本販売日:2025/04/10
電子版配信日:2025/04/18
本定価:1,606円(税込)
電子版定価:1,606円(税込)
ISBN:978-4-8296-7947-0
(とうとう今夜、お母さんを抱けるんだ……)
初めて出会った日から憧れ続けた34歳の義母。
互いの秘所を舐め、恋人同士のように絡まる寝室。
母と息子、交尾に溺れる二人きりの青い世界!
神瀬知巳が描く、官能文学史に残る誘惑小説決定版!
『新しい母【三十四歳】』
第一章 新しい母と僕【お風呂で水入らず】
第二章 最高の癒しを与えてくれる寝室
第三章 ママのまろやかな美臀を味わって
第四章 熟れた肌に身も心も包まれて……
第五章 女の秘密はすべてママが教えてくれた
エピローグ
『ふたり暮らし【義母と甘えん坊な僕】』
第一章 母子水入らず【狭いマンションで】
第二章 夜のおねだり【甘えん坊の息子】
第三章 お風呂でママを口説く方法
第四章 息子の「女」にされて
第五章 ママと僕の「新婚生活」
本編の一部を立読み
第一章 新しい母と僕【お風呂で水入らず】
1
大澤佑二は湯船に身を沈めた。熱い湯に自然とため息がこぼれる。足を伸ばして、湯船の縁にもたれかかった。檜の良い香りがほのかに漂う。
(すごいな本邸のお風呂は。温泉旅館みたい)
湯船は大人三人が入ってもまだ余裕がある。洗い場も広々とし、大きめの窓からは午後の明るい光が差し込んでいた。
(湯桶もプラスチックじゃないし。やっぱり断れば良かったかな。僕にはいつもの狭いバスタブと、ちょろちょろとしかでてこないシャワーの方が似合ってるもの)
名家を物語る豪勢さは、普段離れの小部屋で暮らす佑二には、どこか居心地の悪さを感じさせた。
大量の酒瓶運びで汗をびっしょりかいた佑二を見て、女性の使用人が残り湯に入るよう勧めてくれた。だが、断るべきだったかもしれないと考えながら、佑二はそのまま腰を前にすべらせて、顔も頭も湯のなかに浸けた。周囲の音が消え、己の心臓の鼓動が大きく聞こえた。
(さっさと汗を流して出よう。こっちの家にこそこそ入り込んでいることを知ったら、大旦那さまの機嫌が悪くなる。お手伝いさんだって叱られるだろうし)
佑二は目蓋を開けて上を見た。キラキラとした夏の日差しが、水の向こうに見えた。眩しい光が乱反射をしてゆらめく。佑二はそのまま広い湯船のなかで身を横たえて、幻想的な情景に見入った。
(──僕はこの家の正式な人間じゃないんだから)
幼い頃に投げかけられた『妾の子』という語の意味も、今ならば理解できた。佑二を生んだ母清美は、父征一と夫婦の関係にはなかった。母が学校を卒業して大澤家の使用人として働き出した時に、長男であった父と結ばれ、佑二を身籠もったのだという。
一年前に母が病気で他界し、他に引き取ってくれる親族のいなかった佑二は、大澤家に身を寄せることになった。そして二週間前に、今度は不慮の交通事故で父征一が命を落とした。
(旦那さま……お父さんとは、数えるほどしか会話したことないけど)
大澤家に移り住んでからも、父と親しく接する機会はほとんどなかった。父を「旦那さま」と呼ばざるを得ない環境のなかでは、温かな肉親の情愛が、自分に向けられていたとは言い難い。それでも母に続いて父も失ったのだと思うと、佑二の胸の辺りはきゅっと締めつけられる。
(僕は、この家にいていいんだろうか)
身体が酸素を求める。佑二は限界まで我慢を続けて、ザバッと身を起こした。
「あら佑二さん、そこにいたんですか」
