いを浮かべた。
祖父の絵をけなされているのが耳に入り、カウンターのなかでコーヒーをいれている城戸美都子が、一瞬険しい表情になった。
やがて連中はウエイトレスの少女をつかまえて、自分たちは東京のテレビ局の者だと得意げに告げた。旅番組の撮影の帰り道なのだという。それから無理やり彼女を席に座らせ、店の由来について興味半分にあれこれ尋ねはじめた。
「へえ、あそこにいるうら若き乙女がオーナーなのかい。またまた驚きだな」
「どうやら大鷹は大変な美人の産地らしいな。君といいオーナーといい、色が白くてすごい美人じゃないか」
「そんな……」
純朴そうな少女は頬を紅く染めた。まだ高校を出たてという感じの初々しさだ。確かに色が白く、目鼻立ちのくっきりしたなかなかの美少女なのだ。
「名前はなんていうの?」
「……百合です」
「百合ちゃんか、君、東京へ出てくる気はないの? いい素質がありそうだ。なんならタレントスクールを紹介してあげるよ」
小太りの四十男は、ディレクターの山本と書かれた名刺を渡した。
「またはじまったよ。山ちゃんの悪い癖が」
「おいおい。俺はマジだぜ。いちおうスリーサイズ聞いとこうか。バストは? 八十くらいかな」
「もうちょいあるよね? Bカップだろ」
男たちに胸のふくらみをじろじろ見られ、少女はますます恥ずかしそうにうつむいた。
「下着の色は? やっぱり白かな」
「おいおい、そりゃ関係ねえだろ、石川」
そこへオーナーの美都子が、少女の名前を呼び、ほっとした様子で席を立っていった。
山本というディレクターはその後ろ姿を見つめ、「いいケツしてるじゃん」と呟いた。
「駄目だよ、山ちゃん。うぶな田舎の少女をからかっちゃ」
「うへへへ」
「AV女優の口入れもやってるというし、そっち方面に売り飛ばそうっていう気?」
「その前にたっぷりと味見なんかしちゃうんスか。ずっこんばっこん、静岡のあの娘みたいに……クク」
男たちはにわかに声をひそめて卑猥に笑い合う。それから話題はすぐに、オーナーの美都子の美貌ぶりへと移った。
「こんなド田舎の茶店で、あんないい女を拝めるとはな。細面で眉がきりっとして、そうだ、女優の財前直見に似てるじゃないか」
カウンターのなかで、てきぱきとオーダーをさばいている美都子の凜とした風貌に、男たちは見惚れた。
清楚な白い半袖のブラウスからのぞける肌は、ウエイトレスの少女と同じく、ねっとり輝く見事な雪肌である。色が白いからなおさら濃い眉の凜々しさ、野性的な大きな黒眼が目立つのだ。髪を後ろでひとつに束ねて、動作は実にきびきびとしている。ほとんど化粧はしておらず、意志の強さを物語る引き締まった唇だけ淡いピンクに濡れ輝き、耳もとで揺れる大きな金のリングが女らしさを感じさせる。
「すっぴんであれだけ端整な顔をしているのは珍しいな」
「でも、さすがあの若さで店を切り盛りしているだけに、しっかり者という感じですよ、石川さん。見るからに芯が強そうだ」
四人のなかで一番若く、ADらしきのっぽが言った。
「だからいいんだよ。ふふふ。じゃじゃ馬ならしは男冥利につきる。一度ああいう勝ち気な女を一から調教して、従順なペットに仕立ててみてえ」
石川はいやらしそうに上唇をぺろりと舐めた。この男も四十くらいだが頭がすっかり禿げあがり、もみあげから頬、顎にかけてが髭もじゃだから、顔の上下がひっくりかえったように見える。
「じゃじゃ馬ならしか。うひひ。そいつはいい」
ネトネト舐めまわすような淫猥な視線が、容赦なく美都子を追いかける。
