本販売日:2025/03/24
電子版配信日:2025/04/04
本定価:1,023円(税込)
電子版定価:1,100円(税込)
ISBN:978-4-8296-4794-3
夫の教え子から恋慕を寄せられた人妻・志津季。
マンションにおびき寄せられ、犯した一度の過ち。
その不貞が淫獣たちによって仕組まれていたとは!
情事の証拠で脅され、緊縛された裸身を抉られる。
勤務する美術館でも嬲られ、ついには眠る夫の傍で……
魔崖の際を彷徨う贄妻、辿り着いた哀しき終着点。
第一章 恩師の妻への横恋慕が生んだ淫獣
第二章 密室におびき寄せられた志津季
第三章 不貞の証拠で強いられる媚肉の謝罪
第四章 三穴攻めで恥辱の極限に達する人妻
第五章 魔窟の獣交に啼き狂う三十二歳
第六章 倒錯の3P百合地獄に洩れる淫泣
第七章 美術館の地下で嬲られる牝キュレーター
第八章 眠る夫のそばで穢された妻の貞節
第九章 逃避行の果てに待つ奴隷娼婦の運命
第十章 姦計に狂わされ魔崖から堕ちる夫婦
本編の一部を立読み
第一章 恩師の妻への横恋慕が生んだ淫獣
八月の終わり。今年もまた嶋監督の家に、ホッケー部OBたちが集っていた。
かつての輝かしい記憶を甦らせ、缶ビールを片手に熱闘を語り合う。それは毎夏の恒例行事であり、河西樹也を含む当時のメンバーのほとんどがそこに顔を揃えていた。
六年前の夏、樹也たちが三年生の時、雄星高校ホッケー部はインターハイで準優勝を遂げたのである。地方都市の、さしたる強豪校でもない雄星高校の健闘ぶりは当時、地元東海地方のテレビでニュースとして取り上げられたほどだ。
以来メンバーの絆は強まった。歳月を経ても監督を慕う気持ちは薄れることなく、卒業してから毎年集まるようになった。
監督の嶋敦士はいつものようにほとんど口をはさまず、ニコニコしながら教え子の会話に耳を傾けて、缶ビールを飲み続けている。年は四十二歳。髪を短く刈り込み、よく日焼けした細面の顔をして、渋い雰囲気を漂わせている。
元々口数が少なく、練習の時でも必要最低限のことしか言わない監督なのだが、それでもたまに「おまえさん、ホッケーを舐めとるな」「あんなスティックの使い方、俺は認めんよ」などと殺し文句を吐く。そんな時は、穏やかな瞳の奥に炎が揺らめいて、生徒を震え上がらせるのだ。
当時のメンバーは現在二十三、四歳の年齢に達している。樹也のようにまだ学生もいれば社会人もいるが、会の後半になると、互いの近況報告をかわし合う。彼らの中に大学を中退し、今はブラック企業に勤める者が二人もいて、今日はもっぱら彼らのしゃべる自虐ネタが話題の中心となった。
河西樹也は努めて顔に出さないようにしているものの、途中から少し白けた気分となっていた。大きな声では言えないが、ここへ来る目的のひとつには、監督の奥さん、志津季と会えるからという理由があるのだった。
今日、彼女は家にいないのだ。監督の話では非常勤で勤める職場の都合で急遽、駆り出されていて、夜までには戻ってくる予定だという。
澄みわたる瞳の輝きと、健康的な白い歯がこぼれるあの愛くるしい笑顔を早く拝みたかった。「みんな、インターハイで本当によく頑張ったのねえ」「えらいわ、樹也君。大学院合格おめでとう」と優しく上品な口調で話す声を聴きたかった。
誰もが唸る美味い手料理こそ、ラップに包んで用意してくれてはいたが、志津季本人の姿が見えない監督の家は、明かりが消えたようだった。監督にはつくづく申し訳ないが、似たような寂しさを覚えている者が、メンバーの中に他にも少なからずいるはずだった。
嶋志津季は監督より十歳下の三十二歳である。結婚した時はまだ二十八で、ずいぶん若くて可愛い嫁さんをもらったものだと教え子たちはかなり驚いた。二人は県のホッケー協会の重鎮の紹介で引き合わされたのだった。樹也は後で知ったのだが、意外にも志津季の方が嶋敦士にぞっこん惚れ込み、結婚に消極的な彼をついにはその気にさせたのだという。
キュレーターの資格を持つ志津季は、財団法人系の美術館で週三日だけ、勤務している。今日、本来は休館日なのだが、ある宗教団体が今回の企画展を貸し切りで見学するために、解説スタッフの人手が足りず、志津季も呼ばれたのだった。
(志津季さんが解説してくれるなら、俺もその美術館に行きたいよ。こうして男ばっかりで飲んでると、ああ、あまりにも味気なくて辛い……)
河西樹也は高校を卒業するとホッケーをやめ、一浪して県立大学の理学部へ入学した。この春には大学院に進み、バイオサイエンスの研究をしている。専攻は地域創成科学で、地域におけるグリーンインフラの整備がテーマである。
さして勉強に励んだわけでもないが、ホッケー部のOBで大学院へ進んだのは珍しいせいもあり、監督と志津季が我がことのように喜んでくれたのがいい思い出だった。
志津季の声を聴いていると、アナウンサーになればいいのに、と樹也はいつも思うのだ。知的な雰囲気の漂う美人で声もいいし、はきはきして口舌も滑らかだし、女子アナとしてテレビで人気を博すのは間違いないだろう。妙に鼻づまりの声で、セリフも聞き辛いアナウンサーをテレビで見かけるたびに、ひそかに嶋志津季と比べてしまい、ため息をつく樹也である。
志津季の方も自分をひいきにしてくれているようだ。これは決してうぬぼれではなく、志津季の作る料理の何品かを樹也が大好きだと言うと、その品が必ず食卓に並べられるようになった。メンバーからも「樹也は奥さんに可愛がられてるよな」「どうしておまえだけが特別扱いなんだ?」とからかい半分、やっかみ半分でよく言われているのだ。
──夜六時半を過ぎても志津季は戻らない。マンションの窓で矩形に切り取られた夕空には、澄んだ青色がまだ半分残り、それが妙に寂しさを誘う。
樹也が観察すると、嶋監督はたまにスマホでメールチェックをしていた。妻からのメールだろうか。いつ帰ってくるのか、よほど訊こうかとしかけて、さすがに途中で思いとどまった。
隣りに座る男がさっきから樹也に話しかけては、恋人自慢をする。頼んでもいないのに携帯で写真まで見せてくれたが、全体的な印象はブス一歩手前の微妙さであり、とりわけ笑った時の歯茎の露出が目についた。
それでも樹也が精一杯のお世辞を言うと、勝ち誇った顔になり、「おまえも早く彼女、見つけた方がいいぞ。世界観が変わるから」と痛いアドバイスをくれた。
いやみのひとつでも言い返そうかと樹也が考えている時、別のメンバーが無邪気な態度で「志津季さんはまだ帰らないんですか?」と監督に質問をしてくれたのだった。
「ウム。さっき駅に着いたとメールがあったから、あと十分ぐらいか。別に急がんでもいいと言ったのに、あいつ」
狭い猫額のあたりに指を置いて、嶋は何事でもないような口ぶりで言う。
実際、監督には何事でもないのだろう。しかし樹也にとって、死活問題に近かった。アルコールが体内をめぐるにつれ、人妻への恋情が募る。さっきなど、いっそ寝室に忍び込んで下着に触ったりしようかと考えている自分がいて、空恐ろしくさえなった。