湯殿に流れたのは、たおやかな女性の声だった。佑二は「えっ」と驚きの声を漏らして洗い場の方を見た。真っ白な肌が飛び込み、佑二はハッとして視線を湯船のなかに戻した。
(若奥さまだッ)
父の正式な妻である大澤花穂子だった。洗い場にひざまずいて湯桶を手にしていた。
「お、奥さま、すぐにでますので」
「慌てなくてもよろしいのよ。さっき入ったばかりなのでしょう」
「で、でも……ああっ、僕ちゃんと身体だって洗わずにお風呂に入って」
しまい湯なので好きにしていいと言われた。入浴の作法も無視して、佑二は即、湯船に浸かった。恥ずかしさと緊張で、少年の肌が色味を赤くする。
「そうなの。じゃあ、わたしもお行儀が悪いけれど、身体を洗うのは後にして」
花穂子は簡単に掛け湯をすると、立ち上がって湯船へと近づいてきた。
(わっ、奥さまが入って……)
「お邪魔しますね、佑二さん」
白い右足が縁を越え、湯に沈む。むちっとした太ももとたっぷりとした腰つきが、佑二の視界のなかに映り込む。心は動揺し、呼気が乱れた。
「ああっ、いい湯ね」
花穂子は佑二の向かいに肩まで浸かると、快さそうに声を漏らした。
「中村さんから聞きましたよ。酒屋さんの持ってきてくれた重いお酒を、一人で酒蔵のなかに運んでくれたって。ありがとう佑二さん。暑いなか難儀だったでしょう」
「い、いえ。そんなに大変じゃありませんでしたから」
縮こまって声を震わせる少年の態度に、くすりと花穂子が笑った気がした。
「武道の宗家ですから、大がかりな葬儀になるとは思ってましたけど、あんなにたくさん人が集まるなんて驚きましたね。酒蔵にあったお酒も空っぽになるんですもの。初七日を過ぎても、弔問のお客さまが途切れずお見えになるし」
大澤家は、江戸時代から続く居合術の宗家だった。藩外不出の武道として隆盛した経緯と伝統を現代まで守り抜き、今でも地域に少なくない数の門人を抱えている。後継となるはずだった父の葬式は、市の体育館を借りて盛大に執り行われた。
「お葬式の後もずっと慌ただしくて、佑二さんと、ゆっくりお話しする時間がありませんでしたね」
花穂子が佑二に向かって身を寄せてくる。長い黒髪を頭の後ろでまとめているため、白い首筋も露わになっていた。女性のなめらかな素肌が、息の届く近さにあった。甘い花の匂いをほのかに感じた。
(お、おっぱいが)
丸みのある曲線が、湯のなかにうっすらと透けていた。赤い蕾の色までかすかに見える。佑二の顔が上気した。
「あ、あの、大旦那さまもお帰りになられたのですか」
佑二は意識を逸らすように、祖父の帰宅を尋ねた。
流派の未来を担うはずだった父が急逝したため、早急に後継者を選出せねばならない。祖父母と花穂子は、朝から親族門人との会議に赴いていた。
(帰りは遅くなるって聞いていたのに)
「お祖父さまはまだ会合の最中ですよ。お断りして、わたし一人だけ先に帰らせていただいたんです。剣のことなんて、わたしにはちんぷんかんぷんですもの」
花穂子の返事を聞き、佑二は内心ほっと息を吐いた。
「そうしたら、佑二さんが入浴中だって言うから、こうしてご一緒してみました。うふふ」
花穂子の楽しげな笑みに釣られて、佑二は視線を正面に向けた。長い睫毛の二重の瞳と、形の良い鼻梁、色白の細面が、少年をやわらかな眼差しで見つめていた。
(僕、どうしたらいいんだろ)
人目を引く美しい顔立ちを、佑二はぼうっと見返した。側にいるだけでドキドキと胸が高鳴る。
(奥さま、目がちょっと赤い。帰りのお車のなかで泣いてらしたのかな)
何年も連れ添った伴侶を失ったのだ、当然だろうと思う。だが花穂子が人前で涙を見せたり、感情を崩した姿を晒すことは、葬儀の席でも一切なかった。