彼女がフロアに出て、カウンター客の茶碗を片づけだすと、今度は露骨にその身体つきの品定めをはじめるのだ。
東京者のあまりのわがもの顔のふるまいに、他の客がいらつきはじめた。熱心に漫画に読みふけっているスポーツ刈りの若者が、時折り顔をあげて、鋭い目つきで彼らを睨みつけ、舌打ちする。そしてその間隔が次第に短くなってきている。
「ほほうっ、ずいぶん脚が長いぜ」
「キュンと吊りあがって、うまそうなケツしてやがる」
周囲の反応など歯牙にもかけず、連中は、カウンターのなかから出てきた美都子のプロポーションに感嘆している。
身長は百六十くらいだろう。ジーンズにぴっちり包まれた下半身は驚くほどすらりとして、それでいて適度な肉づきがあり、まるで欧米人のような着こなしのよさである。さほど大きくない尻が小気味よくツンと吊りあがっている。
「ああいう尻は、あそこの具合も最高なんだ。こりゃしばらくここへ滞在して通いつめたくなってきたよ」
「ほんとマジな話、彼女ならすぐにうちのバラエティ番組で使えるぜ。なあ石川」
ぴーんと背筋を伸ばし、颯爽と歩いてカウンターのなかへ戻る美都子を目で追いながら、テレビマンたちは宝の山を掘り当てたように興奮している。四人のなかでも特に好色そうな山本と石川は、股間を露骨に膨らませて、隙あらば今にも美都子に襲いかかりそうだ。
よく観察すると美都子は、ほっそりと華奢なようでいて、ブラウスの胸のあたりはなんとも豊満な隆起を示し、腰からヒップにかけてもムンと女っぽく熟れて、まさに理想的なグラマーといえた。
プロの彼らにすれば、ぱっと見ていい女だと思っても、しばらく眺めるうちにはアラが見えてくるものなのだ。ところが美都子は違った。眺めれば眺めるほどにそのまばゆい個性にうっとり魅了されてしまうのだ。
束ねた髪の毛の先端は腰まである。こしと艶があって最高の黒髪であることは歴然としている。それをほどいたら、さぞ色っぽさが増すことだろう。
山本がウエイトレスにコーヒーのお代わりを注文し、同時に美都子をここへ連れてくるようにと命じた。
「僕は正真正銘、東和テレビのディレクターだからね、ちゃんとそう伝えるんだよ」
少女は美都子のところからすぐに引きかえしてきた。やや困惑した表情を浮かべ、
「あのウ、今は手が離せないのでお断りすると言ってますけど」
「そんなはずないだろ。ちゃんと伝えてくれたのかい?」
「はい。さっきの名刺を見せました」
「変だなあ。せっかくこの店の宣伝してやろうってのに。よし俺が話してみよう」
山本が立ちあがった。テレビ局の人間が来ているのに興味を示さない女などいるわけがないと、傲慢にもそう信じきっているのだ。
「なあ山ちゃん、ついでに彼女の今夜の予定を聞いてみてよ。どっかのスナックを借りきってさ、ぱっと騒ごうや、この百合ちゃんも連れてさ」
「おお、それ、ご機嫌じゃない」
仲間たちの言葉に、山本は任せておけというように胸を叩き、自信たっぷりに歩いていった。
すると、漫画を読んでいた若者が素早く歩み寄って、行く手をさえぎった。
「やめろ。美都子さんは忙しいんだ。おまえらなんぞ相手にしねえよ」
二人とも似たような中背だが、若者のTシャツの胸板は分厚く、腕にも筋肉がついていて、たるんだ中年体型の山本とは大違いだ。
「な、なんだ、君は……」
「とっとと失せろよ、よそ者のカス野郎。さもなきゃ叩きだすぞ」
言うやいなやスポーツ刈りの若者は、山本の襟首をつかんで、そのまま出口のほうへ引っぱっていった。
連れの三人があわてて後を追いかけた。