「佑二さん、お祖父さまが在宅の時はこちらの家に来られませんものね。佑二さんも家族の一員なのに」
花穂子が右手を差し伸ばし、佑二の頬にそっとふれた。佑二はビクッと相貌を震わせた。その反応を見て、花穂子が手を引き戻す。
「そんなに身構えないでくださいな。親子は、一緒に入浴するのが当たり前なのでしょう」
(確かに、形としては義理の母親にあたるのかもしれないけれど)
花穂子は良家の出身だけあって常に和装姿で、立ち居振る舞いも上品そのものだった。妾の子という引け目もあり、佑二が気軽に「お母さん」と呼ぶには抵抗がある。なにより周囲の空気が、それを許さない。
「ですが若奥さまはとってもおきれいで、雰囲気や仕草も僕とはかけ離れている感じが……」
佑二がか細い声で言い訳をする。花穂子は軽く嘆息を漏らした。
「前から言っていますけれど佑二さんは使用人じゃないんですから、わたしのことを奥さまなんて呼ばなくてもいいんですよ。それに若くもありませんし。わたくしは、佑二さんのお母さまと一緒の年齢なんですよ」
形の良い眉をくねらせて、花穂子が告げた。花穂子は亡くなった母と生年が同じで、三十四歳だった。
「奥さまではなく、別の呼び方をされた方がわたしはうれしいのだけれど。……なんだったらおばさんでも」
「お、おばさんはありえませんっ」
佑二はすぐさま否定した。優雅な雰囲気を漂わせる花穂子の印象に、最もそぐわない呼称だった。
「若奥さまは、若奥さまですから……。大旦那さまにも、分をわきまえるよういわれています。奥さまは僕とは、身分が違います」
喋りながら、艶っぽい白い肌へと目が吸い寄せられそうになる。佑二の声はますます小さくなった。
「身分だなんて……」
花穂子が、先ほどよりも大きくため息をこぼすのが聞こえた。一時、間が生まれた。佑二は花穂子の裸を見ないように、湯を見つめる。
「お祖父さまに逆らえないわたしが悪いのよね。あなたは夫のただ一人の子なのに。わたしがもっと母親らしいことを、してあげていたら」
佑二は、元は使用人たちの休憩所に使われていた離れの一室をあてがわれて、寝起きをしていた。食事も別で、お手伝いさんが部屋まで運んでくる。祖父の征造にとって、息子が使用人に手を付けて生ませた孫など、目障りでしかないのだろう。明確な線を引いた扱いだった。
(だけど、文句を言ってもしょうがない。周囲に望まれて、僕が生まれたわけではないのだし)
母子家庭の環境では、我が儘を口にしても、母を困らせ悲しませるだけだった。我慢することには慣れている。
「奥さまに、よくしていただいていること、感謝をしています。あっ」
突然だった。花穂子が佑二を抱き寄せた。ふんわりとした乳房が、少年の顔に当たった。
「あ、あの……」
花穂子の腕のなかで、佑二は戸惑いの声を漏らした。どう対処したらいいのかわからない。心臓の鼓動が早打った。
「感謝だなんて。お父さまが亡くなったと聞いた時も、葬儀の時も、わたしはあなたの側にいてあげられなかったのに……。なにが母親ですか。ごめんなさいね、佑二さん」
腕にぎゅっと力がこもった。胸の谷間に鼻梁が埋まり、やわらかな肉丘が少年の顔を包んだ。
(奥さまのおっぱい、ふわふわで温かい)
甘い女性の香をはっきりと感じた。母に抱かれていた幼い頃を思い出させる。
「体裁を大事にして、いつまでも格式張って……武の家ですから、古くからの伝統を重んじるのはしょうがないとはいえ、十代の男の子にあんまりですよね」
哀感を滲ませ、花穂子が囁いた。回された手が、佑二の後頭部を撫でる。慈しむ手つきだった。ボリュームのある膨らみと濡れた頬が擦れ合い、佑二の肩から力が抜ける。
「お祖父さまのこと、恨まないでくださいね」
花穂子が耳の近くで告げる。うなじの辺りに吐息を感じた。義母の胸のなかで、佑二はかすかに頭をゆらした。穏やかな花穂子の声が好きだった。子守歌を聴いているような気分になる。
(疎まれても仕方ないのに、奥さまは僕にやさしい笑みで接してくれる。隠し子がいたことだって知らなかったはずなのに)
突然、転がり込んできた自分の存在は、花穂子にとって決して好ましいものではないだろう。それでも大澤家のなかで最も自分の生活を気遣い、心配をしてくれたのは血の繋がりのない花穂子だった。祖父のぞんざいな扱いに何度も抗議をしてくれたことを、佑二は知っている。
「もっと早くに、こうしてあげるんだった」
花穂子の手が止まった。細指が佑二の髪に絡みついていた。佑二は顔を上げ、上目遣いで義理の母を見た。柳眉をたわませた憂いの表情が、佑二を見つめていた。
「奥さま?」
佑二の疑問の声に、花穂子はなにか言おうとして紅唇を開きかける。だがきゅっと口元を閉じると、小さくかぶりを振った。
「……せっかくこうして一緒にお風呂に入っているのですもの。お背中を流しましょうか。それくらい、わたしにもさせてもらえますよね」
花穂子は笑みを作ると、抱いていた佑二の頭を放して、額をツンと指先で軽く押した。いたずらっぽい仕草に、佑二はドギマギする。花穂子が佑二の腕を掴んで湯船から立ち上がった。手を引かれて、洗い場へと移動する。
(奥さまのお尻が……)
なめらかな背肌と、豊かなヒップが佑二の方を向いていた。脚を動かす度に丸い双丘が、むっちりとゆれ動く。無防備な後ろ姿に、佑二は見とれた。
「どうぞ、座って」
振り返った花穂子が告げる。佑二は差し出された洗い椅子に慌てて座った。いやらしい視線を気づかれたかと、冷や汗が滲む。
(奥さまは、僕のことを実の息子だと思って接してくれているのに……僕は、奥さまを邪な目で見て)
佑二の背後に花穂子が膝をつく。液体のソープを直接手に取ると、佑二の背中にふれてきた。やさしい手触りに、声が漏れそうになる。
(タオルやスポンジを使わないんだ)
「初めてお会いした一年前は、風が吹けば倒れてしまいそうに細かったのに、ずいぶんと筋肉がついてきましたね。お稽古を毎朝、頑張ってるおかげですね」
「お、奥さま、知ってらしたんですか?」
佑二は驚きの声を発した。門人たちの朝稽古と重ならぬよう、一時間早く起床して、こっそり練習をしていた。鏡越しに、花穂子がうなずく。
「ええ。佑二さんが誰にも見られないように気を遣っていたみたいですから、知らない振りをしていましたけど……。早い時間に起きて、よく続くなって感心してましたわ」
鍛錬の成果を確かめるように、花穂子の指が少年の背を撫でる。佑二は口を開いた。
「こちらへ来て、間もない頃だったと思います。旦那さまの夕方の稽古を眺めていたら、やってみろって突然刀を渡されて──」
父から手渡されたのは、一度もさわったことのない真剣だった。手にずっしりと引っ掛かる重みを感じただけで、喉が渇いた。扱いを間違えれば指は容易に落ち、皮膚は切り裂かれる。ヒリヒリとした緊張を感じながら、振りかぶって斬り下ろした。
「初めてで上手に振れたの?」
「わかりません。へっぴり腰だったと思うけど、旦那さまは、『いいんじゃない』って仰られて。毎朝百回振るようにと、練習用の木刀と居合刀を一振りずつ頂きました」
「で、では、あの人は……征一さんは、少しはお父さんらしいことを、あなたにしていたんですね?」
花穂子が身を乗り出して尋ねる。豊満な乳房が二つ、佑二の背中に押し当たっていた。肌が紅潮し、発汗が増す。
(奥さまのおっぱいが、たぷんってゆれてる)
「は、はい。時々、アドバイスもいただきました」
佑二は嘘をついた。会話らしい会話はそれだけだった。稽古をするように言われたものの、その後きちんとした指導を受けたわけではない。たった一人で父や祖父の姿を、見よう見まねでなぞるだけだった。
「そう。よかったぁ」
花穂子が安堵の声を漏らす。父と息子の希薄な交情を花穂子はずっと案じていたのだろう、鏡のなかのつぶらな瞳はしっとりと潤んでさえいた。
「あの、母の墓にお花をお供えしてくださったの、奥さまですよね」
佑二は尋ねた。月命日の日、学校帰りに母の墓に寄ると、毎回きれいに掃除され花が供えられていた。きっと花穂子だろうと思いつつ、今まで確かめる機会がなかった。
佑二の肩に手を置いたまま、花穂子は鏡越しににこりと笑んだ。
「佑二さんが、どんなようすで日々暮らしているか、お母さまも知りたいに決まってますから。剣の鍛錬だけでなく、佑二さんはお勉強だって頑張ってますもの。……腕を上げて」
佑二の手を花穂子が持ち上げる。二の腕の方から肘、そして指先へとソープの泡を塗して、義母の手がすべっていく。
(やっぱり奥さまだったんだ)
花穂子への感謝の念は、佑二のなかでさらに大きくなる。
(ありがたいって思いながら僕は……ああ、ぽちっと硬さの違う感触がある。乳首だよね。奥さまのおっぱい、なんでこんなにやわらかいんだろう)
花穂子の豊乳は、佑二の背中にぴったりとくっついたままだった。意識をしてはならないと思っても、膨らみの弾力は少年の肉体を昂揚させる。
「佑二さん、この前のテストだって学年で三番でしたでしょ。立派ですよ。お母さまもお喜びになっていることでしょう」
「そ、それは彩香さんのおかげです。彩香さんが、ずっと家庭教師をしてくれたから」
竹村彩香は、花穂子の実の妹だった。二十六歳で看護師として働いている。週末、彩香が都合の付いた日には、勉強を見てもらっていた。今日も午後から約束があった。
(汗臭いままじゃ、彩香さんに悪いと思ったからお風呂に入ったんだけど……こんなことになるなんて)
花穂子と入浴する機会など、一生有り得ないと思っていた。その上、身体を洗ってもらっている。本当にこれが現実なのだろうかと、佑二は信じられない気持ちで鏡のなかを見る。花穂子と目が合った。
「そう言っていただけると、彩香も張り合いがあると思いますわ。かゆいところはありませんか?」
「あ、はい」
花穂子の乳房が背中で弾んでいた。女体のきめ細かな肌が、佑二の肌と擦れ合う。
(現実なんだ……これ以上硬くしちゃだめだ。絶対に)
魅惑の感触に対して、少年の肉体は懸命に闘う。身体は熱くなる一方で、今にも男性器は切っ先をもたげようとしていた。
「今からでも、私立校へ移られてもよろしいんですよ。佑二さんの成績なら、それが当たり前ですもの」
「いえ。近い方が便利ですから。ゆっくり朝も寝られますし」
何気ない風を装って答えながら、佑二は古文の宿題を考え、数学の問題を思い浮かべ、女体のやわらかさをなんとか忘れようとする。だが禁忌の情欲は、振り払えない。ペニスがむくむくと体積を増していた。
「毎朝五時に起きている人が、朝寝坊の話? 佑二さんのそういうところが、わたしは逆に心配ですわ」
脇腹を撫でていた花穂子の手が、前へと回った。
(あ、奥さまに、抱き締められてる)
背中から抱きつかれていた。乳房の重みを感じながら味わう、とろけるような密着感に佑二の口からは自然に息が漏れた。へその辺りに置かれた花穂子の右手が、そのまま下へとすべり降りる。
「えっ」
佑二は驚きの声を漏らした。危うい箇所へ近づく寸前に、花穂子の手を慌てて掴んだ。
「どうかしました?」
花穂子が肩越しに尋ねてくる。
「そ、そこは自分で、しますから」
「遠慮なさらないで。世の母親はこういう風に、男の子の身体を洗ってあげるものなのでしょう? 背中を流すのと変わりませんわ」
ボディソープで指が滑る。花穂子の指が佑二の手からすり抜けて、脚の間に潜った。
「あっ、あんッ」
女の指が躊躇いなく巻きつき、佑二の男性自身を掴んでいた。快感を誘う刺激に、少年の口から喘ぎがこぼれた。
「男の子は汚れが溜まりやすいから、母親が痛くないようにそっと指を使って洗ってあげるんだって、征一さんはそう仰ってましたよ。気兼ねせずともよろしいんですよ。征一さんの身体だって、同じように洗ってあげていましたから」
花穂子が耳元で告げた。義理の母が背後から深く身を被せて、脇から回した手でペニスを扱いていた。過敏な器官には軽い摩擦の感触だけで、痺れる心地をもたらした。洗い椅子の上で、少年の腰が震えた。
(そ、そうだっけ? お母さんは、そんなことしてなかったけれど)
母一人の片親の家庭で育った。世間一般の常識を持ち出されると、佑二にもよく判断がつかない。
花穂子の細指が中程を包んで、包皮を剥き出すように根元へと動く。佑二の喉元から、少女のような声が漏れた。
「んうっ」
「痛いですか。もう少し加減した方が?」
「あ、い、いえ。平気です」
(ボディソープでヌルヌルしてる。まずいよ。そうでなくても反応を抑えるのが大変だったのに)
泡で義母の指はなめらかにすべり、快感が腰全体に走る。性的な意味合いはないとわかっていても、手淫に似た花穂子の手つきは十代の情欲を昂らせた。
(落ち着かなきゃ。奥さまは、お母さんと年は変わらない。母親を相手に欲情しているのと一緒、興奮しちゃだめだ。……で、でも、勃っちゃうよっ)
「征一さんが亡くなられて、佑二さんも不安でしょ?」
花穂子が静かな口調で尋ねてきた。おかしな声が出てしまいそうで、佑二は返事ができない。
(僕の皮を剥いて……奥さまが僕のモノを握ってる)
完全には成長しきっていない十代のペニスを、花穂子の指がやさしくさする。恋愛の経験も、キスさえしたこともなかった。当然、男性器を女性に弄られたこともない。身体は火照り、呼吸が乱れた。仮性包茎の余った皮を引き伸ばして、露出した過敏な粘膜を指腹でソフトに洗われると、膨張は一気に加速した。
(奥さまは、旦那さまにいつもこんなことをしてたんだ。こんな風にやさしく洗ってもらったら……)
離れで暮らしている佑二には、二人が一緒に入浴する習慣だということも知らなかった。愉悦と恥ずかしさで混乱する胸の内に、実父に対しての羨ましさが湧き上がる。
「あの、佑二さん?」
急に押し黙った佑二を、鏡の向こうの義母が不思議そうな顔で見ていた。
(返事をしなきゃ。奥さまは、エッチなつもりはこれっぽっちもないんだから)
「あの、おかしなことを尋ねますけれど……わたしのこと、嫌いではないのよね? 気を遣わなくていいんですよ。佑二さんのほんとうのところを訊かせてちょうだい」
気を遣うなと言いつつ、洗い場の鏡に映る義理の母の表情からは、切実なものが感じられた。
(奥さま、不安そうな顔して……)
花穂子は悩ましい視線を注ぎながら、佑二の脚の間では指を軽やかに前後させる。佑二は胸を喘がせ、くるめく快感を必死に抑えた。
「あ、あら?」
花穂子の手が急に止まった。ペニスを握り直し、揉むように指先を前後に動かす。
「おかしいわね。あの人はこんな風には……」
ようやく佑二の変化に勘づいたのか、花穂子が困惑のつぶやきを漏らした。
(奥さまに気づかれたっ)
限界だった。花穂子の指を弾いて、男性器はピンッと上向きに反り返った。同時に粘ついた汁が尿道を通って、先端から溢れた。鏡に映る花穂子が、前を覗き込むような動作をする。
「あのっ、奥さまに、やさしくしてもらったこと、うれしかったです。嫌ってなんかいませんっ」
陰茎の屹立を誤魔化すために、佑二は顔を真っ赤にして叫んだ。浴室内に響く大きな声に、花穂子が鏡越しに目を合わせてくる。
「それは本音ですよね?」
花穂子が念を押す。佑二は鏡に向かって首肯した。
「佑二さんも知っていると思いますが、代々本家の長男が跡を継ぐのが、大澤の伝統ですわ。夫の子を産むこと。それがわたしの役目でした。でもなしえなかった」
父征一の血を継いだのは佑二だけだが、名家の当主の座は相応の血筋が要求される。妾の子である佑二には、その資格はなかった。
「早晩分家の門人から剣の才に優れた方が、後継として選ばれるでしょう。佑二さんにもわかりますよね。わたしはもう、この家には必要のない人間なんです」
(それって……奥さまが、この家を出て行くってこと?)
問いかけるような佑二の眼差しを受けて、花穂子がうなずいてみせる。
「ですがわたしは、母親としてあなたの側を離れるつもりはありませんわ。お側であなたの成長を見守りたいと……。このわたしの思いは、佑二さんにとってご迷惑ではありませんよね?」
喋りながら花穂子の指が、きゅっと佑二を締めつけた。先端の括れた箇所に指先が引っ掛かっていた。ソープでヌメッた指腹がすべると、肉茎は充血を増して雄渾に漲る。
(ああ、出ちゃいそう)
カウパー氏腺液がトロトロとだらしなく垂れた。陰嚢がせり上がるのを感じる。射精感がすぐそこまで迫っていた。
「ぼ、僕は、奥さまと一緒にいたいです」
息を喘がせながら、佑二は答えた。
「よかった。それだけが聞きたかったんです。……わたし、佑二さんと一緒にいられるように、出来る限りのことをしますね」
女の細指が、棹裏をやさしく撫で上げる。ペニス全体がピクピクと震えた。左手は佑二の胸元を撫で、豊満な双乳は背中でぷるんぷるんとゆれていた。むちむちとした太ももは、佑二の腰をやわらかに挟み込む。
(身体全体で洗ってもらってる)
全身が包み込まれるような感触で、頭のなかはピンク色に染まるようだった。少年は膝の上に置いた両手を強く握り込み、歯を食いしばった。精液と見紛うような大量の粘液が、尿道口から溢れる。それを花穂子の指がソープと一緒に引き伸ばして、指で甘く締めつけながら硬直を丹念に洗い擦った。
「刺激に反応しちゃったみたいですね。征一さんはこんな風にはなりませんでしたから、ちょっと驚きましたわ。そうだ。征一さんのお着物や浴衣、佑二さんに合わせて仕立て直しましょうか。あの人も喜んでくれると思いますわ」
歓喜の喘ぎを耐えながら、佑二は鏡に向かって小さくうなずいた。
「お、奥さま、ありがとうございます」
「いいのですよ。わたしは佑二さんの母親ですもの」
佑二のうなじに温かな吐息を掛けながら、義理の母がとろけるマッサージを続けた。少年の勃起は雄々しく張り詰めて、粘度の高い透明な興奮汁をとめどなく吐き出す。佑二は目をつぶった。喉元から小さく唸りをこぼし、こみ上げる吐精の衝動をひたすら耐え続けた。